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第 5 章 本研究 1

5.5. 研究課題 3

研究課題 3「教師の背景にある社会・文化的要因と小学校教師の言語教師としての特徴

(認知面,感情面,行動面) はどのような関係があるのか」に関して結果と考察を述べる。分

析に先だって,教師たちが経験してきた社会・文化的背景に関して概観する。

5.5.1. 社会・文化的要因

Bronfenbrenner (1979) の枠組みにおける第4のシステム (マクロシステム) は,社会規

範やイデオロギーなどのことで 直接は見えないが何らかの形で影響していると考えられ る抽象的な存在であるが「特定の文化及び下位文化を貫いて共通するパターン (p.26)」で あると説明されている。本研究では,個人が生きてきた時代における社会的・文化的背景の 違いに注目した。そのために各自が経験した中学校学習指導要領の違いによって教師を4つ のコホート (同期間に出生した集団) に分類した。各コホートのメンバーは,共有する生活 史に特有の共通した学習経験や教師としての経験をもっているものと考えられる。

Nakamura and Shimura (2015) では,同様の調査により小学校教師の学習者としての内

面に関して分析をした。本研究では,データ数を増やし,言語教師としての特徴 (指導観,

国際的志向性,教師としての学び,授業実践) を加えて再調査を行った。以下に小泉 (2001),

山崎 (2012) を元にして,各グループの特徴を纏める。

コホート 4 (1972年施行の学習指導要領を経験) のメンバーは高度成長期のもとに育ち,

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いわゆる能力主義・受験戦争世代にあたる。この時期は学歴偏重の社会的気運の中,塾や業 者テスト等の需要が高まっていた。英語教育では言語活動が重視され,学習指導要領の目標 は「外国語を理解し,表現する能力の基礎を養う」とされている。入職にあたっては,教員 の需要が上昇していた時期にあたり,教員養成大学の量的拡大と強化が要請され,教師とな ってからは教育現場の落ちこぼれや校内暴力といった問題に対応することとなった世代で ある。コホート3 (1981年施行の学習指導要領を経験) は大学入学試験に共通1次試験が 導入された世代であり,一方で知識偏重教育のひずみ改善のため学習内容が大幅削減され た。英語授業も週3時間となり,指導内容 (特に言語材料) が大幅に削減されている。この 世代は学習者として学校の荒れを経験しており,彼らが教師となった時期に実践的指導力 を養うことを目的とした「初任者研修」が取入れられた。コホート2 (1993年施行の学習 指導要領を経験) は入職にあたり,バブル崩壊不況期であったため教員採用が難関であった ことから,彼らの多くが明確な目的をもって教職についているのではないかと考えられる。

教師となった時期は「指導」(直接伝達的指導)から「援助」(構成主義的指導) への転換が奨 励されていた時期あたる。英語教育においては,英語学習をコミュニケーションとして位置 づけ,コミュニケーションへの積極的な態度の育成を目指した言語活動が一層重視されて いた。コホート1 (2002年施行の学習指導要領を経験) はいわゆる「生きる力」の育成を 基本とした「ゆとり教育世代」であり,個性重視の教育を経験している。「総合的な学習の 時間」が導入され,一部の教師は小学校時代に「総合的な学習の時間」における小学校での 英語学習を経験していると考えられる。また大学での教員養成課程では「実践的指導力の育 成を重視した教職教育」が取り入れられており,教師教育の高度化・専門職化が求められて いた時期にあたる。英語教育に関しては,中学校での外国語が必修化となり,コミュニケー ションに対する態度だけではなく実践的コミュニケーション能力の育成も目指し「聞くこ と」「話すこと」に重点が置かれていた。このメンバーの中には,すでに小学校に英語教育 が導入されることを意識して入職した教師もいるものと考えられる。

英語教育に関して言えば,時代とともに言語活動からコミュニケーション重視への転換 が見られ,若い世代ほどより実践的なコミュニケーション能力を重視した教育を,年配の世 代ほど知識の定着を重視した指導を経験していると言える。さらに,生徒の思考力や問題解 決能力などを重視し、生徒の個性を重視する「新しい学力観」に関してみると,グループ4 は教師として中堅期に,グループ3は教師としての若い時期に対応し,グループ2 はその 導入期に学習者として体験し,グループ 1 はそれを既存のものとして受け入れていると考 えられる。表5.58に各コホートのキーワードと年齢区分,人数を示す。

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表5.58 学習指導要領の違いによるコホートの分類と特徴

コホート 4 3 2 1

指導要領年 1972 1981 1993 2002 中学校での

英語教育の 特徴

・理解,表現の基礎 を培う

・指導内容大幅削

・英語週3時間

・言語活動の重視

・コミュニケーション態度の 育成

・外国語 (英語) 必修化

・実践的コミュニケーションの重

・「聞く・話す」の重点

学生時代の 教育状況

・高度成長期に育

・能力主義・受験戦

・学校の荒れを経

・共通一次試験

・高等教育大衆化

・新しい学力観

・授業時間と内容削 減 (週5日制)

・ゆとり教育,生きる 力,個性重視

・総合的学習の時間

・大学で実践的指導力 プログラム経験 就職後の教

育状況

・落ちこぼれ,校内 暴力に対応

・バブル期に入職

・初任者研修

・バブル崩壊不況期 に 入 職 (難 関 合 格)

・指導から援助への 転換

・教職採用数増加

・教師教育の高度化,専 門職化

年齢 54歳以上 53歳以下 44歳以下 32歳以下

人数 53 80 59 86

5.5.2. 結果

各コホートによって教師の内面に違いがあるかを調べるため,コホートを独立変数,各因 子を従属変数とする一元配置分散分析を行った。結果を表5.59に示す。その結果,行動面 の「教師の学び」で効果量小ながら有意差が見られた。(F (4,274) = 5.19, p = .00, η2 = .05) Tukeyの多重比較からコホート1とコホート 3 (p = .00),コホート1とコホート4 (p = .00) の間に差があり,どちらも年代の若いコホート 1 に教師の学びの頻度が高い傾向が見られ た。

表 5.59 コホートの違いによる一元配置分散分析結果

領域 尺度 因子 F p η2

認知面 学習者ビリーフ 学習適性 2.52 .06 .02 学習方略 1.52 .21 .01 指導観 構成主義 1.55 .20 .02 直接伝達 1.05 .37 .01

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領域 尺度 因子 F p η2

感情面 学習動機 外発的動機 1.82 .14 .02 内発的動機 1.57 .20 .02

無動機 1.68 .17 .02

国際的志向性 仕事志向 .28 .84 .00 交流志向 .33 .81 .00 行動面 教師の学び 教師の学び 5.19 .00 .05 授業実践 生徒主体実践 1.20 .31 .02 構造化実践 2.05 .11 .04

5.5.3. 考察

結果からは,コホートの違いによる教師の認知面や感情面には違いは見られなかった。そ れぞれのコホートは,重点が異なった英語教育を経験していることが想定されるが,そうし た学習経験は個人の外国語に対する認知面や感情面にあまり影響を及ぼしていない,ある いは影響が継続しないのではないかということが示唆された。このことは,本研究において は約10年ごとに改定される学習指導要領によって世代を分けているが,こうしたグループ 化は社会・文化的な違いを調べるには短すぎた可能性がある。一方で,各コホートの調査時 点の年齢が異なっていることから,年齢や経験による要因も大きいことが考えられる。臨界 期研究や山崎 (2012) で行われているように,各年代において入職後の同時期に調査を行い,

結果を積み重ねていくような研究が求められる。本研究においては,現在教育に携わってい る教師たちは同一の社会・文化的背景を共有していると判断された。

一方行動面に関しては,ゆとり世代であるコホート 1 (最も若い世代) に教師としての学 びの頻度が高い傾向が見られた。前述の教師経験を若手 (教師経験10年未満),中堅 (教師 経験11年から24年),ベテラン (教師経験25年以上) の3分割で比較した結果でも,やは り若手に学びの頻度が高い傾向が見られていた。個々の教師の職歴が異なるためコホート を教師経験年数で単純に分類することは難しく,また指導経験年数とコホートによる分類 は重複する部分があるため,どちらの要因が作用しているのか判断はつかない。しかし一番 若い世代に教師としての学びの頻度が高かったことは,コホートとしての影響というより は,若手であり授業実践に向けて情報や経験を共有しながら実践を積み上げていく過程に あることが起因している可能性がある。さらに,彼らは教師教育の高度化・専門職化が求め られていた時期に入職をしていることが一因となっている可能性も考えられる。まとめる と,特定の文化及び下位文化を貫いて共通するパターンと説明されている個人が経験して きた社会・文化的文脈の違い (マクロシステム) と教師の認知面,感情面そして授業実践と の関わりは見られなかったものの,外国語活動実践に対する教師としての学び方に関して は若手のコホートに異なった特徴があることが示唆された。

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