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本研究では、金ナノ粒子を基盤とした、水中のアニオン種を簡易検出する指示薬の、

二つのコンセプトを提唱した。これにより、ユニバーサルなアニオン分析手法の確立と、

新たな応用分野を創造することを試みた。目的とするアニオンに対して選択的に色彩変 化や蛍光強度の変化を生じる指示薬とするために、アニオン認識能を有する分子(アニオ ンレセプター分子)を金ナノ粒子の表面に修飾すること着目した。開発にあたり、(甲) 金 ナノ粒子表面への、無機アニオンの吸着に伴う静電気的斥力変化を、粒子の凝集状態制 御に利用する手段、および、(乙) 有機アニオンの吸着に伴う金ナノ粒子の蛍光消光を応 用する手段、の2つの手段に大別した。

以下にアニオンレセプター分子自体の示すアニオン認識能と、レセプター分子を金ナ ノ粒子と組み合わせた甲乙2つの指示薬について、得られた結果をまとめた。

アニオンレセプター分子のバルク溶液が示すアニオン認識能について

合成したレセプター分子は、分子骨格の中心にジスルフィド結合を有し、両末端にイ オノフォアであるチオ尿素基を有した、非環状分子である。本分子にジスルフィド結合 を導入した主な理由は、金ナノ粒子の表面にイオノフォアを修飾することであるが、修 飾後に、隣接するイオノフォア同士で相互作用が生じる可能性があり、その寄与につい て予め予測する必要があった。そこで、ジスルフィド結合の最も安定な立体配座が、2

面角90oのgauche型であることに起因して、分子全体が折れ曲がる傾向があることに着

目し、2つの隣接したイオノフォア間に働く相互作用がアニオン認識能に与える影響に ついて、量子化学計算、分光実験の両面から考察した。

量子化学計算により、2つの特徴が推定された。一つ目は、レセプター分子の隣接数 が増えると、オキソ酸が有する酸素原子数に応じた認識能の違いが現れること、2つ目 は、イオノフォア上の置換基の電子吸引性が増すと、イオノフォアと各種のアニオンの 間に形成される水素結合の強さによっては、錯生成エネルギーの小さな配座にポテンシ ャルの鞍点が生じて錯生成定数が小さくなり得ることである。

レセプター分子のアセトニトリル溶液を調製し、上記2点の推定について検証した結 果、イオノフォアが一つだけの分子と比較して、本研究の分子は異なるアニオン選択性 が現れた。具体的には、イオノフォアの数が2つに増えたことで、4つの酸素原子を有す るアニオンよりも、酸素原子数の少ない平面型のアニオンに対して錯生成定数が増加す ることが明らかになった。また、レセプター分子とリン酸二水素イオンの錯生成定数が、

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イオノフォアの電子吸引性の増加に伴って減少することが明らかとなった。これらの結 果は量子化学計算による推定と対応するものであり、ナノ粒子表面に修飾した場合にも 生じうることが示唆された。

(甲) 金ナノ粒子の凝集状態変化を応用した無機アニオン指示薬について

金ナノ粒子の表面へのアニオン吸着を、金ナノ粒子の凝集状態変化に伴う色彩変化に 誘導する手法の開発に取り組んだ。始めに、粒子間の静電気的斥力変化以外に、凝集状 態変化を起こす因子となりうる、疎水性相互作用の影響について検証した。具体的には、

金ナノ粒子の表面に修飾したアニオンレセプター分子とカチオン性分子,

N,N,N-mercaptoundecyltrimethylammonium chloride (TMA)混合分子膜を、金基板に対して同様に 修飾し、基板上に載せられた、リン酸を含む液滴が示す接触角の、濃度依存性を調べた。

結果、接触角のリン酸濃度依存性は現れなかった。この結果を受け、粒子の分散性を決 定付ける主な要因は静電気的斥力であると断定し、後の実験の、アニオン吸着による静 電気的斥力変化の検証を行った。

指示薬の検出感度の、粒子径依存性を明らかにするため、粒子径を大きくした試料の 可視吸収スペクトルを測定した。結果、粒子の凝集に伴って生じる、局在表面プラズモ ン共鳴のカップリングに帰属される吸収帯が、粒子径の大きなものほど長波長シフトす ることを確認した。凝集体の成長が少なくても色彩変化として認識しやすくなるため、

高感度化に繋がることを明らかにした。

アニオンレセプター分子を構成する置換基の電子吸引性の違いと、指示薬の可視吸収 スペクトルの変化に相関性があるかを調べた結果、カチオン性の分子を修飾した表面で あるにもかかわらず、支持電解質として多量に含まれる塩化物イオンに対して500分の 1以下の濃度だけ添加されたアニオンが、粒子の分散性を向上させている組み合わせが あることが明らかとなった。粒子の分散性を向上させるアニオンとレセプター分子の組 み合わせは、アニオンレセプター分子のバルク溶液が有する錯生成能と一定の相関性が あった。具体的には、大きな錯生成定数を示す組み合わせの方が、粒子の分散安定性を 増していた。この特異な現象について、アニオンレセプター分子の層が、TMAにより成 る分子膜の内部に存在する表面モデルを提案した。このモデルを仮定することで、アニ オンがカチオン性の表面の内部へ挿入された際、表面の電位が正に増大しうることを示 した。さらに、分子膜内部のレセプター分子が成す吸着面を議論するために、金ナノ粒

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子の二光子励起に伴う蛍光を測定し、硫酸イオンが分子膜内部に挿入された際に生じる 誘電率変化を、金ナノ粒子の示す二光子蛍光の強度変化として検出できることを明らか にした。この分子膜内部での硫酸イオンの濃縮現象は、アニオンレセプター分子とアニ オンとの間に生じる錯生成エネルギーを駆動力とするもので、これを利用することで、

粒子最外面の電位を間接的に制御できることを明らかにした。

(乙) 金クラスターの蛍光消光を応用した有機アニオン指示薬について

複雑な構造を有する有機アニオンに対応した検出法を構築するため、蛍光消光に基づ く分析法を提案した。具体的には、神経伝達物質の主な最終代謝物として知られる、バ ニリルマンデル酸(VMA)、および、ホモバニリン酸(HVA)の識別を可能とする指示薬の 開発に取り組んだ。

青色蛍光を有する金クラスターの、蛍光スペクトルを測定した結果、VMAが

N,N-dimethylformamide 保護金クラスターの蛍光を大きく消光(70 %)することを明らかにした。

この蛍光消光現象は、光誘起電子移動によるものと考えられる。VMAが金クラスターに 接近する上で立体障害となる、ポリエチレングリコール(PEG)を修飾した金クラスターで は、消光率が30 %まで減少した。さらに、アニオンレセプター分子をPEGと混合修飾す ると、蛍光強度が一定となった。一方で、HVAは大きな消光は示さず、HVA自体の蛍 光が金クラスターの蛍光と重なったスペクトルが得られた。

VMAとHVAが示す、上記の金クラスターの蛍光消光現象の違いは、 (i)金クラスター, (ii) 標的とする有機アニオン, (iii) クラスター表面に修飾したレセプター分子、という三 つの構成要素の、それぞれのエネルギー準位の高さで決まると考えられる。アニオンレ セプター分子の選択性を活かす検出には課題が残ったものの、固-液界面に任意の分子膜 を構築することで、選択性を調節可能な簡易有機アニオン分析法が実現できることを示 した。

以上、本研究では、金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴や、蛍光といった多彩な物 性を応用し、水中のアニオンの簡易・高選択的な検出を実現するための二つの手法を創 出した。今後の展望として、更なる高感度化と高選択性の付与による、バイオマーカー 分析への応用が考えられる。例えば、薬物治療時の代謝生成物を自宅に居ながらにして

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モニタリングし、治療薬の体内濃度を適切に保つ指標とする用途が挙げられる。このよ うに、本研究が、アニオン分析の更なる社会普及のきっかけとなり、生活水準を向上さ せる用途の開拓に繋がれば幸いである。

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