第 4 章 Fe-N-C 触媒の研究 57
4.5 XES 測定の結果と議論
4.5.1 参照試料について
66 第4章 Fe-N-C触媒の研究
図4.12: Fe−C結合を持つ(a)Kβ’及びKβ1,3発光スペクトル,(b)Kβ”及びKβ2,5発光スペ
クトル,(c)(d)それぞれの差分スペクトル.差分スペクトルは鉄のスペクトルからの差分を表
す.
図4.13: Fe−N結合を持つ(a)Kβ’及びKβ1,3発光スペクトル,(b)Kβ”及びKβ2,5発光スペ
クトル,(c)(d)それぞれの差分スペクトル.差分スペクトルは鉄のスペクトルからの差分を表
す.
4.5 XES測定の結果と議論 67
図4.14: Fe−O結合を持つ(a)Kβ’及びKβ1,3発光スペクトル,(b)Kβ”及びKβ2,5発光スペ
クトル,(c)(d)それぞれの差分スペクトル.差分スペクトルはFeOのスペクトルからの差分
を表す.
し,Kβ’の強度が増加しているという特徴から,高スピン状態であることが分かる.また,価 数が高くなればなるほどKβ1,3のピーク位置も高エネルギー側に変化しており,これはS = 2 の2価とS = 5/2の3価の違いを反映している.さらに,Kβ”のピーク位置は7092 eVであ り,軽元素であるC,N及びOの元素について鉄周りの配位子を硬X線で分類することに成 功した.また,Kβ2,5のスペクトル形状は完全に金属状態とは異なっており,O 2pからの遷移 による広いピークが存在している.しかしながら,様々な構造,価数の異なる酸化物間でスペ クトルが非常に類似していることから,構造や価数には敏感ではないと判断できる.
次に,ヘキサシアノ鉄酸カリウムのXESスペクトルを図4.15に示す.ヘキサシアノ鉄酸カ リウムは,配位子場の強いシアノ基を持つため,低スピン状態になっていることからKβ1,3の ピーク位置が低エネルギー側に存在している(図4.15a).また,どちらも対称性は同じOhで あることから,スペクトルの違いは価数の違いのみに影響していると推測できる.そのことを 踏まえると,Fe3+の方はFe2+よりもd電子が1つ少ないため,S = 1/2を持つことでわずか に高スピン状態に近づいており,Kβ1,3のピーク位置は高エネルギー側に変化している.さら に,Kβ”及びKβ2,5の形状はほとんど同じであり,Kβ”のピーク位置はFe−O結合の参照試 料と同じ7092 eVだが,広い幅を持つピークとなっている.Kβ2,5に関しては,Fe3+の方が 強度が高く,価数が上がったことで配位子からの電子の流入が増えたためと推測する.酸化物 においてこの違いが現れなかったのは,鉄原子がイオンとして存在するためだと推測する.ま た,Kβ2,5には,2つか3つのピークが確認できる.もしも,Mnのシアン化合物と同様の議 論 [97]が可能ならば,これらのピークは低エネルギー側からCN2s2sσ∗軌道とCN2p2pσ軌
68 第4章 Fe-N-C触媒の研究
図4.15: Fe−CN結合を持つ(a)Kβ’及びKβ1,3発光スペクトル,(b)Kβ”及びKβ2,5発光スペ クトル,(c)(d)それぞれの差分スペクトル.差分スペクトルはK4[Fe(CN)6]のスペクトルか らの差分を表す.
道に由来すると考えられる.
Fe−NC結合を持つ参照試料のXESスペクトルを図4.16に示す.鉄フタロシアニン (Fe-phthalocyanine; Fe−Pc) のスピン状態は,中間スピン (S = 1) であることが知られてお り [98,99],Kβ1,3の位置やKβ’の強度は酸化鉄やシアノ鉄のおよそ中間の値を取っている
(図4.16a).また,ヘモグロビンは低スピン状態であり,酸素種が吸着している可能性も存在
する.図4.15bに注目すると,Fe−Pcが7093 eVに明確なKβ”ピークを持つことが分かり,
これがFe−N4構造に由来すると考えられる.ヘモグロビンにはそのような明確なピークは存 在しないが,Kβ2,5のピーク強度が強く,酸素吸着による影響かヒスチジン由来の窒素の影響
(図1.18)かは判別がつかないが,それらの2p由来の遷移によって強度が強くなっている可能
性が考えられる.