1992 年,厚生労働省による結核患者収容モデル病床 事業が開始されて以来,2013 年 4 月現在,全国で 76 医療機関(421 床)のモデル病床が稼働している.日 本医科大学では,1998 年 4 月から 2 床の運用を開始し,
年間 15-20 人の結核患者の入院診療を行っている.本 シンポジウムでは,約 15 年間のモデル病床運用の診 療経験をもとに,モデル病床の現状と課題,期待され る役割について考える.
患者側からみた一般病院での結核診療の利点として,
①医療機関へのアクセスの良さ,②患者家族からのサ ポートの受けやすさ,③結核以外の疾患をもつ場合も 同じ病院で適切な処置が受けられる,④入院から外来 診療への連続性が保たれやすいなど,が挙げられる.
多くの結核患者が高齢で,様々な合併症を抱えている こと,療養に当たり家族のサポートが不可欠であるこ とから,患者の受けるメリットは大きいと考える.
医療者側からみた一般病院での結核診療の利点とし て,①合併症治療の容易さ,②医学生や研修医に対す る結核教育の機会増加が挙げられる.多くの結核治療 を専門とする施設は,大学病院や総合病院などのよう に各種専門科を網羅しておらず,重篤な合併症を有す る患者の治療に難渋することがある.そのような症例 では,専門科を有する一般病院で結核治療を行うこと で,患者が適切な医療を受けられることにとどまらず,
専門外の疾患を診ることに対する医師の負担を軽減で きるメリットがあるだろう.そして最も重要な点は,
医学生・研修医に対する結核教育の機会の増加である.
結核の発生者数は減少傾向にあるとはいえ,日本では 未だ結核は common な疾患の一つである.また,生 物学的製剤や分子標的薬使用の増加,糖尿病などの生 活習慣病患者の増加により,結核のハイリスク患者は 増加傾向にある.医学生や研修医が,結核の診断・治 療を連続して行うことにより,感染症や結核診療の専 門医でなくとも,早期診断し,適切な治療を行うこと ができるように教育することは非常に重要であると考 える.
一方で,一般病院での結核診療には課題も多い.患者 側からみた一般病院での結核診療の課題として,最も 大きな問題はモデル病床のアメニティ不足である.多 くのモデル病床は一般病床と同じフロアに病室が同居 しているため,「陰圧化された個室」として整備され,
排菌患者は狭い個室内での療養を余儀なくされてい
る.Performance status のよい患者では,病室からの 出入りの制限がある,孤立しているため話し相手がな く臥床傾向となるなど,精神的なストレスが多く,患 者の Quality of Life が保たれない場合が多い.外来診 療を含めると,結核治療は半年から 1 年にわたる長い 治療を必要とし,質の高い医療を提供するためには,
患者の治療に対する motivation を失わせないことが 必要である.特に,治療導入時期には患者―医療者間 の意思疎通が重要であり,その間の医療を担うモデル 病床では,療養を円滑にするための環境整備について,
さらに検討する必要があるだろう.
医療者側からみた一般病院での結核診療の課題とし て,①病床利用率の低さ,②治療に難渋した場合のコ ンサルテーションシステムの不足,③病診連携・地域 の包括支援の不備,④コメディカル教育の不十分さ,
などが挙げられる.多くの医療機関にとって,病床稼 働率の低さは重要な問題である.結核発症を強く疑わ れるが未診断例の確定診断のための一時的な入院先と してモデル病床を使用可能にするなど,柔軟な対応が できるような体制が必要と思われる.また,抗結核薬 の副作用などで治療に難渋する場合など,容易にコン サルテーションできるようなシステム作りも必要であ る.結核患者の社会的問題やアドヒアランス不良の問 題などの退院後の療養支援も含め,結核治療専門施設,
保健所,結核審査会などと連携し,よりよいシステム を構築することが,モデル病床の効率的で有効な利用 には不可欠である.多くの結核患者は高齢で,治療中 に ADL が低下し,排菌陰性化後,退院困難な場合が 少なくない.排菌陰性化後の入院療養施設の確保,訪 問診療などの地域病診連携も重要である.
高齢化や高度な医療の進歩とともに結核診療の重要性 は増しており,今後,一般病院での結核診療の必要性 が失われることはないであろう.15 年間にわたるモ デル病床での結核診療を通じ,日本医科大学では若い 世代の医師を中心に,結核に対する認識は確実に高 まっている.患者に対するメリットは勿論であるが,
結核モデル病床での診療には,医療者への結核教育と いう役割が最も期待される.本シンポジウムでは,結 核モデル病床の抱える問題を共有し,患者によりよい 医療の提供と,よりよい結核教育の場となるような仕 組み作りを皆様と考えていきたい.
藤田 和恵(日本医科大学 呼吸器内科)
招 請 講 演 招 請 講 演招 請 講 演 今村賞受賞記 念 講 演 シンポジウム
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シンポジウム 14 結核は一般病院でみる普通の病気になれるか? S14-5 特別発言 感染症病床の有効利用と特定機能病院におけるモデル病床の設置
今、結核医療は低蔓延期を展望して、あるべき姿に 再構築することが求められる重要な局面にある。その 再構築は、3 つの課題を統一的に進めることであろう。
すなわち、結核の低まん延期を視野に入れて、第 1 に 集団隔離医療から患者中心の個別化医療へ脱皮させる こと、第 2 に二次医療圏における感染症病床の有効利 用とモデル病床設置を推進すること、第 3 に不採算性 是正による結核入院医療の崩壊を回避することであ る。
近年の動きを振り返ると、50 年ぶりの結核予防法 改正(2005 年)、結核予防法の感染症法への統合(2007 年)、「結核に関する特定感染症予防指針」改正(2011 年)と、大きな変化があった。とくに、2011 年の改 正予防指針では、①病棟単位での病床維持困難、②都 市圏における病床不足、③医療アクセスの悪化、④院 内感染の発生、⑤高齢化とともに重篤な合併症を有す る結核患者の増加が指摘され、国、都道府県、二次医 療圏、一般医療のレベルに応じた結核医療供給体制 の構築の方向性が示された。現在(2013 年 4 月 1 日)
の第二種感染症指定医療機関は、感染症病床を有する 指定医療機関 332 医療機関(1,713 床)、結核病床を有 する指定医療機関 232 医療機関(6,505 床)、結核患者 収容モデル事業を実施する指定医療機関 76 医療機関
(421 床)であり、127,587 医療機関(病院 8,100、診 療所 67,917、薬局 51,570 が結核指定医療機関として 指定されている。
筆者はこれからの結核医療供給体制については、以 下の二つが重要と考えている。
第 1 は、二次医療圏単位で設けられている感染症病 床(一般病床、陰圧室)を結核医療に利用できること を医療法上も明確にすることである。感染症病床の利 用によって、都市部の結核病床不足と結核医療のアク セス悪化の改善だけでなく、感染症病床の「空床」も 緩和されるだろう。すでに、結核病床、モデル病床を 有しない一部の医療機関では、感染症病床の利用が行 われているが、医療法上は結核病床と一般病床は区別 されることから、その運用には不透明さが残っている。
現状を調査分析するとともに、結核入院患者の類型
(1999 年公衆衛生審議会結核予防部会:①薬剤耐性や 合併症がなく順調な菌陰性化が期待できる典型例、② 他の疾患や病態を伴った患者、③集学的治療を必要と する多剤耐性患者、④対症療法を主体とする長期療養 が必要な慢性排菌患者)に応じた病床利用のあり方を 明確にする必要がある。今日までの経過をみると、結 核患者収容モデル事業の実施(一般病床 1992 年、精 神病床 1999 年)、結核病床医師配置標準の一般病床と
の同数化(40 対 1 → 16 対 1)(2006 年医療法改正)、
結核の二類感染症指定(2007 年感染症法統合による)、
10:1 及び 7:1 の在院日数制限解除によるユニット化推 進と陰圧室加算等(2010 年診療報酬改定)、入院基本 料の一般病床との同額化(2012 年診療報酬改定)など、
結核病床と一般病床との障壁は医療法上も診療報酬面 からも、かつてに比べて格段に低くなっている。
第 2 は、結核医療を支える医師の育成である。結核 病学会は、これまで人材育成に関して幾度となく検討 してきた(1986 年総会:シンポジウム「結核の教育 は如何にあるべきか」、1997(H 9) 年総会:ラウンドテー ブルディスカッション「医学部と医療現場における結 核の教育をめぐって」、2005(H17) 年総会:シンポジウ ム「医学教育における結核」、2013(H25) 年総会:シン ポジウム「明日の結核医療と人材育成への展望」)。ま た、2008 年には「結核・抗酸菌症診療医・指導医認 定制度」を発足させ、特に呼吸器専門医の結核への関 心と理解を促し、結果的に結核病学会会員の増加をも たらし、現在、日本結核病学会の会員数は約 3,500 名 を超えた。
1970 年代に始まる大学病院における結核病棟の閉 鎖は、結核教育の著しい低下をもたらし、現在 50 台 以下の医師の大部分は、病院医師、開業医を問わず十 分な結核教育を受けていない。最近の結核見落とし事 例の頻発は、医師が 結核を疑わない ことによって いる。結核教育は、医学部学生を対象とした医学教育 から病院医師・開業医の啓発、多剤耐性結核や慢性排 菌者にも対応できる専門医の育成など広範にわたる が、最も重要なことは会員数 1 万人を超える日本呼吸 器学会、日本感染症学会の会員が、結核医療の診断治 療の基本を理解することだろう。その意味で、「結核・
抗酸菌症診療医・指導医認定制度」の発足は重要なス テップであった。
次のステップは、特定機能病院をはじめ教育病院に モデル病床等の結核を診られる病室を数床でも設置す ることである。それによって、呼吸器内科あるいは感 染症内科の若い医師が、結核診療に接する機会が与え られることになる。ちなみに、東京都内には結核病床 を有する病院は 11 施設、モデル病床を有する病院は 13 施設あるが、都内 13 大学の特定機能病院のうち結 核病床を有する病院は、日本大学医学部附属板橋病院、
東京医科歯科大学医学部附属病院の 2 病院、モデル病 床を有する病院は日本医科大学付属病院、慶應義塾大 学病院の 2 病院に留まっている。全国 80 医科大学の 特定病院にモデル病床等の結核を診られる病室を設置 することは、結核医療を支える医師育成の要である。
工藤 翔二(結核予防会複十字病院)