1 本研究は、常磐大学課題研究助成(2011 年度〜 2012 年度:研究代表 林 寛一)を受けて行われたものである。
2 Hayashi Kanichi: コミュニティ振興学部 教授 3 Higano Kouki: 人間科学部 教授
4 Bundo Hiroyuki: 国際学部 教授
5 Isago Sachitoshi: コミュニティ振興学部 准教授 6 Motoki Masatoshi: コミュニティ振興学部 助教
地域社会における外国人政策に関する理論的・実証的研究
1林 寛 一
2日向野 弘 毅
3文 堂 弘 之
4砂 金 祐 年
5元 木 理 寿
6Theoretical and empirical consideration about the immigration policy in regional communities
1.研究の目的
グローバル化の進展で、国家間の人口移動が活発化する中、日本で生活を送る外国人は、
若干の変動はあるものの増加傾向にある。しかし、国の制度は、必ずしも、急速に変動す るグローバル化の状況に対応できているとは言えず、とりわけ、現場である自治体の施策 の局面では混乱が随所で見られている。
茨城県においては、外国人登録者数は 2010 年(56277 人)をピークに、その後減少 に転じ 2012 年 12 月末で 47012 人であるが、全国県別で 11 位と多い。今日、外国人は 労働力としても重要な役割を担っているとともに、地域社会を構成するメンバーとして各地で 日本人と共生し、ともに様々な活動を行っている。しかし、その実態については、まだ、よく 捉えられてなく、自治体の外国人政策はその理論的・実証的研究が不十分な状況にある。
そこで、本研究は、こうした現況を踏まえ、以下のような調査・研究を、政治・行政学、
法学、経営学、政策学、地理学といった各専門分野の研究者の共同作業で行った。全国に ある外国人集住地域を調査対象とし、それぞれの専門分野の視点から同一対象に迫るとい うアプローチをとった。
2.近年の定住外国人に関する理論的枠組
2005 年 7 月 6 日、ロンドンは、2012 年のオリンピック競技のホスト国に選ばれ歓喜
林 寛 一 日向野 弘 毅 文 堂 弘 之 砂 金 祐 年 元 木 理 寿
の興奮に包まれていたが、翌日、イギリス生まれの 4 人のムスリム青年による地下鉄爆 破事件によって 52 人の死者をだした。オリンピックの選考理由の主因は、ロンドンの多 文化共生政策にあったとされていた。
他方、2013 年の今年は、12 年後の東京オリンピックが決まった年であったが、とり わけ、プレゼンテーションでの外国人への「おもてなし」の美しい日本語が功を奏した といわれているが、巷では、「殺せ」「排斥しろ」といった醜いヘイトスピーチが喧しい。
日本も多文化共生に向けて今日多方面で動き出している。
さて、21 世紀に入り、グローバル化の潮流は一層明確になってきていると同時に、
グローカルという言葉に象徴的なローカライズが同時にその存在感を増しており、グロー バル化との共生をつくりだしている一方で、対抗軸として地域紛争を招いている側面も 露わとなってきている。
とりわけ、移民への経済的依存の認識を高めている一方で、最近の各国の外国人政策は その規制を強化しているようである。国家にせよ、自治体にせよ、移民を規制するための 洗練された法制度をそろえている一方、それに対する移民とその支持者たちの対抗軸も新 たにうみだされてもいる。グローバル化や地域化に関連する各国の意思決定は、一層複 雑となり、政策形成者たちの意図は、予期せざる結果をも招いているともいわれている7。
さて、こうした面からの移民への各国の対応の仕方については、関連する研究を継続的 に行っているCaslesとMillerによると、次のような 4 つの理念型モデルが示されている8。
ひとつは、帝国主義モデル(imperial model)である。旧ソ連やイギリスが典型的で、
その政策は、他民族の支配の実態を覆い隠すという意味ではイデオロギー的であり、旧植民 地が理由で対等という位置づけが認められていても、それは形式論的であることが多い。
二つ目は、民俗または民族モデル(folk or ethnic model)である。ドイツや日本が典型 的であり、市民権は、民族や、共通の先祖、言語に依拠するため、しかも出生地主義に立っ ていないことで、民族的マイノリティに市民権が認められないこともある。
三つ目は、共和制モデル(republican model)である。アメリカやフランスが典型的 で、憲法や法律、共通の市民権をベースとした政治共同体を国家とみなす場合である。移 民も受入国の文化や言語を身につけなければ国民への包摂が認められないこともある。
7 Rosemary Sales,(2007)Understanding Immigration and Refugee Policy;Cntradictions and continuities,The Policy Press.p.125.
8 Cf. Castles, S.and Miller, M.J.(2003)The Age of migration(3rd edn), Basingstoke:Macmillan.
四つ目は、多文化主義モデル(multicultural model)である。オーストラリア、カナダ、
スウェーデンが典型的で、国家を政治共同体とみなすが、市民権の獲得が権利として認め られているだけでなく、共通の法の順守という枠組みの中で、多文化性と民族社会の形成 が認められている。
この 4 つのモデルは、その分析的理念型ゆえに、現実においては、混合モデルをつくっ ていくことになる。われわれは、現在、日本では、大きくグローバル化の潮流に合わせ、
モデル・チェインジが生じているものと考える。強い民族モデルをベースとし帝国主義 モデルが加味された混合モデルから、緩やかな民族モデルをベースとし多文化主義モデル を加味した混合モデルへと変化しているものと考える。
これは、典型的には、旧植民地人で、韓国・朝鮮人といった在日オールドカマーが外国 人政策の焦点であった時代から、グローバル化の中での国民国家の敷居が低くなり、トラ ンスアクションの広がりと多文化共生がニューカマーとして焦点化してきた時代への変化 を反映しているものとみなすことができよう。
3.統計データから見るわが国の外国人の変容と政策
こうした変化は、法務省のデータを図表化した図 1 からも読み解くことができる。
図表1 わが国における在留外国人の推移(1991 年〜 2012 年)
「社会実情データ図録」http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1180.html(2013 年 10 月 31 日)より
林 寛 一 日向野 弘 毅 文 堂 弘 之 砂 金 祐 年 元 木 理 寿
また、図 2 の茨城県下においても同様の傾向を見て取ることができよう。
茨城県では、2011 年 2 月に「茨城県国際化推進計画 世界へはばたき、未来をひらく」
を作成したが、これは、社会経済のグローバル化の進展により、国際的な相互依存関係 が深まってきたことと、県下在住の外国人の増加傾向、2010 年 3 月の茨城空港の開港に よるアジア地域との多様な交流機会の拡大等を踏まえて作成されたものであった。そして、国 においても、総務省(当時自治省)の推進する「地域の国際化」が、1989 年には「地域国際 交流推進大綱の策定に関する指針」で、各都道府県・指定都市に通知し、大綱の 9 項目 の一つに「外国人が活動しやすいまちづくり」を掲げていた。茨城県は、これを、この総務 省の推進する地域における多文化共生推進にかかる計画・指針として位置付けている。
4.本研究の視座
さて、われわれの課題研究は、本稿において、グローバル化の時代における移民のダイ ナミックな動態が日本においてどのように現れているのかについて、また、多文化共生社 会に向かって地域社会がどう変化しているのかについて、その実態に迫るためのフィー ルドワーク調査、関係者へのヒアリング調査を、2011 年から 2013 年にかけて行った。
図表2 茨城県内国籍別外国人登録者数(1990 〜 2012)
「茨城県国際化推進計画 世界へはばたき、未来をひらく」(平成 23 年 2 月)に、
茨城県国際課が集計した「県内国籍別外国人登録者数」(2010 年以降)を加えて作成。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100% 茨城県内国籍別外国人登録者数
その他 米国 ベトナム スリランカ インドネシア ペルー タイ 韓国・朝鮮 フィリピン ブラジル 中国
1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
本稿は、その調査結果についての中間的考察を報告するものである。
研究の方法に関しては、共通の課題研究に関して各「専門分野の視点から同一対象に 迫る」という方法をとり、同時に、それぞれの専門分野の視点から個々の研究を進めてい くというやり方をとった。そのため、「同一対象に迫る」とはいっても、でてきた結論に ついては若干の違いも生じてきたが、本稿においては、中間的考察として、いくつか未整 理ではあるかも知れないが、そのまま報告しておくことにした。
研究が始まる直前の 2011 年 3 月 11 日には未曾有の大災害である東日本大震災が発生 し、われわれの研究機関である大学も建物や研究室が大きく破損した。岩手、宮城、福島、
茨城といった大きな被災地はわれわれの家族や関係者の居住地でもあり、研究担当者それ ぞれが当事者としてこの問題にもかかわっていくことにもなった。そして、震災と外国人 という問題がいたるところで生じ、その支援策が各自治体における切迫したテーマに上っ て来てもいた。
当初の研究計画案にはなかったテーマではあるが、震災と外国人という研究テーマも含 むべきであろうと話し合い、1995 年の阪神・淡路大震災と神戸市における外国人集住地 区における復興のまちづくりについても調査を行った。それが、東日本にいかに活かして いけるのかを考えていくことになった。
(林 寛一)
5.定住外国人に関する法制度〜紛争とその解決の実態〜
①北海道
地方小都市の中には、近年、外国人定住者が激増している地域が少なからず存在するが、
とりわけ北海道では、市町村の規模が小さい割には多数の外国人が流入している地域がま まみられ、その地域社会に及ぼす影響は小さくない。主として北海道立図書館で資料収集 にあたったが、たとえばニセコ地域、とりわけ倶知安町の字山田地区では、住民の半数近 くが外国人という状況であるにもかかわらず目立ったトラブルがみられない一方、外国人 の占める割合がさほど大きくなくても犯罪の増加傾向がみられる地域が存在するなど、地 域によってかなりばらつきがみられることが明らかになった。
②東海地区(静岡県・愛知県)
東海地区では、とりわけ日系ブラジル人の集住地区の実態等を視察した。浜松市の総人 口に占める外国人の割合は約 2.9 パーセントであるが、そのうちブラジル人が半数近くを