7.1 概論
これまでの検討により移動制限装置を設置することで,打継目でのずれを制限できること,河 積阻害率に関係する外形が変わらないこと,基礎の応答が増加しないことが確認できた.これら を考慮して,耐震補強,地震対策工法の比較および工法の選定フローを定める.また実務設計に 用いる簡易な静的設計手法を取りまとめる.
7.2 移動制限装置の適用 7.2.1 概要
無筋橋脚は耐震性に劣るため耐震性能を向上させる耐震補強を行う必要があるが,様々な補強 工法があるため,その特徴を考慮した適用について検討を行う.また移動制限装置を用いた地震 対策工法の得失や適用範囲についても他工法と比較して整理する.なお本研究では主として河川 内の無筋橋脚を対象としているため,工法選定する上で河積阻害率に与える影響を重視している.
上記をふまえ,巨大地震発生に伴う対策として被害最小化と復旧時間短縮化という危機耐性と いう視点も取り入れ検討することとした.
ここで,河積阻害率1)とは橋脚の総幅が川幅に対して占める割合として定義されている.川幅・
橋脚の総幅は以下を表す(図7.1).
① 川幅:流向に対して直角に測った計画高水位と堤防のり面の交点間の距離 ② 橋脚の総幅:流向に対して直角に測った計画高水位の位置における橋脚幅
なお,阻害範囲は,河川の流下方向の投影幅となるため河川の流下方向(線路直角方向)に断面 を増加させても河積阻害率は増加しない.
図7.1 河川幅,橋脚幅,阻害範囲の定義
7.2.2 代表的な耐震補強,地震対策工法の比較
代表的な耐震補強,地震対策工法の比較を表7.1に示す.
▽計画高水位
橋脚幅 B1 橋脚幅 B2 川幅 W
阻害範囲
(橋脚幅) 流下方向
橋脚の総幅 B = B1+B2
表7.1 無筋橋脚を対象とした耐震補強,地震対策工法
RC巻立て補強2) 鋼板巻立て補強2) 鋼棒後挿入工法4) 打継目移動制限装置
略図
概要
躯体に沿わせた鉄筋をフーチング等の基礎に十分 定着して立ち上げ,躯体の周りをコンクリートで 巻き立てることで,曲げ耐力,せん断耐力,じん 性を向上させる工法である.
鋼板をジベルによって躯体に取付け,アンカーによって フーチング等の基礎に十分定着する.躯体との隙間には モルタルを充填することで,曲げ耐力,せん断耐力,じ ん性を向上させる工法である.
流下物に対する防御として保護モルタルを施工する必要 がある
橋脚天端より削孔し,鋼棒を挿入後高流動充填材 で固定する.
鋼材によるせん断抵抗,鋼材軸力による引張抵抗 コンクリート支圧力により,躯体の曲げ耐力,せ ん断耐力,じん性を増加させる.鋼棒にプレスト レスを導入することでさらに曲げ耐力を増加させ ることができる.
損傷が発生すると想定される打継目を跨いで打継 目移動制限装置(鋼棒)を埋込む.
打継目より下部を固定し,上部には遊間を確保す ることで完全に固定せず,打継目でのロッキング や多少のずれを許容することで,基礎の応答は増 加させない.
効果 曲げ耐力,せん断耐力,じん性の向上 曲げ耐力,せん断耐力,じん性の向上 曲げ耐力,せん断耐力,じん性の向上
打継目を完全に固定していないため耐力の向上は なく,地震時の打継目ずれおよび地震後の残留変 位を抑制することで復旧までの日数を短縮し危機 耐性を向上させる.
耐震性能 必要な耐震性能に合わせて設計可能である. 必要な耐震性能に合わせて設計可能である. 巻立て工法に比べると得られる耐震性能は低い 打継目に生じるずれの制限による危機耐性の向上
○ ○ △ -
河積阻害率へ の影響
200mm程度のRCで巻きたてるため,躯体寸法が
増加し,河積阻害率が悪化する.
鋼板と保護モルタルで厚み200mm程度の巻立て厚とな るためRC巻立てと同程度の躯体寸法増加,河積阻害率 の悪化となる.
躯体寸法は増加しないため,河積阻害率に影響は 無い
躯体寸法は増加しないため河積阻害率に影響は無 い
× × ○ ○
施工性
大規模な掘削や土留め工が必要だが営業線路に近 接せずに施工可能である.
大規模な掘削や土留め工が必要だが営業線路に近接せず に施工可能である.
掘削や土留め工は不要だが営業線路内の橋脚天端 からの施工となるため夜間工事となる.
電化区間では電気架線が支障するため施工が困難 である.
対象とする打継目の高さが低い場合には足場等も 不要で施工性はよい.
△ △ × ○
基礎への影響
躯体の耐力が増加するため基礎への応答が増加す る.基礎の安定性が不足する場合には基礎補強が 必要となる.
躯体の耐力が増加するため基礎への応答が増加する.
基礎の安定性が不足する場合には基礎補強が必要とな る.
躯体の耐力が増加するため基礎への応答が増加す る.基礎の安定性が不足する場合には基礎補強が 必要となる.
躯体の耐力は増加しないため基礎の応答は変化し ない.今までの被災事例より基礎補強は不要と考 えられる.
× × × ○
施工費 一般的に高価である. 一般的に高価である. 巻立て工法に比べると安価と考えられるが夜間施
工のため不確定要素が多い. 安価である.
△ △ △ ○
備考 橋脚天端からの施工となるため上部工の形状によ
っては施工できない場合がある.
設置する打継目位置を特定する必要があるため打 継目位置が特定できない場合には施工できない.
想定した打継目以外の箇所で損傷した場合には効 果が無い.
7.2.3 耐震補強,地震対策工法の選定フロー
前項で示すとおり移動制限装置の大きな特長は,躯体の損傷は許容するもの打継目でのずれを 制限でき復旧性に優れること,河積阻害率に関係する外形が変わらないこと,基礎の応答が増加 しないことである.これらをふまえた選定フローを図7.2に示す.
鋼棒後挿入工法は施工スペースが確保できない場合には適用不可能であることと,移動制限装 置は打継目位置が特定できない場合には適用不可能であること注意する必要がある.特に,移動 制限装置の適用にあたっては,高さの低い橋脚では打継目が存在しない場合もあることや建設時 に入念な施工を行ったためか打継目が確認できない場合もあることから現地調査が不可欠である.
また,移動制限装置は躯体の損傷を許容するという意味で耐震補強ではなく復旧性を向上させ るための暫定地震対策であることに注意する必要がある.
図7.2 河川中の無筋橋脚を対象とした耐震補強,地震対策工法の選定フロー