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本論文を通して、プーリア州の都市と地域に空間形成とその構造について、建築や都市の実体として の空間と、特に南イタリアにおいて支配的だった大土地所有制による農場経営という社会的背景をふ まえて、論じてきた。
まず第 1 章は、本論文の目的や方法を提示し、研究の背景や問題の所在、本論文に関連する先行研 究を整理した。
第 2 章では、面的拡大を伴わずに発展した都市について論じた。現在の都市形態の起源を少なくと も中世までさかのぼることができるガッリーポリは陸繋島の都市であり、19 世紀後半まで市街地は 島内に限定されていた。そこで先ず、この都市内の建築類型を抽出し、それぞれの成立時期と立地傾 向の関連性について分析を行った。そのなかで、オリーブオイルの生産と輸出で繁栄し、都市内での 建設活動が活発となる 17、18 世紀に登場したバロック様式の邸宅に注目し、入り組んだ街区の内部 に立地しながらも、表門やバルコニーなどの建物正面の装飾要素が移動する歩行者の視線に対して、
効果的な場所に配置されていることを示した。その一方で、前時代のカラターノ・ドゥラッツェスコ 様式の邸宅は、都市の中央を横断する主要道路沿いに立地していることを指摘し、ガッリーポリにお いては都市空間を大きく刷新するような改造ではなく、既存の都市空間のなかにいかにして新たな建 築を挿入するかが追求されたと考えることができた。
また、プーリア南部によく見られるミニャーノ(mignano)と呼ばれるバルコニーを街路からの 入口に設けた前庭型住宅、共有の中庭を囲む住宅、袋小路を取り囲む住宅の、それぞれの小規模住宅 の空間構成について実測調査による成果を踏まえて、明らかにしている。特に、上下階に別世帯が居 住するという特徴から、地上階での居住が見られ、戸外の空間との繋がりが密接であることを指摘し ている。また、都市の外縁部には同業者による兄弟団(コンフラテルニタ)が献堂した教会が立地し ている一方、主要産業であったオリーブオイルの製油所が都市の中心部に位置する邸宅や公共施設、
教会などの地下に多いことを明らかにしている。
第 3 章は、自然発生的な拡大を展開した都市について論じた。中世初期に起源をもつ都市核を中心 に、部分的な拡大や変容を繰り返しながら、その後の 16 世紀以降に大きく市街地を拡大させたモノー ポリを対象に、それぞれの時期の街区形態と建築的特徴、そして所有形態について分析していた。特 に中世からの地区には袋小路が多く、小規模な住宅が建ち並んでいたが、抽出できた建築類型に分布 の偏りは見られず、新旧の地区においてもその差は認められなかった。むしろ、上下階の居室を同一 世帯が所有するという空間構成は、所有形態、建築形態として合理化され、最適化された結果と言え るだろう。
一方、16 世紀における地区形成は、主に港と広場の整備が中心であり、その空間構造について言 及している。また、都市の中心に邸宅をもつ有力家がオリーブオイルの貯蔵庫や販売所を所有してい たことを明らかにし、モノーポリ周辺における農業生産について注目している。特に、田園部に多く の土地を所有していた騎士団修道会の土地所有台帳を用いて、都市の周辺地域における土地利用状況 を分析し、オリーブが多く栽培されていた実態を明らかにしている。ムルジェ台地上ではぶどうや小
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麦、沿岸部ではオリーブが栽培されており、それが農民の都市内居住を可能にしている点を指摘し、
都市と田園における社会・経済的構造を通して、モノーポリにおけるテリトーリオの空間を明らかに した。
第 4 章は、都市の拡大において街区形成に計画性が認められる都市について論じている。まず、特 徴的な計画的街区形態として、バルレッタにおける 11 世紀の「魚の骨」型街区を示している。そこ での都市組織と建築類型の特徴として各階 1 室のスキエラ型住宅による街区構成を明らかにしてい る。そして、「魚の骨」型街区による地区を含めた、3 段階の市壁の拡張による都市発展が見られる コンヴェルサーノにおいて、都市組織の変容過程を示している。そして、各地区に共通する各階 1 室 型住宅という建築類型を抽出しながら、地上階と上階を分節する手法としての階段のあり方に注目し ている。地上階を家畜小屋や農具の倉庫として使用するという住み方から、コンヴェルサーノのアグ ロタウン的性格について指摘している。
また、修道院が所有していた田園部の農場に関する土地所有台帳から作付けについて分析し、農民 の都市内居住と大土地所有制下での粗放的耕作や不在地主的農場経営との関係性について指摘してい る。特に、ムルジェ台地では、アドリア海沿岸のモノーポリのようなオリーブ栽培の面積が減ってい き、小麦用の耕作地が増えていた。
第 5 章は、都市の存立基盤としての周辺地域における空間形成について論じている。特に、プーリ ア北部のタヴォリエーレ平野における放牧は、いわゆる空間的な行政領域の境界線を超えて行われる 移動放牧であり、ヨーロッパのなかで長い歴史と大きな規模を誇る。そのなかで、制度化された移動 路や冬季放牧租借地内の土地利用について分析し、放牧と農耕の共存していた状況を明らかにしてい る。移動放牧と大土地所有制下での粗放農業を支えているのが山間地の零細農民であることから、タ ヴォリエーレ平野に隣接するガルガーノ山のモンテ・サンタンジェロにおける都市形成と住空間につ いても論じている。そして羊毛業税関の所在地であるフォッジアにとって大規模な放牧による牧畜が 都市成立基盤となっているために、周辺地域には農村集落がほとんど存在せずに、タヴォリエーレ平 野においては、一極集中の地域構造が形成されたことを指摘している。
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以上、本論文で得られた知見から、プーリア州の都市の特質が見えてきたといえる。
まず、地形条件の差異を超えて、都市には貴族や商人などの都市民だけでなく、農民や漁民などの 都市での活動とは直接関係のない職業の者も多く居住していた点である。特に、農民は日雇いや季節 労働が主であったため、日帰りで移動出来る距離の都市内に居住していた。
そして、プーリアにおいては都市の後背地である田園部の耕作形態が、都市の立地傾向と大きく関 係していることが明らかになった。小麦の粗放農業に適した平地の地域タヴォリエーレ平野では、牧 畜と対になっていたが、それは周囲の山岳地からの移動放牧と連関であった。山岳地よりは標高の低 いムルジェ台地でも耕作と牧畜はセットになっていたが、冬に低地へ下りていくほどの寒さではない ために、所有する農地のなかで放牧することができた。さらに、温暖な沿岸地域では収益性の高いオ リーブが栽培された。オリーブは一つの木に多くの実がなるため、小さな面積でも人手が必要となる。
その結果、ムルジェ台地の低地部から沿岸部にかけてのテッラ ・ ディ・バーリ地方には、約 10 ㎞ほ どの感覚で都市が近接して立地している。さらに、沿岸の都市は交易の拠点ともなり、オリーブは主 要な輸出産業ともなっていたのである。このような、都市の周辺域での産業や土地条件が、市街地の なかに建つ建築や住宅、都市空間のあり方を規定するだけでなく、いくつもの都市によって形成され る地域の広がり、つまりテリトーリオを形作るものとなっていることを本論文を通して明らかにする ことができた。
ここで提示した視点は、一都市の形成過程を追う従来の都市史の枠にとどまるものではなく、都市 間の連帯や周辺地域、テリトーリオとの関連のなかで、都市空間の形成を理解するという新たな研究 領域への発展性を提示するものであると言えるだろう。
165 初出一覧
第 1 章 序論
【書き下ろし】
第 2 章 非拡大型都市の発展過程
【書き下ろし】
第 3 章 自然発生的拡大都市の発展過程
【書き下ろし】
第4章 計画的拡大型都市の発展過程
4-2.計画的街区で拡大する都市:バルレッタ
【稲益祐太,南イタリア・プーリア州バルレッタのサンタ・マリア地区における建築類型,『2014 年度日 本建築学会大会(近畿)学術講演梗概集』建築歴史・意匠分冊,pp.133-134,2014.9】
4-3.都市組織の変容過程 4-4.住宅の建築類型
【稲益祐太,南イタリア・プーリア州コンヴェルサーノ市における都市組織と建築類型の形成過程,『民 俗建築』第 148 号,pp.9-16,2015.11】
第5章 移牧と農耕が共存する地域の空間構造
【稲益祐太,移牧と農耕が共存する地域の空間構造に関する研究-前近代における南イタリアのプーリア 北部を事例として-,『日本建築学会計画系論文集』第 82 巻,第 741 号,pp.3023-3030,2017.11】
第6章 結
【書き下ろし】