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第3章 ライフステージの運動経験と更年期症状の関連

4. 考察

最初に, ライフステージの運動経験と閉経年齢について考察した. 本研究の対象者の閉 経年齢は, 50.9土2.8歳で一戸ら(1990)の値と ほぼ一致した. 閉経年齢は初経年齢 の 若年齢化とは異なり, 時代, 人種, 国の違いに関係なくほぼ一定である(一戸ら, 1990) が, 喫煙などの生活行動や 生活環境が若干影響する(佐藤ら, 1992) . 進藤ら(1976) は, 継続的な低強度の運動が 月経不)1慣や閉経 女性の月経周期や経血量を回復させたと報告

しており, 運動が閉経年齢に影響を与える可能性を示唆した. しかし本研究では, ライフ ステージの運動経験(運動実施程度, 運動強度, 運動時間, 運動頻度及び運動量)と閉経 年齢との聞に関連は認められなかった.

第2に, ライフステージ における運動 の有無や実 施程度と更年 期症状の関連について 考 察した. ライフステージの運動実施程度と更年期症状では 若い世代の運動実施程度と 更 年期症状に関連はみられなかった. 前述したように, これまで女性の月経状態とライフ ス テージの運動の関連性は10歳代を軸にしたものが多 く, 10歳代の運動実施程度と初経年 齢の強い関連や, 過度な運動と無月経や月経症状の発生率の高い関連はよく知られている.

しかし, その後の妊苧性について は, 10歳代に激しい運動を実施していても2 0歳代や30

歳代で経験する妊娠や分娩などにはあまり影響がないようである(岩田と久保田, 1988;

佐々木と岩崎, 1990) . このように青年期の 運動経験はその後の性機能に多大な影響を 及ぼす可能性は少なく, 現在の運動が大きく関与すると考えるのが妥当であろう.

一方, 30歳代及び40歳代~ 閉経 の 運動実施程度と更年期症状の有無の間に有意な関連 が認められ, 30歳代では運動を「まあまあしたJ者で更年期症状が「無し」の者が多く,

運動を「ほとんどしていない」者で症状が「有 り」の者が多かった. また 40歳代~閉経 でも運動を「ほとんどしていない J者で症状が「有りJの者が多かった. このように更年 期症状には閉経前後の運動だけでなく, それ以前からの運動が関与する可能性が考えられ

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た. ただし, 更年期 症状は卵巣の老化に伴う内分泌環境の変化が主たる原因であるため,

運動自体の影響を正確に検討するには月経状態、を考慮、する必要がある. そこで 本研究では,

ライフステージにおける運動実施程度と月経状態の二元配置によるKupperman指数の分 散分析を行なった. そ の結果, Kupperman指数はライフステージの運動実施程度の主 効 果はみられなかっ た. し か し なが ら , 先行研 究の報告 (進藤ら , 1976;川久保と本木,

1995)から推察すると症状によってはライフステージの運動実施程度と関連する可能性 も考えられ, 11症状についても同様の検討を行なった. その結果, 血管運動神経系症状の

「動停jと精神神経系症状の「頭痛」は30歳代の運動実施程度の有意な主効果が認められ,

精神神経系症状の「神経質Jは40歳代~閉経の運動実施程度の有意 な主効果がみられた.

そして, いずれの 症状も 運動 を「ほとんど し ていない」者で指数が高かった. 進藤ら

(1976)や川久保と本木(1995)は, 更年期症状を持つ中年期の女性を対象に, 低強度 の運動を週3回程度, 10�12週間実施させたところ, どち らも Kupperman指数は低下し,

なかでも血管運動神経系の症状に改善がみら れたことを報告している. この理由として,

血管運動神経系の代表的な症状 である紅潮(hot

f

1 u

s

h)は, 視床下部の 神経伝達物質 の情性の変動に 影 響 さ れ (Tepper et al.,1987:Gannon,1988; Schurz et

aJ.,1988)

, 規則的な運動が これらの活性に影響すること(Cumminget al., 1987)が

与えられる. このように規則 的な運動は血管運動 神経系症状 を改善 す る可能性がある

(11 a

m叩l川I

また, 杉山ら (1992)は, 日常の生活活動量の中でスポーツによる身体活動量があ る 者では, 血管運動 神経系症状に加えてめまい, 全身倦怠及び憂うつなどの精神神経系症 状 が低いことを報告している. Slaven et al. (1994)も, 更年期女性 を対象に, 心理的

症状に及ぼす運動の影響をPOMSスケールを用いて検討し た. その結果, 運動前より運動 後で, 非運動者より継続的に運動をしている 者で, 抑うつなどの否定的気分が低かった

.

さらに, 辻と山崎(1997)は1年間の運動療法の結果, 不眠が改善されたことを報告し て

ゆ. これらの精 神神経系症状は, 心理的因子や社会 ・ 文化的因子に強く影響を受けると

いわれている(後山, 1997) . すなわち, 更年期は女性にとって人生における大きな転 換期である場合が多く, 夫の単身赴任や子供の独立などといった家庭環境の変化, 生殖機

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能喪失のショ ック, 老いに対する不安など心理的ストレスの大きい時期である. 他方, 不 安感, いらいら感及び不眠などの精神神経系の症状は内分泌環境の変化, 特にアンドロゲ ン欠乏により生じる(森岡と相良, 1997)ともいわれている. しかし, 更年期の女性の 全てが内分泌環境の変化を経験するにもかかわらず, 全員が不定愁訴を発生するわけで は ないことも事実である. このため, 内分泌環境の変化より環境的, 人格的要因の影響がむ しろ強い可能性(Greene and Cooke, 1980)も指摘されている. 実際, 運動には不安 や抑うつのような消極的 感情の低減(Morgan, 1985)や精神的ストレスに対する改善 (竹中, 1998)などの心理的側面への効果が確認されて いる. また, 徳永ら(1995) は 継続的な運動が日常生活の心理的対処能力を向上させることも報告されている. これは自 律神経系の働きを介してモノアミンやエンドロフインなどのホルモン分泌の活性が運動に

よって賦活することや, 有能感の獲得や社会的強化, 気晴らしといった運動が個人にとっ て持つ価値や意味が関与すると推測されているが明確ではない. 本研究では環境や人格 的 要因を調査していないが, 調査対象者のうち運動を実施していた者は 公民館やスポーツ サークルなどの集団に所属し, 積極的に活動をしている者が多かった. このように本研 究 では, 更年期以前である30歳代からの運動を取り入れた積極的な生活態度の影響が精神神 経系症状の多くに現れたものと考えられた.

更年期症状の軽減と運動実施内容については, 10歳代, 30歳代及び40歳代 ~閉経に運 動を「よくしていたJ, Iまあまあしていた 」者の更年期症状が低かった. このことから 更年期世代以前からの運動は更年期症状の軽減に関与する可能性が示唆される. そこで , 更年期症状が低かった者の運動実態を探るため, これらの者の運動実施内容(運動強度,

時間及び頻度)を検討した. その結果, 10歳代では, I適度なきっさ」から「かなりきっ

\ J運動を60分以上, ほほ毎日している者が多かった. 一方, 30歳代及び40歳代~閉経 では, r適度な きっさ 」の運動を60分以上, 週に1----4回程度している者が 多く,

American

College of Sports Medicine (1998)の推奨する運動所要量とほぼ等し かった. この世代では健康の保持 ・ 増進, すなわち生活習慣病の予防を目的に運動をする

者が多いこと(江刺,

1999) から, 運動は無理なく実

施でき る程度である必要がある.

このように考えると本研究で得られた運動内容は, 生活習慣病の予防だけでなく更年期症

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状の軽減にも適切であると考えられた.

第3に, 運動経験と更年期症状の関連について考察した. 運動経験は, 運動強度, 運動 時間, 運 動頻度及び運 動 量 から , 更 年 期 症 状は 自 覚程 度 , Kupperman指 数 及び Kupperman指数の3症状系から検討した. その結果, 更年期症状の自覚程度は, 40歳代以 降の運動実施程度との聞に強い関連が認められ, 運動をしている者で更年期症状の自覚程 度は低かった. また, 30歳以降の運動経験と精神神経系症状との聞に多くの関連が認めら れた. これは前述したような運動の実施による心理的な効果(Morgan, 1985;竹中,

1998

;徳永ら, 1995)が症状の軽減に影響したものと考えられた.

一方, 運動強度, 運動時間, 運動頻度及び運動量と更年期症状の関連では, 40歳以降の

運動の運動量が多い者や運動時間が長い者の症状が低い傾向にあった. しかしながら 運 動量の少ない者や運動時間の短い者でも症状が低いなど個人差が大きく, それらの運動指 標だけでは, 更年期症状への運動処方を決定できないことも示唆された.

第4に, 運動種目と更年期症状の関連について考察した. 更年期症状と運動種目の関 連 では, テニスやバレーボールなど の「球技」や「ダンス」を行っていた者の症状が低い 傾 向にあった. また, 多くの者がサークルやクラブなどに所属して運動を実施していた. 球 技極目はそのほとんどが集団スポーツである ことから, 他の種目と比較して仲間作りな ど 集団による特有の利益を 得や すい. そのことによって新たな友人関係が生まれ, 精神的に も充実し, 生活をいきいきと過ごすことが可能かもしれない. また, Iダンス」は音楽 や リズムに合わせて身体を動かすことから, 音楽による相乗効果も得 られたのかもしれない.

最近ではダンスの要素を取り入れた身体活動による心理学的な効果も報告されている(清 水I

1999) .

第5に, 運動の継続性と 更年期症状の 関連について考察した. ここでは 上記で関連 が

認められた30歳代以降の各ライフステージの運動経験と更年期症状について, その継続性 を検討した. その結果, 運動の継続性と更年期症状の聞にも有意な関連がみられ, 特に不

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眠, 神経質といった 精神神経系症状でその傾向が顕著であった.

更年期症状は症状によってその 発 症時期が異なり, Iほてり」などの血管運動神経系 症 状は閉経後1年聞が最 も 多 く 発 症す る(St

u

r d ee and Br incat, 1988) . この症状は内 分泌の変化が主因であり, 臨床ではホルモン補充療法が一般的に行われている(本庄と福

岡,

1998)

. また, この 症状に対する運 動の有効性も, 調査研究(Hammer et al.,

1990)及び介入研究(進藤ら, 1976;川久保と本木, 1995)によって報告されている.

ー方, 不眠ゃいらだちのような 精神神経系症 状の 発

症時期は, 血管運動神経系症状のよう に特定されず, 比較的幅広い年齢でみられる(河野ら, 1985) . 精神神経系症状は, 発 症要因の中でも社会 ・ 心理的ストレスなどが大きいことから, 薬物療法の他にカウンセリ

ングなどが症状の軽減に効果をあげている (川野と芳川, 1998) . このことか らも精神 神経系症状への運動 の継続性の効果は, 前述した運動の 心理的効果(Mor gan, 1985;竹

中,

1998

;徳永ら, 1995)や, 運動を継続的に実施したと いう体力への有能感が現れた

ものと考えられた. このように, 運動を30歳代, いわゆる更年期以前の年齢から生活習慣 に取り入れることは, ストレスに対するコーピング手段のーっとして, 閉経前後の内分泌 環境の変化に上手く対応できる可能性があると推測された.

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