• 検索結果がありません。

本論文では、大気中における落雷現象、特に放電路の光強度に関する研究を扱った。

近年では、情報化社会の発展や、自然エネルギーの発電設備に対する安全対策として、

避雷に関する技術の進歩が強く求められている。しかし第一章で述べたとおり、広範囲に わたる大気の状態を計測することは通常困難であり、大気電気科学の進歩は計測技術の進 歩と並列している側面がある。そのため、落雷現象にはいまだ明確な理解に至っていない 現象が数多く残っている。本研究では、これらの研究成果を落雷現象の解明や、大気の観 測技術の進歩に貢献することを目的としている。

当研究室では、2004 年度より毎年冬に、石川県内灘町の風力発電設備において、冬季の 落雷観測を行っている。フィールドミルや電界アンテナによる電界観測、ロゴスキーコイ ルによる電流波形の直接計測等、多くの観測を成功させているが、2010 年度からは、

40000F/s の高速度カメラによる光学観測も行っている。以下に述べる研究では、主にこれ らのデータを用いた放電路における光強度に関する研究を行った。

第二章では、正極性リーダーの放電路の近辺で起こる瞬間再放電の性質に関する研究を 行った。

正極性リーダーが進展する際には、その近辺に形を成す特徴的な放電が一瞬だけ発生す る現象が確認されているが、それらの詳しい性質・発生原理は未だ分かっていない部分が 多い。この現象は、正極性落雷の進展方向に対して負リーダーが反射するように進展する 様子から、Recoil Leader(RL)と名付けられ、各方面で研究が進んでいる。

従来の雷観測においては、DTOA や Interferometric techniques といった雷観測システム が広く利用されているが、これらは負リーダーが発する VHF-UHF 帯を利用しているため、

正リーダーの放電を感知することはできない。そこで RL の負リーダーが検知できるように なれば、従来の雷観測システムによって正リーダーの放電を感知できるようになる、と期 待されている。

当研究室においても高速度カメラにより、全部で 15 例の落雷に伴う 273 例の瞬間再放電 を記録することに成功した。また、15 例の落雷のうち、3 例の落雷においては、電流・電 界の同時記録に成功している。

二次元観測ではあるが今回記録された映像より、瞬間再放電は I 型,V 型,S 型,Y 型,・型 の 5 種類の形に発生する傾向があることが分かった。一番発生率が高いのは I 型が 6 割ほ どであるが、従来の RL に関する研究ではこれらはすべてまとめて RL として扱われてきた。

本研究では、V 型や Y 型の RL は、従来考えられてきた I 型の発生原理では説明がし難いと 考え、これらの発光現象を Brief but Bright discharge(BB)と総称して、従来の RL との 性質の比較・議論を行った。従来考えられてきた RL の発生原理は、大まかに述べると以下

63

の①~④のシークエンスを経ていると考えられている。

①進展する落雷の正極性リーダーが枝分かれした電離路をつくる。

②その電離路で空中の電荷が正負両極性に分かれて進展する。

③両極性のうちの負のリーダーが正極性の放電路に近付く。

④電離路の端まで到達したらリターンストロークのように放電路を戻り、強く光る。

今回の観測では、上向き落雷と下向き落雷の両方で、BB を記録することに成功した。発 生した BB の画像を重ね合わせると、BB の発生位置は上向き・下向きともに、放電路の枝分 かれと酷似した位置に発生していることが確かめられた。また、発生順も落雷のリーダー の進展に沿っていることが分かった。リーダーの進展速度に関しても、通常の落雷のダー トステップトリーダーと近い値をしていることが確かめられた。

しかし BB の発生が枝分かれした電離路の位置と強さのみに依存すると仮定した場合、V 型・Y 型の発生率が I 型よりも大幅に少ない点や、Y 型のうち2辺がほとんど進展しないこ との説明ができない。また RL の進展方向に関しても不明瞭である。従来の原理のように正 極性リーダーに近付く負のリーダーだけが大きく進展する例と、正と負の両方のリーダー が同程度に大きく進展する例の両方が今回記録された。

RL の言葉の意味から言っても、V 型は当初の正リーダーの進行方向に対して Recoil はし ておらず別の進路を進んでいるため、Recoil Leader という単語でくくるべき現象ではない と考える。本研究においては、RL とは別に残っている空中電荷がつくる横方向の電界によ り、通常の I 型の RL が引っ張られて V 字型をなす、という仮説を立てた。

また、本研究では RL の映像だけでなく、RL を発生させた落雷の電流波形・電界波形の直 接測定に成功した。電離路の配置によっては、発生した BB は正リーダーに接続し、落雷電 流に加算されることが、今回初めて記録された。また電界波形については、RL の規模に関 わらず地上電界に現れるケースと現れないケースがあり、さらに正と負のどちらの変化も 取り得ることが分かった。以上の結果から、RL の電流・電界変化の規模を推測することが でき、BB は RL の変形で向きが変化したものである、という仮説を裏付けることができた。

第三章では、高度ごとに分かれる後続落雷の性質に関する研究を行った。

通常の落雷で、一度の落雷で雷雲内の電荷が中和しきれなかった場合、最初の落雷と 同じ放電路を通って多重落雷が起きる。そのため、多重落雷では中和電化量は少ないが、

進展速度は最初の落雷と比べて 10 倍程度速い。

冬季の落雷では多重落雷が発生する割合が低いが、本研究においては、多重雷をふくむ 落雷の例を複数記録した。そのなかで一例だけ、元の放電路とは違う位置で起こったダー トリーダーを含む後続雷を記録することに成功した。

この落雷は、高速度カメラの映像により、最初に形成された放電路の中間地点に新たな 後続落雷の放電路が接続されていたことが判明した。この落雷(タイプ A)の電流・電界の

64

変化を解析したところ、通常の冬季後続来とは異なる特徴をいくつか発見することができ た。この章ではこれらのデータを用いて、冬季後続来の性質・原理を議論することを目的 としている。

今回記録された電流波形には、高速度カメラの映像に対応する 10 個のパルスが記録され た。これらのパルスの持続時間・ピーク値・立ち上がり時間・立下り時間の統計を取り、

通常の同じ放電路上で起こる後続落雷(タイプ B)のデータ、夏季の後続落雷のデータの一 般値との比較を行った。その結果、タイプ A の後続落雷は、ピーク電流値を除いてタイプ B の後続落雷の方が 3~5 倍ほど大きいことが分かった。

また、後続落雷時に新たな放電路が作られる際に、高速度カメラでリーダー進展の様子 を記録することに成功した。通常のステップトリーダーと同じく、最初の後続落雷におい てはリーダーの進展速度が 10 倍程度速いことが確かめられた。

タイプ A の後続落雷は、最初に形成された放電路の 3 か所の高度地点に接続していた。

その接続高度と持続時間・ピーク値・中和電化量・立下り時間の散布図をとった結果タイ プ A においては、接続した高度とパルス持続時間・中和電化量が反比例する傾向があるこ とがわかった。逆に持続時間やピーク値は関係性が見いだせず、雷科学の現在の理解から では説明がしづらい現象が起こっていることが明らかになった。

以上の結果より、今回のような主要放電路と異なる経路での後続落雷でも、通常のステ ップトリーダーによる放電路の形成と同じような現象が、多重雷においても起きうること が確かめられた。しかし、それに対して接続高度が高いほど後続落雷が短く・弱くなる傾 向にあることが分かったが、後続落雷の順番はバラバラであり、これ以外の理由が存在し ていると考えらえる。

第四章では、高高度発光現象の発生原理に関する研究を行った。

第一章で述べたように、落雷に関する現象のうち、まだ完全に原理が判明していない もののひとつとして、高高度発光現象がある。高高度発光現象(以下、スプライトと総称 する)はプラズマ科学の研究分野にかかわってくるだけでなく、航空機や宇宙船の電磁波 障害の要因の一つだとも考えられている。

そのため近年研究が進んでいるが、スプライトは落雷ごとの発生率が低く、光強度も高 くないため観測が困難である。スプライトは雷雲の 60km~の航空に発生するため、地上か ら高額観測をする場合は、数十 km 以上は離れた地点で観測する必要がある。そのため、ス プライトを発生させる落雷の直接電流や近傍電界については、スプライトの映像と同期し たデータが貴重であり、特に電流波形については本論文以外の報告例が現在のところ存在 していない。

当研究室の雷観測においては、2009 年度の観測で、スプライトを発生させた落雷の電流 波形の直接測定に成功したほか、2010 年度にはスプライトが発生した電界波形5例と、ス

ドキュメント内 冬季上向き雷で観測される放電現象 (ページ 63-69)

関連したドキュメント