第1節 知見の整理と総括
本研究の目的で、「Happy Beauty Project の起業とその一連の実践活動を通じて、美容 術を使ったがん患者へのサポートを行い、その実践プロセスと成果を示した上で、その有 効性について明らかにすること」とした。筆者はこの独創的な実践的研究行うことで、目 的を概ね達成したと考える。以下、本論文にて得られた知見を整理し、総括を行う。
第 2 章では、日本のがんの現状と、がん患者を取り巻く環境について述べた。がん患者 がより良く生きるために必要なこととしてウエルネスの概念を取り上げた。ウエルネスの
「情緒」、「環境」、「身体」、「精神」、「価値」という 5 つの領域で考えると、がん 患者の「身体」の欠けを美容というツールを使うことで補うことが出来れば、もしくは「精 神」、「情緒」や「環境」において過不足なく補うことが出来れば、がん患者の闘病中に おけるウエルネスの「価値」を上げる可能性があると述べた。
第 3 章では、現代社会における美容・理容に関する整理を行ったうえで、美容のもつ社 会的役割についてまとめた。
第 4 章では、理容・美容における「公共」について、癒し・エンパワーメント機能とパ ブリック・スペース機能の2つの観点からの整理を試みた。理美容はサービス業であるが、
それを取り扱う場と人も大切だ。施術者を介してネットワーキングとエンパワーメントの 拠点として再構築していくというミッションが導き出された。
第 5 章では、筆者が行ってきた社会実験を取り上げた。がん患者のサポートを始めるに あたり、紡いでいったネットワークを基に、必要な知識や人脈を獲得した。がん患者に人 と会うことや出掛ける機会を与えることで、治療への前向きな気持ちや心のあり方に変化 がもたらされた。がん患者に必要とされてスタートしたがん患者専門個室美容室 Ccure-ク キュア-には、近畿地区以外から患者がサポートを受けに来たことで、がん患への美容面で のサポートがいかに無いかを明らかにし、治療中の美容施術の必要性を示した。美容施術 を受けたがん患者らは、その変化に喜び、声のトーンや表情が変わった。また、外見を整 えることで日常生活を過ごしやすくさせるだけではなく、子どもの教育にも積極的に関わ り続けることが出来る。仕事においても同様で、離職・転職に追い込まれずに、前向きに 働き続けたり、治療が終了した際の復職にも大いに関わった。さらに、治療に関しても前
向きな気持ちになったり、気分の高揚感から元気になったと言える状況をつくり出した。
逆に、どんな状況においても、女性たちが優先したのが美容施術だったことからも読み取 れるように、がん患者にとって美容は大切なものであった。
ウエルネスの 5 領域である「情緒」、「環境」、「身体」、「精神」、「価値」から考えると、
美容面(外見)における「身体」の要素が欠け、それを自他共に受け入れることが出来な い状態にあるがん患者においては、ウエルネスの「価値」は上がらない。そのがん患者の
「身体」の欠けを美容というツールを使うことで補うことで、がん患者の闘病中における ウエルネスの「価値」をあげることができ「ウエルネスに生きる」状態をつくる後押しを することが出来た。本研究は美容が、がん患者の身体と心のバランスを整えてくれる一片 をもっていることを明らかにした。
従来のウエルネスの概念は、人がより良く生きるための要素として有効であるが、がん 患者のように、何らかの理由で欠けを生じてしまった人の場合においては有効ではない。
ウエルネスを考える時の新しい視点としての「美容」を提示することが出来た。また、が ん患者に留まらず、今後ますます社会的に注目される大切なエッセンスとなっていくだろ う。
第2節 今後の課題と展望
がん患者がより良いウエルネスな生活を送ることが出来るように、美容のチカラが有効 であると考えた筆者は、病院外で、誰でも受けることが出来る、手を伸ばせば届くサービ スとして、Ccure の開設をした。Ccure に来たがん患者の生活の質は上がり、可能性を示唆 した通りウエルネスな生活へと導くことが出来た。しかし、美容師・美容室だけでは出来 ないこともある。医療の分野に踏み入れるという意味ではなく、病院の中、そして外でも、
医療従事者との連携をより推進する必要がある。医師だけでは出来ないこと、看護師だけ では出来ないこと、臨床心理士だけでは出来ないことなどたくさんある。美容面のサポー トもその 1 つだ。それぞれの専門分野以外との連携を図ることで、がん患者のウエルネス のレベル、そして治療への満足度が上がる。専門的な知識を持った美容師も、チーム医療 の一員になるべきだと考える。
その際、より多くの理美容師の参加が求められるが、現在はその知識を持つ理美容師が 不十分である。そして、現在のように、理美容師としてすでに勤務している人たちに講習
の受講を促しても、興味が無い、日頃の業務に追われて受けることが出来ない、お店の方 針があり取り入れられないなどの理由から、この広がりには限界がある。しかし、高齢化 社会はすぐそこにあり、がん患者が増える現実もすぐそこにある。当たり前のようにがん 患者を受け入れることが出来る人材がいなければ立ち行かなくなる。そのためには、理美 容師になるもっと前の理美容の専門学校の時から教育をすることが重要だ。筆者が実践研 究を行うなかで、関わる人たちが、がん患者への美容サポートの必要性に気付き、変わっ た。この流れの通り、今後はさらにがん患者がより良くウエルネスに生きることが出来る ように世の中が変化していくであろう。その変化が、いかに裾野を広げ、より多くの人た ちにウエルネスな生活をもたらすことが出来るかということに注目する必要がある。
第3節 これからのキャリアデザイン
最後に、筆者の今後について記し、本研究を締め括る。筆者は本研究の目的を、「Happy Beauty Project の起業とその一連の実践活動を通じて、美容術を使ったがん患者へのサポ ートを行い、その実践プロセスと成果を示した上で、その有効性について明らかにするこ とを目的に設定した」とした。その目的の通り、筆者は Happy Beauty Project の活動を ビジネスとして展開し、がん患者に継続的なサポートを行うことが出来るように試行錯誤 してきた。実際に筆者ががん患者のサポートをビジネスとして行う中で、ボランティアで 当たり前という考え方を持つ人を前に、苦心したこともある。ボランティアでは立ち行か なくなり、サポートをすることを止めてしまっては意味が無く、サポートする人口が増え ない。理美容師にとってがん患者などの外見のサポートをすることが当たり前の世の中に なるまで、全国の理美容室のロールモデルとして様々な仕掛けを行い、影響を与え続けな がら、業界を牽引していく。また、理美容師の育成に関しても、今後は教育機関で必要性 を訴え、カリキュラムの中に組み込まれるように尽力したいと考える。
今後も、実践的研究者としてフィールドに寄り添い、ソーシャル・イノベーションの視 点を持って研究を続けていく所存である。
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