• 検索結果がありません。

Ⅰ.肝炎ウイルス感染状況に関する疫学基盤研 究

(1)HBV、HCV 感染のウイルス学的、感染 論的解析

1) 感染症サーベイランスの現状把握、新規感染

・急性肝炎の発生状況とその感染経路(平成 28

~30 年度 相崎)

1. 感染症サーベイランス事業による急性肝炎の 疫学

B 型急性肝炎患者の年別発生症例数は、1999 年から2003年まで減少傾向(502症例から249 症例)であったが、その後ほぼ横ばいに転じてい る(243症例から178症例)。多くの県のB型急 性肝炎の報告数は 1999 年から減少傾向にある が、東京都では 2008 年までは低下傾向にあっ たが、その後増加に転じている。

急性A型肝炎は2018年のはじめから急激な増 加を認めた。2018年は2015~2017年に比べて、

男性の性的接触が多く、特に男性同性間性的接 触の報告数が多かった。

2. 定点医療施設における急性肝炎の観察 定点医療施設におけるC型急性肝炎は2012年 5人、2013年0人、2014年3人、2015年1人、

2016年6人、2017年1人、2018年4人(半期

)と隔年で増加傾向を認めた。塩基配列を比較 したところ、2018年の症例Nは2016年の症例 Jと高い相同性を認め、さらに2016年の症例I , Hは2014年の症例F, Gと、2014年の症例D, E は2012年の症例Cと高い相同性が見られた。

以上の結果から、

近年、B 型急性肝炎の報告数に減少傾向は 見られなかった。感染経路の検討から、B 型急 性肝炎には性的接触の対策が重要と考えられ、

東京都では B 型急性肝炎の報告数が近年増加 傾向にあり、他の性感染症と同様の啓発活動 が重要と考えられた。さらに、2018 年初頭よ り急性 A 型肝炎のアウトブレイクを認めた。

男性同性間性的接触の報告数が多かったこと から、男性同性愛者における啓発、特にワク

チン接種の推奨が重要と考えられた。定点医 療施設における急性肝炎の観察では隔年で同 じ HCV 株由来と考えられる感染が観察され たことから、繰り返す感染の機会が存在し、

啓発効果が不十分であることが考えられた。

2) ベトナムの HBV 高感染地域におけるウイル ス遺伝子学的検討からみた感染経路に関する考 察(平成 28 年度 田中研究代表)

1)family 1で母親がHBVキャリアであったが母 子感染が捉えられなかった。family 3の母親 はHBsAg陰性 HBV DNA陽性のoccult HBで あった。

2)polymerase 領域の塩基配列による系統樹解 析でgenotype はB4が91.7%(44/48)、18.3

%(4/48) と判明した。各家族で1つのクラス ターを形成していたが、違う家族(family 4) の枝に入っているF3-5 (family 3の母)を認め た。また、家族のクラスターの中に住民株が 混在していることを認めた。

3)これらの近隣株について full sequenceを行 った結果、家族のクラスターに入り込んでい る4つの住民株を認め、一番近い株をもつ家

族のmemberはその住人と同年齢、同性であ

ることが確認された。

本研究では文化風習や医療水準が日本とは異 なる国の調査であり、家族調査に協力をえられ たのはわずか、4家族しであった。HBsAg陽性 率が高いエリアであり、母子感染が高い頻度で 起こっていることが予想されたが、明らかな母 子 感 染 は 捉 え ら れ な か っ た 。family 内 の

homologyは高く保たれており、特に同胞間での

感染が疑われた。また、population-based の調 査であったので、住民間との株の比較ができ、

family memberと homologyの高い住民株が得 られ、同性、同年齢であることから、同じ時代 のコホート内での水平感染が示唆された。

3) HCV 変異速度に関する検討 ベトナム・カン ボジア調査から(平成 29 年度 田中研究代表)

(1) カンボジア868名の対象者のうち、HCV抗体 陽性率は3.9%、HCV RNA陽性率は1.3%であ

体陽性率は3.3%、HCV RNA陽性率は2.0%。

(2) カンボジア、ベトナム共にdominant genotype はgenotype 6であった。

(3) 計 20名(カンボジア:11名、ベトナム:9 名)のHCV RNA陽性者のgenotype解析をし たところ、カンボジアの 1b はベトナムの 1b と近縁であることが明らかとなった。

(4) カンボジアHCV RNA陽性者11例中、4例、

ベトナムのHCV RNA陽性者9例中2例につい てnear full genome sequence解析を行い、同

genotype の近縁既知株を検討した。結果、カ

ンボジアのgenotype 1bは日本株と近縁、ベト ナムの genotype 1b はアメリカ株と近縁であ った。また、カンボジアのgenotype 6r、ベト ナムの genotype 6a はカナダ株と近縁であっ た。

(5) HCV genotype 1bよりも genotype 6の方が塩 基変異速度は速く、アミノ酸変異数も多いこ とが明らかとなった。

4) カンボジア住民における HBV genotype C1 の高肝発がんリスクのついての遺伝子的検 討-GenBank HBV C1 340 株 full genome との比較-(平成 30 年度 田中研究代表)

1. 得られたカンボジア住民株は genotype C1 が 24株、genotype B1 は1株、genotype B2 は1 株であった。

2. カンボジア住民の genotype C1 (24 株)と GenBankに登録済みのgenotype C1 (340株)

についてNJ法で系統樹解析を行うと世界中の genotype C1株は大きく4つのクラスターに分 かれていることがわかった。

カンボジア住民株が一番多く含まれたクラス ターは、地理的分布として狭いエリアのカンボ ジア近隣諸国のみの株で構成されていた。

3. カンボジア住民株をfull genomeで仔細に見る と住民のgenotype C1 24株中double mutation は 18/24 75.0%、combo mutation は 14/24 58.3%に認められ変異は高い保有率を示した。

一方、GenBank にある既知の full genome の genotype C1 340株を詳細に見るとカンボジア 住民株と同様にpreS 欠失や、core 領域 P130

は160/340 47.1%、combo mutationは113/340

33.2%に認められその保有率はカンボジア住

民株より少ないことが明らかとなった。

GenBank 登録株の由来の病態を分類すると

ASC 75例、CH 149例、LC/HCC 21例であった

( 他 判 定 困 難 95 株 ) 。 病 態 毎 で の core promoter 変異の double mutation 保有率は、

各々ASC 15/75 20.0%、CH 73/149 49.0%, LC/HCC 21/21 100%、20/21 95.2%、combo mutation ASC5/75 6.7%、CH51/149 34.2%、 LC/HCC 20/21 95.2%であった。この3群で core promoter 変異の頻 度の比較をすると double mutation、combo mutationともに病態 が重いと変異を保有している頻度が高いこと がわかった(p<0.05)。

以上により

・ 今回の HBV 持続感染している住民の株解析 では 肝発がん関連リスクと考えられてい るcore promoter変異を多く保有しているこ とがわかった。double mutaion は 75.0%に combo mutationは58.3%に認められた。

・ これら住民は肝発がんの高リスク保持者と 考えられ、今後カンボジアでも肝発がんに対 する対策が必要と考えられた。

5) 日本における HCV 新規感染の現状 -献 血者と患者の実態-(平成 28~30 年度 佐竹)

1. 献血者での感染状況については

研究対象とした1年間に、495万人の献血があ った。男女比は7.1:2.9であった。実献血者数は 299万人、初回献血者は約36万5千人であった。

HCV RNAが陽性と判定された献血者は合計375

人、男女比は7.8:2.2で、全献血者での比と比 べるとわずかに男性に多かった。このうち初回献 血者は274人、初回献血者中のHCV陽性率は 0.075%であった。

献血の受付では、まず問診において肝炎ウイル スに感染するような機会がなかったかどうかが 尋ねられる。虚偽の回答が有りうることは別とし て、この問診を通過して血液検査でRNA陽性と わかった人たちは、いわば自分のHCV感染を知 らないグループに属する。

年代別RNA陽性率を2014年の年代別人口に かけ合わせると、HCV感染を知らないで普通の生 活をしている人口が、少なくとも献血可能年齢層 では男性16万6千人、女性4万7千人、と計算 された。

2014年の初回献血者での年代別陽性率を 2010年のそれと比較した。10年区切りのどの年 代においても2014年の陽性率は2010年のそれ より低くなっているが、10年前の陽性率から予 想される1世代(10年)あとの陽性率よりも低 い。しかしながら実際には4年しか経過していな い。

この陽性率の低下は出生コホート効果のみで 説明することは不可能で、他の要因があることを 示している。

初回献血者の陽性率を地域別に見ると、北海道

・近畿・九州・沖縄での陽性率が高いことがわか る。

先行研究班の報告において、過去から見た前方 視コホートスタディを行い、複数回献血者での新 規HCV感染率を計算した。

その結果は、男性は619万人年中46人がHCV 陽転し、女性は291万人年中20人が陽転し、と もに10万人年あたり0.7の新規HCV感染率であ った。この数値を2014年の15~69歳の日本の 全人口に乗じて、HCV感染の期待値を計算すると、

この年齢人口では1年に614人が新たにHCVに 感染するという結果が得られた。

この1年間の調査期間中にHCVについてマー カーが陽転(抗体またはNAT)した献血者は55 人であった(男性43人、女性12人)。

HCVの遺伝子型は、2bが22人(40%)、2a が19人(34.5%)、1bが12人(22%)であっ

た(表2)。遺伝子型の分布を、初回献血者、持

続陽性者(RNA陽性を告知したにもかかわらず 献血会場に来所する人)、陽転者別にみると、そ の順に1bが多く、2bが少なくなっている。

すなわち最近感染したと思われる集団ほど1b の割合が少なく、2bの割合が多くなっている。

また、これらの人々の献血時のALT値を見ると、

最も最近感染したと思われる陽転者の集団で ALT値が高く、また陽転者集団では1b感染の集 団でALT値が高いことがわかる。

2. 医療行為によるHCV感染の可能性の探索

● 陽転について

研究の手段が、医療機関での医療過誤を見つけ 出す性格を帯びているため、なかなか協力医療機 関を得ることができなかったが、平成30年に入 って、某大規模病院の全面的な協力を得ることが できた。平成30年5月より患者検体の収集を開 始し、平成31年1月21日の時点で、ベースラ イン検体1008本、退院後検体(退院後検体)482 本が収集された。このうちベースラインと退院後 検体のペアがそろっているものは399組である。

退院後検体482本のうち、462本が陰性、20 本が陽性であった。複数の退院後検体が採取され た患者が4人いたので、退院後陽性者は16人と なる。これら16人のベースライン検体を検査す ると15本が陽性で、治療開始時にすでにHCVに 感染していたことがわかった。残りの1人が入院 時陰性であった。この1例は入院後に陽転した可 能性がある。

ベースライン検体をArchitectで確認する必要 があったが、この患者に限りそれが保存されてい なかった。当該病院ではFujirebio Lumipulse Presto IIでHCV検査を行っており、0.6(陰性)

であった。中央研究所で同患者の退院後検体を、

同じ試薬を用いるLumipulse G1200で検査した ところ同様に0.5(陰性)であった。すなわち、

この患者は入院時からHCV抗体は陽性であるが 極めて低い力価であったため、感度の高い Architectとline immunoassayでは弱陽性であっ たが、Lumipulseでは陰性になったものと考えら れる。なお抗体陽性の退院後検体は高感度NAT ではすべてHCV RNAは陰性であった。総じて、

これまでの399例の検討では、事後に陽転した 事例は把握されていない。

● 入院患者のHCV感染状況について

この調査にエントリーした患者数は入院時検 体取得数と同じ1008人である。その内訳は、男 性518人(51%)、女性490人(49%)、年齢 は、60,70歳代が約4分の1ずつ、40,50歳代 が8分の1ずつであった。診療科別では、消化器 外科、整形外科、呼吸器外科、乳腺外科からのエ ントリーが多い。

退院後検体陽性者16人の年齢は40歳から86 歳まで分布し、平均年齢は72.4歳、中央値は76 歳と、15人が60歳以上の高齢であった。

また、退院後検体での HCV 抗体陽性率は 4.0

%(16/399)であったが、日本での、何らかの

関連したドキュメント