スペキュレーションの特徴と マクロ的意義
はじめに
場合に、単に値上がり益を狙うスペキュレ ーター(スペキュレーションを行う主体の こと)は、先渡取引の買い手として、リス クヘッジを目的とした売り手のニーズに応 える役割を果たすだろう。こうしたことか らスペキュレーションには、マーケットに 流動性をもたらすという重要な存在意義が あることがわかる。マーケットに流動性が 十分にあってこそ、安心してリスクヘッジ も行えるというものである。
一方で、スペキュレーションの個々の取 引の実態は、前述の通り「価格変動を利用し て利益を得ようとする取引」に他ならない。
不動産インデックスを原資産とする先渡取 引で言えば、要するに今後不動産マーケッ トが上昇すると思えば買い、下落すると思 えば売りを行う取引のことである。そして その思惑通りになれば利益となり、外れれ ば損失となる。このように、(市況予想のと ころには様々な手法があろうが)スペキュ レーションの取引自体は、実に単純明快な ものなのである。(図1、図2参照)
「価格変動を利用して利益を得ようとする 取引」という特徴だけを見ると、スペキュレ ーションは何もデリバティブに限った話で はなく、実物取引におけるスペキュレーシ ョンも考えられることがわかるだろう。例 えば実物の不動産取引において、今後価値 が上がると思う不動産を買い、下がると思
スペキュレーションと レバレッジ効果
約定日 : 現在の不動産インデックスを120ポイントとする
1年後 : 思惑が外れて不動産インデックスが132ポイント(10%上昇)に なった場合
売り手 買い手
1年後 : 思惑通り不動産インデックスが108ポイント(10%下落)に なった場合
売り手 買い手
10億円
(120−132)/120 ×100億円 売り手は、
1年後の不動産インデックスを 120ポイントで売却することを約束。
想定元本:100億円
※手数料など取引に関わる諸コストは考慮していない。
売り手 買い手
10億円
(120−108)/120 ×100億円
図2. 1年後の不動産市況は現在よりも下落していると 思う場合の不動産インデックスを原資産とする先渡 取引の売り手のキャッシュ・フロー
約定日 : 現在の不動産インデックスを120ポイントとする
1年後 : 思惑通り不動産インデックスが132ポイント(10%上昇)に なった場合
売り手 買い手
売り手 買い手
10億円
(132−120)/120×100億円 買い手は、
1年後の不動産インデックスを 120ポイントで購入することを約束。
想定元本:100億円
1年後 : 思惑が外れて不動産インデックスが108ポイント(10%下落)に なった場合
※手数料など取引に関わる諸コストは考慮していない。
売り手 買い手
10億円
(108−120)/120×100億円
う不動産を売るという取引は、極めて一般 的な不動産取引と言えるが、これを実物不 動産取引におけるスペキュレーションと言 うこともできよう。(図3参照)
ただ、デリバティブにおけるスペキュレ ーションには、もう一つの重要な特徴があ る。それは一般的に「レバレッジ効果」と呼 ばれるもので、不動産取引で言えば、その 不動産の購入額に満たない金額しか持って いなくても、不動産デリバティブを使うこ とで、その不動産を購入したのと同様の経 済的効果を得ることができるというもので
価(自己資金/外部調達に関わらず)が必 要になるが、その不動産と同様の価値変動 をする不動産インデックスがあったとして、
それを原資産とする不動産デリバティブを 使えば、例えば20億円の手持ちしかなくて も(残りの80億円を実際に借り入れなくて も)、想定元本を100億円とする先渡取引の 買い手となって、その不動産を購入したの と同様の経済的効果を作り出すことができ るのである。ここでの『同様の経済的効果』
というのは、実物不動産を購入する場合で も、先渡取引の買い手となる場合でも、投 資期間終了後に価値が10%上昇していれば 10億円の利益が得られ、逆に10%下落して いれば10億円の損失となるように、そのペ イオフが同様という意味で理解しておいて いただければと思う。
こうしたことが可能になるのは、デリバ ティブの決済が所謂「差金決済」(第 2 回の コラムを参照)で行われ、取引中のキャッ シュ・フローは基本的にその差金分しか生 じない為である。ここで、図1と図3を見比 べていただきたい。図 1 が、不動産インデ ックスを原資産とする想定元本 100 億円の 先渡取引(買い手)を行った場合。図3が、
100 億円で実物不動産を購入した場合であ る。いずれの場合も、10%上昇時には(差 し引き)10億円の利益となり、逆に10%下 落時には(差し引き)10億円の損失となってい る。しかしその過程では、先渡取引の方が その 10 億円分のキャッシュ・イン/アウ ト・フローしか発生していないのに対し、
実物不動産では購入時に代金としての 100
契約当初(代金支払日):現在の当該不動産の価格評価を100億円とする
※単純化の為、100億円を一括で支払うことにしている。
※ここでは当該不動産からの賃料収入は無視して、純粋に不動産価格だけ を考えている。
※手数料や税金、維持管理費などの諸費用は考慮していない。
購入代金: 100億円 実物不動産
マーケット 投資家
1年後 : 思惑通り当該不動産の価格評価が110億円(10%上昇)になり、
その価格で売却を行った場合
売却代金: 110億円 実物不動産
マーケット 投資家
1年後 : 思惑が外れて当該不動産の価格評価が90億円(10%下落)になり、
その価格で売却を行った場合
売却代金: 90億円 実物不動産
マーケット 投資家
円/90億円のキャッシュ・イン・フローが 発生している。つまりデリバティブでは、
損益分だけの比較的小さなキャッシュ・フ ローしか実際には発生しない為、前述の例 のように 20 億円の手持ちしかない場合で も、100億円の実物不動産取引を行ったのと 同様の経済的効果を得ることができたので ある。
なお、この例のように、20億円の手持ち で100億円相当の取引を行う場合、「5倍の レバレッジがかかっている」などと言われ る。ここではレバレッジ倍率を 5 倍と仮定 したが、実際にはこの倍率の大きさは、そ の取引の価格変動リスクや流動性リスクの 大きさ、またそれを行う投資家の信用度な どによって変わってくる。当然、取引のリ スクが小さく、投資家の信用度が高いほど、
このレバレッジ倍率を大きくすることがで き、より少ない資金でより大きな元本金額 の取引が可能となる。
このようにデリバティブ取引では、通常、
レバレッジ効果を利用することができる為、
非常に効率的なスペキュレーションを行う ことができるが、反面、思惑が外れた場合 の損失もレバレッジ効果の分だけ大きくな るので、こうしたリスクをきちんと認識し ておくことが重要となる。過去に世界で起 こったデリバティブ取引による巨額損失事 例の多くがこうしたリスクに起因している
先程の例を用いると、100億円の資金で実 物不動産を購入した場合には、1年後、万が 一その不動産価格が半分の50億円になった としても、売却時に得られる金額が50億円 となる だけ で、新たな(当初の 100 億 円以上の)資金拠出を求められるわけでは ない(もちろん評価が半分になること自体、
大変厳しいことではあるが…)。またこの場 合、1年後には売却せずに、その不動産の価 格が回復するまで保有を継続するという選 択もできるだろう。一方、20億円の手持ち 資金で、元本100億円、期間1年の先渡取引 の買い手となった場合には、1年後の満期時 点に決済を行わなければならないが、その 時、原資産である不動産インデックスが同 様に50%下落していたとすると50億円の支 払いが発生する為、20億円の手持ち資金だ けでは不足することになり、30億円の新た な資金拠出が必要となってしまう(実際に は満期日以前でも、ある一定以上の評価損 となれば、その時点で追加の資金拠出を求 められるだろう)。スペキュレーションとし てデリバティブを活用する場合には、こう したリスクをしっかりと認識しておくこと が重要であり、またどういう場合にそうい う事態になり得るのかについても、きちん と把握しておく必要があるだろう。ここで あげた例は非常にシンプルなものだったの で、こうしたリスクも理解しやすかったか もしれないが、より複雑なデリバティブ取 引を行う場合や、何件ものデリバティブ取 引を行うような場合には、より注意が必要 と言える。(そもそも、リスクが理解できな スペキュレーションとして
デリバティブを活用する場合のリスク