はじめに
これまで、男性主導型社会の現状を歴史的、文化的に考察し、男性の持つさまざまな「力」
と、力を発揮するために必要な「リーダー」というポジションについて、男性性との関わ りを通して検討してきた。これらの検討により、男性主導型社会における個人的、組織的、
また社会的な弊害が具体的に抽出されたものと思われる。このような現状は、将来的に組 織や社会がよりょく機能し、継続していくためには非男性主導型の組織や社会の運営の必 要性を示唆するものである。
本章では、第1節において日本的な組織構造と運営の実際について検討するが、当然、
日本人の持つ心理傾向や行動特性の傾向を抽出することも一つの目的としたい。そして、
第2節では、従来の行政と営利組織という枠組みに、さらに非営利型組織を加え、その構 造と運営を吟味することで、新たな主導型や組織運営のあり方を検討する。そして最後に、
第3節においては、非男性主導型の組織や社会、また日本的な組織運営のあり方を検討す ることにより、これからの日本において、西洋的な考え方に敵われない、あくまで日本的 な文化や社会に根ざした組織運営や、男性主導型ではない組織運営が可能であるのかどう かについて考察する。
第1節 日本的組織構造と運営の実際
組織運営を考えるにあたって、組織がよりょく機能するということは、組織の集団成員 の仕事や職場環境に対する満足度が高いことである、と言うことは可能である。これまで 検討してきた事例においても、一言でいうと、集団成員の欲求満足度というものが中心に 捉えられている。組織の機能が、トップリーダーによるものであるという一つの誤解は、
リーダーとリーダーシップの混同という事実から導かれる。組織において、サブリーダー やマネージャーの資質や役割、集団成員の資質や役割の重要性についてはさほど問われて はこなかった。
第2章までの考察の、残された課題として、日本独特の文化や心性が日本社会や日本の 組織のあり方に何らか負の影響を与えているのではないかという問いがある。では、日本 的、あるいは日本人的という特徴が何か存在するのだろうか、もし存在するとした場合、
実際の影響として表面化しているのだろうか、もし表面化しているとしたら、どのような 事象として捉えることができるのだろうか。
例えば、第2章における行政という組織は、タテ社会型の組織であり、またタテ割りの 組織でもある。日本における一般企業においても同じような組織構成をしている可能性が ある。このタテ社会が日本的なものなのかどうか。仮にそうであるならば、それがどのよ うな影響を及ぼしているのかを探らなければならないであろう。また、日本的という場合、
当然のことながら日本の文化的側面も含めて探らなければならないであろう。
まずはインタビュー調査を分析しながら、日本の文化的側面、日本人的心性の問題性を 導き出し、その影響について探ってみたい。インタビューの対象者については、一般の日 本人では、「何が日本的であるか、何が日本人的であるか」という点に関して、いささか気 づきにくいのではないかという懸念から、日本人が意識していない心性や文化を抽出する ためのきっかけをつかむという目的で、外国人と外国に在住していた日本人に対して行う
ことにした。事例1.のインタビューは、長期外国滞在していた日本人女性である。
事例1.26年間アメリカに在住し、4年前に日本に帰国、現在は国際的な女性団体に所属 している60代女性、長野氏に対するインタビューである。尚、氏名に関しては個人 情報保護のため、仮名としている。
《手続き》
質問項目:「男女共同参画や日本人、日本文化について自由に本音で語ってください」とい うメッセージを伝えた。
対
日
直 方
象:在米26年の60代日本女性
時:2007年6月8日、午後1時から1時間。
所:くまもと県民交流館パレア
法:インタビューはデジタル録音機を用いて録音すると同時に、筆記による記述を 併用した。
分析方法:質的内容分析の手法に従い、一文脈ごとの「文脈単位con七extual uni七」に分け、
客観的にコード化、カテゴリー化を行う。また、文脈単位で談話分析による内 容分析を実施し、考察へと導く方法である。
《インタビュー内容》
①熊本に帰ってきて悲しかったことは、「ボシタ祭り」のボシタという言葉を使って はいけないって言われたことですね。どっかの団体からボシタにクレームがつい て、言っては駄目ということになったらしいけど、言葉は文化ですよ。いいにし ろ、悪いにしろ、言われたら止めますじゃ、日本の文化はなくなりますよ。歴史 や語源をちゃんと明らかにして、次の世代にキチンと伝えていくようじゃないと。
②「オナゴ」というと「馬鹿にされた」とか、「いい気持ちはしない」とか言う人が 多いですけど、オナゴも「よかオナゴ」って言われると、いい気持ちがするでし ょ。なんか、言葉だけを取り上げて、いいの、悪いのというのはおかしいですよ。
③男女共同参画も、女性が引っ張っているように見えますけど、足の方を引っ張っ てますよ。男性より女性の方がわがままで足を引っ張ることが多いと思いますね。
女性はドロドロしていて、男性のようにあっさりしてないですよ。
④この前なんか、ある人の選挙の応援をしていたんですが、表向きは応援している
ふりをして、電話とかメールとか、裏では文句ばっかり言ってたりするんですよ。
女性は腹の内を見せませんからね。
⑤女性は、男性を立てるということも大事だと思いますね。最近は自分のことばか りしか考えていない女性が多いんじゃないですか?
⑥アメリカでは男女共同なんて全然意識してないですよ。その人個人の個性を大事 にしますから、そんなことは無理にしなくてもいいんですよ。
《コード・カテゴリー化・談話分析》
①日本文化としての言葉の重要性・言葉の歴史、語源・次世代への伝達
②言葉の意味の重要性・具体例の提示
③ジェンダー・ステレオタイプ
④女性の見方のステレオタイプ・具体例の提示
⑤女性に対する意見・男性を立てる
⑥アメリカにおける個性
《内容分析》
長野氏は、渡米前の日本の文化についての記憶が鮮明であり、日本文化を大切にしなけ ればならないという意識が、日本に住んでいる日本人より強いのではないかという印象を 受ける。アメリカ在住期間が長いため、日本に対する思い入れが強くなるというのは当然 のことであり、日本人としてのアイデンティティは確固たるものがある。例えば、①の「ボ シタ」64に関しては、日本に住んでいると、事情を知っているために口には出しづらい言葉 があるものだが、日本を離れていた期間が長いだけに、簡単に口に出せるようだ。
しかし、長野氏が語っている「言葉は文化」であるという意味は、その国の言語がどの ように成り立ち、どのように変遷していったかという、文化そのものであることを示唆し ている。②の言葉の具体例としての「オナゴ」に関しては、フェミニズム系の女性団体に 属している立場であるにもかかわらず、男性から、まま下に見る言葉であるという捉え方 ではなく、文節としての捉え方を強調し、言葉の意味合いの違いを語っている。まさしく 言葉に関しては、客観的な捉え方をしていると言える。
しかしながら、年齢が60代という年代性によるものも含め、ジェンダー・ステレオタイ プ的傾向が強く、とくに同性である女性に対する嫌悪感が、③の「足を引っ張る」や、「ド ロドロして」という語りや、④における「裏では文句ばかり」や、「腹の内を見せない」な どの語りで表現されている。女性の特性を規定する場合、このような語りによって直接的 に規定できるものでないことは明らかである。なぜなら、身近な出来事に関する感情的な 語りと受け取れる面があるからである。⑤での、「男性を立てる」ことの大切さについての 意見は、感情的というよりも、長年の経験と社会的な刷り込み、もしくは日本人的な特性 の表われとして考えられる。
男性を立てるとはどういうことであるのか。「ソト」において、女性が一歩下がって、遠 慮しがちに、男性の「顔を立てる」ことであり、「面子をつぶさない」ことであり、男性に
「恥をかかせない」ことであろう。このような心性は「恥の文化」65として、日本人の特性 と言えるかもしれない。アメリカ人にも恥は存在すると思われるが、日本人にとってとく に突出していると考えることができる。「恥」という概念は、「ウチ」と「ソト」という場 合の、いわゆる「ソト」である社会に対するものとしての恥であろう。この場合、個人や 家族が問題であるとすれば、個人や家族における「ウチ」は「身ウチ」である。その場合 の「ソト」は一般社会全体であると言えるが、「ウチ」が「仲間ウチ」である場合、つまり、
友人仲間やサークル仲間、職場仲間が「ウチ」である場合、「ソト」はそれ以外の社会であ
る。
また、同じ組織の中においても、「ウチ」と「ソト」を使い分けていうことがある。「仲 間ウチ」だけを考えても、例えば、所属している職場を他者に紹介するような場合には、「ウ チの会社では」という言い方をするが、職場内で他の部署に対しても、「ウチの課では」と いう言い方をする。「恥」という概念は、いずれかの「ウチ」を中心において、その場合の
「ソト」に対するものとしての「恥」であると言える。日本人は、この「恥」をかかない ための、あるいはかかせないための、意思決定や行動の選択をしていると考えることは可 能だろう。これらの点について考察を深めるために、事例2.では来日して3年目の20代中 国人女子留学生宋氏に対するインタビューを検討してみたい。
事例2.中国人留学生、20代女性。尚、自由に語らせる手法をとる点は変わらないが、日 本語が完全でないため、語りの内容に沿って具体的な質問を投げかけた。また、個 人情報保護に基づき、氏名は仮名としている。
《手続き》
質問項目:「男女共同参画面日本人、日本文化について自由に本音で語ってください」とい うメッセージを伝えた。
対
日
話 方
象:20代中国人女性
時:2007年7月23日、午後1時から1時間。
所:くまもと県民交流館パレア
法:インタビューはデジタル録音機を用いて録音すると同時に、筆記による記述を 併用した。
分析方法:質的内容分析の手法に従い、一文脈ごとの「文脈単位contextual unit」に分け、
客観的にコード化、カテゴリー化を行う。また、文脈単位で談話分析による内 容分析を実施し、考察へと導く方法である。