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緒言

ドキュメント内 労働安全衛生研究: 第7巻第1号 (ページ 40-48)

磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:

MRI)は数テスラ(地磁気の数万倍)の高い静磁界を利

用した検査手法で,磁気共鳴画像装置(以下,

MR

装置)

は国内で数千台設置され,年間

100

万件以上の検査が行 われている身近な医学検査である1).一方で

MR

装置は 被曝がないものの撮像に強力な磁界を利用する.販売主 流である超伝導

MR

装置では超伝導状態の維持のために 大量の冷媒(液体ヘリウム)を装置に包含し,かつ,高 電圧大電流を使用する運用管理に非常に専門性を有する 装置である.このような経緯から

MR

装置は厚生労働省 が定める「特定保守管理医療機器」に分類され,保守点 検,修理その他の管理に専門的な知識及び技能が必要と されている2).MR装置の設置場所は基本的に他のクリ ニカルエリアと隔絶され,操作や日常の保守管理も主に

MR

検査担当の診療放射線技師が担当している.

一方で,MR装置の安全(何が危険因子であるか,何 をしてはいけないのか等)については,医療従事者の間 での十分な知識の共有が行われているとはいえない状況 である.MR装置運用時のトラブルは,時に重大な人的 災害を引き起こす可能性があり,例えば,磁性体の吸引 による受傷3-7,体内や体外の金属による火傷8, 9,超伝 導マグネットのクエンチによる冷媒放出による窒息やク エンチダクトからの冷媒放出による凍傷の危険性10, 11) などがあげられる.通常

MR

検査はエキスパート(日常

1 MR

装置の運用に関わる集団

的に

MR

装置を取り扱い,十分な安全知識を持つ集団:

主に診療放射線技師)が担当し,エキスパート以外の医 療職が直接関与する機会は看護師が配属されている場合 ぐらいである.しかしながら,重症患者の検査や緊急

MR

検査,火災や自然災害など非常時にはエキスパート 以外の医療職も

MR

検査室に立ち入って作業の補助を行 う状況が生じうる(図

1)

.また,これまでに

MR

検査を 担当しない医療従事者による

MR

検査室での事故事例が 数多く報告されており3, 4),実際に

MR

装置への金属の 吸引事故の

3

割以上は通常

MR

検査を担当しない集団が 誘起したという報告がある4).MR装置の安全教育に関 しては,主に放射線科の新人を対象とした部局内の安全 講習はあっても,他科との合同研修が実施されることは 稀であり,このように現状では医療従事者の間での十分 なリスクコミュニケーションが行われないまま

MR

装置 が運用されている.

原稿受付 20130930

原稿受理 20131202

*1 (独)労働安全衛生総合研究所 健康障害予防研究グループ

*2 (独)長寿医療研究センター神経情報画像開発研究室 連絡先:〒214-8585 神奈川県川崎市多摩区長尾6-21-1

(独)労働安全衛生総合研究所健康障害予防研究グループ 山口さち子*1

E-mail: [email protected]

「労働安全衛生研究」

40

このため,

MR

装置の安全な運用のために,エキスパ ート集団のみならずそれ以外の医療職についても安全知 識の共有化が必要であるが,リスクコミュニケーション や安全トレーニングについては画一見解が存在していな い.また,それら安全教育の方向づけに際しては,

MR

検査のエキスパート集団とそれ以外の集団の認知度の違 いを視野に入れる必要がある.

そこで本研究では,磁気共鳴画像装置(

MR

装置)運 用上の安全の認知度を問う調査票を実施し,

MR

装置の 安全な運用の手立てとなる,医療従事者の間でのリスク コミュニケーションの方向性について検討を行った.

様々な分野の医療従事者から構成される医療技術安全教 育セミナー受講者を対象として,

MR

検査及び

MR

装置 運用に関する事項の認知度を問う調査票「磁気共鳴画像 装置(

MRI

)の安全に関する意識調査」を実施し,

MR

装置利用や検査手法に習熟した集団と,習熟し ていない集団(その他医療従事者間)における,項 目の認知度と,その差異

• 過去の

MR

検査を受けた経験の有無が,項目の認 知度に及ぼす影響

• 各項目の認知度(得点)に関与する要因の検討

について検討した.また,上記事項の検討結果から,

MR

装置利用や検査手法に習熟していない医療系職員の安全 知識の認識状況を把握し,その結果を踏まえたうえで,

研修の実施や日常の

MR

装置の安全運用にどのような対 策や配慮が必要であるか検討を行った.

2

方法

1)

調査対象者と実施方法

本調査は,一般社団法人 日本磁気共鳴医学会と医療 技術安全教育セミナーの開催元である国際医療リスクマ ネージメント学会に協力を得て実施した.調査は,

2011

10

9

日に開催された医療技術安全教育セミナー

2011

の「医療機器の災害対応

(2)

災害時の

MR

検査の安 全に関する緊急提言」講義参加者

246

人を対象とした.

調査票は無記名であり,調査実施前に回答を拒否しても 構わない旨をアナウンスした.予備知識がない状態で回 答が得られるように,講義開始直前に調査票を渡し,講 義の最初の

5

分間で回答してもらい,直ちに回収したの ち講義を開始した.なお,調査票の内容については,ク イズ等で内容に触れながら解説を行った.

2)

調査票と集計

調査票は,回答者の基本属性(年齢,性別,職種)と

MR

検査の経験有無,

MRI

の安全に関する

20

の質問事 項から構成され,「聞いたことがあり内容も理解してい る」,「聞いたことがある」,「断片的に聞いたことがある」,

「知らない/初めて聞いた」の

4

段階で評価した(表

1

). 調査票の記入内容は「

EZ

アンケート」(プレテクニカ社)

の集計機能を用いて,スキャナー(CANON MP560)で

調査票を読み込み

CSV

フォーマットに出力した結果を,

1

名が独立に読み込み,確認・修正を行い最終データと した.

1

設問番号及び内容

番号 設問

Q1 MRIX線検査と異なり電離放射線被曝の無い医療 検査である

Q2 MRIの装置や検査の安全基準はJISで定められてい

Q3 MRIは磁場(静磁場)を利用した画像診断のための検 査手法である

Q4 MRI で使用される範囲の静磁場は生体への有害な影 響は知られていない

Q5 MRI の静磁場は検査で使用するとき以外でも発生し ている

Q6 MRIの静磁場は、配電盤のスイッチを切ったり、停電 で電源が遮断されている場合でも発生している Q7 MRIの撮影装置の近くに金属体(磁性体)を近づける

と、装置に向かって強く金属体が引き込まれる Q8 MRI の撮影室に持ち込んでよい機材を示す表示が定

められている

Q9 MRI に吸引された酸素ボンベによる死亡事故の事例 がある

Q10 MRI には液体窒素や液体ヘリウムなどの超低温冷媒 が使用されている

Q11 過去にきわめて特殊な条件下で液体ヘリウムが気化 MRIが爆発した事故があった

Q12 撮影室内で液体ヘリウムが急激に気化すると酸素濃 度が減少し窒息する危険性がある

Q13 MRIの機械設備は火災の原因になりうる

Q14 「MR適合性」とは、医用材料や機器がMRIによる 検査が可能かを示すものである

Q15 「MR適合性」を確認する標準的な試験方法がある Q16 MR検査では、通常のコンタクトレンズであっても可

能ならば外した方がよい

Q17 MR検査では、条件設定次第では検査中に微弱な神経 刺激が起きることがある

Q18 MR検査では、検査で発生する騒音で一過性の聴力障 害が発生することがある

Q19 MR検査では、体内金属(インプラント)による発熱 や痛みが起きる可能性がある

Q20 MRIの撮影用コイルにより、火傷が起きることがある 選択肢

□聞いたことがあり内容も理解している

□聞いたことがある

□断片的に聞いたことがある

□知らない初めて聞いた

3)

解析

本調査の有効回収率は

97.6 %

N=240

).職業に関して は,重複回答があった場合は,最も業務比率が高いと考 えられる回答を選択した.一次集計後,職業に関しては,

診療放射線技師群(

N=51

)とその他医療職群(

N=190

) の

2

群として扱った.また,過去の

MR

検査の有無に関 しては,

MR

検査の専門知識を有しない集団における影 響を検討するために,その他医療職の集団の該当者のみ

(経験あり群(

N=87

),経験なし群(

N=74

))解析で取 扱った.

回答を「聞いたことがあり内容も理解している」

= 4

点,「聞いたことがある」

= 3

点,「断片的に聞いたこと がある」

= 2

点,「知らない/初めて聞いた」

= 1

点に再 コード化した.全回答(

N=240

),職業別,

MR

検査を受 けた経験あり/なしの各集団における尺度得点を算出し た.職業及び

MR

検査を受けた経験あり/なし間の平均 得点について,それぞれ

t -test

で有意差検定を行った.

2 回答者の基本属性

年齢 度数 %

20 25 10.2

30 72 29.3

40 78 31.7

50 60 24.8

60代以上 6 2.4

無回答 5 1.6

合計 246 100

性別 度数 %

43 17.5

166 67.5

無回答 37 15

合計 246 100

MR検査を受けた経 験の有無

度数 %

検査無 83 33.7

検査有 125 50.8

無回答 38 15.4

合計 246 100

職種 度数 %

臨床工学技士 104 42.7

診療放射線技師 51 20.7

看護師 40 17.1

その他 18 7.7

医師 17 6.9

臨床検査技師 11 5.7

無回答 5 2.0

合計 246* 100

*重複回答があった場合は,最も業務比率が高いと考えられる回 答を選択した.

続いて,各設問の得点に関与する因子を検討するため に,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行っ た.

2

つ以上に負荷する項目や,十分な負荷量を示さな かった項目を除外しながら因子分析を行った。因子の

Cronbach

のα係数は

0.78

0.9

で十分な信頼性が得られ ていた.分析における因子負荷量の基準は絶対値が

0.35

以上とした。職種(診療放射線技師,その他医療職)又 は

MR

検査を受けた経験(あり,なし)別に下位尺度得 点を求めた。下位尺度得点の統計解析は,各集団の因子 間の平均得点について,職種(診療放射線技師,その他 医療職)又は

MR

検査を受けた経験(あり,なし)それ ぞれについて二元配置分散分析を行った.下位検定とし て,交互作用に有意性が認められた場合,因子ごとの対 応について

t -test

を行った.また,有意な因子の主効果 が認められる場合には,

Tukey-kramer

の検定を行った.

統計解析には,

IMB SPSS Statics19

IBM

社)を使 用し,統計的有意水準は

p <0.05

とした.

3

結果

1

に各設問内容を示す.以下,

Q1-20

の設問内容に ついては表

1

を参照にされたい.

回答者の基本属性を表

2

に示す.回答内訳は,年齢:

20

25

名,

30

72

名,

40

78

名,

50

60

名,

60

6

名,性別:男性

166

名,女性

43

名,職種:診療放 射線技師

51

名,その他医療職(医師

17

名,看護師

40

名,臨床検査技師

11

名,臨床工学技士

104

名,その他

18

名)であった.過去の検査有無:検査経験あり

125

名(うちその他医療職

87

名),検査経験なし

83

名(う ちその他医療職

74

名)であった.

3

に回答を点数に再コード化し尺度得点を算出した 結果を示す.職種の筆頭回答は臨床工学技士であり

MR

検査業務への関与は必ずしも密接ではないが,本研究で は

MR

装置を日常的に運用している職種とそれ以外の職 種に着目するため,「診療放射線技師群」と「その他医療 職群」の二群に分類した.職種別の得点では,診療放射 線技師群がいずれの項目においてもその他医療職群より 高得点で,かつ,平均得点は

3

以上であった(表

3 A

).

平均得点

4

(全員が「聞いたことがあり内容も理解して いる」)も,

5

項目(

Q1

Q3

Q7

Q10

)であった.そ の他医療職群においても,後半で得点の低下傾向が観察 された.いずれの設問においても,診療放射線技師群と その他医療職群の平均得点について,統計的有意差が観 察された(

t -test

p <0.001

,表

3 A

).

続いて,その他医療職群で過去に

MR

検査を受けた経 験の有無について回答のあった集団を対象に同様に解析 したところ,

Q13

を除いて,いずれも経験あり群が高得 点を示した(表

3 B

).

5

項目について平均得点について 統計的有意差が観察され(

Q7

Q8

Q14

Q16

Q20

), 特に,

Q20

については強固な統計的有意差(

t -test

p <0.001

,表

3B

)が検出された.

各設問の得点に関与する因子を検討するために,因子 分析を行った結果を表

4

に示す.

2

つ以上に負荷する項

ドキュメント内 労働安全衛生研究: 第7巻第1号 (ページ 40-48)

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