本研究では,鋼製透過型砂防堰堤の要求性能で「礫捕捉性能」と「耐荷性能」に焦点をあて,
この2つ性能を明らかにすることで,鋼製透過型砂防堰堤の懸念を払拭できるものと考えた。 そ の結果,本研究で得られた知見を以下に示す。
8.2 本研究の成果
(1)第 1 章
第 1 章では,古くから使われてきた重力式コンクリート砂防堰堤をから,鋼製透過型砂防堰堤 へ土土石流対策が転換してきた経緯を説明した。その中で,鋼製砂防構造物の基準が提示され,
これに則り開発された代表的な施設について特徴を述べた。次に,鋼製透過型砂防堰堤が土石流 対策として有効に機能するためには「土石流発生時に土石流を確実に捕捉すること」及び「土石 流発生までの空き容量を確保しておくために土砂を流すこと」機能を発揮する必要がある。この 機能が発揮されるためには「礫捕捉性能」及び「耐荷性能」の2つを満たすことが条件となる。
この土石流捕捉を確実にするために部材間隔と礫の関係を第4章と第5章で明らかにした。局所的 な損傷は構造物の信頼性を損なうことはないが,大規模な破壊はこの信頼性を揺るがすものであ る。この不安を払拭するたには,構造物の限界耐力を明らかにし,具体的は安全照査法を提示す ることである。この耐荷性能について第6章と第7章で明らかにした。
(2)第 2 章
第 2 章では,既設鋼製透過型砂防堰堤の土石流捕捉事例をもとに捕捉形態を分類した。次に,
土石流による損傷事例をもとに礫衝突に対して局所的な損傷から,大規模な破壊形態まであるこ とを明らかにした。
(3)第 3 章
第 3 章では最近の構造物の設計全般に関する考え方,特に性能設計として ISO9001 に基づく設 計管理の具体的な例として,鋼製透過型砂防えん堤の設計管理フローを提示し,設計へのインプット,
設計からのアウトプット,デザイン・レビュー(設計審査),設計検証,設計の妥当性の確認などを 提示した。また,施設の要求性能を顕在化させる方法として,鋼製透過型砂防堰堤を対象 に設計イン プット項目のチェックシートを作成することを提案した。
(4)第 4 章
土石流捕捉事例をもとに捕捉された礫の特徴を調べ,礫径分布をもとにした部材間隔の設定の 妥当性について検討した。また,流木の混在が礫捕捉機能を高めているが,礫捕捉にどのように 係わっているのか調査した事例はないため,流木混じりの土石流捕捉事例についても検討した。
この礫捕捉事例の実態調査において,鋼製透過型砂防堰堤の礫捕捉に必要とされる礫と部材間隔 について要約すると以下のとおりである。
1) 最多礫径帯の最頻値は渓床勾配及び流域面積に関わらず D20~D70 であり,最多礫径帯の最大 値は D80前後で一定である。そのときの最頻値の礫径は D95の 20~70%程度であり,最多礫径 帯の最大値 D80は D95の 50~80%である。すなわち,土砂捕捉効果を発揮させるには,部材間 隔の設定には最多礫径帯の最大値 D80を用いることが妥当である。しかし、現行設計の部材間 隔では D95の 1 倍を基準にしているので,D95= (1.25~2.0) D80の関係式より,D95の 1 倍は D80
142 の 1.25~2.0 倍と同等である。
2) 雄忠志内川と白谷の鋼製透過型堰堤の礫捕捉状況を検証した結果,部材間隔で捕捉された礫 が固定され(一次閉塞),さらに小さい礫を捕捉する(二次閉塞)といった連鎖反応により開 口部は閉塞されることが分かった。これらの堰堤はともに,一次閉塞で約 70%,二次閉塞で 約 90%となることが判明した。
3) 一次閉塞および二次閉塞において礫が小さい場合,アーチアクションが発揮されない礫は流 水により流されやすい。上流側の部材間を通過した礫も,下流側の部材でもアーチアクショ ンが発揮される。
4) 既往の礫径調査の礫が閉塞にどの程度寄与しているかを調べた結果,部材間隔 D95×2.0 の場 合,一次閉塞の礫径加積曲線に占める閉塞率は 30~40%程度であり,開口部全体の半分程度 は開口したままである。また部材間隔 D95×1.5 の場合,一次閉塞の閉塞率は 40~80%部材間 隔 D95×1.0 の場合,一次閉塞の閉塞率は 80~100%であることが分かった。
5) 流木が捕捉されると,流木が捕捉部材となり一次閉塞,二次閉塞を経ずして細粒土砂まで捕 捉対象が広がる。流木間でアーチアクションが発揮されると、流木間の閉塞率は礫捕捉と同 様の閉塞率である。
(5)第 5 章
本章では,最下流域における透過型の水理模型実験と要因分析実験により,これまでの土砂捕 捉率に加え,透過型の土石流捕捉性能の評価項目として,「捕捉高 -時間曲線」と「通過後の礫 径分布」の2つを調べて考察し,透過型の有利な特性を提示した。その結果を要約すると以下の とおりである。
1) 最下流域における実験では,新提案の「縦材間隔がD60の 1.0 倍および横材間隔がD60の 0.5 倍の格子型透過型」では,土石流規模(1/100 年確率)および中小洪水規模(1/20 年確率)
に対して,開口部を十分捕捉閉塞し再流出しないことが確認された。一方,平常時規模(1/3 年確率)の土砂に対しては,ほとんど通過することが認められ,平常時には流す砂防の機能 を果たすことを確認した。
2) 新しく提案した「捕捉高-時間曲線」より,完全捕捉する閉塞型の場合は,時間と共に捕捉 高が上昇し,一方の堰上げ型の場合は,一旦捕捉された土砂がある時間において捕捉高が低 下しはじめ,土砂が一部流出する傾向を示すことが認められた。これは,これまでの「捕捉 率」だけの評価では確認できない点であった。
3) また「通過後の礫径分布」曲線より,同じ流出した土砂でも細かい無害な土砂か否かを判別 できることが分かった。
4) 要因分析実験より,部材間隔がD95の 1.0 倍の場合,河床勾配や土砂移動形態に関係なくほ ぼ全量捕捉する。しかし,部材間隔がD95の 2.0 倍になると,一旦捕捉した礫が再移動する 可能性がある。
5) 河床勾配が 1/6 の急勾配の場合,先行してD95が捕捉されるため,後続の小礫により目詰ま りし多量の土砂が捕捉される。一方,河床勾配が 1/20 の緩勾配の場合,先行した礫の影響を 受けないので,礫が捕捉されるか,通過するかはあくまで部材間隔に支配され,緩勾配の場合 は部材間隔を狭くする必要がある。
(6)第 6 章
第 2 章で示した南木曾における鋼製堰堤の破壊事例のように,計画規模を上回る土石流を砂防 堰堤で捕捉する場合,砂防堰堤が耐力的にどの程度余裕を有しているか不明である。そこで本研 究では,計画規模の土石流に対してコンクリート堰堤と鋼製堰堤を対象に堰堤全体を剛体と仮定
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して安定計算から堰堤の断面形状を決定し,その断面形状に対して安定計算における極限状態を 設定して「極めて大きな土石流荷重」を求めた。「極めて大きな土石流荷重」(レベルⅡ荷重)
は,本来過去の最大クラスの深層崩壊や巨礫などにより設定すべきであるが,今回は便宜上,堰 堤の安定計算において極限状態を設定することにより求めてみた。 このレベルⅡ荷重に相当する 巨礫衝突に対する鋼製堰堤の衝突応答解析を行い,鋼製内部の動的挙動と底板コンクリートの破 壊状況について検討した。その結果を要約すると以下のとおりである。
1) 安定性を損なうような巨礫の衝突に対しても鋼製堰堤では鋼管フレームによって衝突エネル ギーを吸収し,滑動・転倒といった安定性に影響はないことが確認された。
2) 礫衝突解析によって,安定計算では確認できない鋼製堰堤の安全性を照査できることを示し た。
3) 同じ条件でコンクリート堰堤に対して衝突応答解析を行ったところ,堰堤内のせん断破壊が 顕著となり,同時に底面の引張破壊によって堰堤が転倒する傾向を示した。
(7)第 7 章
現行の設計法は堰堤の剛体安定性を照査し,堆砂圧と土石流流体力に対して許容応力度設計法 (弾性解析)に基づいて各部材強度を照査している。また,巨礫衝突に対してはエネルギー設計を 行っている。鋼製透過型砂防堰堤は想定外の大規模土石流に対しても予備の負荷能力(リダンタ ンシー)を十分に持っている。また一部の部材が破壊しても,構造全体としてのロバストネス(頑 強性)を持っている。しかしながら,大規模土石流に対する鋼製透過型砂防堰堤の安全性照査法 が未だ開発されていない。第 5 章では,鋼製透過型砂防堰堤が計画規模の設計荷重に対してどれ だけの余裕があるかについて,その終局限界耐力すなわち耐荷性能について解明する方法を述べ た。そこで,本研究では「極めて大きい土石流荷重」の設定法を述べるとともに,鋼製透過型砂 防堰堤の安全性照査法について,性能設計体系の観点から考察した。その照査法に基づいて具体 的な数値計算の一例を示した。その結果を要約すると以下のとおりである。
1) 土石流規模に対する鋼製透過型砂防堰堤の性能マトリックスを提案することにより,砂防堰 堤の性能的な区別が可能となった。
2) 大規模土石流(レベルⅡ荷重)に対する安全性照査提案し,性能設計フローチャートを示し た。数値計算例を行い,提案した照査方法が妥当であることを示した。
3) 実際に破壊した鋼製堰堤の破壊プロセスを推定し,簡単な鋼製堰堤モデルの動的解析によっ て今後の安全設計に対する改良案を提示した。