第 5 章 本研究 1
5.3. 研究課題 1
研究課題1「小学校教師に共通する言語教師としての特徴 (認知面,感情面,行動面) は 何か」に関して,結果と考察を述べる。
5.3.1. 結果 5.3.1.1. 属性 (1) 年齢
年齢の平均値は 43.68歳であり,最少年齢22歳,最高年齢60歳であった。文部科学省
(2012) の報告によれば,2012年時点での小学校教師の平均年齢は41.8歳であり,対象者
46 の年齢構成的は偏りがないと判断された。
(2) 教師経験年数
教師経験年数の平均は18.80年であった。石上 (2013) と山崎 (2012) を参考に,経験年 数を若手 (0~10 年),中堅 (11~24 年),ベテラン (25年以上) の 3 分割にして集計をし た。その結果,若手は79名 (28%),中堅は96名 (34%) ,ベテランは104名 (37%) であ り,ややベテランが多かった。結果を表5.3に示す。
表5.3 教師経験年数結果
若手 (0~10年) 中堅 (11~24年) ベテラン (25年以上)
度数 79 96 104
(3) 性別
性別では男性178名 (63.8%),女性101名 (36%) と男性が多かった。結果を表5.4に示す。
表5.4 性別結果
男性 女性 度数 178 101
(4) 担当・役職
担当学年は,1年生担当が24名 (8.6%) で最少,5年生担当が35名 (12%) で最大であ り,バランスがとれていた。その他に特別支援担当41名,管理職26名,その他23名が参 加していた。「その他」の中には主幹教諭,加配教員等が含まれていると考えられる。現在 の担当・役職の結果を表5.5に示す。
表5.5 担当・役職
1年 2年 3年 4年 5年 6年 特別支援 管理職他 度数 24 30 30 28 35 33 41 49
(5) 英語指導経験
外国語活動必修化以前の「総合的な学習の時間」で行われていた英会話等を含めた英語指 導経験がある教師が155名 (55%) であった。外国語活動指導実践に関しては,英語指導経 験がある教師に絞って分析を行った。英語指導の経験の有無の結果を表5.6に示す。
47 表5.6 英語指導経験
指導経験なし 指導経験あり 度数 124 155
(6) 英語力
英語力に関して,自己評価により「1・とても苦手」から「5・とても得意」までの5件法 によって調査した。その結果,英語がとても得意12名 (4%),やや得意46名 (17%),普通 84名 (30%),やや苦手90名 (32%),とても苦手47名 (17%) という結果であった。「英語 を苦手」としている教師がやや多く,「とても得意」と答えた教師が少ない傾向が見られて いるが,英語を専門科目としていない小学校教師を対象にしていることを考えると,妥当な 結果であると考える。しかし「とても得意」の人数が12名と少なく,人数に偏りがあるた め一元配置分散分析には適切でないと判断され,英語力を独立変数として比較する場合に は,「得意 (n= 58)」「普通 (n = 84)」「苦手 (n = 137)」として分析することとした。自己申 告による英語力の結果を表5.7に示す。
表5.7 英語力
とても苦手 やや苦手 普通 やや得意 とても得意 度数 47 90 84 46 12
5.3.1.2. 認知面の特徴 (1) 学習者ビリーフ
学習者ビリーフについての回答は「5・強く同意する」から「1・全く同意しない」の5件 法で行われた。中村・志村 (2014) で用いられた15質問項目について,因子分析 (最尤法,
プロマックス回転) をした結果,共通性が著しく低かった2項目が削除された。また,複数 の因子に高い負荷量を示していた3項目も削除された。その結果得られた10項目に対して 再度因子分析を行ない,固有値が1以上となる因子数を選択し3因子までを採用した。第 1 因子は「自分は英語を習得する能力をもっている」「自分はうまく英語が話せるようにな る」等の 3 項目から構成されており,自分自身の英語学習への適性に関するビリーフであ ることから「学習適性」と命名された。第2因子は「正しい発音は必要」「英語は外国人に 習いたい」「英語習得には繰り返し練習が大切」といった外国語学習の習得法に関するビリ ーフと「英語力があるとよい仕事のチャンスを得られる」という学習動機に関わるビリーフ で構成されており「学習方略」と命名された。第3因子は「英語は難しい言語である」「英 語ができる人は頭が良い」等の 3 項目で構成されており,英語という言語の特性に関する ビリーフであることから「言語特性」と命名された。表5.8に因子分析によって得られた因 子負荷量と因子相関行列を,表5.9から5.11に尺度ごとの質問項目の平均値と標準偏差を,
表5.12に尺度ごとの得点の記述統計,クロンバックα係数,寄与率を示す。
48
表5.8「学習者ビリーフ」に関する因子負荷量と因子相関行列 (n = 279)
学習適性 学習方略 言語特性 自分は英語を習得する能力をもっている .88 .04 .01 自分はうまく英語が話せるようになる .79 -.08 .16 英語学習はやさしい .56 -.02 -.18 正しい発音は大事である -.11 .70 -.12 英語力があるとよい仕事のチャンスを得られる .02 .70 .03 英語は外国人に習いたい .05 .58 -.01 英語習得には繰り返し練習が大切 -.02 .54 .19 英語は難しい言語である -.19 -.06 .82 英語ができる人は頭が良い .10 .03 .45 英語学習では単語や熟語の習得が最も重要である .21 .16 .32 学習適性 ― .13 -.01 学習方略 ― .19
言語特性 ―
表5.9「学習適性」に関する質問項目の平均値と標準偏差
質 問 項 目 M SD 自分は英語を習得する能力をもっている 2.75 .97 自分はうまく英語が話せるようになる 2.78 1.00
英語学習はやさしい 2.56 .84
表5.10「学習方略」に関する質問項目の平均値と標準偏差
質 問 項 目 M SD
正しい発音は大事である 3.99 .96
英語力があるとよい仕事のチャンスを得られる 3.80 .95
英語は外国人に習いたい 3.85 .96
英語習得には繰り返し練習が大切 4.10 .92
表5.11「言語特性」に関する質問項目の平均値と標準偏差
質 問 項 目 M SD 英語は難しい言語である 3.04 1.03 英語ができる人は頭が良い 2.68 1.04 英語学習では単語や熟語の習得が最も重要である 3.05 .96
49
表5.12 下位尺度ごとの得点の記述統計,クロンバックα係数,寄与率
下位尺度 M SD 歪度 尖度 α 寄与率 学習適性 2.70 .78 .05 -.01 .77 24.89 学習方略 3.94 .70 -.78 .97 .72 20.77 言語特性 2.92 .72 -.17 .11 .51 14.70
信頼度係数 (クロンバック α 値) の低さから,「言語特性」は分析の対象としなかった。
全体的に「学習方略」因子の平均値が高く,歪度と尖度から高い得点に偏りが見られた。教 師経験年数の違い,担当,英語力の違いによって学習者ビリーフに違いがあるかを調べるた め,因子得点を用いた一元配置分散分析によって検討した。教師経験年数の違いでは,教師 を若手 (0~10年),中堅 (11~24年), ベテラン (25年以上) の3群に分けて比較したとこ ろ「学習適性」(F (2,276) = 2.32, p = .10, η2 = .02)「学習方略」(F (2,276) = 1.22, p = .89,
η2 = .01)ともに有意差は見られなかった。また担当 (低学年,中学年,高学年,特別支援,
管理職他) の違いに関しても学習適性 (F (4,274) = .72, p = .58, η2 =.02),学習方略 (F (4,274) = .73, p = .60, η2 =.01) ともに有意差は見られなかった。自己評価による英語力 (苦 手から得意までの3段階) の違いに関しては「学習方略」(F (2,276) = .32, p = .73, η2 = .00) では有意差は見られなかったものの,「学習適性」において効果量大で有意差が見られた (F (2,276) = 41.06, p = .00, η2 = .23)。Tukeyの多重比較から「得意」と「普通」(p= .00),「普 通」と「苦手」(p = .01) の間に統計的に有意な差があり,英語が得意なほど「学習適性」
の得点が高くなっていた。表5.13に「学習適性」における英語力の違いによる一元配置分 散分析結果を示す。
表5.13「学習適性」における英語力の違いによる一元配置分散分析結果
担当 度数 M SD
95% 信頼区間
F p η2 下限 上限
苦手 137 .42 .81 -.56 -.29 41.06 .00 .23
普通 84 .23 .76 .06 .39 得意 58 .67 .91 .43 .91
次に性別と英語指導経験の有無によって学習者ビリーフに違いがあるかを調べるため,t 検定を用いて検討した。男女差でt検定を行ったところ「学習適性」(t (277) = 1.80, p =. 07,
d = .22) では有意差が見られなかったものの,「学習方略」に効果量小で有意差が見られた
(t (277) = - 2.20, p =. 03, d =.27)。平均値の比較から女性の「学習方略」得点が高いことが 示された。表5.14に「学習方略」における性別の違いによるt検定結果を示す。
50
表5.14「学習方略」における性別の違いによるt検定結果
性別 度数 M SD t p d
男性 178 -.09 .87 2.20 .03 .27
女性 101 .15 .85
英語指導経験の有無では「学習適性」 (t (277) = 1.33, p =. 19, d =.36 )「学習方略」 (t (277) = 1.39, p =. 17, d =.01) ともに有意差は見られなかった。
(2) 指導観
OECD (2009) の調査では教師の指導観を調べるため2つの中核的な指標「直接伝達主義
的指導観 (教師を情報の提供や問題の解決方法を提示する存在とみなす)」と「構成主義的 指導観 (教師を生徒の主体的な学習の支援者とみなす)」に関する質問項目を用いている。
笹島・ボーグ (2009:2) は「多面的な教師の一つの役割としての英語教師」つまり「学校教 師集団の中の言語教師」という視点の重要性を主張している。特に小学校教師の場合,学級 担任としての立場だけでなく,すべての教科を教える教師としての立場を考慮する必要が ある。本研究では,指導観に関してOECD (2009) に基づき,外国語指導に限らず小学校教 師としての指導観を調べた。指導観についての回答は「5・強く同意する」から「1・全く同 意しない」の5件法で行われた。中村・志村 (2014) で作成された質問6項目について,因 子分析 (最尤法,プロマックス回転)をした結果,固有値が 1 以上となる因子数を選択し 2 因子までを採用した。第 1 因子は「教師の役割は児童が自分で課題を探求するのを手助け することである」「児童は自分自身で解決法を見つけることによって学ぶべきである」「教師 が解決の方法を示す前に児童に自分で解決法を考えさせるべきである」の 3 項目で構成さ れており,OECD調査の下位尺度である「構成主義的指導観」の質問項目と合致していた。
第2因子は「児童に考えさせるよりも直接答えを教えるべきである」「指導は明確で正しい 答えのある問題を中心に構築されるべきである」「児童の学びは彼らがどれだけ予備知識を もっているかによる」の3項目によって構成されており,OECD調査の「直接伝達主義的 指導観」の質問項目と合致していた。そのため,それぞれ「構成主義」「直接伝達主義」と 命名された。表5.15に因子分析によって得られた因子負荷量と因子相関行列を,表5.16か ら 5.17 に尺度ごとの質問項目の平均値と標準偏差を,表 5.18 に尺度ごとの得点の記述統 計,クロンバックα係数,寄与率を示す。
51
表5.15「指導観」に関する因子負荷量と因子相関行列
構成 直接 教師の役割は児童が自分で課題を探求するのを手助けすることである .86 .08 児童は自分自身で解決法を見つけることによって学ぶべきである .66 -.06 教師が解決の方法を示す前に児童に自分で解決法を考えさせるべき .59 .02 児童に考えさせるよりも直接答えを教えるべきである -.10 .75 指導は明確で正しい答えのある問題を中心に構築されるべきである .02 .62 児童の学びは彼らがどれだけ予備知識をもっているかによる .12 .45 構成主義 ― -.16 直接伝達主義 ―
表5.16「構成主義」に関する質問項目の平均値と標準偏差
質 問 項 目 M SD
教師の役割は児童が自分で課題を探求するのを手助けすること 3.96 .75 児童は自分自身で解決法を見つけることによって学ぶべきである 3.77 .82 教師が解決の方法を示す前に児童に自分で解決法を考えさせるべき 3.78 .82
表5.17「直接伝達主義」に関する質問項目の平均値と標準偏差
質 問 項 目 M SD
児童に考えさせるよりも直接答えを教えるべきである 2.17 .95 指導は明確で正しい答えのある問題を中心に構築されるべきである 2.81 .96 児童の学びは彼らがどれだけ予備知識をもっているかによる 2.95 1.00
表5.18 下位尺度ごとの得点の記述統計,クロンバックα係数,寄与率
下位尺度 M SD 歪度 尖度 α 寄与率 構成主義 3.84 .65 -.92 1.95 .73 34.57 直接伝達主義 2.65 .73 .29 .08 .62 27.38
全体として構成主義的指導観の平均点が高く,歪度と歪度から得点の高い教師が多いこ とが示された。教師経験年数の違い,担当,英語力の違いによって指導観に違いがあるかを 調べるため,一元配置分散分析を用いて検討した。その結果,すべてにおいて有意差は見ら れなかった。教師経験年数の違いでは「構成主義」 (F (2,275) = 1.04, p = .35, η2 = .01),
「直接伝達主義」(F (2,275) = .27 p = .77, η2 = .00) ,担当の違いでは「構成主義」 (F (4,273) = 1.93, p = .11, η2 = .01) 「直接伝達主義」 (F (4,273) = .43, p = .78, η2 = .00),英 語力の違いでは「構成主義」(F (2,275) = 2.65, p = .07, η2 = .02),「直接伝達主義」(F (2,275)
= .67, p = .51, η2 = .01) という結果であった。