本研究では、Al-Mg-Si系合金の機械的特性に合金成分と時効条件が及ぼす影 響を系統的に整理し、引張変形中の転位運動に及ぼす影響の観点から、その組 織因子を明らかにすることを目的とした。機械的特性、材料組織および引張変 形中の転位組織の評価を通して、以下の知見を得た。
合金成分および熱処理条件がAl-Mg-Si系合金の特性に及ぼす影響
Mg+Siの添加量が同等で Mg/Si比が異なる Al-Mg-Si合金3種を対象に、溶 体化処理後に293 K、323 Kおよび363 Kで時効処理を施した後の引張特性を 調査した。
<時効処理温度の影響>
・18 ks以上の時効時間での耐力は、293 Kおよび323 Kと比べて363 Kの方 が大きい。また、時効時間の長時間化に伴う耐力増加量は、293 Kおよび323 K
と比べて363 Kの方が大きい。
・時効温度363 Kでは、時効時間18 ks以上の長時間化に伴い均一伸び、降伏
比およびTS-YSといった加工硬化特性が低下する。
<合金成分の影響>
・耐力は、8M7S合金と6M10S合金が同等で、3M13S合金がそれらを下回る。
また、時効処理の長時間化に伴う耐力の増加量についても、8M7S合金と6M10S 合金が同等で、3M13S合金の方が小さい。
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・いずれの時効温度および時効時間においても、3M13S 合金>6M10S 合金>
8M7S合金の順に均一伸びが高い。
・これらの結果の内、耐力の差は、合金組成の Mg/Si 比によるクラスタの生成 量の差に起因するものと推察される。一方で、均一伸びの差はクラスタの生成 量やサイズのみでは議論できない。
Al-Mg-Si系合金における延性と加工硬化挙動ならびに転位組織の関係
自動車ボディパネル材として量産品種である6016合金と6014合金を対象に、
溶体化処理後に363 Kで18 ksの時効処理を施した際の引張特性、材料組織な らびにTEMにより観察される転位の増殖および回復挙動を比較した。
・6014 合金と比べて均一伸び、降伏比および TS-YS といった加工硬化特性に 優れる 6016 合金では、引張変形中の加工硬化率の減少が緩やかであったため、
転位の動的回復が緩やかに進行すると推定される。
・引張変形途中の転位組織は、6014合金では転位の交差すべりおよびセル化が 変形初期から頻発するのに対し、6016合金は、{1 1 1}面に平行な直線状の転 位増殖が支配的であり、変形後期には{1 1 1}面に平行なバンド状の転位組織 を形成された。そのため、6016合金では転位の交差すべりの抑制により、動的 回復が抑制され、高ひずみ域まで高い加工硬化率を維持すると考えられる。
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Al-Mg合金およびAl-Si合金の溶質濃度が機械的特性と転位組織に及ぼす影響
アルミニウム中に固溶するMgおよびSi元素が引張変形中の転位の増殖およ び回復挙動に及ぼす影響を解明するために、0.3%~1.6%の濃度範囲での溶質高 濃度化の影響をAl-MgおよびAl-Si合金で比較した。
・固溶量の増加に伴い、均一伸びはAl-Mg合金では低下し、Al-Si合金では増加
した。Al-Si合金では、固溶量の増加により引張変形後期の加工硬化率が高くな
るため、塑性不安定の発現が遅延化される。
・引張変形後期の真ひずみ0.15において、Al-Mg合金では局所的な転位の集積 が生じたのに対して、Al-Si合金では均一な転位の分布が観察された。
・溶質元素の固溶によって、積層欠陥エネルギーの低下が作用し、変形後期の 動的回復を遅延することで高い加工硬化率を維持し、均一伸びを増加させると 考えられる。アルミニウム中への固溶による積層欠陥エネルギー低下の効果は、
Mgと比べてSiの方が大きいため、Al-Si合金の高濃度化に伴う均一伸び増加が 生じたものと推察される。
Al-Mg-Si系合金のプレス成形性向上のための組織制御指針
本研究を通して、自動車ボディパネル材として量産されるような成分(溶質
濃度約1.5 mass%以下)、かつ363 K以下の低温で予備時効処理や室温保持を施
された調質においては、アルミニウム母相中に固溶するMgおよびSiの濃度が 加工硬化特性に大きく影響を及ぼすことが示唆された。実用を考慮する場合は、
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強度、他特性を満足する必要があるものの、プレス成形性の指標となる均一伸 び、降伏比およびTS-YSといった加工硬化特性を向上させるためには、合金成
分のMg/Si比を低くすることが有効な手段の一つであると考えられる。
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謝辞
本論文は、筆者が九州大学大学院工学府に在籍した間の研究成果をまとめた ものである。
九州大学大学院工学研究院 金子賢治教授には、本論文の主査を引き受けて いただいた。筆者が博士後期課程に編入学してから、数々のご指導とご鞭撻を いただいた。投稿論文や本論文の執筆に際しては、筆者の拙い文章を丁寧に修 正いただき、実験データの採取方法や考察に関しても、数々の貴重なご意見を いただいた。数多くの御恩に、心より感謝申し上げます。
九州大学大学院総合理工学研究院 中島英治教授には、本論文の副査を引き 受けていただいた。また、同氏が数多くの研究成果を挙げられた、アルミニウ ム合金の転位組織と時効析出組織の相互作用に関する研究論文は、本論文を執 筆するにあたっての動機付けのみならず、考察を行う上での先行研究としても 大いに参考させていただいた。また、予備審査会においては貴重なご助言をい ただき、本論文を完成させることができた。心より感謝申し上げます。
九州大学大学院工学研究院 土山聡宏教授には、本論文の副査を引き受けて いただいた。また、同氏が数多くの研究成果を挙げられた、転位組織と加工硬 化に関する研究論文は、本論文の考察を行う上での要素技術として大変参考に させていただいた。また、予備審査会においては貴重なご助言をいただき、本 論文を完成させることができた。心より感謝申し上げます。
九州大学大学院工学研究院 寺西亮准教授、佐藤幸生准教授には、ゼミ発表 の場において、研究を推進する上で貴重なアドバイスをいただいた。また、筆 者が受講した大学院での講義では、電子顕微鏡を用いた組織解析の基礎的な原 理から実験への応用まで、丁寧にご指導をいただいた。心より感謝申し上げま
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す。
研究室の先輩であり、本研究の共同研究者である前田拓也氏、向隼平氏(現:
日立システムズ)には、電子顕微鏡を用いたデータ採取において多大なご協力 をいただいた。筆者の電子顕微鏡の操作スキルがなかなか上達しない状況下に おいても、根気強くご指導いただき、論文に掲載できるようなデータを採取す るレベルに至ることができた。心より感謝申し上げます。
研究室のメンバーである越智実氏、安井博哉氏、難波拓哉氏には、電子顕微 鏡でのデータ採取をはじめ、一部のサンプル調製においてもご協力いただいた。
また、同氏らの研究に取り組む姿勢は、筆者の研究に対するモチベーションを 高めてくれた。心より感謝申し上げます。
会社の上司であり、本研究の共同研究者である株式会社神戸製鋼所 有賀康 博博士には、筆者が博士課程に編入するきっかけを作っていただいた。本研究 を進めるにあたって、行き詰る場面があった際には、大変有益なアドバイスを いただき、研究を前進させることができた。また、投稿論文や学会発表の準備 には、ご多忙にもかかわらず相談に応じていただいた。心より感謝申し上げま す。
株式会社神戸製鋼所アルミ銅事業部門の方々には、本論文に用いた供試材の 造塊試作から、数多くの試験データ採取にご協力いただき、筆者の研究を円滑 に進めることができた。心より感謝申し上げます。
筆者の会社における所属部署である株式会社神戸製鋼所技術開発本部材料研 究所の上司をはじめ、同僚の方々には、筆者の社会人博士の取組みに大いに理 解を示し、時には業務負荷を勘案いただくなど、全力でサポートいただいた。
また、開発業務部 試作実験室の方々には、本論文を作成するにあたって、試 料調製や試験データ採取の面で多大なご協力をいただき、研究を円滑に進める