均12, 24,,72時間雨量は500~550hPaの気圧面における12~24時間最大水蒸気フラックスとの相 関が高いことを明らかにした.また,小流域である烏・神流川流域,吾妻川流域,および奥利根 流域においても水蒸気フラックスと雨量の相関は高く,水蒸気フラックスは降雨継続時間毎,お よび地域毎の最大雨量を推定することのできる有効な指標であることがわかった.
第5章「可能最大降水量(PMP)と時空間分布の推定」では,降雨量と相関の高い気圧面の水蒸気フ ラックスと前橋気象官署における地上観測値との関係から過去最大水蒸気フラックスを算定した.
過去最大水蒸気フラックスから推定される八斗島流域平均最大雨量は72時間雨量について341mm となり,カスリン台風時の雨量を越える規模となった.また,12時間雨量,および24時間雨量に ついては,それぞれ225mm,273mmとなっており相対湿度を変化させた気象モデルWRF計算結果 の最大降雨量程度となっている.また,降雨継続時間が短いほど実績最大降雨量に対する最大降 雨量の比率が大きくなっていることが分かった.降雨の時空間分布の設定に関しては,降雨量と 最も相関の高い水蒸気フラックスの気圧面と継続時間に対して降雨継続時間毎の雨量に不整合が 生じないよう,PMPとその時空間分布を設定する手法を提案した.12, 24, 72時間PMPは烏・神流 川流域,吾妻川流域,奥利根流域の順に大きくなっており実績最大雨量と同様な傾向を示してい る.一方,実績降雨に対する増加率は吾妻川流域および奥利根川流域が烏・神流川流域に対して 大きくなる結果となった.
次に,気候変動を考慮したPMPの推定として気候変動予測値を用いた検討を行った気候変動予 測値は2014年6月に公開された「環境省 気候変動モデル予測データ」のRCP8.5シナリオの出力 値から最大水蒸気フラックスを算定した.RCP8.5において出力されている積雲対流スキーム3ケ ース,海面水温 3ケースの違いによる9ケースの将来ケースから最大水蒸気フラックスの算定を 行った.その結果,水蒸気フラックスは,Kain-Fritsch スキーム(KF スキーム)における海面水温 SST3 との組合せのケース(HFA_kf_rcp85_c3)において最大となり,八斗島上流域平均 12,24,お よび72時間雨量はそれぞれ274mm,366mm,および496mmとなった.
第6章「可能最大洪水(PMF)の推定」では,利根川水系河川整備基本方針において流量算定に用い られている貯留関数法による流出計算モデルを用いて,PMPおよびその時空間分布を与えた流出 計算結果から,河川計画における直接の外力である可能最大洪水(PMF)を評価する手法を明らか にした.現況 条 件 で は, 八 斗 島 地点 に お け るPMFは 約26,000m3/sと な り , 利 根川 河 川 整 備 基本方針における基本高水のピーク流量である22,000m3/s以上の流量とった.次に,気候 変 動 を 考 慮 し たPMFは 約36,000m3/sと 現 況 の 可 能 最 大 洪 水 よ り 約10,000m3/s程 度 大 き くな った.さらに, 降 雨 継 続時間 毎 と 流域毎 のPMPか ら 考 え られる 時 空 間分布 を 複 数設 定 し た流出計算結果からPMFの設定を行う重要性を示した.
7.2 今後の課題
PMPの精度を向上と,河川計画における手法の適用性を高めるための今後の課題を以下に 示す.
(1) 降雨と指標の関係式の精度向上
本研究におけるPMPの推定は,近年の6豪雨を対象として気象モデルを用い,水蒸気フラ ックスと降雨量の関係式を作成し最大水蒸気フラックスを与えることにより行った.しかし ながら,解析対象とした豪雨の実績値がデータの所在状況から選定しているため,降雨規模 がさらに大きくなる範囲の指標と降雨の関係を把握する必要がある.本研究において推定し た現況PMPは過去最大値からの推定値が概ねWRF計算結果の最大値程度となっていたが,
気候変動を考慮した最大水蒸気フラックスは WRF 計算結果の外挿範囲に位置している.こ のため,出力値の降雨規模ができるだけ大きいJRA-55再解析データ,および気候変動予測値 を対象とした気象モデルの作成を行い,指標と降雨の関係式の改良を行うことによりPMP推 定精度の向上を図る必要がある.
(2) 台風経路の変化を考慮した PMP の検討
本研究では,実際に発生した台風経路における気象条件を変化させた降雨の最大化の検討 を行った.台風経路に関しては,実績データに関しても気候変動予測データの出力に関して も限られた期間の出力によるものであり,対象流域においてもっとも危険な経路となってい ない可能性がある.したがって,台風経路を変化させ流域で最大クラスの降雨量となる経路 を設定し,その経路において気象モデルを用いて相対湿度を変化させ水蒸気フラックスと降 雨量の関係式を作成することにより,PMP推定精度の向上を図る必要がある.
(3) 気象条件,地形条件などの異なる流域での適用性の検討
本研究では利根川流域を対象として検討行い一定の成果が得られたが,今後,日本全国の 河川流域への適用を考えると,条件の異なる流域において検討を行い,広く適用できる手法 とする必要がある.流域の位置,地形特性,主要な降雨成因等が異なる流域を対象として,
PMP および PMF の推定について検討を行うことにより,条件の違いによる推定精度の体系 的な評価を行い,全国の河川流域においても適用性の高い手法を検討する必要がある.
近年の甚大な洪水被害の発生や今後の気候変動の影響や踏まえ「想定最大外力」を設定して 被害軽減対策の検討を行う重要性が高くなっている.想定最大外力の 1 つの指標として可能
ては気象モデル WRF を用いて関係式の把握を行った.次に,可能最大降水量(PMP)の推定には 各流域が過去に蒙った事象,および将来発生が予測される長期データを踏まえて行うことが 必要であると考え,過去のデータに関しては過去に 100 年間以上遡った長期データを用いて 設定した.将来の予測値に関しては 21 世紀末においてもっとも影響が大きいとされている排 出シナリオを用いて推定を行った.さらにこれらの方法により推定した PMP を用いて河川計 画における直接の外力である流量として可能最大洪水(PMF)の推定を行った.
以上の成果により,日本の河川流域の特徴に応じた「想定最大外力」の設定を行うことがで き超過洪水対策,気候変動適応策に寄与することができたと考えている.
今後,上記の課題を踏まえた推定精度向上を行うことにより,本研究において得られた成 果が日本の河川計画,超過洪水対策,および,気候変動に対する適応策検討に取り入れられ,
甚大な被害の軽減に役立つことを祈念します.