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Wntシグナルは細胞内において様々な生理応答を行う.したがって,本経 路に異常が生じると,がんや糖尿病,神経疾患,骨粗鬆症などの疾患を引き 起こす8).例えば,大腸がんや肝がんなどの多種多様ながんにおいて,Wnt シグナルの異常が報告されており9),大腸がんではAPCや-cateninに変異 が10),肝がんではAxin1に変異を有する11).また大腸がんの80%以上は APCに変異を有することが知られている10).神経疾患ではアルツハイマー病 や統合失調症の発症において関連性が報告されており,統合失調症では患者

脳でWnt1とβ-cateninの発現が増強し12),Wntシグナルの抑制分子である

Dickkopf(Dkk3)の発現が減少している13).このようにWntシグナル経路を

構成する分子(主としてWnt/β-catenin 経路)の異常により引き起こされると 考えられるヒト疾患が見出されている.Wntシグナル経路の活性化状態を正 常な状態に戻すことが治療の選択の一つとなるため,この効果を見込んで Wntシグナル分子を標的とした薬剤を使用することへの期待が集まってい る.

Wnt/β-catenin 経路における様々な遺伝子及びたんぱく質の変異によって多

くの疾患が引き起こされることが考えられる.したがって,Wntシグナルを制 御する低分子化合物が創薬において注目が集まっている.本シグナルを制御す る化合物として下記のような化合物が報告されている (Figure 1-2).そのうち,

salinomycin は放線菌より単離された化合物であり,作用機序としては,LRP6

Figure 1-1. Wnt/β-catenin signaling in normal and cancer cells.

Wnt Off Wnt On

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のリン酸化を抑制し,LRP6の分解を促進することでWntシグナルを阻害する

14).pyrviniumはFDAにより駆虫薬として承認されている医薬品であり,CK1α

を活性化することで-cateninの分解を促進する15)

windorphen IC50 1.5 µM

quercetin IC50 27.7 µM

salinomycin IC50 163 nM

pyrvinium IC50 ~10 nM

Figure 1-2. Small molecules that down-regulate Wnt/β-catenin signaling.

murrayafoline A IC50 ~20 µM

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また,当研究室ではこれまでの研究において,下記に示すような化合物が Wntシグナルを阻害する化合物として見出された(Figure 1-3).それぞれ植物 及び放線菌より単離された化合物であり,いずれも TCF/β-catenin 転写阻害作 用をもつことが報告されている化合物である.

本研究では,このシグナルの最下流に位置するTCF/β-cateninの転写を阻害 する化合物の探索を目的に,当研究室保有の熱帯植物由来の天然物資源ライ ブラリーを対象としたWntシグナル阻害活性を指標としたスクリーニング,

陽性検体からの活性成分の探索を行った.

Figure 1-3. Small molecules that down-regulate Wnt/β-catenin signaling isolated by our laboratory calotropin 18)

IC50 1.3 nM trichillin H 17)

IC50 300 nM

xylogranin B 20) IC50 48.9 nM chromomycin A 19)

IC50 1.8 nM scopadalciol 16)

IC50 67.6 nM

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