第 3 章 参考文献
4.3 提案方式
4.3.4 移動先 FA の ADV メッセージ送信間隔の短縮
提案方式では,下記の手順で移動先FAのADVメッセージ送信間隔を短縮するこ とでハンドオフレイテンシを短縮する.移動先FAのADVメッセージ送信間隔の短 縮は,移動元FAからのADVメッセージ送信間隔短縮(SADV)メッセージを用い て行なわれる.また,ADV送信間隔を短縮することによる無線チャネルのオーバー ヘッドを最低限に抑えるために,新たにADVメッセージ間隔解除(CSADV)メッ セージを用いる.
1. L2ハンドオフを検出した移動元FAは,全ての推定移動先FAにSADVメッセー ジを送信
2. SADVメッセージを受信したFAはADVメッセージの送信間隔をTshortadv(≤ Tadv)に短縮
3.実際の移動先FAはMNからのREQメッセージを受信すると,ADVメッセー ジ送信間隔をTadv に戻し,移動元FAにNFAメッセージを送信
4.移動元FAはNFAメッセージを受信したら,実際の移動先FAを除く全ての推
定移動先FAに対してCSADVメッセージを送信
5. CSADVメッセージを受信したFAは,自分が移動先ではなかったことを認識し,
ADV メッセージ送信間隔をTadv に戻し,バッファに格納したパケットを棄却 提案方式は,SADVメッセージを用いて全ての推定送信先FAのADVメッセージ送 信間隔を短縮することで,ハンドオフ時にMNが新たなFAからのADVメッセー ジを受信するまでの時間を短縮する.さらに,CSADVメッセージを用いることで,
実際の移動先FAを除く全ての推定移動先FAにおけるADVメッセージ送信間隔の 短縮を最低限に抑えることで,無線チャネルにおけるオーバーヘッドの増大を防ぐ.
第4章 Mobile IPにおける位置情報を用いた低レイテンシなハンドオフ方式 92
ADV
REP
Enter the area of new FA L2 Handoff
Detection
SADV
HA FA1 FA2 MN
Registration Complete
Handoff Latency REQ
ADV
Tshortadv
FA3
CSADV SADV
Tadv
REQ Tshortadv is NFA
apopted Packet Forwarding
図 4.3: 提案方式(n= 2)におけるハンドオフの手順
また,提案方式では,Mobile IPと同様に移動端末のREQメッセージ送信間隔は1 秒以上と制限されるため,ADVメッセージ送信間隔の短縮により送信されるREQ メッセージ数は増大しないため,以前から存在する端末への影響は,無線チャネル に送信されるADVメッセージの増大によるもののみであると考えられる.
図4.3に提案方式(n= 2)におけるハンドオフ手順を示す.図4.3では,送信元FA
をFA1,実際の送信先FAをFA2,送信先と推定されたが実際には送信先ではなかっ
たFAをFA3と示している.FA1にてL2ハンドオフを検出したFA1はMN位置情 報テーブルおよび周辺FAテーブルを参照し,FA2およびFA3にパケットを複製お よび転送を開始する.FA1は同時に,SADVメッセージをFA2およびFA3に送信す ることで,ハンドオフを通知する.転送されたパケットを受信したFA2およびFA3 はバッファに格納する.SADVメッセージを受信したFA2およびFA3は,ADVメッ セージ送信間隔をTshortadvに短縮する.MNはハンドオフ先であるFA2からのADV メッセージを受信した時,新たなFAのアドレスCoAをHAに知らせるためにREQ
第4章 Mobile IPにおける位置情報を用いた低レイテンシなハンドオフ方式 93 メッセージを送信する.提案方式においては,新たなFAからのADVメッセージ受 信に対するREQメッセージには移動元であるFA1のアドレスを含める.MNから のREQメッセージを受信したFA2はREQメッセージを参照して移動元FAがFA1 であることを知る.FA2はFA1に自分のアドレスおよび位置情報を含むNFAメッ セージをFA1に送信する.NFAメッセージを受信したFA1は,移動先FAではな
かったFA2に対してCSADVメッセージを送信する.CSADVメッセージを受信し
たFA2は自分が移動先ではなかったことを認識し,バッファリングを中止し,ADV メッセージ送信間隔をTadvに戻す.
提案方式は,MNおよび周辺FAの位置情報を用いて移動先FAを推定し,移動先 FAを限定してパケットを複製して転送することで有線チャネルの負荷を低減可能で ある.また,提案方式では,MNがハンドオフ前に移動先FAからのADVメッセー ジを受信する必要がないため,セルがオーバーラップしない環境においてもハンド オフレイテンシの改善が可能である.さらに,実際の移動先ではなかった全ての推 定移動先FAにおけるADVメッセージ送信間隔の短縮を解除する機能を付加するこ とで無線チャネルのオーバーヘッドの増大を抑える方式である.
Mobile IPv4では,HAに登録するCoAとしてFAのIPアドレスを用いる.それ に対し,Mobile IPv6にはFAの概念はなく,FAに相当するノードとしてアクセス ルータ(AR)が対応している.ARは定期的にRouter Advertisement(RA)メッセー ジを無線チャネル上に送信し,移動端末は受信したRAメッセージからIPアドレ スを生成し,そのIPアドレスをCoAとしてHAに通知する.この時,移動端末は Mobile IPv4におけるREQメッセージに相当するBinding Update(BU)メッセージ を直接HAに送信する.提案方式をMobile IPv6へ適用するには,移動端末が送信 したHA宛てのBUメッセージをARが受信し,SADVメッセージおよびパケット 複製,転送を開始することで対応でき,容易に実現可能である.
第4章 Mobile IPにおける位置情報を用いた低レイテンシなハンドオフ方式 94
4.3.5 移動端末の位置情報が取得できない場合の動作
提案方式は移動端末による位置情報の検出を仮定している.しかし,現時点では,
移動端末の位置情報を常に正確に検出する技術が実用レベルに達するには,もうし ばらく時間が必要であると考えられる.提案方式において,移動端末の位置情報が 検出できない場合,以下の3通りの動作が考えられる.
(1) パケットの複製,転送を行わない (2) 全ての周辺FAにパケットを複製,転送
(3) 高頻度で移動先になる周辺FAのみにパケットの複製,転送
(1)を適用した場合,有線および無線チャネルのオーバーヘッドは発生しないが,
Mobile IPと比較してハンドオフレイテンシの改善は得られない.(2)を適用した場
合,ハンドオフレイテンシは位置情報を検出できる場合と同様の改善が得られる.し かし,全ての周辺FAに対してパケットを複製および転送するため,有線ネットワー クのオーバーヘッドは増大する.さらに,全ての周辺FAにおいてADVメッセージ 送信間隔が短縮されるため,無線チャネルのオーバーヘッドも増大する.(3)を適用 した場合,高頻度の移動先FAへハンドオフした場合,位置情報を検出できる場合 と同様のハンドオフレイテンシの改善を得られる.しかし,低頻度の移動先FAへ ハンドオフした場合はハンドオフレイテンシの改善が得られない.この場合,有線 および無線チャネルのオーバーヘッドは,パケットを複製,転送する周辺FA数に依 存し,移動先の推定精度と有線および無線チャネルのオーバーヘッドはトレードオ フの関係になると考えられる.以上より,有線および無線チャネルのオーバーヘッ ドに対する要求が厳しい場合には,(1)を適用することで有線および無線チャネルの オーバーヘッドを低減し,要求が厳しくない場合には,(2)を適用することでハンド オフレイテンシの改善を得ることができる.さらに,移動端末の移動先FAに偏りが あるような場合は,(3)を適用することで有線および無線チャネルにおけるオーバー
第4章 Mobile IPにおける位置情報を用いた低レイテンシなハンドオフ方式 95
表 4.1: 従来の諸方式との比較
Protocol Handoff scheme Overlapping
cells L2 trigger Packet forwarding Registration to HA
Positional Information
HMIP - No No Inter-domain No
Hard No No No
Semi-soft Yes Yes Old and next ARs
Non-forwarding Yes Yes No
Forwading No No Next AR
FMIP Yes Yes Next AR Always No
NeighborCasting No Yes All neighbor ARs Always No
FASTMIP - No Expected next ARs Always Yes
Proposed No Yes Expected next ARs Always Yes
No No Cellular IP
HAWAII
Inter-domain Inter-domain
ヘッドを大幅に増大することなくハンドオフレイテンシの改善を得ることができる と考えられる.