第 4 章 パ—キンソン病モデルラットの運動特性
4.5 考察
平位に保持されるとしている.これに対して,本研究における結果では,有 意に頭部の角度が変化し,体幹部も連動して傾斜していることが確認できた.
このことから姿勢反射障害により頭部と体幹の姿勢制御の問題が生じている と考えられた.
本研究では前肢回旋における最小角度でも有意な角度の増加を示しており,
最大角度とほぼ同じ角度だけ回外方向へ変移している.このことを考慮する と回旋角度の最大角度の増加は姿勢調整の障害により相対的に現れた結果で ある可能性も考えられる.
一方,通常は体幹が傾斜した場合,姿勢反射とともに体幹の傾斜に合わせ 四肢が調整され目的行動を遂行することができる.しかし,本研究における
POST1の結果は,前述したように体幹の傾斜に連動し頭部と前肢も運動角度
の変化を生じている.このことから前肢の最大角度増加の要因として,PD症 状により生じた姿勢反射障害と運動調整障害によるものが考えられた.
Miklyaevaら [56]はRT時の側方画像からペレットを把握し前肢をスリット
から抜くまでの前肢運動の変化を測定し,6-OHDA 注入後 60 日後において も RT における前肢の挙上角度が低下することを報告している.これは障害 が局所ではなく全身で生じていることを示しており,本研究の結果も体幹・
四肢全体で生じた問題として捉えることができる.
これまで RT を用いた PD モデルラットに対する研究は前肢機能を中心に 行われてきたが [56][62],姿勢反射に関する検討は十分に行われていない.
本研究の結果は PD モデルラットの運動評価を行う際には姿勢反射に対する 検討の必要性を提唱するとともに,PD患者においても認められる姿勢反射障 害による斜め徴候を捉える事ができたものと考えられた.
本研究の結果として底面より測定した各指の指尖とペレットの直線距離に
おいて第1指はPOST1 でペレットから有意に離れ,第3指,第4指で有意
に近くなる結果となった.
ペレットと接触する瞬間の画像としてPRE (図31) ではペレットに対して 各手指が平行に位置した状態で接触している.一方,POST1 (図32) ではペ
レットとの接触時には手指部が回外し,指全体がペレットに対して外側に変 移していることが確認できた.この要因として PD による運動調整障害によ る前肢の回外方向への変移に加え,姿勢の変化も伴い手指部分はさらに回外 方向へ変移したことが考えられた.そして,結果としてペレットに対し,第 3 指,第 4 指がペレット直上を通過するのに必要な高度を保つことはができ ず,他の指よりも先行してペレットに接触してしまった.すなわち,第3指,
第4指とペレットの相対距離は有意に近づき,最も遠位にある第1指は有意 に離れる結果になったと考えられた.
RTにおける各手指の機能要素として,ラットの第5指は手の位置を安定さ せる働きを担っており [63],第1指はペレットの把握に機能的な意味はない とされている [64].すなわち第2指,第3指,第4指がペレットを握るため に重要な役割を担っている.そのため,本研究においてペレットと第 3 指,
第 4 指の距離に変移が生じたことが成功率の低下に直接的に影響を与えてい ることが考えられた.
以上より6-OHDAの注入により作成した片側PDモデルラットの運動要素
の特徴は,手指の開閉運動よりも回旋運動における運動調整での障害を認め ることが示された.また,姿勢においても RT を行う優位な前肢側へ傾斜を 増す結果となり,姿勢反射障害が認められた.そして,回旋運動に対する運 動調整の障害と姿勢反射障害により,ペレットを把握する際の手の角度に回 外方向への変移が引き起こされた.そして,結果として,第3・4指の指尖と ペレットの相対位置が接近し過ぎることでペレットに指尖が衝突し RT 成功 率の低下を招いていることが考えられた.このことは RT を用いて PD ラッ トの運動要素を検討する際には,前肢運動のみでなく,全身の運動変化を総 合的に検討する必要性を示している.
本研究は世界で初めて PD モデルラットにおける PD 症状を動態解析した 報告である.本研究の結果は PD モデルラットの特性を明確にできたのみで なく,PDモデルラットの運動症状を緩和する手法の効果を検証する際に観察 すべき運動要素も明確にした.
PD 患者では歩行時の衝突回避のための方向転換や着座のための椅子など 目標物の前,食事においては食べようとした食品に箸を進める際に「すくみ」
といった意思とは関係なく目的運動の初動までに時間を要する障害が認めら れる.本研究の結果からはこの「すくみ」を定量的に捉えることができなか った.しかし,測定中には前壁のスリットに対して前肢を伸ばすまでに時間 を要する個体を認めており「すくみ」様の現象は確認できた.
この第4章では6-OHDA注入による片側PDモデルラットにおけるRT遂
行時の前肢と姿勢状態の運動特性を捉え,第 5 章で述べる有酸素運動効果の 検証すべき運動要素を明確にした.これにより本研究は有酸素運動の有用性 の検証に移行した.