肺外結核には、呼吸器(気管支結核、喉頭結核、胸 膜炎など)、骨感染椎体(脊椎カリエス)、漿膜(胸膜、
腹膜、心膜)、消化管(腸結核)、泌尿生殖器(腎結核、
性器結核)、脳(結核性髄膜炎)などがある。肺結核 は空気感染により伝播する疾患であり、空気予防策が 適用されるが、肺外結核でも空気感染予防策が必要な 場合があり得る。
気管支結核、喉頭結核、画像上で肺に空洞を有する 患者などでは、感染者から飛沫核が発生する可能性が ある。結核性胸膜炎では、初感染型(一次結核症とし ての結核性胸膜炎)ではない二次結核症としての肺実 質病変を伴う胸膜炎では、胸部画像上明らかな肺病変 の所見を認めなくとも喀痰の培養検査で結核菌が検出 される場合が臨床上あり得るため、肺結核に準じた感 染性の評価(喀痰培養検査)が必要である。成人の粟 粒結核(播種性結核)においても同様である。特に、
前述の病態や結核菌による感染を否定しえない患者に おいて、激しい咳嗽や咳を誘発する手技を実施する場 合には空気感染予防策が必要である。具体的には誘発 痰を行う場合や、気管支ファイバー検査を実施する場 合である。気管内挿管が必要な患者においても空気感 染予防策が必要である。
結核菌による感染病巣の外科的処置を実施する場合 には特に注意が必要となる。外科的処置により微細な 組織の飛沫や拡散が起こる可能性がある場合や、ドレ ナージ術などで結核菌が体外へ排出される場合が該当 する。具体的には、手術室で電気メスを用いて病巣へ アプローチする場合などには結核菌が乾燥し容易に空 気中へ飛散する。この場合には、陰圧で独立空調シス テムが可能な部屋(手術室)での処置が必要である。
術者は高性能マスク(N95 マスク)を着用する必要 がある。手圧持続吸引を行っている場合で、接続部が
外れた場合には結核菌が空気中へ飛散する可能性があ る。閉鎖式ドレナージ中でも同様である。皮膚結核で は開放創の範囲が広く排膿が多量の場合には、結核菌 飛散の可能性があるため入院患者や医療従事者保護の ためにも個室隔離が必要となる。
空気感染予防策が必要な肺外結核では、患者の飛沫 の発生を抑制する、空気中の飛沫核を除去する、医療 従事者の飛沫核吸入を防御するという 3 つのステップ を考慮する必要がある。従って、患者はサージカル マスクを着用し、空気感染予防策が可能(陰圧個室、
HEPA フィルターの設置、独立空調など)な部屋で 管理し、医療従事者や面会者は高性能マスク(N95 マ スク)を着用する。外科的処置が必要な肺外結核患者 の摘出標本・検体の取扱いには注意が必要で、結核菌 による感染が疑わしい場合には、あらかじめ病理部門 や細菌検査部門に事前連絡をしておくことが必須であ る。摘出標本に結核病巣がある可能性が高い場合は、
可能な限りホルマリン固定後に臓器検索を行うように し、結核菌を含む可能性がある検体を扱う場合は必ず 安全キャビネット内で行うように指導する必要があ る。
皮膚結核で開放創が広範囲の場合あるいは排膿が多 量の場合には個室隔離が望ましい。また膿が乾燥する と空気中へ飛散する可能性が高いため被覆材を用い る。腸結核で下痢症状を有する場合には排泄物の処理 を迅速に実施し、排泄物を乾燥させないことが重要で ある。
空気感染予防策が不十分であった場合には接触者検 診が必要となるが、空気感染性微生物では病院の経済 的負担が大きくなるため、最終的には積極的な空気感 染予防策を講じた方が経済的負担が低くなる。
山岸 由佳、三鴨 廣繁(愛知医科大学病院 感染症科・感染制御部)
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座長の言葉
2011 年の WHO 統計では、世界の結核新患発生は 870 万人、死亡は 140 万人に及んでおり、結核の世界 レベルでの根絶は極めて困難な課題と言える。こうし た結核の治療については、(1)DOTS と患者の服薬 遵守を促進するための投薬間隔を長くすることの出来 る薬剤の開発、(2)投薬初期に高い殺菌活性を示す薬 剤の使用による耐性結核菌の出現阻止、(3)新しいタ イプの抗結核薬を用いての持続生残型の結核菌の殺菌 排除と言った大きな課題が残されている。また、世界 的には全人口の約 1/3 が結核菌の曝露を受けていると ころから、こうした既感染者の体内に生存している休 眠型の結核菌は、活動性結核発症の潜在的なリスク となっており、この問題の解決も急がれる。さらに、
Mycobacterium avium complex 症をはじめとする非 結核性抗酸菌症(NTM 症)はその多くが極めて難治 性であり、NTM 症のより有効な化学療法レジメンの
開発もまた重要な課題である。本シンポジウムでは、
こうした結核や NTM 症を取り巻く現状に立脚しつ つ、近年の結核菌をはじめとする抗酸菌に関する遺伝 子レベルでの分子生物学・免疫学的研究の目覚ましい 展開をベースにして、抗酸菌症に関する基礎研究の今 後の方向性について考察してみたい。そこで今回は、
結核菌を中心とする抗酸菌の生物学・感染症学・免疫 学の今後のブレークスルーに繋がる可能性のある一連 の研究を、独自の視点とユニークな発想で進めつつあ る 4 つのグループに、最近の研究成果を中心に講演し て頂き、議論を深めてみたいと考える。このシンポジ ウムでは、「遺伝子レベルでの抗酸菌の生物学」(星野・
松本博士)と「細胞内情報伝達との関連での抗酸菌の 感染症学・免疫学」(多田納・山本博士)の 2 つのテー マを主軸として考察する予定である。
冨岡 治明(島根大学医学部)
松本 智成(大阪府結核予防会大阪病院)
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シンポジウム 17 抗酸菌の生物学・感染症学・免疫学の新しい展開を考える S17-1 抗酸菌の遺伝子解析分野
抗酸菌の遺伝子解析は 1980 年代に PCR 法による 個々の遺伝子の増幅が行われたのを契機として、1990 年代より主としてサンガー法により標的遺伝子に対す る塩基配列の解析が個々の遺伝子について行われてき た。サンガー法は現在でも 0.5 〜 1kb 程度の塩基配列 解析に適しており、同法を繰り返すことで論理的には もっと長い塩基配列の解析も可能ではあるが、技術的 に困難を伴っていた。しかしながら結核菌の全ゲノム が 1998 年に解読されたのを契機に、主として抗酸菌 標準株の全ゲノム解析が開始された。これらのデータ を基盤として現在は抗酸菌臨床分離株の全ゲノム解析 も多くの菌株で行われ、いわゆる比較ゲノム解析が行 われるようになっている。
これらの全ゲノム解析を可能としたのは、2000 年 代から使用されるようになった次世代ゲノムシークエ ンサの急速な進歩のおかげである。解析費用も年々改 善され、現在では抗酸菌一株当たり 10 万円程度の材 料費で可能となってきている。
本シンポジウムでは抗酸菌全ゲノム解析の一例とし
て、Mycobacterium massiliense標準株の全ゲノム解 析の結果について発表する。M.massiliense は臨床の 場で分離される機会が増えており、また治療効果予測
の点でM.abscessusとの鑑別診断を行うことが肝要と
なってきている。現状の DDH 法では両者を区別する ことは不可能である。そこでM.massiliense標準株の 全ゲノム解析を行うことで、既に全ゲノム配列が公開 されているM. abscessusの標準株と比較する比較ゲ ノム解析を行い、両者に特徴的な挿入や欠出を見出し た。これらの情報をもとに multiplex PCR 法によって 両者を簡便に鑑別する方法を開発した。
また両者のゲノム配列の比較からそれぞれの菌株に 特有の ORF を発見し、実際に培養条件を変えること によって比較ゲノム解析で明らかとなった genotype の相違が培養条件の変化によって生じる phenotype の相違に関連することを見出した。
これらの比較ゲノム解析は他の抗酸菌の遺伝子解析 にも応用することが可能であり今後益々研究が進展し ていくことが予想される。
星野 仁彦(国立感染症研究所 感染制御部)
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