5.1 本章の概要
これまでの被災例では,前述のように打継目での水平方向の貫通ひび割れやずれ,打継目下部 コンクリートの剥落が生じているが,地震時の挙動や破壊形態については明らかとなっていない.
本章では既往地震において被災事例の多い,打継目を有する無筋コンクリート橋脚を模擬した 縮小供試体およびそれに移動制限装置を設置した縮小供試体を製作し,静的試験ならびに大型振 動台を用いた動的試験を行い,破壊形態や地震時の挙動および移動制限装置の効果を検証する.
また,NMMにより動的試験の再現解析を行い再現性の確認を行った.
5.2 供試体および移動制限装置の概要
対象とする橋脚は図 1.1 に示す
2004
年新潟県中越地震で打継目でのずれが生じた無筋橋脚と し,振動台の容量より1/2.5
に縮小して試験を行った.供試体の形状を図5.1に示す.供試体は打継目処理の方法や移動制限装置の有無を変えた
3
体とした(表5.1).打継目処理は 図5.2に示す2
タイプとした.タイプA
は打継目より下部のコンクリートを打込み,こて仕上げ し,硬化後にグラインダを用いて平滑な水平面に仕上げた.打継目より上部は下型枠を用いて製 作し硬化後に下部コンクリートに載せることにより,打継目ですべりやすくしたものである.タ イプB
は打継目より下部のコンクリートを打込み,こて仕上げし,レイタンス除去等の打継ぎ処 理は行わず硬化後にそのまま上部コンクリートを打込んだもので付着のある打継目を模したもの である.下部コンクリート硬化後の打継目の状況を図 5.3 に示す.打継目に白色のレイタンスが 生じていることが確認できる.無筋橋脚が多く建設された当時の施工基準は昭和6
年に発行され た土木学会 鉄筋コンクリート標準示方書1)で打継目について以下のように記載されている.第
35
條 打足し既に硬化せるコンクリートに接して新規のコンクリートを打足す場合には,其の塡充に先立ち 型枠を締直し,硬化せるコンクリートの表面を責任技術者の指示に從ひて粗にし,レイタンス 及び雑物を完全に掃除し,過剰ならざる程度に充分に潤すべし.次にセメント糊状體又は配合 よきモルタルを塗り付け,之が凝結し始めざる前にコンクリート塡充し,𦾔コンクリートと密 着する様施工すべし
この記述は現在のコンクリート標準示方書 2)と大差ないものである.しかし,実際の既設橋脚の 打継目では一体となっていない場合もあることから,今回の供試体の施工では打継目処理を行わ ずそのまま打ち継いだ場合の打継目強度の低下程度を確認することとした.
使用したコンクリートは設計基準強度
24N/mm
2で配合を表5.2に示す.なお,コンクリート打 込み後2
ヶ月程度経過で実施した圧縮強度試験では,平均27.69N/mm
2の結果であった.鋼棒にはSS400
を使用した.縮小供試体に密度調整を行っていない一般的なコンクリートを用いたことから,相似則より着 目する打継目より上部の重量や慣性力は実際の橋脚に比べて
1/2.5
3 倍,打継目に作用する応力度は
1/2.5
倍となる.このため,振動台加振による水平力では付着のあるタイプB
は破壊しない.そこで,タイプ
B
は動的試験に先立ち静的に水平力を作用させることで打継目を破壊し,粗な破断面の打継目を有する状態で試験を行った.
平滑に仕上げ最もすべりやすい打継目のタイプ
A
と,粗ですべりにくく実際の橋脚に近い打継 目と考えられる破断したタイプB
の両方での挙動や移動制限装置の効果を検証することで,ばら つきの大きい実際の橋脚への適用性が広がると考えた.移動制限装置は図5.1に各色で示す通りの鋼棒を用いたものとし,
No.2
はφ40mm,L=480mm,
2
本の鋼棒を供試体製作時にコンクリートの打込みと一体的に設置した.No.3
はφ30mm,L=360mm,
4
本の鋼棒を静的打継目破壊試験を行った後に実橋脚と同様の施工手順で設置した.なお,鋼棒 の遊間は被災した後の復旧性を考慮して20mm
とした.図5.1 供試体形状図
表5.1 製作供試体一覧 供試体
No.
打継目処理 移動制限装置 実施した試験1
タイプA
なし(無対策) 静的一面せん断すべり試験,動的試験2
タイプA
鋼棒φ40mm2本遊間
20mm
動的試験3
タイプB
鋼棒φ30mm4本 遊間
20mm
(破壊後設置)
割裂引張強度試験(コア),静的打継目破 壊試験,静的一面せん断すべり試験,動的 試験
凡例
:鋼棒(供試体 No.2)
:鋼棒(供試体 No.3)
(a)
タイプA
(b)
タイプB
図5.2 打継目処理図5.3 打継目の状況
表5.2 供試体に用いたコンクリートの配合
コンクリート の種類による
記号
呼び強度 スランプ
(cm)
粗骨材の最 大寸法
(mm)
セメントの 種類による
記号
水セメント比
W/C
(%)
空気量
(%)
普通
24 18 20 N 58.5 4.5
細骨材率
s/a (%)
単位量 (kg/m3
)
水 セメント 細骨材①砂
細骨材②
砕砂 粗骨材 混和剤
(AE
減水剤)48.3 183 313 589 251 940 3.13
②打継目部分の処理 硬化後,グラインダーに より平滑に仕上げた
①フーチング,躯体(打継目よ
り下側部分)の製作 ③打継目上側,別途製作して載せる
①フーチング,躯体(打継目より 下側部分)の製作
②硬化後,打継処理を行わず 上側コンクリートの打ち込み
5.3 割裂試験および静的打継目破壊試験
5.3.1
テストピースによる割裂試験大型振動台を用いた動的試験に先立ち,打継目の強度を確認するため付着のあるタイプ
B
の供 試体No.3
の打継目部からテストピースを採取し「JIS A 1113: 2006 コンクリートの割裂引張強度 試験方法」に従い割裂引張強度試験を実施した.また,供試体製作時の同じコンクリートを使用 して製作した打継目のないテストピース4
体も試験を実施し比較を行った.試験状況を図5.4に 示す.打継目があるテストピースの試験では,打継目を載荷板直交方向に配置して打継目に引張応力 が生じるように載荷した(図 5.4(b))結果,打継面に沿って破壊面が形成されることが確認でき たので(図 5.4(c)),本試験によって打継目の引張強度をおおよそ推定できていると考えられる.
結果を表5.3,図5.5に示す.平均値で比較すると打継目の引張度は,0.90N/mm2で,打継目でな
い部位(以下,一般部という)の引張強度
2.49N/mm
2の36%程度であった.これにより,被災時
には一般部と比べて強度の低い打継目が弱点となり損傷する可能性が高いことが推定できる.な お,図5.4に示すRC
標準3)とは,別に実施した圧縮強度27.69N/mm
2より現在新設される鉄道構 造物の設計に用いる設計基準に示されるコンクリートの引張強度の推定式を用いて算出した値で,2.105N/mm
2である.(a)
コア採取状況(b)
割裂引張強度試験(c)
破壊状況図5.4 打継目の割裂引張強度試験状況
表5.3 割裂引張強度試験結果一覧 打継面 名称 直径
φ (mm)
長さ
L (mm)
最大荷重
P (N)
引張強度
f (N/mm
2)
有
C1L1 98.9 206 32620 1.019
C2L1 99 203 27900 0.884
C1L2 98 205.3 17320 0.548
C2L2 98.7 202.5 36300 1.156
平均 - - -
0.902
無
No.1 99.7 201 86700 2.754
No.2 99.9 201 84300 2.673
No.3 100.1 200 57300 1.822
No.4 99.8 201 85570 2.716
平均 - - -
2.491
図5.5 割裂引張強度試験結果
図5.6 静的打継目破壊試験状況(供試体No.3) 加力ジャッキ
(a)
供試体上部(b)
供試体下部図5.7 打継目の破壊状況(供試体No.3)
5.3.2
供試体による試験破壊形態を確認するため,供試体
No.3
の躯体上部に水平力を作用させて打継目で静的に破壊さ せる試験を行った(図5.6).打継目になるべく大きな曲げモーメントによる引張応力を発生させ るよう水平力の作用位置はなるべく高い位置(打継目より962
㎜)とした.その結果,一部に著大な凹凸があったものの概ね打継目で曲げ引張破壊することが確認できた(図 5.7).なお,図中○で囲んだ著大な凸部は一面せん断すべり試験の際にグラインダを用いて除去 した.
5.3.3
割裂試験および静的打継目破壊試験のまとめ付着のある打継目から採取したコアによる割裂試験および付着のある打継目を有する供試体の 静的打継目破壊試験を行った結果,以下のことがわかった.
1)
本試験で製作した供試体の付着のある打継目の引張強度は0.90N/mm
2で,打継目でない部位 の引張強度2.49N/mm
2の36%程度と低く,被災時には強度の低い打継目が弱点となり損傷す
る可能性が高い.2)
付着のある打継目を有する供試体No.3
の躯体上部に水平力を作用させて打継目で静的に破 壊させた結果,一部に著大な凹凸があったものの概ね打継目で曲げ引張破壊することが確認 できた.5.4 静的一面せん断すべり試験
5.4.1
概要地震時の挙動には打継目の摩擦性状が大きく影響するため,静的一面せん断すべり試験を行い 摩擦係数を計測した.
試験は平滑な打継目のタイプ
A,付着のある打継目を破壊させたタイプ B
の2
タイプについて,それぞれを模した試験片と前述の供試体
No.1
および打継目を破壊させた後の供試体No.3
を用い て実施した.5.4.2
試験片による要素試験(1)
試験片の概要試験片による要素試験として図 5.8 に示す試験片を製作して,静的ジャッキにより水平方向に 載荷し,荷重と変位を計測することによりすべり摩擦特性を評価する一面せん断すべり試験を実 施した.
打継目を模したすべり面は載荷方向
150mm,載荷直角方向 100mm,面積 15000mm
2である.下 部試験片はすべり面以外での破損を防ぐために配筋を行った.使用したコンクリートは供試体と 同一である.タイプ
A
の試験片は供試体と同様に上部,下部試験片を別々に製作した.すべり面となる下部 試験片の上面はこて仕上げとし,硬化後にグラインダーにより水平・平滑に仕上げた.また上部 試験片のすべり面は型枠を用いて製作した.タイプB
の試験片も供試体と同様に下部のコンクリ ートを打込み,こて仕上げし,供試体に比べてコンクリート量が少ないためブリーディングは少 ないものの,レイタンス除去等の打継ぎ処理は行わず硬化後にそのまま上部コンクリートを打込 んだ.(2)
試験方法図 5.9 に示す下部試験片をフレームに固定し,載荷板を介して静的ジャッキを用いて上部試験 片に載荷した.載荷装置の水平変位(載荷位置と同じ高さで左右
2
点測定し平均した),水平荷重,試験片の鉛直変位(載荷方向に
2
点)をサンプリング周波数100Hz
で計測した.試験片に作用させる鉛直応力は,動的試験に用いる縮小供試体の打継目に作用する応力(実鉛 直作用応力σ = 0.034N/mm2)付近で変化させて
6
ケース実施した(表5.4).No.1は錘を上載せず 試験片のみで試験を行ったため鉛直荷重は試験片自体の重量である.No.2以降は目標鉛直応力に なるよう鋼製錘を試験片上部に上載した.鉛直荷重を作用させた状態で静的に油圧ジャッキによ り水平力を載荷してすべらせ,10mm
程度の変位が生じた時点で試験を終了した.同一試験片で3
回載荷を実施し,試験が終了後に初期位置に戻した.鉛直荷重が異なるケースは試験片を交換し て実施した.図5.8 試験片形状図 下部試験片 上部試験片
すべり面(打継目)
タイプ A:分離 タイプ B:付着 載荷方向
凡例
単位:mm