本研究は,高等学校における体操競技部部員のやる気を高める指導法を検討するため,
「やる気」を低下させている具体的要因を明らかにし,これらの要因と,先人によって提 示されているやる気を高める条件(以降r必要条件」と略記)とを対応させながら,rや る気」を高める指導仮説を設定し,これらを体操競技部部員に適用して,その効果を確か めようとしたものである.
まず,1)指導仮説を検討するための事前の調査を行ったが,調査対象は兵庫県下の公 立高等学校6校を選び,各校の体操競技部部員計32人を調査対象とした.なお,これら の選択に際しては,現段階でやる気に乏しく,競技成績も不振を続けている高等学校(H,
Y,1,AKの4校),およびこれらと逆の傾向を示している高等学校(A,H Sの2校)を 取り出した.調査の内容と方法については,部活動に対する各個人の「やる気」の程度を
5段階で問うとともに,その具体的理由を記述させる「部活動のやる気調査用紙(以降,
やる気度調査)」を作成し,これを用いた調査を学校単位で,練習終了後に本調査の説明を 行い無記名で記入させた.これらの結果と「必要条件」を対応させながら指導仮説を設定し
た.
次に,2)作成された指導仮説が「やる気」を高める上で有効かどうかを検証するため,
前述した「やる気」が低く,競技成績が不振であるH,1,Y,AKの高等学校4校のう ちの,H及び1高等学校に指導仮説に基づく指導を4週間実施し,残る2校を比較対照と した.指導効果を確かめるため,指導対象校に対しては,前述した「やる気度調査」及び SM I調査を指導期間前後及び期間中週1回,比較対照校に対しては指導前後に相当する 時期に各々実施した.
本研究で得られた結果の概略は以下のようであった.
1,指導方法の仮説の設定
1)rやる気度」の高い生徒の理由は,一般的にr目標があるから」,r大学へ行きたい」,
「試合で勝ちたい」に関わるものであった.これは,目標とそれを達成するための課 題・内容が明確であり,また,課題・内容を達成している様子をうかがわせるもので あった.これらの成功体験が,困難な課題にもチャレンジする強い意志(高いやる気)
を出現させ,より高次な目標を順次設定しながら,活動していることが認められた.
2)rやる気度」の低い生徒の理由は,一般的に「できない時にはやる気がなくなる」,
「嫌いな種目ではやる気がでない」,「同じことの繰り返しが多いから」であった.こ れは,目標と課題・内容が不明確なまま活動していることによって,「やる気度」が 低下していることを示唆するものであった。
3)「やる気度」が高く,競技成績に優れていても,前述2)に該当する生徒の場合では,
日常の練習場面において,充実感が得られなければ,「やる気」は低下する傾向が認め
られた.
4)上記1)〜3)を基にして,「やる気度」の低い生徒に必要な指導仮説は,「達成可 能な目標の設定」,「目標の明確化」,「目標や運動の価値にっいての理解」,及び,「成 功・失敗の原因理解」,「KRj,を充足させることによって,「成功と失敗のバランス」
をとり,また,技を成功させることによる「自分のカで成功した体験」を満たすこと によって,さらに高次な目標や目的を持たせることが必要であると考えられた.その ため,練習の過程において,個人毎に目標や課題・内容を設定し,VTRや補助,補
助練習を用いてKRを与えることで,成功と失敗の原因を理解させ,次回の試技で行 うべき課題の設定,すなわち,目標と課題・内容を明確にするという指導仮説が設定
された.
2 指導仮説の検証
前述のような指導仮説に基づく指導によって,実際に「やる気度」が高まるかどうか について確かめた.
1)rやる気度」の変化
「やる気度」得点は,指導対象のH及び1高等学校では上昇がみられ,比較対照の Y及びAK高等学校では,やや低下するか,ほとんど変化しない傾向がみられた.
2)「理由」の変化
指導前における,指導対象のH及び1高等学校の理由は,目標や課題・内容が明確 でないことを示唆するものが多かったが,指導後にはこれらが次第に明確になってき たことを示唆する記述に変化した.
3)「やる気」因子における変化
指導対象のH及び1高等学校の「やる気」因子の値は,指導前より指導後で高くな る傾向が認められたが,比較対照のY及びAK高等学校では,指導後でやや低下する 傾向がみられた.これは,前述の「やる気度」の変化とほぼ同様の結果であった.
4)「コーチ受容」因子における変化
指導対象のH及び1高等学校の,指導期間中におけるrコーチ受容」因子は高値で
推移する傾向が認められ,目標や課題・内容を自ら設定できないため,目標と課題・
内容を設定する指導仮説を受け入れていることが認められた.一方,比較対照のY及 びAK高等学校では,2校ともに前述のHや1高等学校より低値であり,また,指導 前後での差異はほとんど認められなかった,
5)「反発心」因子における変化
指導対象のH及び1高等学校の「反発心」因子は,指導前に比べて後でやや高くな ったが,ほとんど変化なく推移した.一方,H及び1高等学校に比べて高値を示す比 較対照のY及びAK高等学校について指導前後を比べると,指導後に相当する時期に は上昇と低下がみられた.
以上,1)〜5)に示した結果,指導仮説に基づく指導は「やる気」を高める可能性 のあることが強く示唆された.しかし,今回の指導対象にみられるような,目標や課題・
内容を設定できない生徒等には有効であるが,生徒自らが目標や課題・内容を設定でき る場合には,むしろrやる気」を低下させることが推定された.
参考文献
1)教育課程審議会(1998)答申等幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学 校及び養護学校の教育課程の基準の改善について:
http:〃www。mext。gojplb_menulshingV12依youiku/toushin1980601.htm#1・4・2・10 2)西田保(1999):動機づけの方法,新版運動心理学入門,大修館書店,73・81。
3)松田岩男・猪俣公宏・落合優・加賀秀夫・下山剛・杉原隆・藤田厚・伊藤静夫(1982):
スポーツ選手の心理的適性に関する研究,第4報,昭和57年度日本体育協会スポー ツ科学研究報告,目本体育協会スポーツ科学委員会
4)吉澤洋二・山本裕二・鶴原清志・鈴木壮・岡澤祥訓・米川直樹・松田岩男(1991):
繰り返し可能な競技意欲検査(SM I),体育・スポーツの心理尺度,不昧堂出版,
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5)Robert N.Singer(1986):スポーツトレーニングの心理学,大修館書店,282・283.
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7)アクセンティチェザレビッチプー二一(1978)1実践スポーツ心理,不昧堂,14・23
謝辞
修士論文を作成するに当たり,未熟な私に対し,懇切丁寧に熱意を持ってご指導くださ いました,荒木 勉 教授には心より感謝申し上げます.
入学以前,定時制高校での指導に行き詰まり,もっと勉強しようという思いで,大学院説 明会へ参加し,相談担当としてお会いしたのが荒木先生でした.当日は自分の思いを一方 的に話したはずなのですが,先生はそのことを記憶されており,入学後もその課題が解決す るよう,授業やゼミにてご指導をいただき,先生の視野の広さと自分の未熟さに改めて気付 く毎日でした.2年間という短い時間でしたが,ここで様々なことを学び,大きく成長でき たように思います.
また,生活・健康系の先生方には,公私ともに大変お世話になりました.簡単ですが,こ こでお礼申し上げます.
最後になりましたが,調査に際し,快く協力をいただきました,関係高等学校の校長先 生はじめ顧問の先生方,生徒のみなさまに心より感謝申し上げます.体操競技部は部員数,
学校数ともに少ないため,生徒を特定できる恐れがあります.プライバシー保護の都合上,
学校名ならびに実名を挙げての御礼ができないことを残念に思います。
平成17年12月20目
松 谷 昌 典