鋼製透過型砂防堰堤の現行設計法は,「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説」1),
「土石流・流木対策設計技術指針及び同解説」2)および「鋼製砂防構造物設計便覧」3)に基づいて 堰堤の剛体安定性を照査し,堆砂圧と土石流流体力に対して許容応力度設計法(弾性解析)に基づ いて各部材強度を照査している。また,巨礫衝突に対してはエネルギー設計を行っている。
第 6 章では,計画規模の設計荷重(レベルⅠ荷重)を超えた大規模な土石流荷重(レベル II 荷重)に対する鋼製透過型砂防堰堤の耐荷性能について,動的 FEM 弾塑性解析によってその挙動 を明らかにした。しかし,鋼製透過型砂防堰堤の安全性照査法については,まだ限界状態の設定 などの問題もあり検討していなかった。
よって,本章では,まず大規模な土石流荷重(レベルⅡ荷重)の設定法を述べるとともに,次 に,レベルⅡ荷重に対する鋼製透過型砂防堰堤の安全性照査法 4)について表-7.1 に示すような性 能設計体系5),6)の観点から考察するものである。さらに,長野県南木曽町における梨子沢第一砂 防堰堤が破壊された事例の破壊原因について考えるとともに,鋼製透過型砂防堰堤の安全性につ いての 1 つの改良案を提示する。
図-7.1 性能設計体系
114 7.2 鋼製透過型砂防堰堤の目的
鋼製透過型砂防堰堤の目的は,これまで述べてきたように平常時には中小土砂礫を通過させ,
土石流時には巨礫・流木を含む土砂を捕捉することにある。つまり,以下の性能を満足させるこ とが必要である。
1) 水理的捕捉性能を満足させる。
第 4 章および第 5 章で述べたように,土石流・流木などを確実に捕捉する機能を満足させるこ とである。そのため,流量(洪水・土石流),渓床(勾配・谷幅),基礎(地盤・根入れ),礫径
(最大礫径、礫径分布)などを調査し,捕捉効果量(貯砂、調整、発生抑制)を推定し,閉塞型 としての機能を発揮させることである。また,形状,流下能力を検討して,開口部高さ,部材間 隔などを設定し,確実な捕捉性能を確認する。
2) 構造安全性能を満足させる
つまり,土石流流体力に対して安定性(滑動、転倒、地盤支持力)の性能を保持するとともに,
礫衝突に対して構造安全性(へこみ、部材損傷、構造破壊など)を満足するように照査する こと である。
115 7.3 鋼製透過型砂防堰堤の要求性能
鋼製透過型砂防堰堤に求められる要求性能として,以下の 5 項目がある。
1) 土砂捕捉性能:河床勾配,河床幅から貯砂容量を推定し,堰堤高さを決定する。また粒度分 布を調査してスリット間隔・開口率などを決定し,閉塞型となることを確認する。
2) 構造安全性能:外力条件を調査し,外的安定性(滑動,転倒,沈下)を満足するように構造 寸法,部材断面を決定する。さらに土石流外力に対し,構造安全性(静的耐力,動的耐力(耐 衝撃性))を満足するように照査する。
3) 施工性能:製作性・輸送性・組立性・安全性を満足するように配慮する。
4) 維持管理性:耐用年数・補修性・除石性を満足するように配慮する。
5) 環境対応性:生態系配慮・土砂供給・景観調和・リサイクル性などに配慮する。
以上 5 つの要求性能のうち,本章では 2)の構造安全性能についてのみ言及する。構造安全性能 については,以下の外的安定性(堰堤を剛体と仮定)と内的安全性(堰堤を弾塑性体と仮定)の 2 つの性能を満足させることが必要である。
7.3.1 外的安定性
1) 滑動:土石流時の土石流流体力+堆砂圧に対し,十分な滑動安全率を有する。
2) 転倒:土石流時の土石流流体力+堆砂圧に対,基礎底面に引張応力を生じない。
3) 地盤支持力:土石流時の土石流流体力+堆砂圧に対し,鉛直地盤応力度が許容値以内である こと。
4) 底版コンクリートの内部応力度;極限引張応力度を下回らない。
7.3.2 内的構造安全性
1) 静的耐力:土石流時の土石流流体力+堆砂圧に対し,部材の応力が許容範囲内にあるように 設計する。また満砂時には,堆砂圧に対し部材の応力が許容値内にあることを照査する。
2) 動的耐力(耐衝撃性):土石流時の礫衝突荷重(礫径,衝突速度)に対し,部材および構造 全体が破壊しないように照査する。また満砂時の礫越流落下に対して, 部材が破損しないよ うに検討しておく。
116 7.4 荷重レベルと限界状態との関係
7.4.1 荷重レベル
鋼製透過型砂防堰堤に作用する力学的荷重は,自重,静水圧,堆砂圧,土石流流体力,地震荷 重,礫衝突荷重,流木衝突荷重,底面に発生する揚圧力がある。ここでは,以下のようにレベル
Ⅰ荷重およびレベルⅡ荷重を設定する。
1) レベルⅠ荷重(100 年再現確率):現行の設計荷重をそのままレベルⅠ荷重とする。
2) レベルⅡ荷重(200 年再現確率):主として深層崩壊などに起因する大規模土石流荷重 を意 味し,レベルⅡ荷重の設定のための必要条件および設定方法について以下に述べる。
7.4.2 レベルⅡ荷重の設定のための必要条件
以下の条件のうち1つでも該当するとき,レベルⅡ荷重を設定する。
1) 上流に急斜面がある地形や土石流の直進性の可能性がある場合 2) 大規模土石流の発生が懸念される場合
3) 深層崩壊の可能性がある場合 4) 下流側に重要な施設がある場合 7.4.3 荷重レベルⅡの設定法
荷重レベルⅡの設定法には,以下の方法が考えられる。
1) 過去の土石流災害の最大クラスの巨礫から礫衝突荷重を採用する。
2) 過去の深層崩壊土石流で, 規模の大きい流体力を採用する。
3) 今後新たに発生する大規模土石流荷重に対して,土石流シミュレータソフトの kanako7),8),9) を用いて土石流荷重レベルⅡを推定することができる。すなわち,kanako による計算は,① 流動深(水面から初期河床までの距離),②堆積深(初期河床からの河床までの距離),③ 土石流濃度,④流速を求め,これより流体力を算出することができる。
4) 安定計算において,土石流ピーク流量を変化させ土石流荷重を算出し,安定限界となる極限 状態の土石流荷重を求める10)。
5) 土石流シミュレーション解析(個別要素法11)または個別要素法+粒子法 12))などを開発して 荷重レベルⅡを設定する。
6) 既存の鋼製透過型砂防堰堤に対して,土石流流体力を作用させて静的または動的弾塑性解析 を行い,荷重-水平変位を求めて最大荷重をレベルⅡ荷重と見做す。
7.4.4 砂防堰堤の限界状態
1) 使用限界状態:使用性に関する要求性能が満足できなくなる状態。
例:錆・環境作用・耐久性が劣化して使用できなくなる状態や礫による摩耗・すり減りによ る状態。
2) 修復限界状態:修復により継続使用を可能とすることができる状態。
例:鋼管のへこみ変形が直径の 0.4 倍以上の場合,修復によって継続使用を可能とする。
3) 終局限界状態:崩壊もしくはそれに類似した構造物の破壊を招く危険な状態。
以上の限界状態の参考例として,以下の写真-7.1 が挙げられる。
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(a) 終局限界の例 1 (b)終局限界の例 2
(c)修復限界の例1 (d)修復限界の例2 写真-7.1 限界状態の参考例
118 7.5 限界状態に対する基本的な考え方
限界状態に対する基本的な考え方は表-7.1 の通りである。すなわち, 1) 使用限界状態以下の場合は,何もしないで使用可能である。
2) 使用限界を超えて修復限界までの間は,経過観察もしくは小修復して使用可能とする。
3) 修復限界を超えて終局限界までの間は,大改修をして使用可能とする。
4) 終局限界を超えた場合は,建て替えまたは交換する。
表-7.1 限界状態の基本的な考え方 何もしない
(健全)
使 用 限 界
経過観察または一 部部材交換を含む 小修復
修 復 限 界
大改修して使用可 能とする
終 局 限 界
建て替えまたは 交換
7.5.1 砂防堰堤の種類
ここで対象とする鋼製透過型砂防堰堤は,以下の 3 種類の砂防堰堤である。
1) 緊急砂防堰堤:緊急的に設置可能な砂防堰堤で供用期間は約 20 年とする。
2) 通常砂防堰堤:現行砂防堰堤および小規模砂防堰堤で供用期間は約 50 年とする。
3) 重要砂防堰堤:保全対象直上流,堰堤の規模が大きい等,下流への影響が大きい重要な砂防 堰堤で供用期間は約 70 年とする。
7.5.2 性能マトリックス
以上より,鋼製透過型砂防堰堤の種類による限界状態の選択のイメージを表わす耐土石流の性 能マトリックスは,荷重レベルに応じて表-7.2 のように表わされる。
表-7.2 土石流に対する性能マトリックス
土石流規模 使用限界状態 修復限界状態 終局限界状態
レベルⅠ荷重 (100 年再現確率) ◆ ○ △
レベルⅡ荷重 (200 年再現確率) ◆ ○
ここで, 記号△, ○, ◆ は, それぞれ以下の砂防堰堤を意味する。
△:緊急砂防堰堤,○:通常砂防堰堤, ◆: 重要砂防堰堤 表-7.2 は,以下のように説明できる。
1) 緊急砂防堰堤の場合
レベルⅠ荷重に対して終局限界状態を照査する。
2) 通常砂防堰堤の場合
レベル 1 荷重に対して修復限界状態を設計の目途とし,大規模な荷重レベルⅡに対して,終 局限界状態に対する安全性照査を行う。
3) 重要砂防堰堤の場合
荷重レベルⅠに対して使用限界状態を設計の目途とし,荷重レベルⅡに対して修復限界状態 内になるように安全性照査を行う。