第一章 緒言
2.3. 結果
2.3.1 運 動 持 久 力 ( 実 験 1 )
2週間トレーニング前の走持久力及びトレーニング後の走持久力をFig. 2.1に示した。
トレーニング前の走持久力はBDK-mKOマウスとControlマウスで変わらなかった。2週 間のトレーニングによって、走持久力はBDK-mKOマウスとControlマウスともにトレー ニング前より約2倍増加した。しかし、トレーニング後の走持久力ではControlマウスよ
りBDK-mKOで有意に低値であった。この結果より、BDK-mKOマウスでは、運動トレ
ーニングに対する運動持久力の適応が抑えられる可能性が示唆された。
2.3.2 マ ウ ス の 体 重 と 組 織 重 量 ( 実 験 2 )
実験最終日のControlマウスおよびBDK-mKOマウスの体重には、4群間で差はなかっ
た(Table 2.2)。実験最終日に採取した臓器のうち、骨格筋、心臓、肝臓、精巣上体脂肪
の体重100g当たりの重量は、いずれの群間でも差を認めなかった(Table 2.2)。
2.3.3 マ ウ ス の 各 組 織 に お け る BDK量 ( 実 験 2 )
実験2で用いたBDK-mKOマウスの筋特異的BDK欠損を確認するために、ウェスタン
ブロット法により、体内の主要な組織である脳、心臓、骨格筋、肝臓、腎臓、膵臓、脾 臓と精巣におけるBDKのタンパク質量を測定した(Fig. 2.2)。その結果、BDK-mKOマ ウスにおいて、Controlマウスと比較して、骨格筋及び心筋でのみBDK量の著しい低下 が確認された。
2.3.4 各 群 の マ ウ ス の 骨 格 筋 に お け る BCKDC 量 ( 実 験 2 )
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各群のマウスの骨格筋BCKDCのE1α、E1βとE2をウェスタンブロットにより検出し た結果をFig. 2.3に示した。BCKDCのE1α、E1βとE2のタンパク質量には各群間で差は なかった。BDK-mKOマウスでE1αは脱リン化しているため、そのバンドの位置はControl マウスと比較してわずかに低分子側に検出された。
2.3.5 血 漿 BCAA 濃 度 ( 実 験 2 )
血漿ロイシン、イソロイシンとバリンの濃度は、急性運動と関係なく、BDK-mKOで 明らかに低値であった(Fig. 2.4(A-C))。急性運動によって血漿BCAA濃度がControl マウスで低下する傾向にあったのに対して、BDK-mKOマウスでは有意に上昇した。
2.3.6 BCAA 以 外 の 血 漿 ア ミ ノ 酸 濃 度 ( 実 験 2 )
安静状態のマウスでは、血漿アスパラギン酸濃度がControlマウスよりもBDK-mKOマ ウスで高い傾向にあったが、他の血漿アミノ酸濃度では両マウス間で差はなかった(Fig.
2.5)。血漿BCAA濃度で観察されたように、Controlマウスの多くの血漿アミノ酸濃度 が急性運動により低下する傾向にあったのに対して、BDK-mKOマウスでは逆に上昇す る傾向にあった(Fig. 2.5)。そのため、血漿アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、
グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、トレオニンの濃度が急性運動により、Controlマ ウスに比べて、BDK-mKOマウスで有意に高値であった(Fig. 2.5)。血漿リシンも同様 な傾向にあった。
2.3.7 筋 肉 の エ ネ ル ギ ー 代 謝 に 対 す る BDK-mKO と 急 性 運 動 の 影 響 ( 実 験 2 の メ タ ボ ロ ー ム 解 析 )
( 1 )BCAA お よ び そ の 代 謝 系 中 間 体 (Fig. 2.6)
筋肉BCAAレベルは、両マウスの安静群および急性運動群ともに、BDK-mKOマウス で著しい低値であった(A-C)。筋肉のBCKAレベルは、BDK-mKOマウスで検出限界 以下まで低下した(E)。一方、acyl-CoAの代謝産物の一つであるacyl-carnitineレベルは、
安静群および急性運動群ともにBDK-mKOマウスで有意な高値であり、Controlマウスの
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isobutyryl- carnitineのみ急性運動で上昇した(F, G)。これらの結果より、BDK-mKOマ ウスでは、BCAA分解により生成したBCKAの多くは速やかにacyl-carnitineへ代謝され たと考えられる。BCATの補酵素であるpyridoxamine 5'-phosphate(PMP)レベルが、安 静群および急性運動群ともにControlマウスよりもBDK-mKOマウスで低値傾向にあった
(D)。
( 2 ) 解 糖 系 代 謝 中 間 体 (Fig. 2.7)
解糖系の成分では、glucose 6-phosphate(G6P)、fructose 1,6-bisphosphate(F1,6BP)、
dihydroxyacetone phosphate(DHAP)、2-phosphoglycerate(2PG)、phosphoenolpyruvate
(PEP)、lactateが検出された。G6Pレベルは群間で差が見られなかった(A)。解糖
系の律速階段と見られている第三ステップの代謝産物であるF1,6BPレベルは、安静群お よび急性運動群ともにControlマウスよりもBDK-mKOマウスで低値を示した(B)。安 静群のDHAP(C)、2PG(D)、PEP(E)レベルは、いずれもControlマウスよりもBDK-mKO で低値傾向にあり、Controlマウスでのみ急性運動により低下する傾向を示した。Lactate レベルでは各群間で差はなかった(F)。
( 3 )Acetyl-CoA お よ び TCA サ イ ク ル 代 謝 中 間 体 (Fig. 2.8)
Acetyl-CoAレベルは、安静群および急性運動群ともにControlマウスよりもBDK-mKO
マウスで低値を示し、Controlマウスでのみ急性運動により低下した(A)。安静群のcitrate
(B)とisocitrate(C)レベルは、ControlマウスよりもBDK-mKOマウスで低値を示し、
急性運動によりControlマウスでは低下傾向、BDK-mKOマウスでは上昇傾向を示した。
Succinate(D)、fumarate(E)、malate(F)レベルは各群間で差はなかった。以上のこ とから、筋特異的BDKノックアウトは、acetyl-CoAとTCAサイクル前半の代謝中間体 を減少することが判明した。
( 3 )NADH、NAD+と 高 エ ネ ル ギ ー 化 合 物 (Fig. 2.9)
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TCAサイクルやBCAA代謝で生じるNADHレベルは、安静群および急性運動群とも
にControlマウスよりもBDK-mKOマウスで低値傾向を示し、Controlマウスでのみ急性
運動により低下する傾向を示した(A)。しかし、NAD+(B)、ATP(C)、GTP(D)、
phosphocreatine(E)レベルは各群間で差はなかった。
( 4 ) 骨 格 筋 に お け る BCAA 以 外 の ア ミ ノ 酸 レ ベ ル (Fig. 2.10)
骨格筋のBCAA以外のアミノ酸レベルをFig. 2.10に示した。アラニン、アスパラギン 酸、ヒスチジン、リシン、トレオニンの濃度が、安静群および急性運動群ともにControl マウスよりもBDK-mKOマウスで高値傾向を示したが、いずれも急性運動の影響はほと んどなかった。トリプトファンレベルは、ControlマウスとBDK-mKOマウスで差はなか ったが、いずれのマウスでも急性運動により上昇した。
2.3.8 グ リ コ ー ゲ ン 量 ( 実 験 2 )
肝臓グリコーゲン量と骨格筋グリコーゲン量をFig. 2.11(A, B)に示した。肝臓グリコ ーゲン量は、いずれの群間でも差が見られなかった(A)。骨格筋グリコーゲン量は、安 静群および急性運動群のいずれにおいてもControlマウスよりもBDK-mKOマウスで低値 を示し、両マウスで急性運動により有意に減少した(B)。
2.3.9 ミ ト コ ン ド リ ア エ ネ ル ギ ー 代 謝 系 の 酵 素 活 性 ( 実 験 2 )
骨格筋のクエン酸合成酵素活性とシトクロムcオキシダーゼの活性をFig. 2.12(A, B) に示した。いずれの酵素活性も、ControlマウスよりもBDK-mKOマウスで低値を示し、
いずれのマウスでも急性運動により上昇傾向を示した。