私訴 とは
,現
行 のわ が国の刑訴法 にはな い概念 で あ る。旧刑訴567条 には存在 してお り
,「
犯 罪 二因 り身体,
自由,名
誉又 ハ財産 ヲ害 セ ラ レタル者 ハ其 ノ損害 ヲ原 因 トスル請求 二付公 訴 二附 帯 シ 公訴 ノ被告人 二対 シテ私訴 ヲ提起 スル コ トヲ得」 とあ りあ く迄被害者鉾済のための もので あ り,本
来 民訴 に属 すべ き もの※
83を
便宜上公訴 に附帯 させ て い るだ けで あ って,公
訴 とは全 く性質 を異 に す るもので あ る。英米法系 に発達 した私訴 が公刑罰請求 権 を被害者 又 はその他 の私人 に与 えてい るの とは全 く異 な るので あ る。わが国旧法 の「私訴」 とい う言葉 に対 して「私人訴追」 (priVate prosecution)と 呼 ばれ るのはそのためで あ る。合衆 国の大陪審 が この伝統 を継 ぐもので ある ことは既 に述べ た。わ が国では私人 に公訴諦 を全 くみ とめず
,国
家訴追主 義,起
訴独 占主義 の原則 が貫 かれて い るが (刑 訴247条,旧
刑訴278条)こ
の ことと市民 の起訴参加 についての調整 を如何 にすべ きかにつ いて問題 がないわ けで はな く, この論点 について はすでに述 べた。昭和25年 7月 42日法律
17号
を以 て施行された検察審査会法は
,あ
る程度問題解決のための妥協制度 を創設 した もの といえない こともない 訴※85 +日刑訴578条 :「 私訴 フ提起スルニハ民事訴訟法二準シ訴状 ヲ裁判所二差出スヘシ」
犯罪捜査な らびに公訴担当機関としての検察官と司法警察の関係は如何にあるべきか
51
が
,告
訴告発 を した者,請
求 を待 って受理すべ き事件 についての請求を した者又 は犯罪によ り害 を 被 った者 が,検
察 官 の不起訴処分 に不服 あるときその不服 を受理 すべ き機 関であ り (同法50条),
一説 には検察官 の市民 目付役 とす るもの もあるが
,そ
の議 決は単 に検事正 に対す る参考 と しての効 力 しかな く,そ
の採否 は,検
事正 の裁量 に委ね られ る (同法41条)か
ら上記 のよ うな見解 は誤 りと いわ ざるを得 ない。 これ に対 し,現
行刑訴法 に戦 後創設 され た裁判上 の準起訴手続 き,付
審判 の請 求 (262条)は ,職
権濫用,公 安調査官の職権濫用 の罪 につ いて検察官 が不起訴処分を した とき, こ れ らの罪 につ いて告訴又 は告発 を した者 が不服 と思料すれ ば当該検察官所属検察庁管轄地方裁判所 に審判請求 をす ることをみ とめ,
この請求 を受 けた裁判所 が その請求 を理 由あ りと決定すれば (26 6条○),公
訴提起 の擬制が され (267条),事
後裁判所 か ら指定 された弁護士 が本件公訴維持 と,裁判確定 にいた る迄検察官の職務 を行 う (268条①
,② )点
で前記 とは異 な り,英
米法 の私人訴追 ともちがい,国
家権力の侵害 に対 し刑訴法上 の対抗権をみ とめた もの とも見 られ るが,民
訴法上 の 当事者概念 を刑訴法 に及 ば し,国
家 もまた処罰 され ることあるべ しとい う考 え方 に立 っているとも 考 え られ る。 ただ この場合,当
該 弁護士 は,法
令 によ り公 務 に従事す る職員 とみなされ るが (同法 268条 ①),
同条② によ り検察事務官及 び司法警察職員 に対 す る捜査指揮 は検察官 に嘱託 して しな けれ ばな らないか ら, この精神 も実体面 において一歩 後退せ ざるを得ないであろ う。最近付審判請 求 は起訴か捜査か とい う問題 が俄 に論議せ られ始 めた ことも一考 に価 しよ う。準起訴手続 き
,付
審判請求 は ドイツ刑訴の影響 を受 けた といわれてお り,英
米法特 に合衆 国刑訴 の影響をつ よ く受 けた戦 後の新刑訴の中にあっては異色 の規定制度 といわなければな らない。そのために以下※B4 ドィッ文献を引用比較 して見 る ことにす る。
1.ド
イツ法 においては私訴手続 きは章事者訴訟 の特徴を示 す。a)私
人訴追者 は検事 と対照的 に,訴
訟遂行義務 も客観 的普遍妥 道性 の義務 もない。b)私
人 訴追者 は公判 の開始後 も (被告 の尋 間の尋 間 において のみ で あるが)私
訴 を取 り下 げる ことが出来 るのは当なで ある。公訴 とちが って,私
人訴追 にあ って は,そ
れ故,訴
訟の相手方 に対 す る当事者 の処置 は公判開始後 において も又可能で ある。2.他
方,私
人訴訟 は決 して 当事者訴訟 (ParteiVerfahren)で はない。 それ故,私
人訴追 訴訟 に お いて も又裁判所 自身 が例 えばその弁明において 関連 のある判断の根拠 となる事実資料を審問 し なけれ ばな らない。 それ故審間の原理 が問題 であ って公判 が問題 にな るのではない。立法者は私 人 訴追 に対 して好意的ではない。 この ことは繰 り返 されて来 た見解 において明 らかである。1.訴
訟費用法 115条 に依れ ば私人訴追者 は訴訟費用前払 いの義務 がある。2.585条 2項
に依 れ ば裁判所 は犯人 の責 が軽 い時は何時で も訴訟手続 きを停止 出来 る。訴 訟費 用 負担義務 と共 に
, 474条 5項 2号
に依 れ ばこの規定 は,私
人 訴追 の提起 をやめ させ る作用 をして い る ことが多 いよ うで ある。
※M id, Kern― Roxin. Strafverfahrenrechc" pp.314‑318
52田
和 俊 輔5,584条 5項
に依れ ば裁判所 は証拠調(BeweiSaufnahme)の
範 囲 を規定 して い る。裁判所 は 244条2項
にかかわ らず事情 に依 ては予期 されぬ証拠 申 し出を却下(ablehnen)す
る ことが出来 る。
4.私
人訴追者 の下 におかれ るとい うことは,被
告 が訴訟遂行 の外 におかれ るとい うことで ある が,無
罪の判 決 が下 され,訴
訟手続 きが停止 されれ ば,私
人訴追者 は,471条2項
に従 って,被告 に出費 させ な けれ ばな らなか った訴訟費用 も又支払 わな けれ ばな らない。
私人訴追 の可 能な犯 罪 (Delikte)
I.私
人訴追 は規定 された軽度 の犯罪 (Vergehen)1こあ ってのみ許 され る。それは以下 の8つ
の犯罪又 は犯罪群 について行 われ る。
○家宅侵入
(Hausfriedensbrick),○
侮辱(Beleidigung),O傷
害 ∈苺rperVerletzung), 脅迫(BedrOhung),○
信書秘密侵 害(VerletZung des Briefgeheimnis),O故
意器物毀損
(Sachbeschadigung),O賭
博犯 罪(Wettbewerbsvergehen),o
eber),O商
標(WarenZeichen),O風
俗(Gebrauch),
○意匠 の軽犯罪 (Geschmac―ksmuster)
刑法典241条
,225条
a項の場合 は例外 と してすべての私訴可能な犯 罪は同時 に親告 罪で あ る。 (Antragsdenkt)
Ⅱ。私人訴追犯 罪 が公犯 罪 と観念 的競合又 は併合罪
(Gesetzeskonkurrenz)に
立 て ば,私
人訴 追 は許 されな い。反対 に私 訴犯 罪 はその時 は当局 で(VOn Amts wegen)遂
行せ られ るべ きで あ る。公 訴 に対す る私訴 の関係
公訴 に対 す る関係 において私訴 は排他的で もなければ補助的で もない。
I.私
訴 は決 して排他 的 で はない。す なわ ち,国
家 は私訴者 に並行 して独 自の立 場 で公 訴 を提起 出来 るので ある。 しか し公訴 は,私
訴 可能犯 罪 にあ って は576条 の重大 な原則 に従 って,
公 の利益 にそれが存在 して いる場合,提
起 し得 るのみで ある (便宜主義)。 検事 に とって は5つの可能性が 存在 して い る。a)検
事 は放棄,棄
権す る ことが 出来 る。b)検
事 は開廷 において 出席 し,観
察,傍
観 す るに止 まる ことも出来 る。C)検
事 は公訴 を提起 す る ことが出来 る。 そ して 治初 か らで あれ ば,結
果 的 にそれ は も早 や単 な る私訴の提起 ωbernahme)を
目的 とす るもので はあ り得 な くな る。又 引 き継 ぎに依 て
,付
加 的 に
,実
質上,位
置,手
続 き 自体公訴 の中にあ ることにな る。Ⅱ
.私
訴 は補助 的で はな い。す なわ ちそれ は,最
初 か ら提起 され得 るので あ る。 それ故,私
訴 の 権利 のある者 は先 づ検 事 に対 し要求 し,検
事 が公訴 の提起 を却下 した ときに始 めて,私
訴 を提起 し 得 る とい うのではない。 この点わが国の付審判 の請求 とは趣を異 に している。犯罪捜査な らびに公訴担当機関 としての検察官 と司法警察の関係は如何にあるべきか
55
私訴 の沿革
1552年 のカ ロ リナ法典
(CCC)以
来500年 以上 にわ た って支配 して来 た審 間共通 の刑事手続 きが 19世紀 の半 ばに公訴手続 きに代 わ られた後,公
訴権 は,そ
の裁量(Ermessen)で
提起,不
提起 (フ ランス法 の原型 (VOrbild)に従 う
)の
出来 る検 事 にのみ第1義的 には帰属す る ことにな った。しか し間 もな く被害者保護 のために万一 司法上 の拒絶 があ った場合 に備 えて
,一
般 的 に補助的な私 人訴追 が求 め られた。すなわ ち,わ
が国の検察審査会制度や,付
審判制度 と全 く軌 を― にす る もの といえ るので ある。ただ しこのよ うな要求 は刑事訴訟規則 においては行 われず,逆
に私訴 は規定せ られた個 々の犯 罪 (侮 辱,軽
度 の身体傷害)に
ついて,そ
の後,1921年
以降 は他 の親告罪 にあ って も認 め られ,更
にその後重大 な身体傷害や脅迫(BedrOhung)な
どにつ いて もこの親告罪の系列 に加 え られた。すなわちわが国の付審判 は犯種 をある種 の公務員犯 罪 に限定 してい る点 で,又
検察 審査会制度 は単なる起訴勧告 にす ぎぬ点 で ドイツの私訴 と性質 を異 にす るので ある。告 訴 (Strafantrag)と私訴 との関係
I。 私人 訴追犯 罪が親告罪である限 り
,私
人訴追の提起 において ももちろん告訴 が存在す る。す 臣なわち処罰
(Bestrafung)が
行 わ るべ きとい う被 害者 の明白な表現 され た要求 が存在す るとい う ことである。Ⅱ
.私
訴 は絶対 に期限付ではない。 それ故,若
し期限つ きの告訴 が適 道な時 に行 われ,結
果 的 に 何等告訴 を要 しない とい う場合 で も,
私訴 について は何年後で も可 能であ る。しか し消滅時効 (
Ver,hrung)が
私訴 に結末 をつ ける ことにな る。Ⅲ
.告
訴 出来 る年齢 は勿論 18才 で あ るの に,私
訴 は告 訴者 が成年 で あ る ことを要求 して い る。 そ れ は私訴 は相 当の費用がかか ることのある危険 があるか らである。Ⅳ
,私
訴 はあ らゆ る犯 罪 につ いて考 え られ る。規定 された犯罪 にあ って は告訴だ けが考 え られ, 刑罰 に処す る ことを内容 とす る判決が宣告 され る迄 は常 に可能である。私人訴追権
I.ま
ず私人訴追権 を行使 し得 る者 は被害者 である。 この概念 は起訴強制訴訟 の被害者 と一致す る。Ⅱ
.次
に職制上の上 司,生
存 の夫,
これ らは独立 の告訴権を持 つ者であるが被害者 とな らんで私 訴権 も持 って い る。Ⅲ,も し被害者 が民訴の意味での手続 能力を もっていなければ
,そ
の立場での私人訴追権 は法律 上 の代理人 に帰す る。1.未
成年者 や,商
業能力のない者 が傷つ け られた場合,2,権
利能力 のあ る 又 は な き法人 (Personenvereingung)が
傷つ け られた場合,例
えば特許権侵害,侮
辱等。法 律上 の代理 人 は この場合被害者 の名 で私訴を提起す る。Ⅳ
.そ
れ故種 々の被害 にあって各様 の人 間の言辞 が侮辱を与えた時は,各
人 が皆私訴 の権 限があ俊 輔
る。
しか し行状 が異 な るとい う理 由で訴訟手続 きが多様 にな った り
,有
罪判決 が多様 にな った りす る のを避 けるため に被害者 の中の1人に依 て私訴 が提起 されれば,そ
の他 の者 はもはや独立 した訴 え を提起 出来 ないのではな くて,現
存在 して い る位 置 において訴訟手続 きのみ に加入す る ことが出来 る。決定事実を公表す るに送 っては関係者 すべての訴訟手続 き効果 は被告 のために効力を発す る。訴訟手続 き満了の特色
多 くの私訴可 能犯 罪 にあ って は
,私
訴提起 のた めの前提条件 は,司
法上正規 の機 関た る調停裁判 所 (Vergleichsbehbrde)で 和解 の試み(Suhneversuch)を
行 った に もかかわ らず成 功 しな か っ た とい う状 態であるとい うことである。調停 が望 まれ るこのよ うな和解 の試み に依 て,裁
判免除 の よ うな和睦関係 が 出来 て きた時は刑事手続 きは控 え られ るべ きである。和解 の試みのためには起訴 者 が 出廷すべ きで,もし出廷 しなければ和解手続 きは効果 を生 じない。又訴え られた者 が出廷 しなけ れ ば和解 の試み は成功 しない。私人訴追者又 は これを代理す る検事が 580条 によって必要 とされ る 和解 の試みを回復 しよ うとい う約定を して私訴を提 出す るのは適 当でない。必要な和解 の試み を行 うことな く私 訴を提 出す れ ば,む
しろ決定 を以 て,許 容 し得 ぬ もの と して却下(abweiSen)す
べ きで ある。 けだ しそ うでない と能 う限 り私訴を避 けよ うとい う580条 の 目的は,ほ とん ど不可能 にな っ て しま うであろ うか らである。なお通常手続 きのよ うな予審 は存在 しない。私訴手続 きは訴 え提起 で 開始 され るので あ り,訴 え提起 は文書 もしくは 口頭 で な され た ものを裁 判所書記
(UrkundSbeamte)
が記録す ることを以て足 る。 以上 の ことを総合 して判断す ると私訴 は和解
,調
停を補足 し,又
は第2次
的な権利実現手段 とも考 え られ,民
訴 の紛争解 決主義 的な カ ラー が強い制度 とい う一 面 を持 つ よ うであ り,真
実発見 と被害者 に国家復仇 によ る権 利保護 を与 え る とい う刑 訴の特徴 は薄 れ た制度 といえ るで あろ う。十
,捜
査 手 続 き の 基 本 と し て の 逮 捕 に つ い て逮捕 は刑事手続 きにおいて
,犯
罪捜査上 の実力行使 の第 1歩で あ り,捜 査の進展 と終結,公 訴 の提 起,公
判 の維持, も しくは事前 の予審開始 の必要性 の有無 に迄影響を及 ぼす作用である。又 この作 用 は,人
の身体を現実 に拘束す る点で刑事人権上 きわめて重要な性格を もつ ものである。 その意 味 で実体捜査 と公訴提起をつな ぐパ イプ として逮捕 を考察 しなけれ ばな らない。以下 ドイツ文献※85 を参照 しつつわが国の概念 との異 同を まとめる。緊急 事件 において は即時 の 自由刻奪 が警察官 や私 人 に依 て必要 とされ
,前
以て判事の逮捕状 を と って お く必要 はない。但 し, これはあ く迄仮の処置 と して許 され るにす ぎない。 この点 はわが国の 緊急逮捕 において も類似性 がみ とめ られ るが私人 に対 して は現 行犯逮捕 しかみ とめてお らず, この※85 id, Kern― Roxin. Strattverfahrenrecht" pp.157‑181