アスナプレビルは、HCV NS3プロテアーゼに対する低分子阻害薬(直接作用型抗ウイルス薬)
である。本薬は HCV の宿主であるヒトにおいて機能的又は代謝的に重要な標的は知られていな いことから、過剰な薬理作用に伴う影響が少ないことが期待される。アスナプレビルは、PI’末端 にアシルスルホンアミド基を有するトリペプチドである。PI’末端にケトアミド基を有するテトラ ペプチドであるテラプレビルとは構造的に大きく異なることから、両薬剤の毒性学的プロファイ ルの比較から、あまり有益な情報は得られないと考えられる。
In vitro及びin vivo非臨床薬理試験の結果、アスナプレビルは6種の主要なHCVジェノタイプ
を有する HCV NS3/4A プロテアーゼ複合体に対して強力な阻害作用を示した(IC50 値 0.3~
320 nM)。最も強力な作用はジェノタイプ1 のプロテアーゼに対するものであった(Ki値0.24~
1.0 nM)。アスナプレビルは一連のセリンプロテアーゼに対して、ほとんどあるいは全く活性を示
さなかったことから、本薬がHCV NS3プロテアーゼに対して選択的であることが示された。更
に、in vitro試験においてダクラタスビルとの併用により相加又は相乗効果を示したことから、C
型慢性肝炎患者に対する新規治療法となることが示唆された。
心血管系、中枢神経系及び呼吸系の各指標に及ぼすアスナプレビルの影響について、一連のin
vitro及びin vivo安全性薬理試験を実施し、また、単回投与毒性及び反復投与毒性試験の一部とし
て評価した。一部はダクラタスビルとの併用試験として実施した。その結果、麻酔下ウサギにお いてヒト遊離体Cmaxの36倍~430倍の高曝露量で軽微で一過性の血圧上昇が認められたが、イ ヌにおいてヒト遊離体Cmaxの120倍でも血圧上昇は認められず、また、健康被験者にアスナプ レビルとダクラタスビルを併用投与しても血圧を含むバイタルサイン及び心電図に一貫した変化 あるいは臨床的に重要な変化は認められなかった。非臨床安全性薬理試験の成績からはヒトにお ける安全性への懸念を示す作用は認められなかった。
非臨床薬物動態試験から、アスナプレビルの吸収、分布、代謝及び排泄の特性が示された。ア スナプレビルのバイオアベイラビリティは変動しやすく、動物において 1%~100%超の範囲であ り、処方に依存し、食事の影響(吸収の増加)を受けた。アスナプレビルは胃内及び腸内の生理 pH値では溶けにくく、胃内pHの上昇はアスナプレビルの溶解度を変えないことが示されたため、
アスナプレビルの溶解性の pH 依存性は検討しなかった。アスナプレビルの血清蛋白結合率は 97.2%~99.2%であった。
動物におけるアスナプレビルの消失は、変動しやすかった。アスナプレビルの消失半減期は、
イヌ(0.3~1時間)やサル(1.3時間)よりもマウス(4.6時間)やラット(4.2~8.1時間)の方 が長かった。有色ラット及びアルビノラットを用いた組織分布試験において、[14C]アスナプレビ ル由来の放射能は体内に広範に分布し、反復投与後の蓄積はなかった。動物におけるアスナプレ ビルの取込みは、肝臓(血漿中アスナプレビルに対する肝臓中アスナプレビルの AUC 比は、イ ヌで40、ラットでは257以上)及び消化管組織で顕著であった。肝臓及び腸管は毒性の標的臓器 であり、肝臓は抗 HCV 活性の標的臓器である。神経、内分泌腺、分泌器官、脂肪、生殖器、呼 吸器及び視覚器官の組織では、放射能濃度は低いか又は定量下限未満であった。[14C]アスナプレ ビル由来の放射能は、投与後168時間までに完全に消失した。
ヒト及び動物におけるアスナプレビルの主要な代謝経路として、一及び二酸化、アミド加水分 解、イソキノリン環の脱離をもたらす酸化及びN-脱アルキル化が挙げられる。アスナプレビルの 酸化的代謝は、主に CYP3A を介して行われる。試験したすべての種において、アスナプレビル は血液中の主化合物であった。ヒト血漿中に検出された全代謝物は少なくとも一つの動物種で検 出されており、そのAUC値は全血漿中化合物のそれの5%未満であった。ヒトにアスナプレビル を反復投与後、代謝物の曝露量は増加したが、いずれの代謝物もアスナプレビルのAUC値の20%
未満又はアスナプレビルとその代謝物の総曝露量の10%未満であった。代謝物の解析結果に基づ くと、ヒトにアスナプレビル200 mgを1日2回10日間反復投与したときの代謝物曝露量に比べ て、動物にアスナプレビルを100 mg/kg以下の用量で単回投与したときの代謝物曝露量の方が大 きく、ヒトに対する動物のAUC比は2.2~46.5であった。このことから、代謝物を用いた試験は 別途実施しなかった。
代謝クリアランス、胆汁クリアランス及び腸内分泌は、ラット、イヌ及びサルにおけるアスナ プレビルの主要な消失経路であったが、腎クリアランスは動物及びヒトにおいて主要な消失経路 ではなかった。マスバランス試験において、マウス、ラット、イヌ及びヒトに[14C]アスナプレビ ルを単回経口投与したとき、投与放射能の77%~88%が糞便中で回収され、尿中からは投与放射 能の0.3%~1.4%が回収された。
CYP3A4及びCYP3A5はアスナプレビルの主代謝酵素であり、アスナプレビルはP-gpの基質で
ある。したがって、CYP3A及びP-gp活性の変化はアスナプレビルの体内動態に影響を及ぼす可 能性がある。AI447014試験で健康被験者にアスナプレビルとケトコナゾール(CYP3A及びP-gp の阻害剤)を併用投与したとき、アスナプレビル曝露量が増加したことから、上記で予測した薬 物相互作用の発現が確認された。また、アスナプレビルの曝露量に及ぼすリファンピシン(CYP3A 及びP-gpの誘導剤)の臨床的意義のある影響は認められなかったが、これはリファンピシンによ るOATP阻害が同時に起こったことが原因であると考えられた。
アスナプレビルは CYP1A2 の誘導剤ではないが、CYP3A の誘導剤かつ可逆的及び時間依存的 阻害剤である。したがって、CYP3Aの誘導と阻害がin vivoで同時に起こる可能性がある。AI447007
及びAI447020試験で、アスナプレビルとミダゾラム(CYP3Aの基質)との間で薬物相互作用が
認められ、ミダゾラムの曝露量が29%~44%減少した。これは、全体としてはアスナプレビルが
CYP3Aを誘導したことを示すものである。
In vitroにおいて、アスナプレビルはCYP2D6の時間依存的阻害剤であった。AI447020試験で、
アスナプレビルとデキストロメトルファン(CYP2D6の基質)との間に薬物相互作用が認められ、
アスナプレビルの投与後にデキストロメトルファンの曝露量が増加した。また、アスナプレビル
は UGT1A1を阻害した。しかしながら、AI447011試験で、総ビリルビン(UGT1A1の基質)の
増加傾向は認められなかった。なお、UGT阻害のヒトにおける関連性は不明である。
In vitro試験結果から、アスナプレビルはOATP1B1、OATP2B1及びP-gpの基質であることが示
された。更に、様々な取込み及び排出トランスポーターがアスナプレビルによって阻害された。
また、P-gp、乳癌耐性蛋白(BCRP)、多剤耐性蛋白(MRP)2、有機カチオントランスポーター
(OCT)1及び有機アニオントランスポーター(OAT)3は弱く阻害された。一方、タウロコール
酸ナトリウム共輸送体、OAT1、OATP1B1、OATP1B3、OATP2B1及び胆汁酸塩輸送ポンプ(BSEP) は強く阻害された。これらの試験結果から、アスナプレビルとこれらトランスポーターの基質、
阻害剤及び誘導剤との間で薬物相互作用が起こる可能性が示唆された。臨床試験において、アス ナプレビルとロスバスタチン(OATP1B1、OATP1B3 及びBCRP の基質)との間に薬物相互作用 が観察され、アスナプレビルの投与後にロスバスタチンの曝露量が増加した(AI447015 試験)。 また、アスナプレビルとジゴキシン(P-gpの基質)との間で薬物相互作用が観察され、腸内P-gp の阻害に起因するジゴキシンの中程度の増加がみられた。ヒトにおいて、アスナプレビルとダク ラタスビルとの間に臨床的意義のある薬物相互作用は認められなかった。
アスナプレビルの毒性を評価するため、ICHガイドラインに準拠した非臨床毒性試験をGLP適 合下で実施した。実施した試験、設定した用量範囲及び観察された影響に基づき、アスナプレビ ルの毒性を選択した動物種において総合的に評価した。
慢性毒性試験では、ラット6ヵ月間投与の最高用量200 mg/kg/day(AUC:503 μg•h/mL、ヒト AUCの136倍)及びイヌ9ヵ月間投与の最高用量100 mg/kg/day(AUC:302 μg•h/mL、ヒトAUC の82倍)まで、アスナプレビルの忍容性は良好であった。
主な毒性の標的器官はラット及びイヌの1ヵ月間反復投与毒性試験で確認された消化管及び肝 臓であり、これらの所見は高用量及び高曝露量においてのみ認められた。
ラット1ヵ月間反復投与毒性試験では、600 mg/kg/day(AUC:299 μg•h/mL、ヒトAUCの81 倍)で小腸の腸細胞肥大がみられた。アスナプレビルによる腸管の変化に関連した変化として血 清蛋白、アルブミン及びグロブリンの減少がみられ、吸収不良あるいは消化管からの蛋白損失の 促進を示唆する変化と考えられた。ラットで認められた変化は、いずれも休薬により回復した。
イヌ1ヵ月間反復投与毒性試験では、300 mg/kg/day(AUC:1385 μg•h/mL、ヒトAUCの375倍)
で 600 mg/kg/dayを投与したラットより高い曝露量が得られたが、消化管に関連した所見は嘔吐
の発現頻度の増加のみであった。
ラット及びイヌでみられた消化管に関連した所見は、消化管中の大量のアスナプレビルによる 局所的な影響と考えられた。消化管の所見は1ヵ月間投与毒性試験の高用量で主に発現し、ラッ トにおける軟便及び摂餌量の増加を除き、慢性毒性試験では高い曝露量[ヒトAUCの136倍(ラッ ト)及び82倍(イヌ)]でもみられなかった。
第2相試験(錠剤200 mg BID投与)では、消化管への影響による投与中止例はみられなかった。
消化管毒性が発現する用量を投与したラットの消化管中のアスナプレビルの量と比較してヒトに おける推奨臨床用量でのアスナプレビルは少量であり、これに一致して明らかな胃腸管への安全 性が懸念される徴候はみられなかったことから、ヒトにおいて胃腸管への影響が発現するリスク は比較的低いと考えられた。
また、1ヵ月間投与毒性試験では、ラットにおいて600 mg/kg/day(AUC:299 μg•h/mL、ヒト AUC の 81 倍)で病理組織学的変化を伴わない ALT 及び総ビリルビン増加がみられ、イヌでは 300 mg/kg/day(AUC:1385 μg•h/mL、ヒトAUCの375倍)で肝細胞壊死及びこれに関連してALT 及び総ビリルビンの増加がみられた。
GSH付加体の生成及び肝ミクロソーム蛋白との共有結合から、アスナプレビルの代謝を介した