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結論と今後の課題

ドキュメント内 修士学位論文 (ページ 68-84)

比較法的観点から日タイの障害者就労制度の共通点・問題点を把握し、国際的な視点からの 分析を通して、以下に、障害者にとって良質な就労を促進するための方法を提案する。

❖ みなし雇用制度

現在の日本の特例子会社制度では、親会社と子会社の人的関係が緊密であることを要件とし ているにもかかわらず、多くの大企業は、本業とは関係ない子会社を作って障害者を寄せ集め ている問題や、子会社を作れる余裕がない多くの中間企業が未達成の状態にあることについて 指摘した。そのため、親子関係がなくても、障害者施設に発注することや障害者団体の事業に 出資することなど、一定の要件のもとに障害者の就労に資することを親会社に雇用されている ものとみなし、実雇用率を計算できる「みなし雇用制度」を導入することにより、中小企業 は、制裁的な納付金を支払い続けることなく、障害者雇用を発注に切り替えるだけで実雇用率 にカウントできるようになる。大企業にとっても、わざわざ子会社を設立したり、障害者雇用 を代行するビジネスを利用したりしなくても、研究の目的①「民間企業による働く障害者のデ ィーセントワークの実現」に貢献しながら雇用率充足が可能になる。何より、障害者にとっ て、地域の中で希望や能力に応じた働き方を選択できるようになる意味で共生社会の実現につ ながる。

確かに、日本では、特例調整金を納付金から減額相殺できる在宅就業障害者制度や、行政機 関の発注を促進する障害者優先調達制度等、既にみなし雇用の仕組みに類似した制度が実施さ れている。しかし、前述した通り、前者は、A型事業所が対象外である点や企業にとってのメリ ットが乏しい等、活用されていない問題がある。そのため、発注先を拡大したり、発注量に応 じたみなし雇用を導入したりする等、企業に対する発注のインセンティブとなるよう在宅就業 障害者制度を見直すことで、発注量の増加によりA型事業所の経営難や、B型事業所の低工賃問 題が改善され、研究目的②「一般就労が困難な障害者の就労機会を提供する施設」としての役 割も果たされる。後者については、国等の優先発注が努力義務に過ぎないため、同制度にみな し雇用を導入すれば、国の優先発注も増加する。よって、国は施設に対して税金を財源とする 給付費を最小限に優先発注により障害者の就労に資することができる上に、財政的・人事的・

構造的に障害者枠を作り出す限界がある公的機関の雇用率未達成問題も改善されるため、目的

③「障害者就労支援における行政機関の本来あるべき姿」が実現される。

なお、みなし雇用を日本に導入する際には、事業者が単に雇用率充足を容易するためにみな し雇用を利用するのではなく、実雇用を増進しながら、一般雇用以外の障害者にも質の高い就 労機会を提供できるように、何らかの措置を構築する必要があるだろう。例えば、フランスの ように完全にみなし雇用を実雇用として代用するのではなく、実雇用とみなし雇用の割合を設 定する等、みなし雇用を認める一定程度の実雇用を義務付ける方法が望まれる。あるいは、ド イツが企業規模別に納付額を設定しているように、従業員数に合わせて、みなし雇用の適用可 能範囲を調整する等、大企業と中小企業の負担を均等化する措置も有効的である。

タイの場合は、既に官民によるみなし雇用を認めているが、前述した通り、みなし雇用の定 義が広範囲に規定されているため、拡大解釈によって、みなし雇用を障害者雇用義務の逃げ道 として悪用される可能性もある。そのため、みなし雇用制度における契約の透明性・公表性を

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監視する第三者組織の設置し、みなし雇用がどの程度障害者の就労に資するか把握できるよう に、みなし雇用の定義を見直しながら、官民の調達実績を評価する一定基準を設定することが 今後の課題になるだろう。

❖ 差別禁止アプローチ

前章において「雇用率アプローチ」と「差別禁止アプローチ」が、先進国の障害者就労制度の 中心的役割を担っていることを説明した。そして、日タイでは、雇用率アプローチを中心に障害 者を推進しながら、差別禁止規定を導入したが、「雇用の量」を偏重した点について指摘した。し かし、雇用率アプローチが障害者の労働市場における雇用機会の平等をもたらしており、就業率 の格差を埋める積極的差別是正措置として重要な役割を担っていることは否定できない。一方、

差別禁止アプローチは、不完全就業や低賃金という障害者雇用の「質」的な問題の解決策として 有望であるが、負担の調整という性質が欠けている。そのため、将来的には、「雇用率アプローチ」

と「差別禁止アプローチ」を対立的に捉えずに、両アプローチを相補関係とみながら、障害者就 労制度において連動させる可能性があると考えた。特に日タイを含め、障害者権利条約の批准国 のほとんどは、既に国内法に障害者差別禁止の規定を設けていることから、雇用率アプローチで 障害者の雇用の「量」を増やして、就業率の格差を埋め、負担を調整しながら、差別禁止を兼用 して障害者の適正賃金や労働者性、ディーセントワーク等、雇用の「質」をともなわせて保障す ることで、研究目的④「障害者就労制度における差別禁止措置の役割」が達成される。

しかし、前述した通り、日タイでは、欠格条項という間接的な差別が未だ残っており、差別の 定義が不明確で、差別を受けた障害者のための救済措置も整ってない。現在の雇用率の算定につ いても、障害者の労働状況が適切に反映されていない可能性がある上に、企業公表等の違反者に 対する制裁的措置が十分に機能しておらず、実効性の面で様々な課題が残されている。また、ダ ブルカウント制度や、障害者手帳制度等、医療モデルに基づいて機能的視点から行政機関が障害 者の就労能力を判断しており、社会モデルに基づいて職業的な観点からの就労の困難さに着目し ているわけではなく、実際の障害者の職業能力が正しく評価されていないという懸念を示した。

そのため、両アプローチを連動していくためには、まず、労働状況や失業率等を正確に把握した 上で、社会状況に合わせて法定雇用率を見直しながら、国や民間がみなし雇用・納付金拠出に偏 重しないように実雇用を強化する措置を構築する必要がある。そして、差別の定義や障害者の範 囲を見直し、障害者虐待防止法のように関係機関に差別行為を通報する義務を課したり、行政規 則ではなく個別法により差別行為に対する罰則や紛争解決機関、被害者に対する救済措置を設置 したりする等、差別禁止アプローチの実効性を高める措置について検討することが今後の課題に なるだろう。

❖ 中間的就労

タイでは、自営業の障害者のための支援制度はあるが、職業リハビリテーションや福祉的就労 制度が進んでいない一方、日本では、福祉的就労事業所はたくさんあるが、事業所の赤字や工賃 の低さ、自営業障害者のための支援が進んでいない問題について指摘した。そのため、両国政府 は、雇用率制度の対象から外された、就労が困難な障害者のための就労支援に取り組む必要があ

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ると考えた。しかし、障害者をケアしながら働く場所を作るための事業所の運営費や職員の給料、

障害者の賃金補償等は、国民の税金を財源としている以上、このような就労制度の役割が拡大す ればするほど、政府の負担も大きくなると予想される。特に、不景気により政府が福祉の役割を さらに縮小する政策へと向かった場合は、財政のみに期待しては障害者就労制度が進まないと思 われる。

なお、前章で紹介したように、海外では、公的補助によって企業内において訓練やケアを受け ながら働く「援助付き雇用」や、財政を最小限にしながら民間の社会責任や経営努力によって生 産性を高める「社会的就労」等、「福祉」と「雇用」の間にある柔軟な「中間的」就労形態こそ不 況時に効率的な就労支援形態であると考えた。なぜなら、民間企業が運営する施設は、従来の政 府の福祉施設よりも、資金調達やビジネスのスキル、経営のノウハウを豊富に有するため、最低 限の公的補助で、障害者を働かせながら事業を軌道に乗せられることができるからである。つま り、このような「中間的」就労の導入によって、既存の障害者就労制度の対象とされない者の就 労の機会が提供される可能性がある意味で研究目的⑤「雇用率制度以外の新たな障害者就労制度 の可能性」が示される。

しかし、現在の日タイでは、雇用を担当する行政が所管する「雇用率制度」と、福祉を担当す る行政が所管する「福祉的就労制度」に体系化されているため、中間的就労を導入するには、ま ず、行政機関の二元的構造を改善することが今後の課題になるだろう。また、民間や営利的法人 が就労支援を行う場合は、行政機関が介入できないため、障害者に閉鎖的な環境の下で、低い賃 金で長時間労働させる可能性や、シェルター性を持つ施設に発展する恐れがある。その他、企業 の意思に依存する以上、景気変動等の影響も受けやすく、障害者のニーズや希望が尊重されない 可能性もあるため、中間的就労制度の実施者を監視・指導する方法や、国が協力して訓練や生活 支援を実施する等、中間的就労で働く障害者のワークライフバランスを保障する措置が今後の課 題となるだろう。そして、障害者が健常者とともに働く環境に慣れるためには、労働省と教育省 が連携して教育機関や職業訓練校におけるインクルーシブ教育の実現に取り組むことも必要に なる。

❖ 多様化した働き方に対応した制度

日タイの既存の障害者就労制度だけでは、障害者枠を利用して企業や政府機関で安定的継続的 に働くか、障害者就労施設でケアを受けながら就労経験を重ねていくかの選択肢しかないことを 指摘した。しかし、障害者の就労制度は、必ずしも「正規vs非正規」、「雇用vs福祉」という二 択だけであると思わない。前章で紹介したように、インターネットや技術の発展に伴い、在宅勤 務やクラウドサービスを利用した仕事等、働き方が多様化してきており、両国政府がこのような ICTを活用した就労を支援すれば、障害者だけでなく、移動が困難な人や、長時間働けない人等、

一般雇用がなじまない人も、どこでもいつでも働くことができるようになる。特に、経済不況に より、福祉施設では給付金の増加が認められない一方、労働市場でも、人員削減や新規採用の縮 小が進む状況が予想される。その状況の中で、農業や自営業等インフォーマルセクターで生計を 立てる障害者等、「雇用と福祉」の谷間から抜け落ちた者が増加すると予想されるため、ICTを活 用した制度や農福連携による就労を促進する制度等が、研究目的⑤「雇用率制度以外の柔軟な制

ドキュメント内 修士学位論文 (ページ 68-84)

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