家畜市場は,家畜の取引(購買及び販売)を行う場所として全国の都道府県に設置されている。そ の取引状況(取引頭数,取引価格等)は,広く公表されており,家畜取引に当たっての適正な価格形 成に寄与している。
家畜市場に対する法的規制は,家畜取引法(昭和31年 6 月法律第123号)により,家畜市場等にお ける公正な家畜取引及び適正な価格形成を確保するために必要な最小限度の規制として,開設者は,
家畜市場の開催日には,当該家畜市場に獣医師を配置し,家畜取引の当事者の要求があるときは,い つでもその獣医師に家畜が疾病にかかっているかどうかの検査を行わせなければならないとしてお り,これらの家畜市場において,家畜取引が公平,適正に行われるためには,健康な家畜が取引され ることが大前提とされている。
一方,家畜市場の家畜衛生対策に対する法的規制は,家畜伝染病予防法(昭和26年 5 月法律第166号)
により,毎年定期に又は100日以上開催する家畜市場にあっては,家畜診断所,隔離所,汚物だめそ の他特定疾病又は監視伝染病の発生を予防するために必要な設備を備えなければならないとし,家畜 診断所,隔離所及び汚物だめの設備基準は示されているものの,家畜伝染病の発生を予防するために 必要な施設の基準及び家畜伝染病の発生を予防するために講じるべき措置内容については,明示され ていない。
このため,家畜市場の家畜衛生対策を実施するために必要な設備の整備状況及び家畜衛生対策の実 施状況については,家畜市場間において格差があるとともに,家畜市場の家畜衛生対策の実施の面か ら改善をする場合においても,その方向を示す基準がなく,専ら家畜市場の自主的な改善策によらざ るを得ない状況である。
今回の調査事業においては,家畜衛生対策に係る家畜市場の現状を把握し,問題点を踏まえた上で,
今後における家畜市場の改善方向については,家畜衛生対策を比較的前向きに実施している家畜市場 の例を示すことに止め,一律的に,家畜伝染病の発生を予防するために必要な施設の基準及び家畜伝 染病の発生を予防するために講じるべき措置内容ついては,別の機会に譲ることとした。
1 最新情報の把握措置
家畜市場は,生体流通の中心であり,その開催の可否は,周辺地域における家畜伝染病の発生状 況に左右されるとともに,家畜市場への病原体持ち込みを防止するためにも家畜伝染病発生地から の家畜搬入を拒否できるようにすることが必要である。このため,家畜保健衛生所からの家畜伝染 病発生情報が随時,伝達されるようにするとともに,家畜保健衛生所から提供される情報を必ず確 認し,確認したことを記帳することをシステム化する。
畜市場から退出する際にも車両消毒の実施を義務付ける。
⑴ 車両の消毒
家畜市場の出入り口において,車両消毒装置,消毒槽,消毒機器又は消石灰路面散布などによ り車両の消毒を行うことを義務付ける。
⑵ 人の消毒
家畜市場の出入り口付近に,人体用の消毒液噴霧装置,踏込消毒槽,消毒液マットなどを設置 し,家畜市場に立入る者の消毒を行うことを義務付ける。
⑶ 衣服・長靴の消毒
家畜市場に出入りする者の衣服,長靴は,可能な限り市場専用の衣服,長靴を着用するように 協力を要請する。市場専用の衣服,長靴の着用が困難な場合には,消毒その他の措置を講じる。
⑷ 家畜の消毒
家畜市場に出入りする家畜は,可能な限り消毒機器による畜体消毒を義務付ける。義務化する ことが困難な市場又は家畜市場からと畜場に直行する家畜にあっては,家畜に付着した糞等の汚 れを取り除いて搬入するように協力を要請するとともに,農家における出荷時の健康観察の徹底 を義務付ける。
(参考事例)
家畜保健衛生所の協力を得て,家畜市場の開催日に車両消毒,踏込み消毒槽の設置,車両運転 手の長靴底の消毒等を行っている市場がある。また,家畜保健衛生所が開催日に動力噴霧器によ る車両消毒を実施したり,年に一度,防疫演習の一環として家畜保健衛生所の協力を得て家畜市 場内の消毒を実施している事例がある。
3 衛生(防疫)対策施設,設備等の整備
家畜伝染病予防法において,その施設,設備の設置が義務付けられている家畜診断所,隔離所,
汚物だめについては,既存の施設,設備の機能保持に努めるとともに,管理マニュアルの制定,実 践に併せて,必要とする施設,設備と兼用することにより,衛生(防疫)対策の実効をあげる。
新たに整備を行う場合は,設置経費だけでなく維持管理経費を含めて,費用対効果を考慮して行 われなければ,後年経営上の大きな負担となるため,他の必要な施設との兼用が可能となるように 行う。
(参考事例)
隔離所として独立した建物がない市場では,隔離が必要な家畜が発見された場合,けい養場所 の一画をビニールシート等で遮蔽して対応する事例がある。
4 野生動物等からの病原体の感染防止
家畜市場において,家畜の排泄物,野鳥等の野生生物からの排泄物等による病原体の汚染を防止 するために,可能な限り家畜市場への野生生物の侵入防止措置,ネズミ等の駆除を行うとともに,
家畜市場の定期的な及び市場開催前における洗浄,消毒を行う。
5 衛生(防疫)対策マニュアルの整備
家畜市場における衛生(防疫)対策を実践し,家畜伝染病を「持ち込まない」,「持ち出さない」
ためには,家畜市場における衛生(防疫)対策に係る施設,設備のハード面の整備とともに,その 機能を維持・管理及び衛生(防疫)対応を実践するためのソフト面を整備することが重要である。
衛生(防疫)対策のマニュアルとしては,①施設,設備の管理マニュアル,②来場者に対する消 毒マニュアル,③病気,伝染病発見時の対応マニュアル,④職員,来場者に対する研修マニュアル 等があげられ,これらを家畜市場の関係者全員が日常的に実践することが重要である。
⑴ 施設,設備の管理マニュアル
施設,設備をその本来の機能を発揮させるために,日常的に行う保守管理の事項を定めるとと もに,担当職員の不在時における対応策,緊急連絡先を明記し,周知を図る。
⑵ 来場者に対する消毒マニュアル
病気の家畜や病原体を持ち込まないために,家畜,車両,人に対する消毒を実施(踏込み消毒 槽等の設置場所,箇所数)し,これらの効果を高めるために来場者に対しても消毒に対する協力 を掲示,パンフレット等で求める。また消毒に使用する薬品についても年度当初に経費として予 算に計上する。
⑶ 病気,伝染病発見時の対応マニュアル
家畜搬入時の健康確認で病気の家畜,家畜伝染病(特に口蹄疫)が発見された場合の対応方策
(緊急連絡先である家畜保健衛生所,家畜市場の開設者等の電話番号を含む)と担当職員の指名 を行い,役割分担を明確にする。また,国・県の防疫指針や家畜保健衛生所の指導,協力を得て 家畜市場において防疫演習を行う。
(参考事例)
道府県の畜産課,家畜保健衛生所が定めた防疫マニュアルに準じて市場の防疫マニュアルを制 定している事例がある。
(参考事例)
家畜保健衛生所の職員を講師として,市場内で組合員,職員を対象とする研修会を開催してい る事例がある。