第 5 章 計算結果 26
5.2 磁気秩序と超伝導
普通結晶中では周りのイオンの影響で軌道が有限の大きさで結晶場分裂するために,本研究では 結晶分裂εを1に固定して考える.
磁気感受率が発散する点で磁気秩序するとする.温度T を下げていき,
det(1−UˆχˆS) = 0 (5.4)
図5.1 ホッピングパラメータtxのθ依存性.
図5.2 フェルミ面のθによる変化.
となる点TNを探す.ブリルアンゾーンはkx, ky方向にそれぞれ32分割している.実際にはT を 下げていき,det(1−UˆχˆS)<0となった点をTNとしている.超伝導転移温度Tcは(4.50)式で
|λ−1|<10−6 となる温度として決める.このとき,温度の刻み幅は0.0016である.このTc,TN
のθ依存性を調べた.計算結果は図5.3のようになる.θ=θ1の周りでTcとTNが得られた.こ こで,Tc,TNはかなり高くなっていて,TNは必ずTc以下になっている.これは乱雑位相近似のた めであり,定量的な議論は行わないことにする.TNが必ずTc以下になっているのは,磁気秩序を スピン感受率が発散する点で決めているためであり,磁気秩序が発生する前に感受率が十分大きく
図5.3 Tc,TNのθ依存性.
なることで,超伝導が誘起されてしまうことによる.また,磁気秩序の秩序ベクトルはQ= (π, π) であった.さらに,ギャップの対称性はb1gで,d 波超伝導となっている.これはCe-115系の超 伝導機構と同じで,反強磁性の磁気秩序によって,d波の対形成がなされていると考えられる.
さて,Tcのθ依存性を調べることによって,θによってTcが大きく変化する可能性があること がわかった.このθは結晶場の変化によって波動関数が変化することを念頭に導入したパラメータ であるから,この結果は結晶場の変化の影響を反映していると考えられる.このピーク構造に着目 すると,結晶場のわずかな変化からTcが大きく変化する可能性が示唆される.
実際,本研究で用いた結晶場パラメータに対して,|θ|/π= 0.293となる.θ <0であれば,これ は超伝導が現れる領域にあたる.そうすると,θのわずかな変化によってTcが大きく変化する可 能性がある.θの符号は結晶場パラメータのB44の符号によって決まるが,中性子散乱の実験から はB44の符号を決めることはできない.B44の符号は熱膨張係数の測定によって決めることができ るので[25],今後の実験に期待したい.
第 6 章
まとめと展望
本論文では,2軌道モデルに基づいて,Pu-115系の超伝導転移温度を解析した.本来,j-j結合 描像に基づいて解析すると,立方晶の結晶場の下でj = 5/2の6重縮退はΓ6が1つとΓ7が2つ の3軌道に分裂するが,今回の計算では簡単のために基底状態の Γ7は電子が詰まっているとし て,第一励起状態,第二励起状態のΓ6とΓ7 の2軌道でモデルを構成した.結晶場の影響によっ てΓ7が変形する影響を見るためにΓ7の|jz = 5/2⟩と|jz =−3/2⟩ の混ざり具合を表すパラメー タθを導入した.また,この2軌道モデルにおいて,乱雑位相近似を用いてスピン感受率および軌 道感受率を計算し,ネール温度TNおよび対相互作用を求めた.さらに,対相互作用からギャップ 方程式を計算し,べき乗法を用いて超伝導転移温度Tcを求めた.
その結果,Γ7が局在軌道になる近傍で,θのわずかな変化によってTcが大きく変化する可能性 を示した.これによって,θ <0ならば,Pu-115系の波動関数の近傍で波動関数に対してTcが鋭 敏に変化することを明らかにした.しかし,ここでは,θの符号を決定することはできないために,
Tcが大きく変化する可能性があるこということしかわからなかった.
本研究では簡単ためにj= 5/2の3軌道全てではなく,2軌道モデルについて計算した.今後の 研究では3軌道モデルについてプログラムを開発し,計算する必要がある.
また,εを1に固定したが,これを変化させた場合についても計算し,θ−ε相図を作成するこ とを考えている.パラメータについてはWien2kなどの第一原理計算パッケージを用いて決定す ることも考えている.
謝辞
本研究および本論文では,指導教員の堀田貴嗣教授に大変お世話になりました.服部一匡准教授 には,コンピュータやネットワークについてアドバイスをいただきました.また,原子力研究機構 の夏期実習生制度で久保勝規博士には数値計算の基礎を御教授いただきました.この場を借りま して御礼申し上げます.また,研究室の皆様にも,度々議論をしていただいたことを感謝いたしま す.多くの人のおかげで,本論文を書き上げることができました.重ねて,御礼申し上げます.
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