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第 2 章 原理 23

2.2 放射光

物質の構造や電子状態を観測する手段として,X線が広く実験室系でも導入されているが XAFSや非弾性散乱のような弱い信号を測定するためには高輝度な連続スペクトルが必要とな る.そこで,兵庫県佐用郡にあるSPring-8のような大規模放射光施設では,非常に高輝度な X線である放射光を発生させて物性研究を行っている.SPring-8は世界三大放射光施設の1 つであり,20184月現在は57本のビームラインが稼働中である.

大型放射光施設では電子を高速に加速し,偏向電磁石で電子の軌道を曲げることで,その接 線方向に放射光を発生させている(2.4a) [83,84].これを応用したものがアンジュレーター

である(2.4b).アンジュレーターと呼ばれる装置は,磁石を多数並べることで電子を振動さ

せ,電子が振動する度にX線を放出させることで,強力なX線を発生させる装置である.こ れにより,偏向電磁石で作るX線よりも非常に高輝度なX線を発生させることが出来る.

図2.4: (a)偏向電磁石,(b)アンジュレーターによる放射光の発生.

2.2 放射光 29

2.2.1 X 線吸収微細構造 (XAFS)

一般的なXAFS測定は,試料の前後にイオンチャンバーを用いて入射光強度I0と透過光強 度Iを測定する.この時,透過光強度はX線吸収係数µを用いて,

I =I0eµt (2.21)

と表される.この式から,X線吸収係数を求めることが出来る.この吸収係数からXANES 域では式2.19に対応したスペクトルが,EXAFS領域では式2.9に対応したスペクトルが得ら れる.

2.2.2 分散型 XAFS(DXAFS)

CV法のような速い測定系と対応させるには時分割XAFSと呼ばれる時間変化に対応した XAFS測定が必要となる.通常,X線のエネルギーを変化させるには分光結晶を逐次停止させ て測定するが,その分光結晶を高速で動かすQuick XAFS (QXAFS)法というものがある.し かし,これには通常のXAFS測定をそのまま適用できるメリットはあるものの,分光結晶の駆 動に時間を要するため速い反応系では観測にタイムラグが生じるので不向きである.そこで,

タイムラグを発生させない手法としては波長分散型XAFS (Dispersive XAFS; DXAFS)法が 存在する[85]

通常では単色X線を試料に入射させるが,DXAFSは白色X線を利用している.DXAFS 光学配置を図2.5に示す.DXAFS法は分光結晶を用いる代わりに湾曲結晶(polychrometor) を使用する.これは,湾曲させた単結晶に白色X線を当てることで,回折したX線のBragg

図2.5: (a) Bragg型,(b) LaueDXAFSの光学配置.

30 2章 原理

角の違いから1次元検出器により連続的なスペクトルを同時かつ一瞬で得る手法である.反 射分光を使うBragg(2.5a)と透過分光を利用するLaue(2.5b)に分けられるが,

Bragg角の深い低エネルギー側ではBragg型を,Bragg角の浅い高エネルギー側ではLaue を用いる.この方法によって,CVの速い電位変化に対応するXAFSスペクトルの変化を観測 することができる.

2.2.3 蛍光検出による高エネルギー分解能 X 線吸収分光法 (HERFD-XAS)

2.20式で示した非弾性散乱の情報を得るには,弾性散乱の信号を除去する必要がある.入射 X線が水平方向に直線偏向している場合,入射X線に対して水平面内垂直方向に出てきたX 線を観測することで原理的には弾性散乱を除去できる.しかし,散乱X線を全て観測しては全 蛍光収量による通常の蛍光XAFSと変わらない.そこで,その散乱X線をさらに分光するこ とで,目的のエネルギーを持ったX線のみを抽出できる.この時分光に使用する結晶をアナラ イザーと呼び,高面指数の結晶を球面状に湾曲させて,ほぼ90Bragg角を使用すること で分解能を高めている.(2.6).そうして得られた非弾性成分は,同一円周(ローランド円) 上に配置されたピクセル検出器で測定する.同じエネルギーのX線は同じ角度で反射するた め,アナライザーで反射されたX線は円周角の定理に従って検出器の同じ位置に集光される.

このようにして,非弾性散乱成分を抽出することが出来る.

2.2.4 X 線発光分光 (XES)

XESの場合においても同じ光学系を利用することが可能であり(2.6),この場合 HERFD-XASでは入射X線のエネルギーを走査するのに対して,XESではアナライザーや検出器を動 かすことで出射X線を分光し,発光スペクトルを測定する.

図2.6: HERFD-XAS(及びXES)実験の光学配置.

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