本研究では、 損傷の著しい道路橋RC床版を対象に、 従来工法に比べ経済性・施工性に優れ た鋼床版による架け替え工法を提案し、その実用化を図るべくできる限り実大に近い模型体を 用いた種々の試験研究を実施するとともに、 実橋梁へ適用し施工性および構造特性に関して検 討を加えた。
損傷したRC床版の架け替えあるいは床版架け替えを伴う主構造の補強工事の場合、 新設床
版のようにできる限りの軽量化を図る必要はなく、 目的に応じて適度な軽量化を図ればよいと 考えられる。 さらに、 床版損傷の著しい橋梁における交通量を考慮すると、 道路交通を完全に 遮断して床版架け替えを行うことは困難であり、 一部車両を通行させながら施工可能な工法が 望ましい。 本論文で提案した床版架け替え工法はこうした観点から考案したものであり、 縦リ ブ主体のBattledeck Floor Typeの鋼床版を用い、増設する支持横桁と主桁とにより構成する床組 でこれを支持するものである。
本研究では本工法を実用化するため、 3. 4で述べたように、以下に示す項目を研究課題とし た。
① 既存主桁と鋼床版との現場連結方法
② 増設支持横桁の基本構造形式と既存主桁との連結方法
① 鋼床版縦リプと 増設支持横桁との連結方法
④ 施工中および完成後の全体構造としての問題点の有無
⑤ 本工法の施工性
これらの課題に対して本研究で得られた結論を以下に要約する。
①については、 まず、 いくつかの連結方法について押し抜きせん断試験により、 せん断耐力 および、せん断パネ定数を調査した。 実験結果をもとに施工性の観点からも検討を加え、 本工法 で用いる標準的なディテールとしてずれ止め(今回の実験ではスタッド)による連結と高力ボル トによる連結とを併用した連結法を選定した。次に、 選定した主桁・鋼床版関連結部ディテー ルを有する桁模型を用いた曲げ疲労試験を実施し、 モルタル充填前後何れの状態においても、
本連結法が十分な耐久性を有することを確認した。
⑦、 ③については、 支持横桁の構造形式として曲げモーメント伝達型と端対傾構型を取り上 げ、 主桁3本を有する橋梁を横桁をはさみ50cm幅で輪切りにしたような試験体を用いて静的 載荷試験および疲労試験を実施した。その結果、 本工法における支持横桁の形式として、 曲げ モーメント伝達型、 端対傾構型とも適用可能であることが明らかとなったが、 主として施工性
の観点から曲げモーメント伝達型を標準とすることとした。 また、 本実験で鋼床版縦リプと横 桁上フランジとの連結部に設置した緩衝用のゴムパット(30 mm厚)は、 輪荷重により大きく変 形し簡易補剛リプに過大な曲げ応力が発生する原因となるため、 構造的な観点からは設置しな いほうが良く、 騒音問題に配慮する必要から設置するとしても、 できる限り薄いものを用いる ことが望ましいことが分かつた。
④、 ⑤については、 標準的な構造詳細を有する大型プレートガーダ一橋模型を用い、想定さ れる施工手順に基づく補修実験を行った後、 架け替え後の模型体を用いた静的載荷試験および 繰り返し載荷試験を実施し、 床版架け替え後の橋梁の全体構造としての力学的特性および耐久 性を、 完成系において調査した。また、床版架け替え途中の各段階における構造系を模擬した 別の試験体を用いた静的載荷試験を実施することにより、 床版架け替え時の橋梁の全体挙動や 応力状態などの挙動特性を実験的に調査した。その結果、 増設部材連結部のボルト配置などの 細部において若干の改良を必要とするものの、 全体的な施工手順については問題なく、 急速施 工が可能であること、 架設系・完成系ともに全体構造として問題となるような点はないことな どが検証できた。さらに、 床版架け替え途中および完成後の橋梁の全体挙動について、 プレー トガーダーをひずみエネルギ一等価の手法によりトラスに置換する方法を用いたー解析手法を 提案し、 架設途中の挙動を調査した試験体に適用したO 解析結果は、 変位 ・応力ともに実用上 問題ない精度で実験値と一致し、 本解析法が今回対象としたようなRC床版架け替え時の桁橋 の挙動調査に適用可能であることが確認できた。
以上の検討により、 本プレファプ鋼床版工法の基本部材構成や主桁と鋼床版との一体化の方 法、 補修後の耐久性の確認、など構造的な問題に関する技術的な検討をほぼ終えたことから、 実 橋梁への適用を試みた。そこでは、 本工法の施工性に関する最終的な検証と実橋における力学 特性の確認を行った。
本研究では当初設定した研究課題に関する上述の結論以外にも、 本工法に関連するいくつか の重要な知見が得られており、それらのうち主なものを以下に列挙する。
① 本形式鋼床版の版としての応力は、主桁直上に載荷した場合の載荷点直下にきわめて 局部的に比較的高くなる以外、小さな値である。デッキプレートに発生する高い局部応 力は、 一般的な直交異方性版タイプの鋼床版にも同様に発生するものであり、 増設横桁 で支持された本形式鋼床版は従来タイプの鋼床版と類似の挙動を示すと言える。
② 鋼床版添接部直上栽荷H寺の添接板応力を片面添接と両面添接とで比較すると、その比 率は添接部全板厚(デッキプレート厚+添接板厚)の剛性の比から推定される値より大 きく、片面添接の場合の板厚中央面の偏心に起因する付加曲げの影響が無視できないこ
とが分かった。しかし、添接板応力の絶対値としては、片面添接の場合でも問題となる ような値ではなく、 静的な発生応力の観点からは添接板厚をデッキプレート厚の1.5倍 以上にすることにより、 両面添接と同等の挙動を期待することができる。
③ 鋼床版の設計において、 デッキプレートの有効幅を考慮した縦リプをl本の梁と考え、
横桁位置で弾性支持された連続梁と考え解析する方法はかなり安全側の結果を与え、安 全率で2程度となる。支持横桁についても、 主桁位置を支点とする連続梁として床版作 用による応力を求める方法は、 安全側の簡易解析法としてほぼ妥当なものである。
④ 主桁の設計に従来から用いられている格子解析は、 一部床版のない施工中の橋梁に対 しでも適用可能である。
① 本工法を適用して床版架け替えを実施することにより、疲労損傷事例の報告が多い対 傾構取付部の応力が大幅に改善されること、合成桁としての断面剛性が増加したわみが 減少すること、および主桁聞の荷重分配機能が向上することなどの主構造の補強効果も 期待できる。
こうした一連の研究成果から、 本工法の実用性・有利性が実証されたと考える。従来工法と 比較した場合、 本工法は以下のようなメリットを有すると考えられる。
① 床組を先行作業で構築しておけば床版本体はかなり自由に分割でき、分割施工に対す る適用性が高い。
⑦ 構造がシンプルで従来構造より溶接線も短いため、 製造コストが削減され製作精度も 確保し易いのに加え、疲労強度上問題となる可能性のある位置も少なくなり、 床版本体 の耐久性向上が期待できる。
③ デッキプレートの板厚を、現在新設鋼床版で一般に用いられている12mmではなく、
標準的に16mmとしたため、デッキプレート自体の変形が小さく舗装の耐久性が向上す ることも期待できる。
④ 鋼床版縦リプと既存主桁とを高力ボルトとずれ止めを併用して連結する方法を採用 しているため、車両の通行制限時間を短縮することが可能となるとともに、上フランジ 面全体にわたって既存ジベルを撤去した後グラインダーなどにより仕上げる必要がな くなるなど施工性が良い。
最近の車両交通量の増加や通行車両の大型化は、 床版の損傷を進行させるばかりでなく、 橋 梁の機能不足の原因ともなっており、 今後損傷した床版の架け替えに加え、 既存橋梁の耐荷力 向上や拡幅など改築の必要性も増してくるものと思われる。 本論文で提案した鋼床版による床 版架け替え工法は、 このような改築に対しても高い自由度を有するものと考える。
第6章で述べたように、 本研究の成果をもとにして、 本工法は既にいくつかの実橋梁の床版 架け替えに適用されている。 しかし、 本工法の更なる改良および現場における施工管理などの 観点から検討すべき課題として、 以下に示すような項目も残されている。 これらについては、
木研究の今後の課題としたい。
① 高力ボルトとずれ止めを併用した既存主桁と鋼床版との連結方法における両者の水 平せん断力の分担率の解明
② その結果を反映した当該連結部の合理的な設計法の確立
③ 既設床版撤去時の主桁キャンパーの戻り量の推定法