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7.1. 病理学的解析

本研究における病理学的解析方法では、先行研究に多い5視野程度を観察する方 法ではなく1切片全体にわたる観察を行った。大きく成長した腫瘍は多くの壊死領域 を含むため、局所的な解析の場合、どの箇所を選択するか十分に吟味しなければ数値 にばらつきが生じてしまう懸念がある。腫瘍内は微小血管の分布も不均一であること が知られているため、1 切片全体にわたり解析することは、従来法と比較してより腫 瘍全体の微小血管量の程度の特徴を捉えられたものと考えている。その結果、SKOV3 腫瘍では7週と9週において、コントロール群と比べてベバシズマブ治療群の血管領 域が有意に少ないという結果が得られた(図7a, c)。この結果は、ベバシズマブが卵 巣がんの腫瘍血管新生を抑制するという先行研究の結果を再現している59

7.2. 造影剤としてのAuNPs特性

本研究では先行研究でマイクロ X 線 CT 用造影剤として使用されていた AuNPs に改良を加えることで、新たな AuNPs の開発に成功した。具体的には、還元剤を入 れるタイミングを2回に分けたことにより、15 nmの粒径が安定し、血液滞留性が向 上したものと考えている。市販されているAuNPsの血液滞留性は24時間程度であり、

市販品の AuNPs よりも優れた血液滞留時間であった。また、市販品よりもコストを

大幅に抑えることが可能となったので、1 回あたりのマウスへの投与量も先行研究よ

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り多くすることができた。投与量を多くすることで、より微細な血管のコントラスト を付けることが可能になり、血管描出能が向上したものと考えている。

7.3. AuNPsを用いたマイクロXCTイメージング

本研究において、AuNPsとマイクロX線CTを組み合わせたイメージング技術は、

腫瘍内部の微細血管(約30 µm)を非侵襲に可視化することに成功した。毛細血管レ

ベル(約10 µm程度)までの可視化は困難であるが、非侵襲的に3次元で可能な限り

微細な血管を可視化することは、血管新生阻害剤の薬効の検討に有効であることが示 された。先行研究において、ex vivoレベルで腫瘍血管を毛細血管相当(約10 µm)ま でマイクロX線CTで可視化した報告はあるが25, 50、本研究は、約30 µmの腫瘍血管 までを含めた腫瘍血管密度をin vivoにおいて3次元的に解析し、薬効評価に初めて適 応した。

7.4. 卵巣がん(SKOV3)腫瘍について

マイクロX線CTにて3次元腫瘍血管密度を測定した結果、卵巣がんの腫瘍にお いてベバシズマブを長期投与すると、腫瘍全体の血管密度が回復することが明らかに なった。この結果は、卵巣がんの腫瘍における薬剤耐性獲得の可能性を示唆している。

腫瘍全体の血管密度が回復する原因である薬剤耐性のメカニズムとして、病理切片や

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ウエスタンブロッティングにより、様々な分子マーカーを調査した研究が数多く行わ れている。先行研究では、一つの血管新生タンパク質(ベバシズマブの場合はVEGF-A) を標的とする血管新生阻害剤では、治療された腫瘍が薬剤耐性を獲得してしまうこと が報告されている11。ヒト前立腺がんでは、PDGFやFGFを含む少なくとも4つの血 管新生タンパク質を発現することができ60、乳がんでは最大6つの血管新生タンパク 質を発現することができる61。このように、腫瘍は複数の血管新生タンパク質を発現 する能力を持つことから、単一の血管新生タンパク質を阻害しても、血管新生阻害剤 に対して抵抗性になる可能性が高い。本研究の卵巣がん腫瘍の場合、VEGF-Aが阻害 されたことにより、PDGF やFGF といった他の血管新生タンパク質の発現が上昇し、

これらのシグナルカスケードが VEGF-A シグナルに比べ優位になったことで血管新 生を引き起こした可能性がある62。また、別の薬剤耐性メカニズムとして、血管の周 皮細胞が関与している可能性がある。周皮細胞は、血管壁細胞の1つであり、毛細血 管や細動静脈の内皮細胞に接着し、内皮細胞を裏打ちしている63。血管新生阻害剤に よる治療は、周皮細胞のない血管内皮細胞のみで構成された未熟な血管のみを抑制す ることが報告されている64。周皮細胞の増殖は、VEGF-Aシグナル伝達の阻害のみに よっては抑制されないため65、ベバシズマブを継続的に投与した結果、周皮細胞をと もなった成熟した血管が増え、腫瘍が抵抗性になった可能性がある。本研究のマイク ロ X 線 CTで可視化された腫瘍血管の最小血管径は約 30 µm であるため、本研究の CT で解析された腫瘍血管には、未熟な血管も含まれているかもしれないが、毛細血

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管レベルの血管に比べて成熟した血管が多いと考えられる。本研究の腫瘍血管密度の 回復という結果から、血管新生阻害剤に対して抵抗性の成熟血管が増加したという可 能性も示唆される。

7.5. 膵臓がん(MIA PaCa-2)腫瘍について

本研究において、ヒト膵臓がん腫瘍の場合、病理標本観察とX線CT画像の両方 で、ベバシズマブによる抗腫瘍効果は確認されなかった。この結果は、臨床の先行研 究において、ベバシズマブが進行膵臓がん患者の生存率の改善を示さなかったという 結果と一致する12。膵臓がんは腫瘍間質領域が豊富で各腫瘍血管間の間隔が広く、血 管密度が低くても成長することができる。すなわち、血管新生が不良であると報告さ れている66。本研究の病理切片から算出した血管密度の結果は、コントロール群にお

いて SKOV3 よりもMIA PaCa-2 の方が低い数値を示しており、毛細血管レベルの微

細血管の数が少ないと考えられる(図7c, d)。つまり先行研究と同様、MIA PaCa-2の 血管新生が不良であることが示唆される。一方、本研究のマイクロX線CTで測定し た腫瘍血管密度は、ヒト卵巣がんと類似の数値であったことから(図12g, h)、膵臓が

んの約30 µm以上の血管体積は卵巣がんと同様に豊富に存在することが示唆された。

膵臓がんの腫瘍血管は厚い周皮細胞に覆われているという先行研究の報告がある 67。 周皮細胞の存在は、先に述べたように、抗VEGF療法に対する反応不良の原因である 可能性がある。血管新生タンパク質の1種であるPDGFは、周皮細胞の増殖に大きく

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関わっているため、このようながん種の場合、PDGFシグナルを阻害する薬剤を併用 することで抗VEGF療法に応答する可能性がある。

また、マイクロX線CTによる腫瘍体積と腫瘍血管体積において、MIA PaCa-2の ベバシズマブ治療群9週がコントロール群9週と比べて、有意差はないものの各体積 が大きい傾向にあった。この理由としては、考察 7.4で先述したように、VEGF-Aが 阻害されたことにより、他の血管新生タンパク質の発現が上昇し、血管新生を引き起 こした可能性があるため、治療していない場合よりもより活発に血管新生が誘導され る状態になってしまったことが考えられる。よって、ベバシズマブが抗腫瘍効果を示 さない腫瘍に対してベバシズマブ治療を施してしまうと、腫瘍がより成長してしまう という悪影響を及ぼす可能性がある。

7.6. 今後の臨床応用への展望

X 線 CT イメージング法は非侵襲的であるため、患者への薬剤投与後の薬剤の有 効性を診断するための臨床的追跡調査イメージングにも有用であると考えられる。臨 床使用では、ベバシズマブは外科的に切除不能または再発がんに適用される。ベバシ ズマブの有効性を診断するために、患者からの再び腫瘍組織を採取することは困難な 場合が多い。したがって、ベバシズマブで治療された患者の腫瘍組織における血管新 生タンパク質の発現レベルを病理学的に評価することは難しい。腫瘍組織の病理学的

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検査に加えて、ベバシズマブ治療患者から採取した血液を使用して、VEGF、PDGF、

FGF、およびその他の血管新生タンパク質の発現レベルを調査できるが、腫瘍組織内 の血管新生因子の濃度は、腫瘍以外の血液中と異なっている可能性があるため、今後 のさらなる検証が必要である。これらの状況から、ベバシズマブの有効性は画像診断 によって、非侵襲的かつ正確に診断されることが期待される。しかし、画像診断にお けるベバシズマブの有効性の診断指標は確立されていない。本研究より、3 次元的に 計算された腫瘍血管密度は、ベバシズマブの薬剤耐性の評価が可能であった。ベバシ ズマブの有効性に対するCTイメージングの診断指標として腫瘍血管密度を使用する には、高感度造影剤を備えた高解像度X線CT装置が必要である。現在のCT装置の 最大解像度は150 µm、スライス厚は250 µmである68。造影剤については、AuNPsは ヒトにはまだ承認されておらず、ヨード造影剤のX線吸収はそれほど高くない。本研 究では、動物実験(マウス)において、ベバシズマブの薬効を評価するために、100 µm 以下の血管を使用したデータが重要である可能性を示唆した。ヒトの場合、マウスの イメージングと同様の解像度は必要ないかもしれないが、がんの診断イメージングを 改善するために、近い将来、ヒト用X線CT装置と造影剤の改善が必要となる。

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