第一節 総合考察
1)給食時間に行う指導の重要性
人間の命は、摂食を行う事で、生き長らえることができる と言っても過言ではなく、生きる事と摂食は密接に関係しあ っている。特別支援学校に在籍する知的障害のある児童生徒 の、最大の教育目標には、社会で自立生活を送る為に必要な 知識、技能、態度、習慣を身につける事が掲げられており、
食に関する指導を行うことは、その目標を実現させることに 直結しているとも言えるだろう。その事から、食に関する指 導を行う給食時間の指導は、教育目標を実現させるためにも 重要な教育的位置づけにあることが、今回の研究を通してわ
かった。
例えば、神林(2007)は、給食指導の特に摂食の指導に観 点を絞った実態調査と事例研究を行った。研究結果の考察と して神林は、給食指導を自立活動の領域と関連付けた、検討 方法を提案している。神林が総合考察として述べている「給 食を通して学習できること」の例には、「栄養摂取による、繰
り返し学習による口腔機能の発達」を挙げており、その例は、
自立活動領域の「健康の保持」の領域に当てはまるというこ とを述べている。また、「安心感を感じて、リラックス、食事 の楽しさを感じさせる」事には、自立活動領域の「心理的な 安定」の領域に当てはまることを述べている。その他にも「食 べ物を見る、匂いをかぐ、味わう、舌触りを感じる」事には、
自立活動領域では「環境の把握」の領域、「会話を楽しむ、要 求や拒否の意思表示を示す」という項目には、自立活動領域 の「コミュニケーション」の領域に当てはまる事を考察して いる。ここで述べられているように、社会的自立を目指し心
身の調和的発達を最終目標とする、自立活動の領域に対応付 けて給食指導を行うということは、その教育的意義が十分に
あることが伺える。
また、東京都教育委員会(2003)の、当時の摂食指導委員 長であった向井は、特別支援学校に在籍する児童生徒に対し て行う給食指導を、児童生徒が生きるために不可欠な基本的 な術として捉えており、その基本的な術は毎日の繰り返しの 学習で獲得することができると明記している。そのことから も、学校場面で行う給食指導を、系統立てて継続的に行うこ との必要性が感じられるだろう。
そして、今回のインタビュー調査を行った4名の教員は、
共通して、「給食時間の指導は、児童生徒の将来、卒業した後 に、社会で自立して生きていくことに直結した指導である」
と捉えていた。ある教員は「生徒が、生徒自身が嫌いな食べ 物の しいたけ を食べることができなくても、社会で生き ていける。でも、『しいたけ、嫌い、食べれない』といった、
自己の意思を周囲に対して言えないと、その生徒は社会で自 立して生活していけない」と述べられていた。その例から伺 えるように、給食時間は普段の教科学習の時間とも比べても、
遥かに児童生徒が様々な思いを自発的に抱きやすい時間にな っているということが言えるだろう。そのことは「コミュニ ケーションさせるには、給食時間は絶好のチャンス」と述べ た教員の発言からも伺え、教員は、意思を抱かせることによ って、表出手段を身に付ける良いきっかけになることを話し た。著者がX市立x特別支援学校にボランティア員として訪 問していた時に、そう発言した教員の給食指導場面を観察さ せていただく事ができた。その教員の給食時間帯の指導方法 は、各児童生徒の特性を適切に考慮し、柔軟な対応でコミュ ニケーション手段を獲得させる指導をおこなっていた。その ような手立てを給食時間に行うことによって、コミュニケー ションの幅が広がったという成果も、また別の教員の話から
伺うこともできた。また、そのような手立てで、児童生徒と コミュニケーションを積極的にとることが、指導を行う教員 と児童生徒との間に良好な信頼関係を築くことに繋がったと いう報告も耳にした。給食時間を通してそれらの指導を行う
ことが、他の教科や場面にも良い影響を与えていることがそ れらの事例からも伺える。
以上の研究を通してわかったことを包括して、給食時間に 行われる指導とは、自立活動の領域との関連を十分に加味し て、指導計画の立案を行う必要性がある。また、実際に指導 を行う時には、摂食とは日常生活と深い関わりがある為、日 頃の指導と給食指導とを系統立ったものにする必要がある。
そして、給食の時間帯は、摂食に関する指導のみを行う場で はなく、自分を表現する手段を身につける、コミュニケーシ ョン能力を向上させる為の場であることも伺える。給食時間 には、学校生活で指導する事が望ましいとされる内容の殆ど が含まれていると言っても過言ではない。その事から、給食 時間は教育的意義が十分に感じられる、重要な時間帯である
と、本研究を通して改めて分かった。
2)給食時間に行うコミュニケーションの指導について 給食の時間帯に指導する、主な内容には、身体面の健康の 保持増進と深い関わりがある、摂食に関する指導内容が一般 的に挙げられるだろう。しかし、本研究を通して、給食の時 間帯は、摂食に関する指導内容も重点的に行われているが、
コミュニケーションを含む社会性を育み、社会で自立した生 活を営むための基礎的な能力を育成させる事も大変重要視さ れ、実際の指導場面でも多くそれらの指導がなされているこ とが分った。それは、本研究の結果でも挙げられた、給食時 間に行う「具体的な指導内容」として「コミュニケーション」
に関する指導の部分に反映されているだろう。摂食場面と捉
えられがちである給食時間帯で、指導内容にコミュニケーシ ョン指導を扱う事には、やや異質な印象を受けやすい。しか し、摂食を通して、コミュニケーションの指導を行うことは、
研究結果の考察からもわかるように、十分な教育的意義が認 められている。児童生徒は食を通すことによって様々な「思 い」を抱き、そうすることで、児童生徒の感情の幅を広げる 事につながるだろう。その児童生徒の自発的に抱く感情を、
自身に理解させ、抱く感情や思いを表出させる手段を実践か ら学ばせることで、児童生徒のコミュニケーションの幅が広 がる。そうして、様々な思いを他者に伝わるようにすること は、いわゆる社会で自立した生活を送る為の技能、習慣に繋 がることが言えるだろう。
今後の知的障害のある児童生徒に対して、自立を目的とす る教育を行う教員は、給食時間にコミュニケーションの指導 を行う教育的意義と、その重要性を今一度再認識をし、給食 時間に行う指導の充実と発展拡充に努める必要がある。
3)給食指導を体系化することの有効性
著者は、教員が困難さを抱きやすい給食時間の有効な指導 の対処策として、給食時間を指導内容と指導手続きの二つの 観点で体系化することを提案した。本研究では、その体系化 に向けた取り組みの第一段階として、指導の一事例を取り上 げ、指導を体系的に整理する取り組みを行った。体系的に整 理し集約する取り組みを、重ねて行う事によって給食指導の 体系化の実現につなげることができるだろう。漠然とした指 導に対して、体系化を行う事は、先行研究からもその有用性 が検証されており、本分野でその有用性の一例には、具体的、
且つ実現可能な目標の立案に繋げることができる事などが挙
げられるだろう。
また、体系化されていることで、目標を実現させる指導の 計画が立てやすくなり、継続的で系統立った指導を行うこと に繋がる。それらの事から、指導内容の体系化を行う事は、
給食時間の多様性に対応することができず、指導に困難を抱 いている教員の対処法になることが期待できる。
また、継続的な指導が実現できることにより、指導を随時 見直し、計画の練り直しを検討することが可能になる。そう することによって、主観にとらわれた指導の手続きでなく、
児童生徒にとって効果的な客観性に富んだ指導の実現が期待 できる。また体系化することで行った指導を蓄積することが でき、時期ごとに行った指導を見直すことが可能になり、長 期的な指導目標の実現が期待できる。
例えば、年度の初めにある領域の指導内容を生徒に対して 実施させるとする。学期が変わり長期的に全く同じ指導内容 の指導手続きを行い続けている場合、結果に結びつく適切な 指導が行えていないという判断に行きつく場合がある。その 時は、指導の手続きの見直しや、指導を行う目的の見直し、
指導計画の練り直し、児童生徒を別角度からの観察・分析の 必要性が余儀なくされていることが想定される。
また指導の体系化を行う事で、一人の児童生徒に対して給 食時間に行った指導を長期にわたって蓄積することが可能と なる。年度が替わり、教員間で児童生徒の引継ぎを行う際、
蓄積した資料があることで、昨年度に行われていた指導を容 易に見直す事ができ、自身の指導の参考にすることができる。
今回、研究で行ったインタビューの中にも、年度が替わって からの教員ごとで行う指導の違いから、児童生徒の指導が円 滑に実施できなかったという意見も聞かれた。年度ごとに長 期的に実施した指導を体系的に参照しやすい形に整理するこ とで、昨年度行った指導も振り返りやすくなり、今年度受け 持つ児童生徒の効果的な指導を実施させることが可能になる。
また、そうすることで、教員ごとでの指導の違いからくる、