第 2 章 :ドビュッシーが校訂したショパン全集における指使いの特徴
2.2. 筆者が比較対象とする校訂版
33 とドビュッシー校訂版の指使いを比較し、考察する。
34 各版で指使いの表記の仕方が異なるため以下に示す(表2-2)。原典版という概念が生ま れる以前の校訂版は、ショパンのものと校訂者のものとを明確に区別していない傾向にあ る。
表2-2 指使いの記載方法の分類
ショパンの指使いと校訂者の指使いは異なった字体を用い厳密に区別して記載しているもの 10.Pa(練習曲)、11.H(練習曲・夜想曲)、12.Ek(練習曲・夜想曲)
ショパンの指使いと校訂者の指使いを区別せず同列に記載しているもの 1.FE, 2.GE, 3.EE, 4.Ma, 5.Pe, 6.Mi, 7.B, 9.Co, (練習曲・夜想曲) 10.Pa(夜想曲)
3 つの初版においては指使いの記載は少ない。3 つのうち比較的指使いの記載の多いイ ギリス初版では、それぞれの指に対応する指番号が異なる(資料①)。17 世紀中頃からの イギリスの指番号は現在の大陸式指番号とは異なり、+、1、2、3、4を使っており、資料
②73のような指使いの表記を用いていた。ショパンの時代でも、引き続き採用されていた。
資料①では、2拍目のハ音と変イ音の重音に対する「4.1」は、現在の「5.2」の指使いにあ たる。「+」は、第1指である。
資料①イギリス初版の練習曲作品10-10冒頭
(1835–36(London:Wessel & Co..))
73岳本(2002:53)
資料②イギリスの指番号 岳本(2002:53)参照
35 5.Pe と7.B は、ドビュッシーが参照したことが確実にわかっている版という理由から 取り上げる(本論第1 章参照)。この2 つの版との相違点が見つかった箇所はそこからド ビュッシーのなんらかの意図を読み取ることができると考える。
6.Mi は校訂者のミクリがショパンの直接の弟子だったことから、また、ショパンの正 統的系譜として一時代前にはよく使われており 、ショパンの考えが他の版より反映され ていると推測されるため、間接的にドビュッシーとショパンの相違点を探ることが可能で あると考える。
10.Pa は、ドビュッシーが校訂した以降に出版された楽譜だが、これまで日本において
広く流布し、多くのピアノ学習者が使用している版である。現代のピアニストが多く用い ているであろう指使いとドビュッシーのそれとを比較することは、ショパンの奏法に新た な視点を見出すことになろう。
原典版と銘打って初めて一般化した11.H と、その後に出版された原典版である12.Ek も比較対象とする。12.Ekは、弟子の楽譜の書き込みにある運指などが全て分類して書か れているという点と、3 つの初版の違いについて言及している唯一の原典版として取り上 げる。これらは確実にショパンのものと比較できるし今日広く流布している版ということ も比較対象とする理由である。
ドビュッシーのパリ音楽院での直接の師である4.Maも対象とする。ドビュッシーが音 楽院時代に師事した先生の版ということから対象とした。比較してみると、相違点が多く、
ドビュッシーが参考にしている可能性は低い様に思われる。
これらの版を用いて、次節では12の版を比較する。
36