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考 察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 30-35)

近年、口腔に対する意識の向上もあり、口腔乾燥を訴える患者が増加してい る。口腔乾燥症の原因としては、唾液腺自体の機能障害による SS や放射線性 口腔乾燥症、ストレス、抑うつといった精神状態や、抗うつ薬、制吐薬、抗ヒ スタミン薬、降圧薬などの薬物の副作用に起因する XND、下痢、脱水症、甲状 腺機能亢進症、糖尿病、腎機能不全、貧血などの合併症としてあらわれる全身 性・代謝性口腔乾燥症がある (1-5)。口腔乾燥症の自覚的症状としては、口渇、

飲水切望感、唾液の粘稠感、口腔粘膜や口唇の乾燥感や疼痛、味覚異常、嚥下 困難感などであり、他覚的症状としては舌乳頭の萎縮による平滑舌や溝状舌、

口腔粘膜の発赤、口角びらん、齲蝕の多発、歯周病の憎悪、歯や義歯の汚染、

口臭などがある。

本研究ではまず、対象患者の口腔内診査を行うと、健常者と比較して口腔カ ンジダ症の発症頻度が有意に高く、残存歯数は有意に減少しており、DMF 歯数 は有意に多く、義歯使用率は有意に高かった。これは、唾液には微生物に対す る自己防御能、粘膜や硬組織に対する保護能などあるが、口腔乾燥症患者では 唾液分泌量の減少によってこれらの唾液機能が低下し、その結果口腔カンジダ 症や齲蝕などの口腔症状が惹起されたと考えられる。

本研究では次に、口腔乾燥症患者の粘膜症状で最も多くみられる口腔カンジ ダ症の病態を解明するために、口腔内真菌叢の解析を行った。口腔乾燥症患者 では、検出された Candida 菌数と菌種が健常者と比較すると有意に多かった。

このことは、口腔乾燥症患者において口腔カンジダ症の発症頻度が高いことに 反映されていると考えられた。口腔カンジダ症の発症要因として唾液分泌量の 減少が考えられたので、SWS および UWS と Candida 菌数との相関を検討す

ると、SWS と UWS が減少すると CFU が増加するという関連がみられた。つ

まり、口腔乾燥症患者における口腔カンジダ症の発症は、唾液分泌量が減少す

ることで Candida 菌数が増加して引き起こされていることが考えられた。臨床

的には、口腔乾燥症状が強い患者では、口腔の多部位にわたる口腔カンジダ症 を発症していることが多い。そこで、口腔カンジダ症の重症度を発症範囲に応 じて分類し、その重症度と唾液分泌量および Candida 菌数との関連をみること にした。結果をみてみると、口腔カンジダ症が重症化した場合には、SWS と UWS が減少し、また Candida 菌数の増加する関連がみられた。以上より、口 腔乾燥症患者では、唾液分泌量が減少し、Candida 菌数が増加することで口腔 カンジダ症が引き起こされ、さらに増菌することで口腔の多部位にわたる広範 な病変が惹起されると考えられた。

ところで、口腔カンジダ症の直接的な原因菌は C. albicans であるとの報告は あるものの (12-17)、それ以外の Candida 菌種の関与についてはいまだ報告が

少なく (19、20)、さらに臨床症状との関連について検討された報告は非常に少

ない。そこで本研究では、口腔カンジダ症の原因菌を検索するために、口腔内 真菌叢の解析を行うと、Class II および Class III といった重度の患者で、複数

Candida 菌種が検出された。このことより、これらの菌種が単独あるいは相

互的に作用することが、口腔カンジダ症の多様な病態形成に関与していること

て検討することにした。含嗽液から検出された Candida 菌種を検討すると、C.

albicans は全ての重症度から検出され、C. glabrataC. tropicalisC. krusei は Class II と Class III から高頻度に検出されたが、Class I からは検出されなかっ た。この結果から、口腔カンジダ症の重症化、つまり多部位にわたる発症には、

特定の Candida 菌種が関与していることが示唆された。

しかし、含嗽液を用いた検討では口腔内全ての Candida 菌が同時に検出され るため、口腔内真菌叢のスクリーニングは可能ではあるが、口腔カンジダ症の 発症局所に存在する Candida 菌種の同定は困難である。そこで、口腔カンジダ 症の各病変局所から滅菌綿棒を用いて擦過物を採取し、病変に直接関わってい ると考えられる Candida 菌の同定を行った。その結果、舌粘膜からは C.

albicans が、口角部からは C. glabrata の同定率が高く、また頬粘膜からは唯一

C. krusei が同定された。この結果より、口腔カンジダ症は部位によって異なる

Candida 菌種により惹起されることが示された。しかし、改めて口腔カンジダ

症を認めた 33 例の含嗽液での結果をみてみると、口角びらんが認められなか った 1 例で C. glabrata が検出され、頬粘膜萎縮が認められなかった 4 例で C.

tropicalis C. krusei が検出されていた。また、各病変部の擦過物から同定され

Candida 菌種は、同一患者の含嗽液からも検出されていた。これらの症例で

は口角びらんあるいは頬粘膜萎縮がみられていないものの、これらの部位にも 口腔カンジダ症が発症する可能性がある。今後は、擦過物と含嗽液の両方から 同定された Candida 菌種をさらに比較検討していくことで、それぞれの検体採 取方法の有用性について検討していく予定である。

次に、口腔乾燥症患者の口腔内細菌叢の解析を行った。T-RFLP 法による解析

の結果、口腔乾燥症患者では、T-RF 51955、T-RF 66826 のピーク面積の割合が 健常者と比較すると有意に高かった。T-RF 51955 には Rothia 属やActinomyces 属が含まれ (22)、Rothia 属は象牙質齲蝕から分離された通性嫌気性で、歯周病 との関連性についても論じられており、一方、Actinomyces 属は糸状の形状をし たグラム陽性の通性嫌気性菌であり、その一種である Actinomyces viscosus は根 面齲蝕や象牙質齲蝕の原因菌とされる。また、T-RF 66826 には Veillonella 属や Selenomonas 属が含まれている (22)。Veillonella 属は偏性嫌気性菌で、単球や双 球菌状で菌塊を形成するが病原性をほとんど示さず、一方 Selenomonas 属は、

歯周病と関連がある菌種とされている。これらの結果より、口腔乾燥症患者で は唾液分泌量の低下により、口腔内細菌叢が変化したと考えられる。しかし、

同一の分子量の T-RF には複数の細菌が含まれるため、齲触や歯周病の原因菌 が存在しているということは現時点では証明できていない。そのため、今後は 各細菌に特異的な遺伝子配列を用いたプローブを用いて同定するといったさら なる検討を行う必要がある (34-36)。また本研究では、含嗽液から検出された細 菌のみを検討しているため、各歯性疾患に特徴的な細菌種を明らかにするには 不十分である。今後は、病変局所であるプラークや歯肉溝浸出液などから検体 を採取し、疾患特異的な細菌の同定を行い、含嗽液から検出される細菌との比 較検討を行う予定である。

本研究の結果から、口腔乾燥症患者においては、唾液分泌量の低下により口 腔内微生物叢が変化し、種々の口腔粘膜疾患や歯科疾患が惹起されている可能 性が示唆された。特に、口腔乾燥症患者の口腔カンジダ症においては、病変特

かし、今後もさらなる検索を口腔乾燥症の患者で行っていかなければならない。

さらに、本研究で用いた検体は、その採取方法が容易でかつ非侵襲性であるな ど利点も多く、同一患者において、口腔内微生物叢を繰り返し同定することが 可能である。今後は、口腔疾患の原因菌の同定精度をさらに向上させるなど実 用化を目指し、最終的には患者単位の治療計画の立案や治療効果の判定に有用 な検査方法として確立していく予定である。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 30-35)

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