• 検索結果がありません。

training program

3. 研究成果

(1)教職に求められる資質や能力の評価

  調査結果を表2に示す。教職に求められる資質の多くが授業や教育実習を通して獲得し たり,形成したりすると認識していることが明らかになった。「教科等の指導力」について の確信度は2.5前後であり,他の項目に比べると低い値を示しているが,教科等の指導力 は実践の場で磨かれるものであることを考えると大きな問題はない。しかし,項目10(板 書や発問,的確な話し方など基本的な授業技術)については,大学で修得することは可能 であり,ハンドブックに基本的な授業技術を示し,それらを活用した練習や授業での活用 により数値が向上することが期待できる。

(2)教職ハンドブック「学びの手帖」

  教職ハンドブックは「習得」のためのガイドブック機能と「探求」のためのポートフォ リオ機能の2つを備えていた。ここでは教職実践演習の授業での学生の活用の仕方から教 職ハンドブック開発の成果を検討する。

  ほとんど全ての学生は授業での課題という認識でルーブリックに基づく教職としての資 質の評価やそれに基づく自己課題の探求,自らの学習成果の可視化作業に取り組んでいた。

しかし,取り組み始めることによって初めて  らの教職としての  所や短所が明確になり,

自己課題に積極的に関与していく姿が見られた。

表 2  教職としての資質や能力の自己評価と獲得した活動

注)折れ線のプロットは各項目の平均      注1)数値は%(全体度数は105)

また,教職ハンドブックにポートフォリオ機能を付けたことにより,4年間の学習成果が 可視化され参照しやすくなった(図1)。授業では,自らの4年間の取り組みを振り返ると 同時に,授業において仲間の学習成果も見るために,自分自身の学習成果だけに閉じるの

資質をどの程度備えている

か(自己評価) 資質をどこで身につけたか

.現在のあなたは,文部科 学省が示す「教員としての資 質」を,どのくらい備えてい るでしょうか。それぞれの資 質に対する確信度(自信の程 度)を選択肢の中から最も当 てはまるものを1つ選んで ください。

.あなたは大学在学中に,文部科 学省が示す「教員としての資質」を どのような活動を通して,身につけ たり,伸ばしたり,深めたりしたと 思いますか。選択肢の中から最も影 響を及ぼした活動を1つ選んでく ださい。

平均 (SD)

使

1 誠実、公平かつ責任感を持って子 どもに接し、子どもから学び、共

に成  しようとする意識

3.97

(.71) 6 . 7 71.4 1 . 0 6 . 7 11.4 2 . 9 2 教員の使命や職務についての基

本的な理解 3.48

(.70) 64.8 26.7 6 . 7 1 . 9 0 . 0 0 . 0 3 自己の課題を認識し、その解決に

向けて、自己研鑽に励むなど、常

に学び続けようとする姿勢 3.90

(.87) 35.2 30.5 13.3 12.4 3 . 8 4 . 8

4

挨拶や服装、言葉遣い、初対面の 大人に対する接し方、書類の作成 や提出など、社会人としての基本 マナー

3.82

(.78) 14.3 21.0 3 . 8 11.4 47.6 1 . 9 5 独善的にならず、協調性や柔軟性

を持って、他者と活動すること 4.04

(.65) 42.9 12.4 3 . 8 16.2 15.2 9 . 5 6

他の教職員や指導者,仲間の意見 やアドバイスに耳を傾け、理解や 協力を得ながら活動を進めるこ

4.20

(.67) 43.8 34.3 1 . 9 8 . 6 7 . 6 3 . 8

7 気軽に子どもと顔を合わせたり 相談に乗ったりするなど、親しみ

を持った態度で接すること 4.24

(.63) 3 . 8 65.7 2 . 9 8 . 6 17.1 1 . 9 8

子どもの声を真摯に受け止め、そ れぞれの子どもの特性を理解し、

公平かつ受容的な態度で接する こと

3.87

(.67) 3 . 8 67.6 2 . 9 7 . 6 16.2 1 . 9 9 社会状況や時代の変化に伴い生

じる新たな課題や子どもの変化

を、進んで捉えようとする姿勢 3.45

(.78) 40.0 23.8 18.1 4 . 8 6 . 7 6 . 7

10 板書や発問、的確な話し方など基

本的な授業技術 2.65

(.78) 68.6 27.6 1 . 0 1 . 0 1 . 0 1 . 0 11 教科書の内容を十分理解し、教科

書を介して分かりやすく学習を

組み立てること 2.48

(.72) 65.7 28.6 3 . 8 0 . 0 0 . 0 1 . 9 12 自ら主体的に教材研究を行うと

ともに、それを活かした学習指導

案を作成すること 2.69

(.73) 68.6 27.6 2 . 9 0 . 0 0 . 0 1 . 0

ではなく,共に学んできた仲間の学びと関連づけ評価することができていた。

一方で,「習得」のためのガイドブック機能の使用頻度は低かった。収録されている情報 が最低限のものであり,一般化されたものであるために参考にしにくい特徴があったよう だ。ガイドブック機能は授業担当教員からの個別指導や指示がなくても,学生自らが「習 得」のために行動できるようになることを企図しており,その内容の質および量の検討が 必要であることが明らかになった。

教育成果の可視化は自らの状態を把握し,自ら学び続けるために有効な手段である。本 研究におけるポートフォリオ機能をつけた教職ハンドブックも,学生の「探求」的学びに 貢献することが示された。しかし,自発的なハンドブックの活用には至っていない様子が 見られるため,入学時から卒業時に渡って授業でどのように活用するかの検討が求められ よう。

3)ワークショップ型研修「STUDY CAMP」

  ここでは,特に学生が実務家教員と模擬授業や模擬指導を共に考えていくワークショッ プの成果について述べる。状況的学習論や認知的徒弟制の知見を踏まえ,熟練教員による 授業講評を見て学ぶモデリングとその講評について仲間と話し合うディスカッションが授 業観察力を向上させるとの指摘(三島,2013)があり,自分よりも教員としての資質が優 れた人(実務家教員)や同等の資質を持つ仲間(同級生)との活動を通したワークショッ プを実施した。

教員志望の3年次学生(n=31)が,板書・朗読・模擬指導を実務家教員の前で行った。

5名程度のグループ単位で実施し,実施に先行して3つの各スキルの自分なりのコツと模 擬指導のスクリプトを記述させた。無作為順に板書・朗読・模擬指導をセットにして実施 した。グループ全員が実施し終えた後に,実務家教員からのコメントや実務家教員への質 問,学生間でのやりとりを行う時間を取った。やりとりは1対1や小集団単位で行われた。

本ワークショップ型研修は,まず参加学生が自分自身で板書・朗読・模擬指導を実施し てみること,次に仲間のパフォーマンスを見ること,そして,実務家教員や仲間と語り合 うことで構成された。

模擬指導のテーマは「あなたは 6年生の担任です。2 学期に入り一ヶ月ほどたちました が,ある日,朝の職員朝礼で教頭先生から,最近,高学年の廊下の通り方が悪いとの指導 がありました。このことを受けて,朝の会の「先生の話」の中で,児童に指導をしてくだ

図 1  ハンドブックの授業での活用(左)とあるクラスのハンドブック

さい。時間は最大5分間とします。」であった。

実務家教員と参加学生の模擬指導をする上でのコツを比較したところ,学生のコツは声 や表情といったテクニカルなものが多く,実務家教員のコツは,テクニカルなものもある が,指導方針を意図したものが多く含まれていた。実際,事後の実務家教員とのやりとり において,実務家教員からなぜそのような指導内容および方法になったのかを尋ねられた 際に明快に答えることはできなかったが,やりとりを通して教育的な愛情に基づく指導方 針とその手立ての関連性について理解を深める様子が見られた。また,学生の多くは単独 で模擬授業を教員達の前で実施することが初めてであったため緊張が高かったが,その緊 張感が緩和された事後に成績評価を気にせずにディスカッションしていく経験は新鮮で自 分のためになったと述べていた。

  通常の授業における模擬授業の多くは今回のワークショップのように小集団で活動を行 って自分たちなりの模擬授受業を形成し,活動後に指導を受けるという形式を取る。しか し,授業時間の制限を考慮に入れると指導者が全ての学生に対して十分な教育的なやりと りを行うことは難しく,10教科の模擬授業作りは,構造的に「探求する」という構えでは なく,「履修単位のため」といった形式的な取り組み方を誘発させる。指導者と対話しなが ら自らの活動を評価し,改善を試みる方法は,指導者の考え方を内在化させやすい。その 意味で,模擬的に授業を作り,仲間や指導者の複数の視点から考え直すことは優れたワー クショップ型研修であるといえる。しかし,一度だけの対話でこれらが成立することは希 有であり,その対話を次の活動に活かすなどの連続的な取り組みが求められる。また,仲 間が指導者と行う対話に自分を関与させて自分の知識とするためには,仲間と学ぶ力を形 成することも重要であろう。今後は,正課内のワークショップ型研修の質について,学修 環境と学び手の特性のという観点から吟味し,カリキュラムをマネジメントすることが強 く求められるだろう。

(4)総合考察

平成29年3月の学習指導要領の改訂に合わせて,教育職員免許法施行規則も改正され,

教員養成課程においては新しい学習指導要領に則った授業を実践できる教員の養成が求め られている。具体的には,アクティブ・ラーニングの体験的理解,教科と教職の統合,学 校体験活動の単位化といったものである。教育学部では,この動向に先駆けて,教科指導 法の時間数を増やしたり,教育実習での学びをより深くするために初年次からの段階的な 実習体験を導入したりと教職課程の工夫をしてきているが,卒業年次学生を対象とした教 員の資質と教職技能の自己評価に関する調査では,授業に関連する知識や技能の平均値が 尺度中央値より低いことが明らかになっている。

本研究では,その現状を改善するために,学生の教職としての基礎技術習得を支え,学 生個別の体験や特性を踏まえた教職としての資質や能力の開発に資するものとして,教職 ハンドブックの活用とワークショップ型研修の実施し,それらが有効か否かを探索的に検 討した。その結果,一定の教育効果が見いだされ,学び続けることが求められる教員(中 央教育審議会,2015)となる学生が大学での養成段階から,「習得」と「探求」を往還しな