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本章では、既往文献等の情報を整理するとともに、事業者へのヒアリングから得た 情報を加えて、今後ASEAN地域への進出を考えている日系物流事業者の意思決定に 資する調査研究となるよう情報を取りまとめる。

まず、タイ+CLM 地域における物流環境を整理し、日系物流事業者がタイ+CLM 地域で事業を行う上での課題(ボトルネック)を抽出した上で、既にASEANに進出 している事業者がそれらの課題に対してどのような対策を講じているかについて整理 する。

4.1 日系物流事業者の事業運営における課題

ASEAN、特にタイ+CLMは今後も荷主事業者の国際分業による貨物量の増加が予

想され、日系物流事業者にとって魅力的な市場である。そのため、タイ+CLM への 事業展開においてどのような課題があり、どのような解決策が考えられるかを整理し ておくことが、当該地域に進出する日系物流企業の事業成否に大きく影響すると考え られる。そこで本章では、既にタイ+CLM で事業を行っている日系物流事業者にヒ アリングを実施した結果を用いて、今後、タイ+CLM 地域に進出する際に参考とな る事業運営上の課題や課題を解決するための取り組みを整理した。

(1) 既往文献に基づく日系物流事業者の事業運営上の課題

タイ+CLMで物流事業を展開する際の事業運営上の問題点に関するヒアリングを 実施する前に、主に以下の4つの文献を参照し、ASEAN地域において日系物流事業 者が抱えている課題を整理した。

① 2011 年3月 国土交通省総合政策局「平成 22年度 東アジアにおける物流ネットワー クに関する事業」

本事業では、「東アジアにおけるサプライチェーン及び物流ネットワークに関する分 析」、「地域産業クラスター間のサプライチェーンの分析」、「物流ネットワーク分析・

予測に基づく経済社会インフラ整備における課題の整理」を行い、東アジアにおける 物流の現状を整理した上で、抽出された課題に対する我が国の国際協力を検討した。

調査対象国をメコン地域(タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス)とし、各国に物 流サービスを展開している物流事業者、工場を立地させている製造業等の荷主、関連 業界団体に対して行ったヒアリング調査及び文献調査の結果を踏まえて、メコン地域 における日系企業の抱える物流面での課題を、大きく以下の 4つに分類した。

 交通インフラに対する課題(キャパシティの拡大、港湾機能強化、道路網の拡 充)

 輸送の品質に関する課題(荷痛み、盗難、物流コスト)

 通関手続きに関する課題(所要時間、担当者による対応の違い、受付時間、国 ごとの制度の違い)

 その他制度上の課題(車両の相互乗入、突然の制度変更等)。

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また、課題の解決に向けた施策を次頁の図のように整理し、各施策について、我が 国としての関与方法を取りまとめた。

図 4-1 日系企業が指摘しているメコン地域の物流面での課題

② 2013年6月 日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部アジア大洋州課

「ASEAN・メコン地域の最新物流・通関事情」[44]

本報告書は、ジェトロが2013 年1 月~3 月にかけて、アジア主要国(シンガポー ル、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム)に進出している日系物流事業者、

船会社及び荷主(製造業)に対しインタビューを実施し、域内の物量の動き、主要港 間のコストと時間、通関事情、港湾事情等について調査した結果を整理したものであ る。

上記主要国各国における物流環境の現状と課題については、大きく以下の3つの視 点から、インタビューをもとに、課題を具体的に整理している。

 通関手続き

 港湾事情

 ASEAN域内物流ハブ機能

また、バンコク~プノンペン(南部経済回廊)とハノイ~南寧(東西経済回廊)を 実走し、道路事情等について最新情報を収集した。これらに、実走したルート以外の 主要ルートも含めて、現状と課題及び実際の利用事例について紹介している。陸上輸 送における道路インフラ及びソフト面の課題は、以下のように整理されている。

課題 課題解決に向けた施策

①交通インフラに対する課題

②輸送の品質に関する課題

③通関手続きに関する課題

④その他物流事業を行う上での制度上の課題

港湾や道路についてのキャパシティ拡大

港湾機能の強化

道路網の拡充 等

ASEAN各国の通関制度などの 法制度の簡素化・統一

キャパシティビルディング インフラ整備(道路、港湾、

空港の拡張、機能向上)

荷痛みの発生

盗難の発生

物流のコスト高 等

通関に要する時間の長さ

担当者による対応内容の違い

車両の相互乗り入れ不可

突然の制度変更 等

通関のコスト高

対応時間の短さ 等

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表 4-1 メコン地域の陸上輸送における道路インフラ及びソフト面の課題

分類 課題

南部経済回廊 車線の複線化

カンボジア・コッコンからチャムカルオンまでをつなぐ国道 48 号線の整備

ネアックルン橋の早期建設

タイ国境からダウェイまでのアクセス道路の整備 東西経済回廊(ラオス・

ベトナム部分)

車線の複線化

道路・沿道の整備 東西経済回廊

(ミャンマー部分)

車線の複線化

ミャンマー側国境ミャワディ~パアン間の道路整備 ソフト面 通関のシングル・ウィンドウ、シングル・ストップ化

通関手続きの効率化、通関関連コストの削減

国境における税関開庁時間の延長

各国間車両の相互乗り入れ許可の拡充

③ 日本機械輸出組合 貿易・投資円滑化ビジネス協議会

「2013年度各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望」[45]

「貿易・投資円滑化ビジネス協議会」は、日本企業が貿易相手・投資先国である世 界各国・地域統合において直面している障壁に関するアンケート調査(2013 年1 月 実施)の結果を取りまとめている。当アンケートにおける、問題点と要望の区分は以 下のとおりである。

表 4-2 「貿易・投資円滑化ビジネス協議会」の問題点区分一覧

1. 外資参入規制 14. 税制 2. 国産化要請・現地調達率と恩典 15. 価格規制 3. 輸出要請 16. 雇用

4. 撤退規制 17. 知的財産制度運用 5. 部品産業政策上の規則 18. 技術移転要求

6. 外資優遇策の縮小 19. 工業規格、基準安全認証 7. 外資法運用手続 20. 独占

8. 投資受入機関の問題 21. 土地所有制限

9. 輸出入規制・関税・通関規制 22. 環境問題・廃棄物処理問題 10. 自由貿易地域・経済特区での活動規制 23. 諸制度・慣行・非能率な行政手続 11. 利益回収 24. 法制度の未整備、突然の変更 12. 為替管理 25. 政府調達

13. 金融 26. その他

結果は国別に細かく整理されており、詳細内容については割愛するが、ASEAN及 びタイ+CLMについて指摘された課題は以下のとおりであり、全体と同傾向ではあ

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るものの、「9.輸出入規制・関税・通関規制」が突出していることと、「16.雇用」が次 点であることは、特徴的である。

図 4-2 ASEAN及びタイ+CLMにおける貿易・投資上の問題点

④ 国土交通省 国土交通政策研究所

「中国に進出している中小物流事業者の実態に関する調査研究」[46]

本調査研究の対象は、著しい経済発展を背景に物流需要が増加し続けている中国 である。今後中国への進出を考えている物流事業者、特に中小物流事業者が進出を 検討する上で参考となる情報が体系的に整理されていないという問題意識に基づき、

中国市場においてサービスを展開する日系中小物流事業者の事業実態をヒアリング 及びアンケートによって把握し、その進出から事業拡大に至る成長プロセスやそれ ぞれの成長段階における経営機能の充足方策、組織のマネジメント手法等の観点か らその特徴を分析してとりまとめた。結果の要旨は以下のとおりである。

 既存荷主の中国進出を機会に進出する傾向が強い。荷主の進出に合わせて自社 にないサービス・機能を備え、荷主に自ら売り込んで進出するケースもある。

 進出時に必要な経営機能としては、現地パートナー、駐在員のリーダーシップ、

優秀な中国人社員の確保を挙げる事業者が多い。また、現地パートナーとの提 携のメリットとして、多岐に渡る経営機能を提携先から吸収すること等があげ られている。一方、提携のデメリットとして、中国事業の位置づけが合弁先と 異なることで思うような意思決定ができない部分も存在する。

 事業拡大にあたっては、既存荷主の要望にきめ細かく忚えることにより、担当 工程や取扱量の拡大を図る例が多くみられた。

 事業の経過とともに日本人スタッフの担当する業務が社内マネジメント的役 割に集約される傾向にある。

 組織運営上の重要なポイントとして、「優秀な中国人社員の確保」を指摘する 事業者が多くみられた。

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ミャンマー ラオス カンボジア タイ ASEAN

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