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総括

ドキュメント内 学 位 論 文 (ページ 77-100)

本研究で,ミトコンドリアおける翻訳停滞解消因子C12orf65およびICT1,そ して大腸菌での翻訳停滞解消因子YaeJの機能解析を行った。これまでの実験結 果をまとめる。

 ICT1 と C12orf65 の発現抑制は,培養細胞の増殖を著しく阻害し,アポト ーシスが生じていた。

 ICT1 と C12orf65 の発現抑制は,ミトコンドリアの容積と膜電位にも影響 を与えており,その影響は二つの因子で異なっていた。

 ICT1の発現抑制のほうが,C12orf65の発現抑制より細胞およびミトコンド リアへの影響が大きい。

 YaeJと ICT1 は,大腸菌由来の 70S リボソームを使った PTH活性の測定 で,同程度のPTH活性を示す。

 YaeJのPTH活性には,リンカー領域Arg105,C末端領域Arg118,Leu119, Lys122,Lys129,Arg132が必要である。これらの残基を置換すると,PTH 活性が低下すると共にリボソーム結合能が下がる。

 YaeJのPTH活性には,リンカー領域の長さが重要である。

 構造及びこれら生化学的な実験結果より,真正細菌由来のYaeJと真核生物 由来のICT1の異生物種間のアライメントを提示した。

GGQモチーフをもつ翻訳停滞解消因子のグループ分け

マウス由来のICT1(PDB code 1J26),C12orf65(2RSM)および大腸菌由 来の YaeJ(2RTX)の GGQ ドメインの立体構造,そして本研究の結果を基に した配列解析から GGQ モチーフをもつ翻訳停滞解消因子の分類が可能となっ

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た(Fig. 4-1)。GGQドメインは,Fig. 4-1に見られるように,どれも重ね合わ せができ基本的なアーキテクチュアは同じである。特にGGQモチーフ残基が存 在するβ1とβ2とを結びつけるループ(GGQループ)は,どの構造で非構造領 域となっており,またその長さが一致している(15残基)。一方,構造上最も大 きな相違点は,β2とβ3とを結びつける領域において見られる。RFのドメイン 3およびC12orf65では6残基からなるπ-HB turnを形成するのに対して,ICT1 およびYaeJ ではα ヘリックス(αi)が挿入されている。GGQ ドメイン以外で は,ICT1,YaeJ,C12orf65 での C 末端領域は,非構造領域である。ICT1 と YaeJは,第三章にあるようにリンカー領域の長さは異なるが,PTH活性に必要 な残基の保存性を示すアライメントができる。一方,ICT1とC12orf65は,と もに塩基性アミノ酸残基に富むが,共通性はない。

よって,真正細菌型のGGQモチーフをもつタンパク質(以下GGQファミリ ー)は,全体の配列から 3グループ,そして GGQ ドメインの構造から2 タイ プに分けられることが初めて示された(Fig. 4-2)。当研究室では,これらの因 子が,GGQモチーフをもちかつコドン非依存的(終止コドンを認識しない)な ことから,codon-independent RF(ciRF)と名付けたいと考えている。

ミトコンドリアでの二つの翻訳停滞解消因子

mtDNAにコードされているタンパク質は,基本的にすべて膜タンパク質であ

る(ヒトでは,13種類)。膜への輸送は,Oxa1によってリボソームが内膜に固 定され,合成されたタンパク質が膜へとすぐに輸送される(Ott and Herrmann,

2010)。この輸送と同時に折りたたみがされていくわけだが,このときの折り畳

みが律速となり翻訳が滞りやすいことが指摘されている(Hayes and Keiler, 2010)(Fig. 4-3)。この頻度の多さから,2つの停滞解消因子が必要なのかもし

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なぜ,tmRNA 系でなく ICT1/YaeJ 系のリボソーム解消機構がミトコンドリ ア翻訳系に採用されたのであろうか。一つには,ミトコンドリアというシンプ ルな系には,tmRNA による翻訳停滞解消機構が複雑すぎたのであろう。また,

進化的には,ミトコンドリアの祖先型となる細菌(α-proteobacteria)が存在し ていた時期は,tmRNAではなくICT1/YaeJしか存在しなかったかもしれない。

さらには,膜輸送での滞りには,ICT1/YaeJ しか対応できなかった可能性もあ る。

C12orf65の不完全なタンパク質と様々な疾患

本研究で明らかになったように,ミトコンドリアの翻訳においてICT1だけで

なくC12orf65も必須であることが明らかとなった。背景で述べたように,ヒト

においてc12orf65遺伝子にナンセンス変異が生じると,脳筋症が引き起こされ

る 。 こ こ で 注 目 す べ き は , ナ ン セ ン ス 変 異 が 入 っ た こ と で NMD

(Nonsense-mediated mRNA decay)が起きてそのmRNAが分解され翻訳さ れないという事実はないということである(つまり,不完全なC12orf65タンパ ク質が発現されている)。最近,c12orf65遺伝子の別の位置でナンセンス変異が 起きている患者が見つかったが,興味深いことに,先の脳筋症の患者より症状 が軽い(Fig. 4-4)(Buchert et al., 2013; Shimazaki et al., 2012)。C12orf65タ ンパク質の切断された箇所を調べると,脳筋症の患者では,GGQドメインの途 中で切断されていて,このタンパク質はおそらく構造を取ることはできないが,

後から見つかった変異では,GGQドメインの構造は保てるが,C末端領域が短 くなっている。症状が軽いことを考慮すれば,この C 末端領域が短いタンパク 質は,わずかにPTH活性がある可能性が考えられる。C12orf65は,ICT1と異

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なり,C末端領域以外にもPTH活性に重要な役割をする領域があると考えてい る。候補として,ICT1とは異なり,GGQドメインのN端領域に疎水残基を多 くもつ特徴的な領域がある。これが,C12orf65の活性に何らかの役割があるこ とを予測している。

哺乳類のもう一つのミトコンドリアの翻訳停滞解消因子

哺乳類のミトコンドリアにおけるGGQファミリーに属するタンパク質は,こ れまでにあげたmtRF1a,ICT1,C12orf65の他にもう一つmtRF1が知られて いる。このタンパク質は,アミノ酸配列からミトコンドリアのRFであると初め は考えられていたが,実際はPTH活性をもたなかった(後になって終止コドン 依存的なPTH活性のあるmtRF1aがミトコンドリアで機能する“本当”のRFと して報告される)(Soleimanpour-Lichaei et al., 2007)。最近の立体構造を使っ

たmodelingによれば,ちょうど終止コドンを認識する部位(3つアミノ酸)が

他のRFとは異なってmRNAを認識できない位置にあることが分かった。これ より, mtRF1 も何らかの状況に対応する翻訳停滞解消因子ではないかと予想 されている(Huynen et al., 2012; Young et al., 2010)。ICT1やC12orf65とは異 なり,mtRF1は哺乳類しか保存されていないことを考えると,哺乳類特有のミ トコンドリアでの状況に対応すると考えるが,さらなる検討が必要である。

大腸菌における翻訳停滞解消機構~ tmRNA,YaeJ,ArfA ~

YaeJの報告と時期を同じくして,岡山大の阿保らによって,さらにもう一つ 翻訳停滞を解消できる ArfA(yhdL)タンパク質が発見され(Chadani et al.,

2010),大腸菌では3種類の翻訳停滞解消因子が機能していることがわかってき

た。ArfA の最大の特徴の一つが,ArfA は tmRNA の系が機能しているときに は発現できない点である。ArfAのmRNAはC末端付近のヘアピン構造がRNase

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IIIに分解されるため nonstop mRNAとなってしまい,翻訳は滞ってしまう。

この翻訳停滞はtmRNA・SmpBにより解消されるが,ArfAはC末端にタグペ プチドが付加されるため分解されてしまい,結果としてほとんどが発現されな いことになる(Chadani et al., 2011b; Garza-Sánchez et al., 2011)。一方,例え ば翻訳停滞状態が頻発してtmRNA・SmpBが不足するような状況など,何らか

の理由で tmRNA の系が機能しなくなってしまった場合には,わずかに発現し

ていたArfA自身が自分の翻訳停滞を解消することによりArfAの発現が可能と なる。このように,ArfAはtmRNAの系をバックアップする安全装置と考えら れている。YaeJとは異なり,ArfA自体にはGGQ 配列はなく,PTH活性もな い。その代わり,RF2が ArfA と一緒に機能することで,ペプチジル tRNAを 加水分解することが示されている(ArfAとRF2が結合しているかなど,詳細に ついては現在のところ不明である)(Chadani et al., 2012; Shimizu, 2012)。

そのため,腸内細菌である大腸菌はtmRNAとYaeJタンパク質とArfAタン パク質の少なくとも 3 つの解消機構が機能していることになる。興味深いこと に,大腸菌では三者を独立に欠損させても致死的ではない。また,tmRNA と YaeJタンパク質の 2つの遺伝子を欠損させても致死的ではないが,tmRNAと ArfAタンパク質を欠損させると致死的である(Chadani et al., 2011b)。この致 死的な株に,YaeJタンパク質を過剰発現させるとリカバリーされる。これらの ことからtmRNA,YaeJ,ArfAによる3つのリボソーム解消機構が相互に関連

(相補的あるいはバックアップ)していることが考えられる。今後,3つのリボ ソーム解消機構の使い分け,関連など詳細に研究を進めなければならない。

結語

tmRNA・SmpBは真正細菌では普遍的に存在するが,それのバックアップ機

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構とされるArfAはグラム陰性菌の一部(ナイセリア目(Neisseriales)や腸内 細菌目(Enterobacteriales)など)にしか存在しない(Schaub et al., 2012)。一 方,YaeJは主にグラム陰性菌に広く存在する。つまり,グラム陰性菌の腸内細 菌では3種(tmRNA,YaeJ,ArfA),そのほかのグラム陰性菌は2種(tmRNA,

YaeJ),グラム陽性菌は 1 種(tmRNA)という場合が考えられる。また,真核 生物のミトコンドリアでは普遍的にYaeJオーソログICT1とC12orf65が存在 する。これらの事実は,生物種によって翻訳停滞解消因子の種類が異なってい ることを示しており,翻訳停滞解消機構の全体像が想像以上に複雑であること を物語っている。それぞれの因子は,翻訳停滞の頻度や質の変化に対応するた めに必要となったと想像できる。例えば,腸内細菌は特に増殖速度が速いので タンパク質の生産能が高くならねばならないことを考えれば,翻訳の滞りが多 発しているとも推定され3種も必要となるのかもしれない(Fig. 4-5)。

tmRNA非依存的な翻訳停滞解消機構の研究は始まってまもなく,やっとパズ

ルのピースがそろいだしたところである。これらのピースがどのように組み合 わされて,生物種に合わせてそれぞれの「翻訳トラブル解消システム」を形成 しているのか,その全容を理解するにはさらに多くの研究が必要とされる。

ドキュメント内 学 位 論 文 (ページ 77-100)

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