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本論文では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害に関する臨床的研究を試みた.

まず,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害について概観し,本論文の目的を述べた

(第1章).次に,児童・青年期の気分障害に関する臨床的研究を行い,診断や併存障害,

臨床的特徴,転帰についてまとめた(第 2 章,第 3 章).さらに,気分障害と広汎性発達 障害を併存したことのある中学生に対して,実際に臨床心理学的援助を行い,効果的な支 援について検討した(第 4章).

児童・青年期の気分障害は近年まで稀な疾患であると考えられてきたが,国際的な診断 基準が用いられるようになった頃から,児童・青年期の気分障害は,これまで認識されて いるよりも,はるかに多く存在することが明らかになった.また近年,アスペルガー障害 などの広汎性発達障害に対する関心も,高まりをみせている.児童・青年期の気分障害と 広汎性発達障害はともに近年になってから注目を集めるようになった障害であり,その関 連性については未だ不明なことが少なくない.そこで,本論文では,児童・青年期の気分 障害のうち,大うつ病性障害と双極性障害の症例について,診断や併存障害,経過,およ び転帰について検討することを目的とした.さらに,気分障害と広汎性発達障害を併存し たことのある中学生に対し,筆者が心理相談室の臨床心理士として臨床心理学的援助を行 い,事例研究を通して効果的な支援について検討することを目的とした.

第 2章では,小児科発達障害クリニックの中にある児童精神科外来を受診した児童・青 年期の大うつ病性障害の症例 47 例について,後方視的なカルテ調査を行った.児童・青 年期の大うつ病性障害の併存障害として,広汎性発達障害,不安障害 およびその両者が高 率に併存していた.広汎性発達障害との併存が 55.3%と高い割合で確認され,従来考えら れてきたよりも広汎性発達障害との併存率は高いと考えられた.大うつ病性障害で受診し,

「社会的ひきこもり」の症状をもつ場合は広汎性発達障害や不安障害などの併存障害に注 意して診断を検討する必要があると考えられた.治療期間が「1年以上 2年以内」の場合 に併存障害を有する群が,有意に転帰が不良となったため,併存障害がある場合は1年を 経過しても転帰が不良となりやすいと考えられた.一方,児童・青年期全体の転帰につい て,多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,児童・青年期の大うつ病性障害には,

1年以上の継続的な治療を行うことが,症状の改善に有効であることが示唆された.

第 3 章では,児童・青年期の双極性障害の症例 30 例について,後方視的なカルテ調査 を行った.児童・青年期の双極性障害の症例では広汎性発達障害との併存が 56.7%と高率 であり,児童・青年期の双極性障害の特徴として,広汎性発達障害との強い関連があるの ではないかと考えられた.児童期発症の双極性障害は,広汎性発達障害と注意欠如・多動 性障害の併存が多く見られ,躁病相とうつ病相が混合した経過をたどりやすいと考えられ た.青年期発症の双極性障害は, 不安障害を単独で併存する場合が多く,経過については 児童期と比べて躁病相とうつ病相の区別が明瞭となりやすいと考えられた.

第2章と第3章の結果から,児童・青年期の気分障害には,広汎性発達障害が併存しや すいことが考えられた.第 4章では,実際に気分障害と広汎性発達障害を併存したことが あり,現在は気分障害の症状が改善したが,再発する可能性がある青年期の事例について,

筆者が臨床心理士の立場から臨床心理学的援助を行うことで,気分障害の再発を予防し,

学校適応が高まった経過について事例研究を行った.心理面接は週 1 回,1 時間という枠 組みの中で,2 年間に渡って行われた.独自の心理支援の技法を工夫することによって,

言語とイメージの表現が次第に豊かになっていき,それに合わせるように,学校など社会 的な場面での適応も改善を見せるようになった.

本論文のまとめとして,①児童・青年期の気分障害の診断について,大うつ病性障害の 診断が最も多く認められた.また,双極性障害の診断では,特定不能の双極障害の診断が 最も多くみられた.②児童・青年期の気分障害は,広汎性発達障害や不安障害,注意欠如 ・ 多動性障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.児童・青年期 の気分障害の併存障害の特徴として,大うつ病性障害をもつ症例では,社会的ひきこもり の症状がある場合に,広汎性発達障害や不安障害などの併存障害の存在に特に注意すべき と考えられた.児童期に双極性障害を発症したときは,広汎性発達障害と注意欠如・多動 性障害が併存することが多いと考えられた.青年期に双極性障害を発症した場合は,広汎 性発達障害や不安障害の併存を確認することが望ましいと考えられた.③児童・青年期の 気分障害の転帰については,一定期間の治療を行うことで,半数以上の症例が改善してい た.大うつ病性障害の場合は,1 年以上の治療を継続することが良好な転帰に繋がること が明らかとなった.ただし,治療期間が「1年以上 2年以内」であるとき,併存障害があ る場合は,ない場合と比べて,症状が改善しにくい傾向があることが示唆された.④児童 期発症の双極性障害の経過の特徴として,躁病相とうつ病相が混合した経過をたどりやす いと考えられた.一方,青年期発症の双極性障害の経過は,児童期と比べて躁病相とうつ 病相の区別が明瞭となりやすいと考えられた.⑤気分障害と広汎性発達障害が併存した場 合の実際の支援について,臨床心理学的援助を個人の症状に合わせて行うことによって,

社会適応の改善に繋がる場合があることが示された.

謝辞

本研究は,筆者が北海道大学大学院保健科学院保健科学専攻博士後期課程在学中に,同 大学大学院保健科学研究院生活機能学分野傳田健三教授の指導のもとで行われたものです . 傳田健三教授には,主任指導教員として本論文の全般に渡って,終始一貫して丁寧なご指 導ご鞭撻を賜りました.また,楡の会こどもクリニック児童精神科外来の児童精神科医の お立場から,カルテを眺めながら,一人ひとりの患者様の症状の特徴について懇切丁寧な ご指導をいただきました.傳田健三教授に心より敬意と感謝の意を表します.

社会福祉法人楡の会こどもクリニック院長の石川丹先生には ,当院における研究につい て,多大なるご支援,ご指導を賜りましたこと,厚く御礼申し上げます.また,カルテを 取り扱う際にいろいろとご配慮いただいた看護師や事務職員などのクリニック・スタッフ の皆様に,心より感謝申し上げます.そして,本調査にご協力いただきました患者様,保 護者の皆様に深く感謝申し上げます.

北海道大学大学院保健科学院保健科学専攻の先生方と大学院生の皆様には,リサーチ・

カンファレンスなどを通じて,研究に関する多くの有益なコメントをいただきましたこと,

心より感謝申し上げます.また,統計解析のご指導を賜りました北海道大学病院高度先進 医療支援センター大庭幸治助教に謝意を表します.

事例研究では ,心理相談室のスーパーバイザーとしてご指導いただいた徳田完二先生と 長島明純先生,また,母親面接担当の佐藤至英先生,当時の相談室長の稲田尚史先生,論 文投稿の際にご指導いただいた日本臨床心理士会会長の村瀬嘉代子先生に,心より御礼申 し上げます.そして,事例の公表を快諾してくださったクライエントとお母様に心より感 謝申し上げるととともに,今後のご健勝をお祈り申し上げます.

最後に,院生生活を支えてくれた妻と幼い息子,妻の両親と私の両親に心からの謝意を 記します.

2012年12月26日

文献

第 1 章

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