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Ⅰ.肝炎ウイルス感染状況に関する疫学基盤研 究

(1)HBV、HCV感染のウイルス学的、感染 論的解析

1)感染症サーベイランスの現状把握、新規感染

・急性肝炎の発生状況とその感染経路(平成 28~30 年度 相崎)

急性肝炎の発生動向の全数把握は予防対策、

啓発活動に大変有効であると考えられた。さら に、定点医療機関でのサンプルの遺伝子解析を 組み合わせることでより詳細な疫学情報の把握 が可能になると期待される。

2)ベトナムの HBV 高感染地域におけるウイル ス遺伝子学的検討からみた感染経路に関す る考察(平成 28 年度 田中研究代表)

本研究では文化風習や医療水準の違う外国の 調査であって、家族調査に協力をえられたのは わずかで、4家族しか対象にできなかった。高い

HBsAg 陽性率のエリアであり、たくさん母子感

染が起こっていることが予想されたが、それに 反して、明らかな母子感染は捉えられなかった。

family内のhomologyは高く保たれており、特に 同 胞 間 で の 感 染 が 疑 わ れ た 。 ま た 、 population-basedの調査であったので、住民間と の株の比較ができ、family memberとhomology の高い住民株が得られ、同性、同年齢であるこ とから、同じ時代のコホート内での水平感染が 示唆された。

3)HCV 変異速度に関する検討 ベトナム・カンボ ジア調査から(平成 29 年度 田中研究代表)

1. カンボジアの一般住民(7歳~90歳)868 名、ベトナムの一般住民(20歳~81歳)

509名を対象に血清疫学調査を行い、HCV の感染状況を明らかにした。

2. カンボジアのHCV RNA陽性者11例中4例、

ベトナムのHCV RNA陽性者中2例のnear full genome sequence解析を行い、カンボジ アのgenotype 1b、6r、ベトナムの1b、6e と近縁関係にある既知株を明らかにした。

3. カンボジアのHCV RNA陽性である同一人 物の変異速度比較やHCV genotype 1bと genotype 6(6e、6r)間の変異速度比較は 本研究が初めての報告となった。

4. HCV genotype 1bよりもgenotype 6の方が 塩基変異速度が速く、アミノ酸変異も多か った。

4)カンボジア住民における HBV genotype C1 の高肝発がんリスクのついての遺伝子的 検討-GenBank HBV C1 340 株 full genome との比較-(平成 30 年度 田中研究 代表)

1. カンボジアのシェムリアップ州における肝炎 ウイルス調査で見いだされた HBV 持続感染 (35/626: 5.6%)のうち、full genome解析を行 った26株のHBV genotypeは、C1 24株(95.2%)、

B2 とB4は各1株であり、 HBV genotype C1 が優位であった。

2. GenBankにfull genomeとして登録されてい た340例のHBV genotype C1株について、肝 発がんと関連のある core promoter 部分の変 異をみると、340株中 double mutationを160 株(47.1%)、combo mutationを113例(33.2%) に認めた。

病態別にみると、CH の 34.2%(51/149 例)、

LC/HCC の 92.3%(20/21 例 ) に combo mutationが認められ、genotype C1でも 病態 進行で変異の割合は有意に高くなることが示 された。

3.カンボジア住民のHBV genotype C1の24名の full genome解析で、24株中18株(75.0%)に double mutation を、14 株(58.3%)に combo

mutationを認め、肝発がんリスクが高い遺伝

子変異を高頻度で持っていることがわかった。

発がんに対する対応が早急に必要なことが明 らかとなった。

5)日本における HCV 新規感染の現状 -献 血者と患者の実態-(平成 28~30 年度 佐竹)

献血者集団においては

• HCVの新規感染は年々減少している。

• 種々のHCV撲滅対策が功を奏してHCV感染者 が多く見いだされ、献血に訪れることがなく なってきたと思われる。

• 少なくとも20万人がHCV感染を認識してい ない。

• 新規感染では遺伝子型1bが少なく、2a, 2bが 多い。

6)2012-2016 年の初回供血者集団における HBs 抗原陽性率、HCV 抗体陽性率(平成 30 年度 田中, 佐竹)

1. 2012-2016年の初回供血者集団のHBs抗原陽 性率、HCV抗体陽性率を性・出生年・地域別 に検討し、以下のことが明らかになった。

2. 供血者全体では、HBs抗原陽性率0.18、HCV 抗体陽性率0.13%であり、2007-2011年(HBs 陽性0.20%、HCV抗体0.16%)よりもわずか に低い値であった。

3. 出生年別にみると、出生年が後の出生コホー トで特にHBs抗原陽性率、HCV抗体陽性率が 低く、1990年以降出生群ではHBs抗原陽性率 は0.10%以下、HCV抗体陽性率は0.06%以下 であった。

4. 地域ブロック別にみると、HBs抗原陽性率が

高いのは北海道、九州、四国などであり、HCV 抗体陽性率が高いのは北海道、九州、四国な どであった。

5. これまでの1995-2000年、2001-2006年、

2007-2011年の出生年別HBs抗原・HCV抗体 陽性率と今回の2012-2016年と比較すると、

1995-2000年以外の3期はほぼ同様の出生年 別HBs抗原・HCV抗体陽性率を示した。

6. 日本全国の人口構成を考慮して、0-90歳の日 本人集団における標準化HBV・HCVキャリア 率を推計したところ、HBVキャリア率は 0.37%(95%CI: 0.22-0.52%)、HCVキャリア率 は 0.20%(同0.11-0.29%)となった。

7)透析施設での肝炎ウイルス感染状況と検査・

治療に関する研究(平成 29~30 年度 菊地)

1. 維持透透析患者のHBs陽性率は1.3%に低下、

HCV抗体陽性率は5.2%に低下しているが、

HCV抗体陽性率は依然として高い。

2. 透析患者でのHCV新規感染率は10年間で著 しく低下していたが、一般人口と比較して高 率である。

3. HCV感染透析患者の肝臓専門医への紹介や抗

ウイルス療法の施行率は低い。

4. ガイドラインや肝炎医療制度の認知度が、ス クリーニング検査結果の説明や専門医への紹 介、抗ウイルス療法の施行、透析施設での感 染対策に関連していた。

5. 今後はガイドラインや肝炎医療制度の啓発を 行い、肝臓専門医への紹介率や抗ウイルス療 法の施行率の上昇、透析施設での感染対策の 徹底に繋げたい。

8)肝がん死亡地理分布の空間分析の試み(平成 28~30 年度 三浦)

1. 2011-15年のSMRおよびSMRベイズ推定量を 算出し、SMRベイズ推定量分布地図を作成し た。

また、「日本人死亡」と限定すれば、簡便に 入手できる厚生労働省の人口動態統計保管統 計表都道府県編(報告書非掲載表)を使用す ることも有効な手段であることが示唆された。

2. 20011-15年の肝がん二次医療圏別SMRおよ びSMRベイズ推計量を算出しSMRベイズ推 計量分布地図を作成した。

2001-05年、2006-10年、2011-15年の3期間 の肝がん二次医療圏別SMRベイズ推定量分布 地図の推移を検討した結果、この間に、SMR

の最大値の減少、最小値の増加によって地域 差が減少してきたことを確認した。

SMRの地域差要因分析には、二次医療圏別 SMRを用いることは有用な方法の一つである ことを新たに2011-15年のデータを追加して 確認した。

9)日本における肝がん死亡の地理的分布に関 する研究(平成 30 年度 田中研究代表)

最新資料 2011~2015 年の肝がんベイズ型標

準化死亡比EBSMRは2006~2010年と比べて地 域差が減少していた。

また、肝癌死亡率の高い地域は九州北部、瀬 戸内観沿岸部など西日本で高く北陸地方、東北 地方など東日本で低い傾向であった。

(2)肝炎ウイルス感染状況、キャリア数患者 数、HCV検査手順

1)岩手県における B 型肝炎ウイルス・C 型肝炎 ウイルスの感染状況について―出生年コホ ート別に見た解析―(平成 28~30 年度 小山, 高橋文)

1. 1914年~1988年に出生した受診者について、

出生年別にHBs抗原陽性率を見ると、HBs抗 原陽性率は減少を続ける中、出生年1917年

(4.56%)と、出生年1944年(2.48%) と 出生年1968年(1.84%)にピークが認められ た。

2. 1968年以降の出生群のHBs抗原陽性率は再び 低下しており、1973年以降の出生群では1%

未満にまで減少していた。

3. 1986年から実施されたB型肝炎ウイルス母子 感染防止対策事業実施前後のHBs抗原陽性率 を比較すると、岩手県において全県的にB型 肝炎ウイルス母子感染防止対策事業が実施さ

れた1986~1988年出生群は、部分的に母子

感染防止を実施した1981~1985年出生群に 比べ有意に低下していることが確認できた。

4. 二次医療圏別HBs抗原陽性率を見ると、出生 年1968年群にピークを持つHBV感染の流行 が認められた岩手中部医療圏を除く、8医療圏 において、過去の高感染地域においても、出 生年1971~1980年群のHBs抗原陽性率は1%

未満に低下していることが分かった。

5. 30%以上存在したHBs抗体陽性者も1941年 以降の出生群では自然減が認められ、1971年 以降の出生群では10%未満の陽性率になった。

6. 出生年1976年以降の出生群のHBs抗体陽性 者にはHBワクチンによるHBs抗体獲得者が 含まれており、HBV水平感染の率は減少を続 け、極めて低率であると推測された。

7.HCVキャリア率は1922年~1930年出生群に おいて1.72%であったものが、1981~1988年

出生群の0.1%まで自然減が認められた。

2)小児生活習慣病健診受診者 3,774 例を対象 とした肝炎ウイルス感染状況および、B 型肝 炎ウイルス検査測定系の比較(平成 28~29 年度 田中研究代表, 小山)

小児の HBV 感染状況を把握することを目 的として本研究を行った。今回の調査は2016 年から2年間にわたり、大規模小児検体3,774 例を対象とした、上市されている各種測定系 の標準化の評価ワーキングとなった。

HBs 抗原陽性率は、0.0~0.026%、試薬間 の一致率は99.97~100%となった。

HBsAb 陽 性 率 は 3 試 薬 に お い て 0.69~0.74%となり、最終的に試薬間の一致率 は 99.68~99.79%となった。HBcAb陽性率は 0.05%であった。また、成人とは異なる小児 特有の抗体反応がある可能性が示唆された。

3)小児生活習慣病健診受診者 3,774 例を対象 とした肝炎ウイルス感染状況及び、B 型肝炎 ウイルス検査測定系の比較(平成 30 年度 田 中研究代表, 小山)

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