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第 1 節 論文の到達点

本論文では、今日の自由貿易の制度的障壁に関して、その一つの焦点となっている食品 の安全確保のための規制の影響に関して、日本のポジティブリスト制度ヘの移行が日中農 産品貿易に及ぼした効果を検証するという方法で分析を行った。検証に当たっては、ポジ ティブリスト制度の効果の性質をより明確するために、伝統的な貿易制限手段である暫定 セーフガード発動、および食の安全にかかわる事件(2002 年中国産冷凍ほうれん草残留農 薬問題と 2008 年中国産冷凍餃子の「毒餃子事件」)の効果との比較というブローチをとっ た。そのために、それら他の貿易障壁等の効果と比較検証することが可能な、生しいた け、冷凍ほうれん草とねぎを例として取り上げた。

実証研究の結果の考察は以下のようにまとめることができる。

① ねぎ、しいたけに対して発動されたセーフガードは、ねぎだけに影響を与えているこ とがわかった。この差をもたらした要因としては、品目の特性(発動期間と輸入需要の 季節変動の関係や、輸入時期をずらし制限を回避することの容易さのちがい)、輸入量 の違いなどをあげることができる。ただし、両品目において発動時において価格上昇 が発生している。

セーフガードの発動期間中の効果だけでなくその後の貿易の展開への効果をより厳 密に評価する上では次のような課題として残されている。輸入量の推移だけを見ると セーフガード発動を境に、しいたけ輸入は減少に転じ、逆にねぎの減少は当該年度に とどまりその後数年拡大をしている。また価格面を見ると、しいたけでは暫定セーフ ガード撤廃後輸入価格は低下しているが、ねぎでは価格が高い状態で維持されてい た。このことはまた、豊不作の変動が大きいねぎと、相対的に安定しているしいたけ という差異も考慮に入れれば、より慎重な検討が必要となる。

② 三品目のケースの分析により、食の安全かかわる問題が貿易に影響を与えていること が明確に示された。三つの品目の実証分析は、ポジティブリスト制度の施行など新し い安全基準の施行が非伝統的貿易障壁として貿易に重要な影響を与えていることを証 明した。本論文の一つの重要な貢献は、これがプラスの効果を持つケースがあること を明確に示した点にある。先行研究においては、先進諸国による食品の安全基準の厳 格化はマイナスの効果を持ちうる可能性を中心に検証が蓄積されてきたが、より厳し くなる検疫検査制度の施行は、必ずしもマイナスの影響をもたらさないのである。し

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かも、本研究で示したようにその結果の差異は、この問題を単に国単位の問題として 検討するだけでは不十分であり、品目の性質の差異を踏まえた今後の研究の展開の必 要性を提示した。さらには、同一品目においての生産者間の条件の差異にまで、つま りミクロレベルでの検証が必要な課題であることを示している。

③ 2008 年中国産冷凍餃子の「毒餃子事件」は残留農薬問題とは言えない。それは単純な 事件と考えられる。こういう偶然で発生する事件は全ての貿易品目に影響を与えるわ けがなく、個別の関係がある品目に影響を与える。本論文の実証品目の中で、生しい たけだけがその影響を受けた。この事件の発生は中国食品・農産品の生産・流通での 安全確保対策が不足していることを示唆した。

以上の実証分析の結果を踏まえ、本論文は日本と中国の食品安全確保システムを比較 し、ポジティブリスト制度の施行に対する日本と中国の対応を分析した。本論文の分析に よると、日本国内は適切にポジティブリストの施行に対応した。一方、中国はポジティブ リストの施行に対して、依然として日本の高レベルの安全基準を満たさないところが多 い。食品安全確保に関するシステムおよび技術面での日本と中国の間の差を確認した。

続いて、政府レベルの対応を分析した上で、本論文は企業レベルの対応も検討した。筆 者はしいたけの輸入実態及び企業レベルのリスク対応について、一層具体的に把握するた めに、日本におけるしいたけ輸入会社 2 社をインタビューした。この 2 社のインタビュー の内容によると、以下の内容が分かった。①サンプルと現物の質の違いと異物混入及び残 留農薬問題が依然として存在している。中国の農家がドリフト防止に適切な対策を打ち出 さないため、しいたけの残留農薬問題はポジティブリスト制度が施行した後、よく発生し た。②日本側の企業は残留農薬問題とポジティブリスト制度の施行に対応するために、ま ず、輸入前の段階で中国企業に農薬検査実施をするよう依頼している。そして、「買取」

の輸入方式から「契約栽培」へ転換する。「契約栽培」を通じ、生産・集荷などの一括管 理を実現することと農薬の使用の管理およびドリフト防止も効率的に管理することができ る。③2008 年中国産冷凍餃子の「毒餃子事件」がしいたけの輸入に影響を及ぼしたことは 実証だけではなく、インタビューでも証明した。

第 1 章で本論文の目的について次のように述べた。「本論文は、先行研究を踏まえ、貿 易が展開されている具体的な品目を取り上げ、非伝統関税障壁が日中間農産品貿易への影 響を実証で検証するという方法で課題に接近する。具体的に、生しいたけ、ねぎと冷凍ほ うれん草を選び、実証で非伝統貿易障壁の影響を検証する。これらの三品目の実証研究を

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通じ、非伝統的貿易障壁の影響を検証し、その結果を基に自由貿易と食品の安全基準の関 係、それがもたらすリスク問題について考察することを本論文の目的とする。」第 2、3、

4、5 章の説明と分析を通じ、本論文のその目的は達成されたと考える。

第 2 節 結論

以上のように、本論文では、貿易自由化における制度的リスクを確認し、非伝統的貿易 障壁の重要性を明らかにした。これから自由貿易協定を推進する際に、非伝統的貿易障壁 の撤廃が重要な交渉する分野になってくる。そして、それらの実証分析の結果のどのよう なことを示唆しているだろうか。

1.セーフガード暫定措置の発動

一般セーフガードの発動は WTO 協定で認められているが、発動の要件に関する規定は曖 昧である。たとえば、セーフガードの発動要件の一つは輸入急増であるが、どの程度の期 間にどの量の増加について規定していない。セーフガードの発動は定量的に定義すること が難しく、その発動は発動対象国の不満をもたらしかねない。特に中国に対して、通常の セーフガード制度に加え、対中国経過的セーフガード制度があるため、中国からの報復を もたらす恐れがある。本論文の実証研究でセーフガードの発動はねぎと生しいたけに対し て異なる影響を与えている。また国内価格の上昇をもたらしていることが示された。この ことは、日中間のケースにおいても、セーフガードの発動は、標準的貿易理論の示すよう に必ずしも発動国にプラスの影響をもたらさなかったといえる。しかも、2001 年の生しい たけ、ねぎと畳表に関するセーフガードの暫定発動は中国の報復をもたらし、日中間貿易 関係を損害した。このように、セーフガードなどの貿易障壁は貿易摩擦を起こし、発動国 と対象国の利益を損害する可能性が高い。

2.中国の食品安全問題とポジティブリスト制度

近年、中国の食品安全問題は世界で注目され、話題になった。本論文の研究対象として 選択した生しいたけ、ねぎと冷凍ほうれん草は、残留農薬問題などの安全性に関する問題 が発生する傾向が高い。特に 2002 年冷凍ほうれん草残留農薬問題は、マスコミでも大き く取り上げられ影響が広がった問題であった。本論文の実証研究で残留農薬問題は冷凍ほ うれん草の輸入量に影響を与えたことと「毒餃子事件」は生しいたけの輸入量に影響を与 えたことを証明した。これらの事実は、中国の食品安全確保システムと生産段階での安全

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確保技術の不足というリスクがあり、そのリスクが顕在化するとき、貿易量に大きな影響 を及ぼし、生産者、流通業者(貿易業者)、消費者に損失を及ぼすことを示している。

日本のポジティブリスト制度の導入は、このようなリスクに対応するための政策である と評価できるが、他方でその変更が一方的に行われた場合(国民の安全を確保するため に、本来国はそれを一方的に行う権利を有するのではあるが)、輸出国側に影響を及ぼ す。特に、それへの対応する能力が不足する途上国に対してはマイナスの効果を持つ可能 性が指摘されている。本論文の実証研究では、日本のポジティブリスト制度は検証した三 品目すべての輸入量に影響を与えている。ねぎと生しいたけにマイナスの影響を与えてい るが、冷凍ほうれん草にプラスの影響を与えている。この結果はどういう意義を持ってい るだろうか。

ねぎと生しいたけにマイナスの影響を与えていることは、これらの品目では中国が日本 の新しい検疫検査に対応することが難しいことを示唆した。この事実を反映して、中国 は、ポジティブリスト制度における一部の基準は厳しすぎると指摘した。しかし、ポジテ ィブリスト制度という安全基準は、国民の健康を守るために設定されるので、貿易障壁と 認定するのが科学的に難しい。現在、日本だけではなく、アメリカ、カナダ、ドイツなど も「一律基準」を設定している。厳しい安全基準は世界の国々が国民の健康を守る手段に なる傾向がある。中国は日本のポジティブリスト制度を非難することよりも、この潮流を 認識し、適切に対応することが大事である。ポジティブリスト制度は中国の野菜輸出に短 期的にはマイナスの影響を与えるが、同時に中国の技術と管理方法の進歩をもたらし、積 極的な意義を持っている。本論文ではポジティブリスト制度が冷凍ほうれん草だけにプラ スの影響を与えていたことは証明した。2002 年に残留農薬問題が発生した後、中国政府は その問題を対応するために、一連の対策を打ち出した。冷凍ほうれん草に関する食品安全 を整備する結果は、冷凍ほうれん草の輸入量が回復したということである。そして、2006 年日本がポジティブリスト制度を施行した後、冷凍ほうれん草の食品安全と残留農薬問題 はすでに整備されていたので、逆に輸入が増えた。この点について、冷凍ほうれん草の例 は、もし食品安全と残留農薬問題を適切に対応し、その障壁を乗り越えるなら、輸入量が 増える可能性があるということを示唆した。

しかし、この障壁を乗り越えるのが発展途上国にとって容易ではない。それに対して、

中国政府は、食品安全保障に関する法規を強化し、輸出農産物の品質管理を整備し、全般 的な食品管理体制を構築する必要がある。そして、非伝統的貿易障壁リスクに対応するた

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