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3.3 パイルアップの分離

3.3.3 結果と考察

ベースラインパラメータを固定した場合

図3.37に、ベースラインとパルスの2段階に分けたフィッティング解析により読み出されるエ ネルギースペクトルを載せる。黒色で示されるのは、671アンプの波形データをPHADC方式(従 来型の読み出し法)で読み出した場合のスペクトルであり、赤色で表示されるのがフィッティング (FIT方式)によってパイルアップを分離したスペクトルである。緑色で表示されるのは同時に記

録した973U UHAの波形データをPHADC方式で読み出したスペクトルである。パイルアップ

によって高エネルギー側に間違えて読み出されてしまうイベントを、分離することで正しく読み 出せていることが見て取れる。また、40Kの1.46 MeVピークに関しては、PHADC方式やUHA では60Coのパイルアップテールに埋もれてしまっていたものが、FIT方式ではそのバックグラウ ンドを減少させることで顕著に見えるようになっている。1.8 MeV付近に見えるピークは、Flash ADCの測定レンジの限界による飽和信号である。27)

ここでは、PHADC方式は実際のパルス波高型ADCの読み出し方式に近づけるため、パルス幅 程度のADCゲートをノンアップデート式28)で開いて、その間の最大波高を測っている。

Energy [MeV]

0 1 2 3

Counts / 5 keV

1 10 102

103

104

Readout Method 671 PHADC 671 Pulse Fitting

µsec) 973U UHA (3

3.37 ベースラインパラメータを固定した場合に読み出されるエネルギースペクトル。黒色 で表示されるものが671アンプの波形データをPHADC方式で読み出したスペクトルであ り、赤色で表示されるのは、同じデータをフィッティングによってパイルアップ分離したもので ある。緑色で表示されるのは、同時に記録した973U UHAの波形データからPHADC 式で読み出されたスペクトルである。

表3.7に、それぞれの読み出し方法での60Coの1.33 MeVピークに対するエネルギー分解能と ピーク量をまとめる。ピーク量はバックグラウンドを1次関数で近似し、ガウス関数でフィッティ ングした面積から求めたものであり、973U UHAの波形データから読み出される値でノーマライ ズしてある。PHADC方式で読み出した場合に、973U UHAでは分解能の劣化が見られるのはパ イルアップしたパルスを区間積分(Gated Integrator) しているためであると考えられるが、詳し くは分かっていない。しかし、ここでは60Co線源のピークに対して比較するため、バックグラウ ンドに比べてピーク統計量が十分あることより、分解能が悪くともピーク量の見積もりには影響が ないと考える。また、671アンプ波形をPHADC方式で読み出した場合に分解能が劣化していな い理由も現段階では解明できていない。FIT方式による分解能が劣化している理由は、パイルアッ プ時に応答関数が変化している可能性があることより、現段階ではフィッティングの精度によるも のと考えている。

3.7 ベースラインを固定した場合の1.33 MeVピークに対するエネルギー分解能とピー ク量。973Ugated integration time3 µsecであり、671の整形時定数は2 µsec である。

読み出し方法 FWHM [keV] ピーク量

973U UHA (PHADC方式) 6.2 1

671アンプ (PHADC方式) 2.8 0.61±0.01

671アンプ (FIT方式) 3.2 1.17±0.02

読み出しによる分解能の違いに詳しい解釈は与えられていないが、ピーク量の比に対しては以下 のように見積もられる。測定の計数率が低いため、パイルアップするパルスの数はほぼ2つと仮定 する。導出は後で述べるが、計数率がf Hzの場合に間隔T sec以内に2つのパルスが発生する確 率P は、

P = 1exp (−f T) (3.13)

で計算できる。今回測定したデータは1.4 kHzの計数率で、12µsec以内(671アンプのパイルアッ プ認識幅)に2つ目のパルスが発生したものであり、その発生確率は1.67 % となる。しかし、パ イルアップをトリガーにして計測しているため、計測されたデータ中では12 µsec以内に2つのパ ルスがある確率は100%である。973U UHAの波形の場合は、パルス間隔が3 µsec以上のイベン トに対してはパイルアップの影響を受けずに2つ波高を読み出すことができる。つまり、波形デー タが100イベントあった場合に、973U UHAの波形から正しく読み出せる波高の数は、

(

1 1exp (1.4 [kHz]×3 [µsec]) 1exp (1.4 [kHz]×12 [µsec])

)

×2×100 = 150 (3.14) と計算され、150個の正しい波高を読み出せることになる。FIT方式では1 µsec以上離れたパル スはプリアンプから正しく初期値を得ることができるため、1µsec以上のパイルアップは分離して

確に読み出される波高の数は、

(

1 1exp (1.4 [kHz]×1 [µsec]) 1exp (−1.4 [kHz]×12 [µsec])

)

×2×100 = 184 (3.15) となる。これらの正しく読み出される波高の個数比から、973U UHAとFIT方式ではピーク量の 比は1.2程度となることが見積もられる。この見積もりが実際にピーク量を数えたものとほぼ一致 することから、FIT方式で1 µsec以上のパイルアップは正しく分離できていると考えられる。こ の結果より、FIT方式は従来までの973U UHAに比べ3倍程度パイルアップに耐性があること

になる。671アンプをPHADC方式で読み出す場合は、すべての波形がパイルアップしているた

め、同様に見積もりを行うと正しく読み出される波高の数はほとんどゼロになる。しかし、実際に はピークとしてかなりの量が得られているのには、以下の理由が考えられる。今回は、パイルアッ プするパルスの数が2つのみという局所的なパイルアップイベントのみにバイアスをかけて計測し ている。その場合、671アンプのパルス立ち上がり時間が5 µsec程度であることより、パルス間

隔が5µsec以上離れていれば、1つ目のパルスは2つ目のパルスの影響を受けないことになる。ま

た、ADCゲートをノンアップデート式で設けたことより、1つめ目のパルスを優先的に読み出す ことになる。以上の考察により、パイルアップ波形ではあるが、正しく波高を読める状態が存在す るために、ピーク量が多くなっていると考えられる。

3.38 パイルアップ前方パルスと後 方パルス。図に示すように、先頭のパル スを前方パルス、後ろに重なるパルスを 後方パルスと定義する。

図3.38に示すように、パイルアップパルスを前方 パルスと後方パルスに分離して、それぞれの波高か ら読み出されるエネルギースペクトルを調べる。図 3.39に、60Coの1.33 MeVピーク付近を拡大したそ のスペクトルを載せる。黒色で表示されるのがパイ ルアップ前方パルスから読み出されるスペクトルで あり、赤色で表示されるのは後方パルスからのもの である。また、緑色で表示されるのはパイルアップ していないパルスから読み出されるものである29)。 前方パルスと後方パルスの場合でピークの数がほぼ 等しいのは、今回解析したデータは計数率の低い状 態でパイルアップにトリガーをかけて計測したもの であることより、パイルアップしているパルスの数

はほぼ2つとなるためである。後方パルスに対して高エネルギー側にテールが見えていることよ り、前方パルスのテール部分に重なる影響を完全には補正できていないことが分かる。その原因と しては、先ほど述べたようにベースライン再生回路によって応答関数が変化してしまうことによ り、波形テンプレートの足し合わせでパイルアップパルスを完全に再現できていないことが考えら れる。この影響のため、パイルアップの前方と後方では読み出されるピークの位置も若干変化して しまい、そのシフト量は0.56± 0.05 keV程度である。また、前方パルスから読み出される60Co の1.33 MeVピークのエネルギー分解能は2.7 keVであり、後方パルスに対しては3.2 keVであ

る。このことからも、後方パルスに対する補正が完全ではないことが分かる。しかし、前方パル スに対しては分解能が劣化していないことより、ベースラインは正しく見積もれていると考えら れる。

Energy [MeV]

1.3 1.35 1.4

Counts / 1 keV

1 10 102

103 Pulse

Front Rear No Pileup

3.39 パイルアップの前方パルスと後方パルスのスペクトル(ベースライン固定)。図3.38 に示すように、パイルアップするパルスを前方と後方に分けて、それぞれから読み出されるスペ クトルを表示したものである。黒色で表示されるのが前方パルスに対応するものであり、赤色 で表示されるのは後方パルスに対応する。また、緑色で表示されるのは、偶然記録されたパイル アップしていない場合のパルスに対応する。

ベースラインを含めてフィッティングした場合

図 3.40にベースラインパラメータをフリーパラメータとしてフィッティング解析した場合 に読み出されるエネルギースペクトルを載せる。黒線で表示されるものがパイルアップ分離前

(PHADC方式)であり、赤線で表示されるものがパイルアップ分離後である。緑色は比較用に記

録した973U UHAの波形データから読み出されるスペクトルである。黒色と緑色で表示されるス

ペクトルは解析方法(PHADC方式)を変えていないために、図3.37と同じものである30)。表3.8 は、ベースラインを含めてフィッティングした場合に読み出される60Co 1.33 MeVピークに対す るエネルギー分解能とピーク量である。これは、表3.7と比較して、FIT方式の分解能のみが劣化 している結果となっている。

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