Ⅲ 資料
4.1. 研究成果
4.1.1. 博物館基礎研究(総合研究)
地質情報の保存と活用に関する調査研究 ~「地層剥 ぎ取り標本」コレクションの付帯情報の統合整備を 例として~
[研究期間]2014年度~2016年度
[研究担当者]石浜佐栄子・山下浩之・笠間友博・
新井田秀一・大島光春・田口公則・
平田大二・河尻清和・柴田健一郎
[研究内容]
地質情報には、地層の剥ぎ取りやボーリングなどの 実物標本、露頭の写真や記載など様々な情報があるが、
これらの情報を統合的に保存していくための標準化 はこれまで行われていない。当館では、地層剥ぎ取り 標本を長年にわたって継続的に収集しており、国内で も有数のコレクションを所蔵するに至っている。そこ で本研究では、地質情報の中でも特に「地層剥ぎ取り 標本」に焦点を当て、当館所蔵の地層剥ぎ取り標本コ レクションの付帯情報を統合整備することをはじめ として、地質情報の保存と活用に関する調査研究を行 った。
まず、それぞれの地層剥ぎ取り標本に関連して登録 すべき情報のあり方を検討した。その結果、標本名、
採集地(住所、緯度経度、標高)、大きさと分割枚数、
重量、標本の形状、展示・収納状況、露頭の種別と現 状、露頭面の向き・傾斜、地層の走向・傾斜、堆積物 の種別や年代、採集者、採集日の各項目が標本の活用 に必要であると考えて、情報の整理を行った。次に個 別の標本に関して、それぞれ担当学芸員が記載やスケ ッチを行い、標本の意義を明確化した。標本の全体写
真については、標本の活用にとって特に重要であるこ とから、各分担者が協力して整備をはかった。整備さ れたこれらの情報は、他の自然史博物館等においても 参考となるよう、コレクションカタログとして印刷物 およびPDFファイルで公開した(神奈川県立博物館調 査研究報告(自然科学)第15号, p.51-174)。
地層剥ぎ取り標本に関する技法や活用事例、地質情 報の保存と活用に関する様々な事例についての各分 担者による研究成果は、神奈川県立博物館調査研究報 告(自然科学)第15号に発表した。本研究の成果は、
平成29年度の特別展においても公開予定である。
【発表論文、報告書】
神奈川県立生命の星・地球博物館, 2017.神奈川県立 博物館調査研究報告(自然科学)第
15号,「地層剥ぎ取り」の収集と活用に関する調査研 究. 174pp.
石浜佐栄子・笠間友博・山下浩之・平田大二・新井田 秀一, 2015. 地層剥ぎ取り技法を用いた箱根火山起 源噴出物の実物標本化-神奈川県立生命の星・地球博 物館における露頭情報の収集・保存・活用-. 火山, 60(3), 341-348.
笠間友博・石浜佐栄子・山下浩之・新井田秀一・平田 大二, 2015. 箱根火山噴出物を中心とした更新世 中・後期テフラ露頭画像データベースの構築と公開-
神奈川県立生命の星・地球博物館の事例-. 火山, 60(3), 333-340.
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4.1.2博物館基礎研究(個別研究)
相模湾およびその隣接海域における沿岸魚類の分類 および生物地理学的研究
[研究期間]2014年度~2016年度
[研究担当者]瀬能 宏
[研究内容]
本研究は、駿河湾を含めた相模湾の沿岸魚類の多様 性を分類学的および生物地理学的な視点から解明す ることを目的として行った。
調査期間中に収集された資料は、標本974件、画像 3512件であり、それぞれに156科430種、134科796 種を認めた。その結果、当館が所蔵する同地域産の資
料は標本8147件、画像27611件となり、資料総数は
35758件、出現種数は251科1924種に達した。
これら資料に含まれる魚類の内、相模湾から初記録 となる種や過去の記録が不確かな種、北限記録や南限 記録と言った生物地理学的に重要な種について順次 報告を行った。また、未記載種の記載や形態的情報に 乏しい種の再記載も順次行った。
研究期間中に公表された業績は以下の通りである
(年次順):相模湾から初記録であり、ホロタイプ以 来、2番目の標本であると同時に初の雄標本となるフ サイタチウオ科のオオソコイタチウオを再記載した
(三井・瀬能, 2015);相模湾から初記録であり、南 限記録でもあるカレイ科のアブラガレイを報告した
(崎山・瀬能, 2015);駿河湾を分布北限とするソコ ダラ科のワニダラがその分布パターンから黒潮によ って分散していることを示唆した(手良村他, 2016); エソ科の稀種ミズテングについて、出現水深や出現時 期 に つい て既 往 の知 見をま と めた (崎 山 ・瀬 能, 2016);ボラ科のオニボラを相模湾初記録種として報 告した(山川・瀬能, 2016);相模湾では伊豆大島か ら写真記録のあるハリオイトヒキベラを西表島およ びフィリピン産の標本に基づき新種として記載した
(Tea et al., 2016);相模湾産標本に基づき、ハタ 科の新種ヒノマルハナダイを記載した(Gill et al., 2016);オナガザメ科のハチワレを証拠標本に基づく
相模湾からの初記録として報告した(瀬能・工藤, 2016);イサキ科のクロコショウダイとヒメツバメウ オ科のヒメツバメウオを相模湾から初めて記録した
(山川他, 2017);相模湾に出現したウバザメを報告 し、既往の情報と合わせると、2000年代以降、この種 が国内では減少傾向にあることを示唆した(崎山他, 2017);相模湾では成魚の初記録となるアマシイラ科 の稀種アマシイラを報告した(崎山・瀬能, 2017); 駿河湾から初記録となるトラギス科のスジトラギス を報告した(手良村他, 2017)。
カワネズミ(Chimatogale platycephala)の生息確認 を中心とした早川水系周辺の哺乳類調査
[研究期間]2015年度~2016年度
[研究担当者]広谷浩子
[研究内容]
報告者は平成17年より、博物館周辺の哺乳類の生 息状況について野外調査を行なうと共に、標本調査に 基づく過去の分布状況も把握し、生息状況の変遷を追 ってきた。
さらに、平成25・26年にはカワネズミの生息状況 を集中的に調査し、酒匂川・相模川水系では生息が確 認できる本種が、早川水系では見つけられないという 事実に直面した。当館では、神奈川県産と記録されて いるカワネズミをいくつか所蔵しているが、このうち 早川水系産はわずか 2 点のみで、50年以上も前の記 録となる。
2年間にわたり、過去の採集記録をもとに、早川水 系で生息が確認できそうな場所を集中的に調査した が、前回と同様に生息を確認することができなかった。
また、周囲の森林伐採や生活排水流入、護岸工事など の影響を強く受けて、水質汚染がはげしく、水量が天 候によって劇的に変化するため、安定した採食場所に ならないこともわかった。
50 年前のわずか 2 個体のサンプルとこれまでの 4 年間の調査の結果から、当初予想していた以上に、カ
- 119 - ワネズミの生息密度は低く、厳しい状況にあると考え られる。しかし、これをもって「早川水系には生息し ない」と結論づけるまでには、至らない。
今後は、酒匂川水系での状況を把握したり、糞分析 に基づくカワネズミの食性を解明したりして、カワネ ズミが生息しうる環境条件を明らかにする。 現在の 早川水系にそのような条件を満たすような場所がな いか探索して、カワネズミの生息確認調査を継続した い。
外来種カナダガンの移動実態と繁殖生態に関する研 究
[研究期間]2014年度~2016年度
[研究担当者]加藤ゆき
[研究内容]
外来種カナダガン Branta canadensis の生息が確 認されている山梨県河口湖及び静岡県田貫湖周辺地 域で、2011 年から生体を捕獲し標識を装着、追跡調 査を行った。またカナダガンの標識情報や生態的知見 をチラシのまとめ、学校や宿泊施設、観光施設などを 通じて配布し、目撃情報の提供をお願いした。
山梨県では18羽に首輪を装着し追跡を行った。結 果、河口湖を主な生息場所としているが山中湖との往 来があること、河口湖の周辺にある田んぼや畑、宿泊 施設の庭に侵入し、稲穂や芝生を食害していること、
大量のフンによる衛生的な問題を引き起こしている ことが明らかとなった。繁殖は 4 月から 5 月にかけ て、営巣は、河口湖にある鵜ノ島や湖面に突き出た岩 礁、人工漁礁行っており、一腹卵数は4.5個(N=10)、
採集した卵の有精卵率は86.8%(N=38)であった。
静岡県では、12 羽に首輪・足環を装着し追跡を行 った。結果、主に田貫湖をねぐらとして利用し、日中 は湖周辺のキャンプ場や大学実習施設、ゴルフ場、畜 産試験場など広範囲に移動、草地で採食している実態 が明らかになった。キャンプ場では芝生の食害や大量 のフンによる衛生上の問題が、畜産試験場の草地での 食害が確認された。繁殖は河口湖よりも早く3月下旬 から4月にかけて行い、営巣は、田貫湖や大学実習施
設などにある湖沼の小島やゴルフ場の池のほとり、静 岡県畜産研究所内の貯水池で確認した。ゴルフ場およ び畜産研究所の例を除いて、いずれも陸からのアクセ スができない場所であった。一腹卵数は3.8個(N=4)、 採集した卵の有精卵率は7.6%(N=13)であった。
また、観察結果及び情報提供により、2012年4 月 現在、国内の生息数は約100羽、内訳として静岡県と 山梨県で各50羽程度が定着していると推測された。
これまで、両地域間の交流は確認されていなかったが、
2013年春季に田貫湖で2012年に生まれた標識個体が 河口湖へ移動、そのまま定着したため地域間の交流の 可能性が示唆された。
そこで、生息数拡大に伴う生息地の拡散を防ぐため、
2012 年以降、鳥獣保護法に基づく捕獲許可を得て生 体の捕獲および偽卵交換を進め、生息数抑制を試みた ところ、2015年11月に田貫湖で捕獲した2羽を最後 に、2017 年3 月現在、両地域で生息は確認されてい ない。
しかし、標識を付けた個体のうち、調査中に行方不 明になったものもいることから、他地域に移動して生 息している可能性もある。そのため、今後もモニタリ ングを継続して行う必要がある。
“基盤的四肢動物〜両生類”の捕食メカニズムの多 様性とその進化
[研究期間]2013年度~2016年度
[研究担当者]松本涼子
[研究内容]
本研究では、「四肢動物の生活圏の移行が進化のど の段階で起こり、その過程でどのような力学的制約の もと頭骨のモデルチェンジが起きたのか」脊椎動物の 頭骨形態の多様化について解剖学的、力学的側面から 定量的に評価する事を目的としている。研究実績の1 つとして、国際誌に掲載された「口蓋歯の機能とその 進化」に関する論文が挙げられる。四肢動物の捕食様 式の変遷は、頭骨形態に限らず、口腔内の微細な構造 である口蓋歯の配列にも反映されておいる事を本研 究が初めて明らかにした(Matsumoto and Evans,