社会的な配慮に関する課題

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4. 現行法制度および認証制度などの課題

4.3. 社会的な配慮に関する課題

との十分な対話がなされないままに、森林が認証されてしまったため、プナン人の権利は明らかに 侵害されたとJOANGOHutan(2006)は評する。

MTCCでは新しい基準と指標(MC&I(2002))を開発し、順次、認証更新時に新しい基準と指標 を適用している。そのためMTCCは2007年11月の審査時に、サムリン社に対して先住民族との 積極的な対話を促し、解決に至らない場合は認証資格停止もあることを勧告した42

サムリンのスランリナウ森林管理単位で生産された MTCC認証丸太は日本の商社も取扱ってい る。持続可能性を目指し真摯な調達姿勢を見せる日本企業の取組みが、根本から否定される可能 性も否定できない。

図 4-5 スラン・リナウ森林管理単位の境界とプナン人テリトリーの境界について 出所: SAM提供資料

42 The Bruno Manser Fundwebサイト (http://www.bmf.ch/en/news/?show=73)

図 4-6には、サラワク州の州有地林の分布を示す。サラワク州の法規では州有地林は他用途転 換可能である。また、永久林地(PFE)でも造林地用ライセンス(LPF)があれば人工造林地として皆 伐可能である。そうした皆伐されるリスクが伴うため、サラワク州の天然林資源は一層の減少リスク があることを図は示している。また、図中黄色と水色でプロットしてあるのは、マレーシアの NGO 地 球の友マレーシア(SAM)が支援、関与している43件の係争事例である。

図 4-6 サラワク州の州有地林の分布と先住民族との係争地 出所: SAM提供の地図、資料を基に作成

4.3.2. 先住民族の権利に関する国連宣言

ここまでマレーシア、特にサラワク州の先住民族の問題に関する懸念を述べているが、国際的な 潮流として先住民族の権利や主張を尊重すべしとの傾向が見られる。その一例が2007年9月13 日に国連総会で採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」である。この採択には日本やマ レーシアを含め 144カ国が賛成し、反対票はわずか 4カ国(米国、オーストラリア、カナダ、ニュー ジーランド)と、圧倒的多数の支持を受け国際文書となった。以下、この国連宣言について詳しく分 析している上村(2007)を参考に、宣言書においてどのように先住民族の権利を認めているのか紹 介する。

先住民族の権利に関しては、古くは16世紀から議論されており、国際的に公式に認識されたの は、1977 年の国連NGO 主催の会議で採択された「西半球の先住民族国家および人民の防衛の ための原則宣言」において先住民族が国際法の主体であり、自己決定権を行使する能力を持つこ とが明記されたことに遡る。今回の国連宣言の持つ意義は、そうした議論の集大成として『先住民 族が自己決定権を行使する国際法の主体であるという原則』が国際的に正式に承認されたことで ある。

具体的には、第3条で『先住民族は自己決定権を有し、この権利に基づき先住民族は自らの政 治的地位を決定し、並びにその経済的、社会的および文化的発展を自由に追求する』と記すこと で、先住民族を「ライツ・ホルダー(rights-holder)」というステークホルダーとは異なり、「人民・民族」

と同じ権利を有する地位に押し上げている。

第25条では、土地・資源に関する基本原則を示し、先住民族が、所有・占有・使用してきた土地、

領土、水域、沿岸海域、その他の資源と民族の精神的つながりを維持、強化する権利を謳ってい る。これは先住民族個々の所有権が明確ではないから、国有地として編入し、その森林の伐採権 を国家が企業に提供するという従来の開発事業のパターンを原則として否定している。第 26 条で は、先住民族の土地、領土、資源に関する慣習、伝統、土地保有制度に国家が法的承認や保護 を与える義務が明示されており、第 27 条ではこの承認を与える手続きのあり方(公平、独立、中立、

公開性のある手続きと先住民族自身の参加)が規定されている。

第28条では、先住民族の土地、領土、資源が、「自由で事前の情報に基づいた同意(FPIC)」な く没収、収奪、占有、使用され、損害が与えられた場合の現状復帰、補償の義務と条件が定められ ており、この義務は開発プロジェクトにおける事業体にも課せられるものである。また、第29条には、

先住民族の環境保全に関する権利が規定され、FPIC なしの有害物資の貯蔵および廃棄の禁止、

さらに先住民族の環境と健康に関する国家の義務が定められている。

この宣言文により新たな権利設定がなされたわけではないが、例えば、国際開発事業において 通常の「国」対「国」という基本関係に、先住民族という「自己決定権」をもった「ライツ・ホルダー」が 加わることになる。したがって、事業者にとっては『先住民族と話し合った』というだけでは、配慮を 行ったと認められず、むしろ合意をきちんと取らなかったことを「人権侵害」として公式に国際問題 化する確率が高まることになり、今後、その影響は決して小さくない。

5. まとめ

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