• 検索結果がありません。

第4章  考察

第5節  総合考察

信頼感尺度と攻撃性尺度の関係を相関分析によって検討した結果、「自分

への信頼」と攻撃性の下位尺度にのみ相関が見られた。また、相関関係には 性別で差があった。男性では「自分への信頼」が高ければ「自責感」「怒り 反応」も高いのに対し、女性では「自分への信頼」が低ければ「自責感」「猜 疑心」「衝動性」が高いという結果になった。「他人への信頼」と攻撃性尺度 の下位尺度には相関がなかった。

 これらのことから信頼感と攻撃性の関連は、性別によって差があることが 示されたが、信頼感の下位尺度の得点や攻撃性の下位尺度の得点、TATの ACS得点には性別による差がなかった。よって、質問紙における信頼感や 攻撃性の高さ、TATにおける攻撃性の高さに性差があるのではなく、それ

らの関連に性差があるということが示唆された。

 信頼感尺度ならびに攻撃性尺度とTATのACS得点の関連を分析したとこ

ろ、男性ではr他人への信頼」と図版3BM,19のACS得点に関連がある

ことが示唆された。つまり、男性ではr他人への信頼」が低いほど図版3

BMや19で攻撃的な物語を作る傾向にあることが示された。図版3BMで

は「他人への信頼」が低い人のプロトコルには何か外的な出来事が原因で自 傷、自殺企図をし、誰かに助けられて回復するというテーマがみられ、「他 人への信頼」が高い人のプロトコルにはそのようなテーマは見られず、悲嘆 の原因を自分にあるとする傾向があった。図版19では「他人への信頼」が 低い人のプロトコルには、何か被害を受けて攻撃するというテーマ、または 呪いとして被害が連鎖するという復讐のテーマがみられた。一方、「他人へ の信頼」が高い人のプロトコルには攻撃のテーマがあまり表れておらず、安 香(1997)が安定した人のテーマとして挙げている、外は自然の厳しさがある

作る傾向にあることが示された。また、有意ではないものの、男性では逆の 傾向があることが示された。「怒り反応」が低い人は図版11で、戦いのテ

ーマをはっきりと語るという傾向が見られ、「怒り反応」が高い人は竜を神 秘的なものとしたり、漠然とした襲われる感覚を表す夢という物語を作った。

坪内(1984)が動物同士や動物と人間の戦いのテーマを図版11の一般的な テーマとして挙げていることや、鈴木(1997)が図版11で語り手が攻撃され

る側に身をおいている場合は語り手が攻撃衝動に気付いているとは言えな いと述べていることから、戦いのテーマがはっきりと語られずに、神秘的と 体験したり漠然と襲われる不安として体験することと、「怒り反応」が高い

ことに関連があったとのではないかと考えられる。

 また、信頼感尺度と攻撃性尺度の高低によってTATのテーマに差がある かを検討するため、r攻撃性」X r他人への信頼」とr攻撃性」×r自分へ の信頼」の2つの組み合わせで、それぞれ協力者を4群に分けた。その結果、

どちらの組み合わせにおいてもTATのテーマに最も差が見られたのは図版

18BMであった。

 図版18BMにおいて、攻撃性が低く信頼感が高い群では、向こう見ずな 行為を止められていたり、警察に捕まっているというテーマが多かったのに 対し、攻撃性が高く信頼感が低い群では、人に襲われている、幽霊によって 呪い殺されるというテーマ、感覚的に自由を奪われているというテーマが多 かった。つまり、前者では人物が能動的に動こうとしているのを止められる

というテーマが多かったのに対し、後者では、人物が受動的に襲われたり、

自由を奪われるというテーマが多かった。また、幽霊によって呪い殺される という物語では、最初Aという人物が原因でBという人物が死に、または

AにBが殺され、その死んだ恨みからBが幽霊となって呪い、最終的にA

も死ぬ、という復讐をテーマとした物語が複数見られた。これらの物語には、

幽霊という漠然としたものに自由を奪われていると体験することや、攻撃さ れたと体験し、被害感によって攻撃するというパターン現れている。漠然と 自由を奪われていることや攻撃されたと体験することを、不安や不信という 言葉に置き換えられるとすると、Homey(1937)やK1ine(1946)の指摘する、

不安や不信と攻撃性の相互作用がテーマとして展開されていると考えられ るのではないだろうか。

 また図版3BMでは、攻撃性が低く信頼感が高い群では、他の3群に比べ て、人物が仕事や人間関係のストレスが原因で慢性的に人生に疲れていると する物語が少ない傾向にあった。その代わりに、「攻撃性」が低く「他人へ の信頼」が高い群の場合は、大切な人との関係の破綻に関するテーマが多く、

「攻撃性」が低く「自分への信頼」が高い群の場合は自分の行為に対する後 悔に関するテーマが多かった。

 図版8BMでは、「攻撃性」が低く「他人への信頼」が高い群では、前景 の人物が将来医者になるという一般的なテーマが多かった。また男性では、

「自分への信頼」が低い2群の人は、全員(4人中4人)加害行為や死体解 剖の場面という物語を作った。r自分への信頼」が低い群でもr攻撃性」が 高い群の人は、前景の人物が死体解剖や人体実験をされる側の人と関係づけ

られている物語を作り(2人中2人)、r攻撃性」が低い群の人は死体解剖を する側の人と関係づけられている物語を作った(2人中2人)。

 図版19では、r攻撃性」が低く「他人への信頼」が高い群は、家や船が 危機にみまわれるというテーマが少なく、外は危機があるが家の中は安全と いうテーマが多かった。

信頼感が低い群では、危機場面の原因を外的なものに求める傾向、つまり漠 然としたものに襲われるという形で受動的に体験する傾向、または攻撃され たと体験して攻撃することによって、被害が連鎖するという復讐のテーマが 多い傾向にあった。したがって、危機を漠然と受動的に体験すること、つま

り不安感や不信感の高さが攻撃性の高さと関連することが示唆された。