3)アンテナを利用したマイクロ波放電型プラズマ源に関する解析
ここでは,小型マイクロ波放電型イオンスラスタやマルチモノポールアンテナシステム を利用した イオンスラスタ の設計指針を得る目的で,アンテナを用いたマイクロ波放電型プラズマ源の解析を行 った.
はじめに,ECRの条件を満たす一様磁場中のモノポールアンテナの解析を行い,電子のエネルギー はアンテナの近傍でのみ上昇し,アンテナと磁場の向きが平行である場合の方がその上昇が大きいと いう結果を得た.アンテナに与える電場を大きくする事によって,離れた距離にあるECR領域でも電 子のエネルギーが上昇する事が確認されたが,アンテナをECR領域に接近させスキンデプスの効果を 利用する方が高密度プラズマの生成には有効であると考えられる.磁場強度 を変化させた結果からは
2nd ECRの効果も確認でき,この効果はより小型のプラズマ源への応用が可能と考えられる.永久磁
石での解析では,アンテナが磁場に対して平行に挿入されているCase 1と,磁場に対して垂直に挿入 されているCase 2について計算した.電子エネルギーの上昇,EEDF,電離衝突 からプラズマ生成メカ ニズムの比較を行った.電子エネルギーの空間分布とEEDFからCase 1の方がキセノンの電離電圧を 超えるエネルギーをもった電子が多く存在していることが分かった.電離衝突発生数もCase 1の方が 多い.これらの結果はアンテナを用いたイオンスラスタの設計の際の指針を与える.
また,今後の課題としては以下の4項目が考えられる.
1)アンテナを用いたマイクロ波放電型プラズマ源のプラズマ密度の把握
マイクロ波放電型イオンスラスタでは要求される推力(MUSES-C計画では8 mN)からマイクロ 波の周波数が決定される.この理由は,ECR放電ではプラズマ密度がマイクロ波の周波数によって 決定される事に起因している.MUSES -C計画ではマイクロ波周波数4.25 GHzを採用する事で推力8 mNが達成されている.4.25 GHzのマイクロ 波電源の効率は第5章で述べたように約60 %程度であ り,システム全体の効率向上を考えた場合は改善すべき 点である.アンテナを用いたイオンスラス タではスキンデプス の効果により,カットオフを超えるプラズマ密度を得る事が可能であり,必要 な推力を得るために要求される プラズマ密度は,より低いマイクロ波の周波数でも得られる事にな る.この点を利用し,マイクロ波電源の効率の良い周波数帯でプラズマ 生成を行えば,マイクロ波 放電型 イオンエンジンの飛躍的 な推進効率の向上が望める.今後はアンテナを用いたマイクロ波放 電型プラズマ源の放電室形状やアンテナ位置によってプラズマ密度がどの程度まで大きくできるか を解析する必要がある.
2)カップリングコード のFull-PICでの計算
本研究 の目的は電子とマイクロ波の相互作用に重点を置いた解析にあった.対象となるプラズマ 源全領域での計算を行う目的から,PIC法でメッシュサイズはデバイ長程度に設定するという条件を 課さなかった.この条件を課さない事により, 法にはイオンを含めず,静電場を考慮しないこと
とした .この問題点 として,金属壁 でのシースを模擬する境界条件を必要とする 事と定常状態に至 る計算が不可能 である事が挙げられる.1)で述べたような プラズマ密度の上限を決定するような 計算では定常状態に達する必要があり,定常状態に至るには イオンの運動によって生ずる電荷分離 を考慮する必要がある.本研究 で開発したカップリングコードではイオンを考慮する事も可能であ る. Full-PICで計算を行う場合には,計算を可能とする計算体系の選択と大容量のメモリを使用す る為に計算の並列化が必要である.
3)様々なアンテナ形状での解析
アンテナは,その形状により指向性 や励起可能なモード が異なり,その事がアンテナを利用した プラズマ源においてはプラズマの生成に大きな影響を与える.本論文で紹介した小型マイクロ波放 電型イオンスラスタ ではスター やディスク,一方マルチモノポールアンテナシステム ではループア ンテナ が採用されている.今後は,これらの形状のアンテナに対しても 計算を行い,実験と比較を 行う事で最適なアンテナ形状についての指針が得られるものと考えられる.
4)アンテナでの電子の再結合による損失の評価
FDTD 法ではアンテナに平行な電場成分をゼロにすることにより(すなわち金属として)アンテ ナをモデル化し,一方 PIC 法においてはアンテナの存在は考慮されていない.本計算の結果からは アンテナをECR領域に接近させる事が重要であると述べた.従って,電子のアンテナ表面での再結 合による損失を評価する事も重要であると考えられる.今後,PIC法においてもアンテナを金属とし て取り扱う(すなわち表面での電子再結合を考慮する)モデルの導入が必要となる.