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本稿では, 年代の S&L 危機および 年のサブプライムローン 危機への対応をめぐる近時の米国での議論から,規制当局が規制を先送り にする制度的要因として,規制監督体制や金融機関の破綻処理の枠組みに 関する構造的な問題について検討してきた。

S&L 危機で明らかになった規制の先送りへの対応として,FDICIA によ り,銀行や貯蓄金融機関といった預金金融機関を対象とする PCA の制度 が導入されたのに対し,サブプライムローン危機におけるドッドフランク 法によるそれでは,OTS の廃止や CFPB の設置等により不公正な取引を 野放しにして不適切な規制環境を創造してきた既存の規制監督体制にメス が入るとともに,ER が PCA に機能的に類似する早期介入制度として導入 されたり,FSOC や OLA を通じてノンバンク金融会社や大規模な銀行持 株会社を対象とした新たな規制監督体制の構築や破綻処理の制度整備が行 われたりするなど,特定の金融セクターを軸に展開されてきたこれまでと は大きく異なる対策対応が講じられている。もっとも,多くの学説で指 摘,懸念されているように,PCA や ER といった自己資本比率等の数値基 準に依存するだけの対策対応には発動すべき措置のタイミングや人為的操 作の可能性等の点から限界があることや,FSOC や OLA に見られるよう に政治的影響力の拡大と複雑化・重層化した制度的枠組みのなかではその 本来の目的や合理性,期待される機能と相反する規制が行われるおそれが あることに鑑みると,金融危機の度に拡大・強化が繰り返されてきた米国 の規制ですら,その先送りが指向されうる構造的な問題があることは明白 であるといえる。結局のところ,このことは,規制が強化されたり,新た

! 川本裕子「りそな銀行への公的資金注入の課題」法学教室 号 頁( 年)

は,りそな銀行に対する公的資金の投入について,資産査定もなく第 号措置が講じ られたことを疑問視するとともに,実のところ同行の経営状態は悪く,整理すべきで はなかったのかと指摘する。

な規制がかけられたりすれば,それで問題が解決されるわけではなく

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,ど れほど優れた制度なり仕組みなりが用意されても,「規制する側」が忠実 にその職責を果たす能力やインセンティブを持たなかったり,それとは逆 の選択をするか,またはそうした行動を取らざるを得ないような状況に置 かれたりする場合には,規制権限・監督権限を適切に行使しなかったり,

これを控えたりすることで,規制そのものが有効に機能しない可能性があ ることを如実に表しているように思われる。

もとより本稿は,米国という つの国の,規制監督体制や破綻処理等の 制度的枠組みのなかでもごく一部の内容を対象とした検討にとどまるもの であり,また規制そのものがその国の経済情勢や産業構造,国民性を色濃 く反映していることを踏まえれば,米国の金融監督規制における先送りの 問題とそれをめぐる議論が直截にわが国における金融機関の規制のあり方 に何らかの影響を与えたり,具体的な変更や変容を迫ったりするものでは ない。しかも,バブル崩壊後も長きにわたり不良債権による後遺症と経営 危機に苦しんできたわが国の金融機関の破綻は,戦後初めてのペイオフ 発動の事例として平成 年 月に破綻した日本振興銀行を最後に発生し ていない

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。したがって,わが国における規制のあり方を考える上で,米 国におけるこうした問題は杞憂なのかもしれない。とはいえ,本稿でも 検討したように,わが国の早期是正措置,危機対応制度および金融機関 の秩序ある処理のいずれにおいても,「規制する側」によるそれぞれの

! ジョージタウン大学ローセンターのAdam J. Levitin教授も,過去に何度も規制当 局が積極的に措置を講じることなく金融システムにリスクを拡大させてきた経緯か ら,金融規制における現実の課題は,例えば,正確な所要自己資本の額(precise amount of capital required)のような技術的内容の欠点を補って完全なものにすること にあるのではないと指摘している。Levitin, supra note , at .

! 平成 年 月末時点の全国銀行(都市銀行・旧長期信用銀行・信託銀行・地方銀 行) 行の不良債権(金融再生法開示債権ベース(破産更生等債権・危険債権・要 管理債権))残高は 兆 , 億円で,正常債権 兆 , 億円に占める割合は

. %であり,平成 年 月期 .%および平成 年 月期 .%と比較して,減 少傾向で推移している。金融庁「平成 年 月期における金融再生法開示債権の状 況等(ポイント)(表 金融再生法開示債権等の推移)」( 年)。

目的に沿った運用が必ずしも法的には十分に確保されているわけではな い。それどころか最近では,金融庁が,法令や検査マニュアルの遵守だけ でなく,融資方法等の検証を通じてより優れた業務運営(ベストプラク ティス)を促す方針

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を打ち出して,金融機関に対する影響力を強めつつあ る。このように,金融機関の経営において「規制する側」と「規制される 側」との間の距離が必然的に近くなるなかで,金融機関が経営危機に直面 したとき,わが国の規制当局だけが「規制する側」として躊躇いなく忠実 にその職責を果たせると言い切れるのであろうか

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。金融機関にコントロー ルを加えるだけの規制の拡大・強化ばかりでなく,規制権限・監督権限の 行使を通じて金融機関の経営に大きな影響を及ぼすことができる規制当局 への規律付けを検討することが考えられてもよいのではないであろうか

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。 わが国の金融規制においても,「規制する側」の行動に歪みが生じるよう

! 金融庁が 年間の監督・検査方針をまとめた金融モニタリング基本方針において,

借手企業の事業内容や成長可能性に基づいて融資や助言を行い,企業や産業の成長を 支援する「事業性評価に基づく融資等」を重点施策の つに掲げ,さらに具体的なモ ニタリングの取組みとして,金融機関との対話を通じてより優れた業務運営(ベスト プラクティス)に向けた経営改善を促す方針が打ち出されている。金融庁「平成 年事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」 頁以下( 年)。

! 池尾和人「信用秩序の維持と銀行規制」堀内昭義編『講座・公的規制と産業⑤金融』

頁以下(NTT出版, 年)によれば, 年代のわが国における銀行破綻に関 して,公的当局である大蔵省が「箸の上げ下ろし」にまでと言われるような詳細にわ たる干渉を銀行経営に対して行ってきたため,破綻銀行の処理を実行するタイミング を遅らせるような偏りを,行政責任を問われることを恐れた大蔵省にもたらすことに なったとしている。天谷知子『金融機能と金融規制−プルーデンシャル規制の誕生と 変化−』 頁(一般社団法人金融財政事情研究会, 年)も,「破綻は規制監督 当局にとって自らの失敗を認めることになる」ことを,規制の先送り(regulatory forbearance)が生じる理由の一つとして指摘する。ただし,同氏は,先送りが生じる 他の理由として,「厳格な規制監督対応を回避したい金融機関からの働きかけを受け た政治家からのプレッシャーがかかる」,「大きな破綻処理は経済に悪影響を与え,公 的資金の投入も要する政治的に困難かつ不人気な政策となる」ことを挙げる一方,「一 般論としての問題の正確な認識は遅れがちなものであり,「先送り」は後知恵の側面 があること」および「「猶予の失敗例」(先送りの結果破綻した事例)については分析 されるが,「猶予の成功例」(一度は相当経営が悪化した金融機関が最終的には回復し た事例)については通常分析されないので,バランスのとれた評価はされにくいこと」

により過大視される面があると警鐘を鳴らす。

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