実験結果
細胞3T3-Swiss albinoを用いて磁場曝露実験を行い、細胞内のDNA損傷度を時間、
磁場強度、磁場波形のパラメータにおいて結果を比較した。その結果、多くの場合曝露 群のパラメータが非曝露群のそれを上回るもしくは同程度となった。(有意な差のある 結果はその一部であった。)。
連続波形磁場曝露結果では、強度については、すべての強度に関して有意差が見られ た。断続波形磁場曝露結果では100 μTでは有意差は見られず、500 μT、1000 μTで有意 差が見られた。断続波形では強度が比較的強い方がとDNA損傷が起こりやすい傾向がある。
時間については
24
時間以上の磁場曝露実験結果は断続波形500 μT
磁場曝露を除く と有意差が見られなかった。このことは長時間の磁場曝露はDNA
損傷を引き起こさな いことを示している。断続波形100 μT
磁場曝露を除くと15
時間、18時間曝露では比 較的有意差が見られた。このことから先行研究[8]の結果と同様にこの時間の近辺でよ くDNA
損傷が引き起こされるのではないかと考える。このことから磁場が細胞の損傷-修復プロセスに影響を与える可能性が示唆される。
また、断続波形の方が連続波形よりも損傷度が大きく、損傷度は磁場曝露時間と磁場強 度に対して線形に増加しない結果が得られた。特に曝露時間に関しては 20 時間近辺で 損傷度が大きく見られ 24 時間以上磁場曝露した実験結果に損傷度は少なかった。これ は細胞周期やそれに伴う DNA 修復活性の時間の流れを反映した結果の可能性があると 考える
検討課題
結果における問題点は、通常培養と実質的には同じ条件である非曝露群の各パラメー
また実験手順についても見直しが必要である。
実験手順の注意点について
実験手順に関しては図 66-図 83における平均値で著しく値の小さいものがある。こ れらに関してはネガティブコントロール実験のようにテイルが出ずに丸まったままの 細胞が観察されたものである。こういったサンプルに関しては特に実験手順上での失敗 が反映されている可能性が考えられる。実験手順上で気をつけなくてはいけない点は
細胞をディッシュからはがす際に細胞を潰してしまわないにする
ゲルの温度が
37℃で細胞を包埋する(ゲルが熱いと細胞の組織を壊してしまう)
溶解溶液でたんぱく質、脂質を溶解する
電気泳動の際に緩衝液の液面の高さと電気泳動が行われているか確認する 以上の点が考えられる。また、細胞内の
DNA
の量は一定であることからComet
Intensity
の平均値の有意差からデータの信憑性を確認した。この際にいくつかの実験結果は
Comet Intensity
の平均値間に有意差があり、評価の対象外となった。実験結果を効率よく得るためにはこの点に関しても改善が必要である。
均一に
DNA
を染色する ゲルの中に包む細胞の密度を高くする
顕微鏡観察時にできるだけ退色がないようにする
解析時に一定の強度になるようにする 以上の点に留意することで改善が見込まれる。
同じ条件で行った実験に関しても平均値の間に大きな差が生じている。連続波形
100μT
の18
時間曝露(図 66)、断続波形100μT
の15
時間曝露(図 69)、断続波形1000μT
の24
時間(図 71)である。この3
つ実験結果は共通して同条件で実験しているのにもかかわらず非曝露群の中で異なるパラメータが得られた。これに関して上記以 外では理由として細胞周期の不揃いが考えられる。細胞周期とは細胞の核内の
DNA
が 複製、合成を行い、その後細胞が有糸分裂を起こす一連のサイクルのことである。細胞 が細胞周期のどのステージにいるかは実験結果に影響を与えている可能性が考えられ る。また、必ずしも、先行研究[1]と同様の結果が得られなかった原因として考えられる ものは、細胞種による違いと3初代培養細胞と4株化細胞の違いが上げられる。
課題
上記のような実験の再現性の悪さは改善していかなければならない。再現性を向上さ せるには曝露群と非曝露群の
DNA
損傷の僅かな差を捕らえる必要がある。細胞内のミ3生体から直接採取した細胞
トコンドリア由来過酸化水素は細胞内の鉄や銅を触媒として
DNA
損傷を引き起こす活 性酸素の一種であるヒドロキシラジカルへ変化することがわかっている。[1][12]この反
応で触媒となる鉄イオンは生体内でフェリチンというたんぱく質に包まれている。電磁 場がそのたんぱく質や鉄イオンと何らかの形で反応することによって触媒となる鉄イ オンを導きFenton
反応が促進するのではないかと考える。この先行研究を踏まえるこ とで、細胞培養段階で鉄イオン添加培地を用い、磁場曝露実験を行うことで、磁場曝露 によるDNA
の損傷をより明確にし、生体へ与える磁場作用のメカニズム解明に繋がると 考える。DNA損傷 磁場
ミ ト コ ン ド リ ア
核
DNA鎖
細胞
Fe
2+Fe
3+フ ェ ン ト ン 反応
H
2O
2・
OH
-DNA損傷 磁場
ミ ト コ ン ド リ ア
核 核
DNA鎖
細胞
Fe
2+Fe
3+フ ェ ン ト ン 反応
H
2O
2・
OH
-図 84 Fenton反応[12]
参考文献
[1] Lai H., Singh N.P., Magnetic-field-induced DNA strand breaks in brain cells of the rat. , Environmental Health Perspectives 112(6):687, 2004
[2] Miyata H., Ishizawa K., Ishido M., Sugawara K., Murase M, Hondo T., The effect of a 50-Hz sinusoidal magnetic field on nitric oxide(NO) production by human umbilical vein endothelial cells(HUVECs), J Phys: Conf Ser 344 012006, 2012
[3] Patruno, Amerio P., Pesce M., Vianale G., Di Luzio S., Tulli A., Franceschelli S., Grilli A., Muraro R., Reale M., Extremely low frequency electromagnetic fields modulate expression of inducible nitric oxide synthase,endothelial nitric oxide synthase and cyclooxygenase-2 in the human keratinocyte cell line HaCat: potential therapeutic effects in wound healing, British Journal of Dermatology 162:258-266, 2010
[4] Guozheng C., Yuanyun Z., Keming C., Jian Z., Guiqiu H., Ruiqing Z., Leiguo M., Peng S., Jiaqi W., Sinusoidal electromagnetic field stimulates rat osteoblast differentiation and maturation via activation of NO-cGMP-PKG pathway, Nitric Oxide 25(3):316-325, 2011 [5] Risk Evaluation of Potential Environmental Hazards From Low Frequency
Electromagnetic Field Exposure Using Sensitive in vitro Methods, 2004
[6] Ivancsits S., Diem E., Pilger A., Rudiger H.W., Jahn O.Induction of DNA strand breaks by intermittent exposure to extremely-low-frequency electromagnetic fields in human diploid fibroblasts, Mutation Research-Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis 519(1):1-13, 2002
[7] Anderson D., Yu T.W., Phillips B.J., Schmezer P., The effect of various antioxidants and other modifying agents on oxygen-radical-generated DNA damage in human lymphocytes in the COMET assay, Arbeitsmed. Sozialmed. Umweltmed.34:437–441, 1994
[8] Ivancsits S., Pilger A., Diem E., Jahn, O., Rudiger H.W., Cell type-specific genotoxic effects of intermittent extremely low-frequency electromagnetic fields, Mutation Research/Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis 583(2):184-188, 2005 [9] Singh N.P., Tice R.R., Stephens R.E., Schneider E.L., A microgel electrophoresis
technique for the direct quantitation of DNA damage and repair in individual fibroblasts cultured on microscope slides, Mutat. Res. 252:289–296, 1991